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10.エーリヒ③
しおりを挟むランドルフ帝国の皇帝に即位しエーリヒは、時折ライザーと名乗り魔術討伐に行くようになった。
帝国にいても、臣下でさえエーリヒに近寄れない。
帝国の政治は優秀な部下にほとんど任せていた。
(エーリヒ。氷冷族を復活させるのです。)
幼い頃何度も繰り返し聞いた母の言葉を思い出す。
神の加護持ちにはほとんど会ったが、エーリヒに触れられる者は一人もいなかった。幼い頃に母に抱きしめられた感触をエーリヒは忘れる事が出来なかった。
加護持ちを探そう。強い加護持ちを。
見つからなければ、氷冷族の復活なんて夢に終わる。地神の加護も失われ、ランドルフ帝国も滅亡するかもしれない。
エーリヒは自分と並び立てる加護持ちを探す事を心に決めた。
ある時、ライザーと名乗り、募集した護衛依頼でメイナという暗殺者に出会った。
メイナには魔力が無い様子だった。
だが、躊躇いもなくエーリヒに近づき、調子を崩す様子もない。
( なんだ?この娘は?)
何度か依頼をする内に、メイナに近づき、その手に触れてみた。
メイナは驚いていた様子だが、やはり平気そうだった。
(魔力制御具をつけているが、触っても平気な者がいるなんて。)
「メイナ。一緒に来ないか?」
困った顔をする年若い暗殺者は、警戒する様に、エーリヒを拒絶する。
(どうにかして手に入れたい。)
メイナと出会い一年程経つ頃に、南のキーベルデルク神国が不穏な行動をしているとの情報を得た。
神の加護がないにも関わらず仮王についた王弟のマイサー・キーベルデルクが、ランドルフの帝国に牙を向けようと、周辺国を説得しているらしい。
(資格が無いくせに、傲慢な事だ。前王との約束は十分に果たしただろう。)
いないとは思うが、キーベルデルク神国で水神の加護持ちが見つかるかもしれない。
エーリヒはキーベルデルク神国へ軍を向ける事に決めた。
メイナとの時間は、心地よかった。どうやらメイナは魔力を吸収する体質らしい。メイナといれば、今まで行けなかった場所を一緒に歩け、食事もできる。
メイナの手を握り考える。
(メイナに加護さえあれば、いや加護が無くても。)
美しいメイナ。キーベルデルク神国を倒したら、メイナを手に入れよう。どうせエーリヒの隣に立てる加護持ちはみつからないだろう。子が産まれなくても、メイナが側に居てくれるならエーリヒはそれでいいと思うようになっていた。
(愛しいメイナ。)
何度誘ってもメイナはエーリヒの誘いに乗らない。魔術師の言葉を慎重に否定する。
(もう少しだけ、自由にさせてあげるよ。だけど必ず捕まえる。俺のメイナ。)
深く被ったローブの下からエーリヒはメイナを見て笑った。
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