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9.エーリヒ②
しおりを挟むエーリヒが17歳になった時に父の皇帝が倒れた。対外的には病を患ったと発表されたが、どうやら毒を盛られたらしい。
エーリヒは、父の元を訪れた。
全身を土気色に染めて、所々にドス黒い斑点を浮かべる父は、ベットから起き上がる事が出来ない様子だった。
「父上。エーリヒです。」
「ああ、エーリヒ。アーネリアの子よ。私を殺せ。この苦しみから解放してくれ。お前の兄達は神の加護欲しさに皇妃と共に私に毒を盛った。奴らに加護は渡せん。お前が地神の加護を引き継ぐのだ。」
血走る父の目は、怨みに取り憑かれ、自信に満ち溢れていた皇帝としての姿は失われていた。
(エーリヒ。氷冷族を復活させるのです。)
母の言葉を思い出す。
「父上。さようなら。」
エーリヒは、父に地属性の魔術を放つ。父の身体はグングン渇き、砂のようにサラサラと崩れていった。
エーリヒは地神の加護を得た事が分かった。
王の居室を出て、エーリヒは大会議場へ向かった。今日は次の皇帝を決める会議が開かれる予定だった。
(あれだけ弱った父が生きていたという事は、兄達の魔術では父を殺せなかったのか?)
大会議場へ入ると、議員に紛れ沢山の魔術の気配がする。
(へぇ。面白い。)
議長から中央に呼ばれたエーリヒは、席を立ち前に進む。
「エーリヒ。覚悟しろ。ランドルフ皇帝に必要なのは地神の加護だけでいい。」
エーリヒが中心に出た途端、5人の兄皇子や沢山の兵士がエーリヒを取り囲んだ。
「まさか、神の加護さえ引き継げていないのに俺を殺せるとでも??後悔しないですか?」
「煩い。流石にお前でも、我ら全員の相手は難しいだろ。死ね。」
兄や兵士達が魔術を放った事が分かった。
沢山の石飛礫や土刃がエーリヒに襲い掛かる。
エーリヒに土刃が刺さったと思われた瞬間全てが凍りついた。
エーリヒは魔力制御具の一つで土刃を受け、魔力制御具が砕け散る。
絶妙なバランスで制御されていたエーリヒの魔力は勢いよく解き放たれ、周囲を凍らせた。
一瞬で会議場は氷点下となり、中にいた者は逃げる間も無く氷像と化した。
壊れた沢山の魔術制御具と氷になった石飛礫や土刃が地面へ落ち、砕け散る。
自分以外、息をする者がいない会議場でエーリヒは途方にくれた。
「これで、氷冷神だけで無く、地神の加護を得れる生き残りは俺だけか。」
ランドルフ帝国は代替りの時に他の加護持ちとなる対象者の兄弟、親族を新皇帝が一層してきた歴史がある。
エーリヒの兄弟だけしか、地神の加護を引き継げる者はいないはずだ。
「まあ、仕方がない。神の加護を侮った兄達が悪い。」
動く者のいない会議場は静まり返っていた。
翌日、皇帝や兄達の死の衝撃が覚めない中、周辺国が攻めてきた。
どうやら亡き兄達と共謀していたらしい。
炎神の加護を持つクロエラ国、雷神の加護を持つアリスト国、闇神の加護を持つヘル国、風神の加護を持つダイツ国。
すでに王旗を掲げた兵達が帝都を囲む。
10歳の時の外遊で、エーリヒに脅威を感じた周辺国は、エーリヒを殺す事で一致したらしい。
エーリヒは、単独杖を持ち、皇都の外壁の外へ歩いて行った。
魔力制御具を全て外したエーリヒの髪は白銀に輝き、銀が混じった茶眼は黄金のように輝いていた。
エーリヒが歩くたびに地面は凍りつき、地中の岩が盛り上がる。
あまりの魔力に、集った各国の軍は響めき、後退る。
「何をしている。相手は一人だ。怯むな。」
軍の中心にいたのは、アリスト国王だった。黄金の鎧を纏い、雷を呼び寄せエーリヒにぶつけた。
ピカッゴロゴロゴロゴロ。ドシーーーーン。
エーリヒに雷が当たったはずだった。
だが、エーリヒの強い魔力に雷までも凍りつき、世界が静寂に包まれる。
エーリヒを中心に、地面は氷に覆われ、空気が氷点下まで下がる。
前方の軍からどんどん兵達は氷像となっていった。
前方にいたアリスト国とヘル国は逃げる間もなく凍りついた。
後方のクロエラ国は炎魔術で応戦し、凍える事は無かったが、すぐに降伏した。ダイツ国は強い風で氷冷魔術を押し返し、その間に王は逃げたらしい。
今回の戦争で、エーリヒに歯が立たなかった周辺国は、ランドルフ帝国の支配下に入る事になった。
アリスト国とヘル国の王を殺したエーリヒは、雷神と闇神の加護を得ていた。
隣接する国で戦争に参加していなかったメイス聖国は、ランドルフ帝国と同盟を結んだ。
ダイツ国の年老いた王は、エーリヒを恐れて加護を持ったまま姿を消したらしい。
(たわいも無い。こんなものか?)
エーリヒは大陸最強の残虐王と呼ばれるようになる。
向けられた刃に応戦してきただけなのに、いつのまにかエーリヒはランドルフ帝国の皇帝となり、周辺国を支配下に置いていた。
(母上。もう逆らう者はいない。ですが、氷冷国の再建は難しいかもしれません。)
さらに強くなった加護を抑えるために、以前キーベルデルク国王から譲り受けた魔力制御具を常に身につけて、行動する。
それでもエーリヒに近づいて平静を保てるのは側近のシルバと母の侍女の娘だけだった。
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