【完結】誰が王を殺したの？【R１８】

22.慢心

ガタゴトガタゴト

馬車が進む音がする。

メイナは瞼を閉じていた。

兄に抱きしめられている。

兄は、メイナより大きく、優秀な暗殺者だ。闇魔術を使い、対象を洗脳、誘導、尋問する事が得意だった。

母から、何度もメイナは言われていた。

「魔術師には気をつけなさい。」

兄や父相手に魔術対抗の訓練もした。

魔術師との取引で決して頷いてはいけない。対価として差し出す代償が多すぎるから。
















「メイナ。私に従いなさい。」

声がする。兄の声だ。だが、兄がそんな事をメイナに言うだろうか。

「私に、従え。」

兄が、メイナに命令する。

何度も兄と父と訓練をした。決して頷いてはいけない。

メイナは、朦朧とする頭で首を振る。

兄はメイナに話しかけてくる。
「おかしいな。催眠にはかかっているはずだが、了承しないとは。まあいい。もうすぐヘル闇国だ。それに、頷かないなら仕方がないよな。」


ガタゴトガタゴト


馬車が進んでいく音がする。












今が、昼なのか夜なのか分からない。

メイナは、馬車から降ろされ、手を引かれるままに進んでいった。

目の前には真っ黒な城がそびえたち、周囲は鬱蒼と茂った木々に囲まれ薄暗い。


ふらふらと手を引かれ、たどり着いたのは、大きな広場だった。


当たりは静まり返っている。


膜がかかったように、周囲の音や光がはっきりと感じ取れない。

「メイナ。メイナ。」

メイナは首を振った。

「この指輪は誰がつけた。」

声に尋ねられるままメイナは答えた。

「エーリヒ」

兄はメイナに言ってくる。
「私とエーリヒ。どちらを信じる。」

（聖女と密会していたエーリヒの光景がメイナの脳裏によぎる。エーリヒは信用できない。）

メイナは、兄だと思う人物へ告げた。
「ニイサン」

その瞬間、メイナの周囲の闇が隷属指輪に集結した。

黒い霧が指に集まり、メイナは逃れようと、腕を引く。


だが、霧はメイナの手を包み込み、一瞬で指輪を飲み込んだ。


ピキピキピキピキ


隷属指輪にヒビが入り、指輪がボロボロと崩れ落ちた。


「はあ、はあ、はあ」


（何？頭が割れるように痛い。何があったの？）

さっきまで朦朧としていた意識が急に浮上する。

静かだと思った周囲には沢山の人がいた。
黒いフードを被った人たちは、闇魔術師だろう。メイナとグロウ・ヘルを取り囲むように立っている。

「へえ、意識を失わないなんて珍しいな。無理やり隷属魔術を解いたから、かなり辛いだろうに。」

冷酷な瞳でメイナを見下ろすのはグロウ・ヘルだ。

「あ、うう。」

呻くメイナを顎を掴み持ち上げて目を覗き込んでくる。
「私に従え。そうすれば楽になる。」

（魔術だ。強力な闇の魔術。契約？）

グロウ・ヘルの周辺の闇がメイナを狙っている。

「どうして？私が何をしたって言うの？」

なんとなくグロウ・ヘルはメイナを助けてくれると思っていた。

「そんなの当たり前だろ。残虐王には、女が出来たら困る。子供が産まれたら厄介だ。それにしても強情だな。まあいい。頷かないなら死んで貰うだけだ。」

グロウ・ヘルは短剣をメイナの心臓に突き立てた。