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家族の声を

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 ある物の為に買い出しに出掛けて襲われた日、俺は襲い掛かって来た三人の男たちをアルファの威嚇によって気絶させると男が数人倒れていると通報して回収してもらった。

 すぐに兄たちに知らせると、兄たちも襲われこそしなかったが、なんとなく誰かに付き纏われているような感じがしたらしい。

 そして蒼二が以前、ガラの悪い人間に追われていたことを話すと蒼士が悪い連中と付き合いがあるようだと話してくれて…どうやら問題が大きくなりそうだと、バイトを少し休ませてもらった。

 もう、俺たちのことに力添えをしてもらうことなんて出来ない。支払えるものなんてないし、縋り付くような真似は絶対に出来ない。

 ポツポツと来ていた返信だけが唯一の生命線。だけど蒼士のスマホが鳴り響いて最悪の通知が入った。

『っ兄さんどうしよう、蒼二が…! 家から出るなって連絡が来たのにっそれから何も来なくて、やっと返信が来たかと思ったら地図だけ添付されてるんだ…!』

『これは…数年前に閉まった工場だ。多分、今は廃墟のはず。よし、この履歴を見せる為に警察に…』

『ダメ』

 バランサーになって周囲を感知すると、奴等が潜伏していることがわかる。

『出ちゃダメ。それ、罠だよ。証拠さえあれば警察に頼れるって心理をついた罠。奴等は家から俺たちを誘き出すのも目的なんだよ。

 …俺が行くから、兄ちゃんたちは電気を落としてやり過ごして。電話にもピンポンにも、対応しちゃダメ』

 蒼二兄が捕まった。

 こんな時に頼りになる人たちを知っている。…だけど、あの時だって対価は必要だった。これ以上の金額は現実的じゃない、返せるわけがない。

 だから、自分たちでなんとかしなきゃ。

 俺が、なんとかしないと。

 それに…これ以上ボスの身を危険に晒すことは出来ない。あの人を必要とする人は沢山いるんだ。

『何言ってるんだ! 宋平っ、いくらなんでもお前を行かせるわけないだろ?!』

『そうだよ、絶対にダメだ。これ以上家族が危険に晒されるなんて…』

 電源を落としていたスマホを手に取り、服を着替える。仕事用のスマホは充電が切れていた。急いで充電器に繋いでポケットに詰め込む。

『もう時間との勝負だよ。なんで蒼二兄が狙われてるか知らないけど、捕まったんなら助けなきゃ。

 平気。俺ね、バランサーとしてまた進化したから。蒼二兄を連れて逃げて来る。だから、二人は辰見先生に連絡して? 絶対に帰って来るって約束する。ね。信じて、俺は最強のバランサーだよ!』

 ダメだったら様子だけ見て帰ると何度も念押しすると、兄ちゃんも迷っているのか視線を落とす。あと一息だと二人の手を取った。

『蒼二兄と仲直りしたい。お願いだよ、俺にそのチャンスを頂戴?』

 ね? と声を掛けると兄ちゃんは今にも泣き出しそうな顔をしてから俺を抱きしめる。それにきちんと応じて抱きしめ返せば、蒼司も加わった。

『…ダメな兄だな、俺は』

『はー? 何言ってんの、兄ちゃん!』

 鍵を開けて玄関の扉を開いてから一歩を踏み出すと、振り返って二人に笑い掛ける。

『こんなに最強な俺のお兄様でしょ! 自信持ってよね。じゃあ、行ってきます!』

 呆気に取られる二人を残して外に出ると、すぐに遠くからやって来る男たちの前に無防備に立つ。隠していた武器を手に迫る男たちに向かって走り出し、コントローラーを押してアルファになると彼らより速く動いて圧倒的な身体能力でその顔面に蹴りを食らわせ、他の男には足払い。更にはアルファの威嚇フェロモンを間近で浴びせて気絶。

 ふぅ、と一息吐くとすぐに走り出した。

 そんな中で充電していたスマホの存在を思い出せばやっと起動できるまでになっていた。だが、すぐに集まる膨大な通知に固まってしまう。

 …やべ。充電切らしたまま一日経ったんだ。

 というか、刃斬や犬飼の通知から見てもう常春家の異常事態に気付かれてるらしい。

『バレたか』

 走りながら考えるも、良い考えが浮かばない。照り付ける太陽が煩わしい。半袖のパーカーを深く被りながら日差しを避ける。

 あの日のように、眩しい太陽。あの人はどちらかと言えば夜だなと思ったが、どんな天気でも…時間でも。思い出があるから辛いな、と苦笑いした。

『…一人でも、ちゃんと出来るから』

 自分の名前を叫ぶボスの声を耳から遠ざけて通話を切った。何故わざわざ自分から俺なんかの問題に突っ込んでしまうのか。

 …やだな。名前を呼んでもらうだけで、こんなにも嬉しくて舞い上がってしまう。貴方の大切な人の枠は、とっくの昔に埋まっているのに。

『優しいからなぁ』

 居場所も特定出来ないように電源を切る。今は、蒼二を救出することだけに集中するようコントローラーを呼び出す。

 廃墟に辿り着くと、そこは街の端に忘れ去られたような古い建物だった。だけどそれに似合わないほどの人の気配。バランサーになり認識の阻害を掛けて静かに建物内へと侵入する。

 …結構広いな。

『流石に蒼二兄がどの部屋にいるかまでは、特定出来ないな…』

 廃墟内を回っているとある部屋から若い男が出て来る。慌てて身を隠すと男は疲れたように肩を回しながら何処かへ行ってしまう。男が出て来た部屋に入ると、パソコンがついたままだったので少し弄る。

『…メッセージのやり取りか。あ、スマホもついてる』

 パソコンとスマホ、両方を見てそれぞれ違う相手とやり取りをしていることがわかる。パソコンは敬語、スマホの方は気安い感じ。

は、今週に纏めて…お願いします? なんだ納品て。この工場はもう動いてないはずだよな』

 スマホの方は何かを焦って相手を急かすような感じだった。早く、とか…急げという単語が多い。履歴を探りたかったが長居は無用なので部屋を出る。

『…やっぱ、こういうのは地下かな!』

 見つけた階段を降りていると武装した人間が階段を上がって来る。すぐに踊り場にあったダンボールの影に隠れて気配を消す。

『は。逃したのか?!』

『いや、まだ連絡来てないし…待機じゃね? 流石に今回のは上玉だし逃すのは死ぬだろー』

 だよなー、と言いながら去って行く二人組。

 …室内なのに武装?

『…なにコレ』

 ふと隠れていたダンボールに書かれていた文字を見ると、そこには有名な食品会社の弁当…そう書かれていた。実際に中には、少し中身の減った弁当が幾つか置かれている。

 冷蔵庫に入れろよ!

 それからも地下を探るが巡回する人間が多くて上手く回れない。どんどん時間が過ぎて気付けば汗だくになりながら床を這っている。

 だが、ちゃんと情報も掴んだ!

『ふふん! バランサーの耳をナメてもらっちゃ困るぜ!』

 恐らく近くを通った時に開いたドアの向こうからした声を上手くキャッチしたのだ。確かに俺の耳は蒼二の声を拾った。すぐに移動していけば角の部屋から蒼二の悲痛な叫びがした。

『たのむっ! なんでこんな酷い真似を…! 兄弟たちまで狙ってるって、本当なのか?! なんで、そんなっ…お前大学どーすんの?!』

『うるせぇよ。大学なんかより、お前ら引き渡してバイト代貰った方がよっぽどこれから楽しい人生送れるっての。じゃあな』

 ガチャン、という乱暴なドアの閉め方。ガチャガチャとその扉に鍵を閉めた男が向こう側から歩いて来る。蒼二たちと同じくらいの、若く身体の薄いヒョロっとした姿でスマホを見てこちらには気付かない。

 すれ違い様に彼の腹に一発決めてから床と仲良くしてもらい、ポケットから出した鍵を片手に再び鍵穴へと押し込む。

 古びた扉が開かれると驚いたことに部屋の中には何人かの人間がいた。すぐに身構えるも、向こうも俺を見て怯えるものだからこちらも戸惑う。

 誰だこの人たち…。

『…宋ちゃん…?』

 ハッ、と顔を上げるとそこにいたのは、ずっと探していた兄。少し顔が腫れていて痛々しいが命に別状はなさそうだ。

『蒼二兄!』

 駆け出した俺に手を伸ばす蒼二。抱き付いた身体は少し薄くなったような気がして、ギュウギュウと強く抱き付いた。

『え。嘘でしょ?! ま、まさか宋ちゃん…一人で助けに来ちゃったの?!』

『ん。来た』

『ふぁーっ?!?』

 意味不明な叫び声を上げる蒼二に構わず身体に異変がないかチェックする。少し匂うな、さては風呂入ってないなコイツ。

『離れて。臭い』

『がーん?! ちょっと! お兄ちゃんになんてこと言うの? いつからそんな反抗期になったの!』

 やれやれ、元気そうで何よりだ。

 周囲の人も俺たちのやりとりから敵ではないと判断したのか、警戒は解いている。困惑はしているが。

『帰ろう? 迎えに来たんだ、俺』

『いやいやいや! 待って。嘘、本当に侵入したってこと? 弟すごいな…』

 えへん。とドヤ顔で胸を張る。蒼二から話を聞くとこの部屋にいるのは全員、連中によって攫われた人らしい。年齢も第一性もバラバラ。だけど、一つだけ共通している。

 全員、恐らく第二性はベータだ。

『通報するから逃げよう? 脱出した後で火事とか言って通報したら良いよ。さぁ、行こう。他の皆も、行こう?』

 脱出をうながすも、誰も部屋を出ようとしない。そこに縛り付けるのは…恐怖だ。逃げたいけど、逃げられない。今まで酷いことをされたのだろう。傷を抱えた人や震えが止まらない人もいる。

 …マズいな。万が一、警察を呼んで彼らに危害が加えられたら…。

『取り敢えず内側から鍵を掛けて待っててもらおう。廃墟の写真撮ったし、サイレン鳴らさずに近くまで来て警察に突入を』

 刹那、ドッと廊下から重たいアルファの威嚇フェロモンが放たれる。室内にいた人たちは皆が悲鳴を上げたり発狂してしまう。

 俺はすぐにバランサーの力でアルファの威嚇を薙ぎ払う。

『…蒼二兄。奥で隠れてて』

『っ宋ちゃん…』

 ああ、もう。長居し過ぎた…。取り敢えず蒼二だけでも連れ出せば良かったのに、手間取るから。

『…貴様…、その代紋は…。まさか奴等の?!』

 三十代半ばくらいの中肉中背ちゅうにくちゅうぜいの男が一人で何か言っている。何をペラペラ喋ってるんだと思いつつ、マスクをズラして空気を吸ってから構える。

『とっとと口塞げ! 奴等にバレたら終いだぞ!』

 さっきから何なんだ?!

 ええい、結局正面突破かよ! もっと利口に立ち回りたいなー!!

れ!!』

 おい、物騒な掛け声出すな!!


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