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黄金の時代
キングオークの幼体
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オークとは、大半の者が大柄であり雄。巨体でそれに見合うデカい武器を振り回したり魔族である為に魔法にも強い。頑丈で地域によって肌の色は変わるが深い緑や赤褐色が多いとされ、何れも頑丈で傷付きにくい。
ファンタジーでは初級から中級レベルの強さだという認識が強いと思う。
うん。
オレも、最初はそう思ったヨ?
『これで終わりかよ? 魔王軍に楯突くような肝の座った種族かと思えばなんだよ情けねぇ』
『まーそう言うなよなー。お前さんが出て来た時の奴さんの反応、普通に可哀想だったもんなー』
側近の巨大なオークに抱っこされながら見た光景は、生涯忘れられない。人間と殆ど同じ容姿をした青年があらゆる生き物を千切っては投げ、千切っては投げ…
あ。なんか気持ち悪いわ。
『ぁう』
『坊ちゃん? 如何されましたか…外の空気は未だ御身には毒だったでしょうか』
わらわらとオークたちが心配そうに赤ん坊のオレを覗き見ては声を掛けたり額に触れたりする。
巨体のオークが、人間の赤ん坊と変わりないオレを労わるのである。
『どうした、テメェら』
『隊長。それが…ナラ様の体調が優れないようなのです。カシーニ様には散歩がてら丁度良いとは言われていたのですが』
先程までアホみたいな動きで敵を蹂躙していた青年がその報告を聞いた瞬間、余裕綽々としていた表情が一気に引き締まり近づいて来た。もう一人のイケおじもゆったりとではあるがそれを追う。
『まさか呪いか毒でも食らったんじゃねーだろーな』
『ナラ様もキングオーク種ではありますが、少々お身体が弱いご様子。結界は張っていたのでそれはないかと思いますが…』
『おいおい、ランよぉ…このデンデニア様の結界にケチ付けちゃう感じィ?』
『黙れ無駄絡みすんな。
ナァラ? どーした、ん?』
怖いんですけど。
超怖いんですけど?
ラン…と呼ばれたオークに見えない何者かは、黄色い短髪を少しだけ伸ばして適当に結んだ髪型に真っ赤な目が特徴的だった。今までの乱暴な振る舞いや周りへの口の悪さからは想像も出来ないくらい優しい手付きでオレを抱き上げると上手に、包むように抱きしめてくれる。
『はぁー。お前は本当に可愛いなぁ。カシーニの奴と違っていつもニコニコしやがって』
『止めろデンデニア。お前はナラに近付くな、扱いが適当すぎんだよ』
ガッチリした筋肉が安全に自分を包み、護ってくれている…それがなんとも頼もしくて自然とキャッキャと喜んでいたらなんだか眠くなってきた。
『そんな言い方するー?
…お。どーやら我らが若君はおネムだったみてぇだなぁ。ランが抱っこするとナラはいっつもコロッと寝入っちまう』
気が付いたら知らない生き物に囲まれて生活するような日々。だけどこの人は。この人の抱っこは、本当に安心できるもの。
有り得ないくらい強くて、何故か優しくしてくれる同族。
『ナラ』
そう、オレの新しい名前はナラ。
魔族というとんでもない種族で、更にオークの幼体。オークはオークでもそこから派生した上位種だ。オレを抱っこする戦闘狂であるランと緩い喋り方が特徴的なイケおじ、更にオレの父親ともう一人がその上位種。
つまりこの異世界に五体しか存在しないキングオーク。それがオレの正体だ。
『んん…』
『っ可愛い…。お前はずっと、ずぅっとランたちが護ってやる。大丈夫だ、ナラ。お前のその美しい容姿は優れた魔族の証なんだからな。
だからお前は安心して美しく成長してろ。…戦えなくても、弱くても、お前が可愛くて美しい存在である限り魔王はお前を生かす。安心して、大きくなれ』
うつくしい?
かわいい?
そりゃ、赤ちゃんなんだから可愛いだろうけど…美しいってなんだ?
『らぁ、ん…らー、んっ』
なぁー
教えてくれよー?
『…はっ?! は、嘘…!』
『あっは! すっげ。カシーニの奴より先に名前呼ばれてんじゃんかよ、ラン!』
え? オレってば、今喋れたのか?
ランが目を見開いて真っ赤な目でオレを見つめる。わなわなと口を震わせているのが大変面白かったので、オレは覚えたての言葉を目一杯喋った。
『らっ! ぁ、んー。らぁーんっ、らっんっ』
『…っオイなんだよこれ!』
『だぁっはっは!! 嬉しくてキレんなよ。お前を呼んでるのさー、良かったじゃねーの。初めて呼ばれたオークだぜ? お前さんは』
ラン、って喋りやすいんだよな。
デンデニアなんて暫くは言えないけど。ランなら二文字で初心者向けだ。
『らぁ、んー』
『ぁあっクソ…! 早く大きくなれよ…、ランが一生傍で護ってやるからさぁ』
『お前流石にカシーニに殺されんぞ…?』
短い手を必死に伸ばせば赤い目をしたオークは参ったように溜息を吐いてから自分の指を絡める。無性に楽しくてきゃらきゃら笑うオレの声が響く。
オレも早くお喋りしたい。
早く、みんなと話したりこの世界を知ってオークについて学ぶんだ。
『らんっ、らん!』
『んっ。ナラはランを呼ぶのが上手いな。いつだってお前はランを呼べ。
どこにいたって、ランはナラを見つけて助けに行くから』
赤ん坊の頃はなんにも知らなかった。
自分は少し違う種族に産まれ、稀少なタイプだからと大切にされてきた。だからオレは前世の記憶を持つということの残酷さを知らなかった。
この世界の魔族はあまりに強く、
人間はあまりにも非力だということ。
魔法や道具を使ったところで魔族の中の最たる種族には到底敵わない。
初めてランが人間を殺した瞬間を目にしてから、オレは彼と話せなくなっていた。
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ファンタジーでは初級から中級レベルの強さだという認識が強いと思う。
うん。
オレも、最初はそう思ったヨ?
『これで終わりかよ? 魔王軍に楯突くような肝の座った種族かと思えばなんだよ情けねぇ』
『まーそう言うなよなー。お前さんが出て来た時の奴さんの反応、普通に可哀想だったもんなー』
側近の巨大なオークに抱っこされながら見た光景は、生涯忘れられない。人間と殆ど同じ容姿をした青年があらゆる生き物を千切っては投げ、千切っては投げ…
あ。なんか気持ち悪いわ。
『ぁう』
『坊ちゃん? 如何されましたか…外の空気は未だ御身には毒だったでしょうか』
わらわらとオークたちが心配そうに赤ん坊のオレを覗き見ては声を掛けたり額に触れたりする。
巨体のオークが、人間の赤ん坊と変わりないオレを労わるのである。
『どうした、テメェら』
『隊長。それが…ナラ様の体調が優れないようなのです。カシーニ様には散歩がてら丁度良いとは言われていたのですが』
先程までアホみたいな動きで敵を蹂躙していた青年がその報告を聞いた瞬間、余裕綽々としていた表情が一気に引き締まり近づいて来た。もう一人のイケおじもゆったりとではあるがそれを追う。
『まさか呪いか毒でも食らったんじゃねーだろーな』
『ナラ様もキングオーク種ではありますが、少々お身体が弱いご様子。結界は張っていたのでそれはないかと思いますが…』
『おいおい、ランよぉ…このデンデニア様の結界にケチ付けちゃう感じィ?』
『黙れ無駄絡みすんな。
ナァラ? どーした、ん?』
怖いんですけど。
超怖いんですけど?
ラン…と呼ばれたオークに見えない何者かは、黄色い短髪を少しだけ伸ばして適当に結んだ髪型に真っ赤な目が特徴的だった。今までの乱暴な振る舞いや周りへの口の悪さからは想像も出来ないくらい優しい手付きでオレを抱き上げると上手に、包むように抱きしめてくれる。
『はぁー。お前は本当に可愛いなぁ。カシーニの奴と違っていつもニコニコしやがって』
『止めろデンデニア。お前はナラに近付くな、扱いが適当すぎんだよ』
ガッチリした筋肉が安全に自分を包み、護ってくれている…それがなんとも頼もしくて自然とキャッキャと喜んでいたらなんだか眠くなってきた。
『そんな言い方するー?
…お。どーやら我らが若君はおネムだったみてぇだなぁ。ランが抱っこするとナラはいっつもコロッと寝入っちまう』
気が付いたら知らない生き物に囲まれて生活するような日々。だけどこの人は。この人の抱っこは、本当に安心できるもの。
有り得ないくらい強くて、何故か優しくしてくれる同族。
『ナラ』
そう、オレの新しい名前はナラ。
魔族というとんでもない種族で、更にオークの幼体。オークはオークでもそこから派生した上位種だ。オレを抱っこする戦闘狂であるランと緩い喋り方が特徴的なイケおじ、更にオレの父親ともう一人がその上位種。
つまりこの異世界に五体しか存在しないキングオーク。それがオレの正体だ。
『んん…』
『っ可愛い…。お前はずっと、ずぅっとランたちが護ってやる。大丈夫だ、ナラ。お前のその美しい容姿は優れた魔族の証なんだからな。
だからお前は安心して美しく成長してろ。…戦えなくても、弱くても、お前が可愛くて美しい存在である限り魔王はお前を生かす。安心して、大きくなれ』
うつくしい?
かわいい?
そりゃ、赤ちゃんなんだから可愛いだろうけど…美しいってなんだ?
『らぁ、ん…らー、んっ』
なぁー
教えてくれよー?
『…はっ?! は、嘘…!』
『あっは! すっげ。カシーニの奴より先に名前呼ばれてんじゃんかよ、ラン!』
え? オレってば、今喋れたのか?
ランが目を見開いて真っ赤な目でオレを見つめる。わなわなと口を震わせているのが大変面白かったので、オレは覚えたての言葉を目一杯喋った。
『らっ! ぁ、んー。らぁーんっ、らっんっ』
『…っオイなんだよこれ!』
『だぁっはっは!! 嬉しくてキレんなよ。お前を呼んでるのさー、良かったじゃねーの。初めて呼ばれたオークだぜ? お前さんは』
ラン、って喋りやすいんだよな。
デンデニアなんて暫くは言えないけど。ランなら二文字で初心者向けだ。
『らぁ、んー』
『ぁあっクソ…! 早く大きくなれよ…、ランが一生傍で護ってやるからさぁ』
『お前流石にカシーニに殺されんぞ…?』
短い手を必死に伸ばせば赤い目をしたオークは参ったように溜息を吐いてから自分の指を絡める。無性に楽しくてきゃらきゃら笑うオレの声が響く。
オレも早くお喋りしたい。
早く、みんなと話したりこの世界を知ってオークについて学ぶんだ。
『らんっ、らん!』
『んっ。ナラはランを呼ぶのが上手いな。いつだってお前はランを呼べ。
どこにいたって、ランはナラを見つけて助けに行くから』
赤ん坊の頃はなんにも知らなかった。
自分は少し違う種族に産まれ、稀少なタイプだからと大切にされてきた。だからオレは前世の記憶を持つということの残酷さを知らなかった。
この世界の魔族はあまりに強く、
人間はあまりにも非力だということ。
魔法や道具を使ったところで魔族の中の最たる種族には到底敵わない。
初めてランが人間を殺した瞬間を目にしてから、オレは彼と話せなくなっていた。
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