40 / 51
第十一王子と、その守護者
王国式典の始まり
しおりを挟む
街で盛大に上がる花火。雨のように降る花。所狭しと広がる屋台。様々な種族が入り乱れる道。
今日は、雲一つないこの良き日は……バーリカリーナ王国式典その日である。
窓からいつもに増して華やかな街を見ながら……昨日用意した正装を目を移す。これを着る日は毎度えらい目に遭ってきたが、今日ばかりは違う。そしてベッドの横には小さく纏められたオレの荷物。
今日の夜にでも、オレはここを発つ。
『結局……逃げずに最後まで来ちゃったよ。上等だな。オレは自分が誇らしいよ』
唯一の後悔は王子の結婚式を見られないことだが、ここにも前世のような記録を残せる魔道具がある。ノルエフリンが後日それを送ってくれるらしいから、楽しみだ。
結婚衣装も無事完成し、夜には届けてくれることになっている。大変有り難いことだ。体を張った甲斐があったというもの。しかもギルドでお世話になった人たちが食材をくれたり、結婚式を華やかにする魔道具なんかも祝いの品としてくれるそうでかなり賑やかな式になりそうなのだ。
『たくさんの人に会って、支えられて……最後には大変お世話になるんだ。
いつかまた……戻って来たいな』
まだ大事な式典があるというのに、早くも泣いてしまいそうになり慌てて顔を洗ってから着替えを始める。最後にいつも通り、鈴と糸の花を髪に飾れば完成だ。
『……さーて。最後の一日、頑張りますか!』
成人を迎えるハルジオン王子。流石に今日の煌びやかな衣装はオレの手に負えないのでメイド長を筆頭としたメンバーで飾り立てられた。黒と金を中心にしつつ、ド派手とはいかなくても最近の王子の衣装にしてはまぁ派手な方。
『ノルエフリンも式典用だからいつもに増してカッコイイな』
『本当ですか? 慣れない衣装ですが、タタラ様にそう言っていただけると……着て良かったと思います。タタラ様はいつも通り大変素敵です!』
第十一王子の守護騎士ということで、いつもは白を基調とした隊服を着ていたノルエフリンも黒の立派な隊服を新調されている。普段は各自で自分たちの定めた制服や、好きな衣装を着ているが今日のような式典の際には騎士は隊服。魔導師はそれぞれの王子或いは王女の色を取り入れた正装、または隊服。守護獣には規定はないが、必ず一目見てわかるよう数字か色を取り入れること。
ちなみに隊服はバーリカリーナ王国で定められた服であり、王都内にて戦闘に準ずる者は一着は持っているものだ。
『その服装でおんぶやら抱っこやらしてみろ、王国中の恥となるのだぞ』
いつか預かった腕輪をして立ち上がった王子は、誰がどう見てもバーリカリーナの王子である。美人さんだし気品もあるし文句なし。
『ちゃんと自分で歩くから大丈夫ですよ。この正装も直した側から破かれたりしたら堪りませんもんね』
『そうですね。タタラ様だけのために仕立て屋にアレコレ指示を出して作った特注ですから。
おっと!』
言った本人がノルエフリンに向かって側に置いてあった置物を投げ付ける。流石に当たれば無事では済まないと思ったのだろう、ノルエフリンも投げられたそれを見事キャッチした。
……オレのための、特注……?
『はぁ……。もう良い、さっさと行くぞ』
部屋を自分で出て行ってしまった王子の背中を追いながらノルエフリンを見れば、苦笑いを浮かべている。よく見れば少しだけ耳が赤い王子の後ろ姿に、オレの笑い声が廊下に響く。
王国式典は、城の中にある会場で行われ会場内の様子が国中に中継されている。他国の来賓のみが会場に来ていて厳粛なる空気に包まれていて中々息が詰まりそうだ。
『あっ、』
各守護者たちが集まる控え席に移動すれば、かなりの人数の守護者たちがいた。十一番という文字の場所には席が二つあり、移動する際に知った顔が何人かいたので小さく手を振った。
今まで見たことがなかった守護獣なんかもいて、正に錚々たるメンバー。中には会場に入りきらない守護獣もいるそうで、流石に留守番をしているそうだ。
【それでは、これよりバーリカリーナ王国式典を始めます】
バーリカリーナ王国の、国王。初めて見た国王はまるで夜の信徒のように顔を隠していて表情もまるでわからなかった。王子曰く昔からそうだったようで不審に思う者は誰もいない。
成人を迎えるのは二人。ハルジオン王子と、第十王子であるキッカ・久遠・バーリカリーナ王子。
隣のスペースを盗み見れば五人の男女と、その後ろに守護獣の魔獣がいる。魔獣もそれぞれで人間をただ襲うだけのものが大半だが、時々魔王からの厳命が外れることもある。更に中には知識を得た希少な個体もいるのだ。小さな狐のような見た目の愛らしい白い魔獣は、その希少なタイプなのだろう。
成人となればまた公務も忙しくなる。多くの者に祝われる二人の王子は、成人した姿を惜しげなく晒し少し遠くから大きな歓声が聞こえる。中継を見た民が祝ってくれているんだ。続いて学園を卒業した三人の王子と王女が紹介され、近いうちに彼らの就く職種も紹介されるらしい。
【先日のリーベダンジョンにて活躍した各守護者たちに、バーリカリーナ王国より宝物授与を開始します。魔人という脅威から王族を守護した働きに、心から感謝を。
それでは、事前調査により宝物をご用意致しましたので代表して王子殿下、王女殿下に授与を】
壇上に用意されたのは、大小様々な包装を施されたプレゼントたち。一番小さいのは紙っぺらみたいなもので……恐らく小切手や土地の契約書などはこれなのだろう。大半の王子や王女たちはこれを受け取っている。一番大きいのは一メートル以上あるバカでかい包みに入れられていて……中身はまるでわからない。誰か彫像でも頼んだ?
謎のバカでかい包みは舞台裾から出て来たスタッフたちがカートに乗せ、そのまま運ばれて行った。流石に王子や王女にはアレは運べないだろうしな。
【続きまして、バーリカリーナ王国へ多大なる貢献をした者を表彰致します。この度は五名の王子と勇士が名を連ねます。
一人目、新たな魔道具にて発展を促した最善の名を冠す第六王子タルタカロス・万国・バーリカリーナ殿下】
『……はいはい』
タルタカロス殿下が開発した魔道具は、まだ完成はしていないが試作品まで出来上がった。王族にしかない魔力を媒介として、更に強力な結界を起こす魔道具。これさえあれば王族がわざわざ現地に赴く必要もなく、脅威が多いこの世界では大きな結果をもたらしたと言える。
あのバビリアダンジョン崩壊の際にあんなところにいたのも、わざわざ自分で魔道具の調子を試していたからだ。
【二人目、北の国境にて異種族より国防を守った日の輪騎士団。代表として日の輪騎士団団長クロポルド・アヴァロア】
『はい』
これはオレと殿下が出会う前から行われていた日の輪騎士団の長期任務。極寒と恐れられる地に住む謎の異種族の侵攻に急遽向かった日の輪騎士団が、見事にそれを負かして国境を守り抜いたのだ。
今日も相変わらずイケメンな団長殿は、胸に新たな勲章と賞状を国王より賜る。惜しみない拍手に包まれながらピクリとも表情を動かさない、流石は騎士団団長である。
【三人目、東の大海に棲む巨大魔獣マンモヌゲリアス討伐により周辺地域に安寧を取り戻した功績を称えて冒険者、ギルド等級 全等級のイイルカ・ハートメア】
『……すみません、欠席しています』
【では、後日ギルドにて。次を発表します】
まさかのボイコットである。
しかし、全等級冒険者であればそれでも文句は言われない。なんせ全等級など国に一人が二人いれば良い方で、このバーリカリーナには確か四人が在籍するという歴代最高人数を誇る。
【四人目、バビリアダンジョン崩壊にて一人王命により現地に向かい速やかにこれを止めたことを評価して星の廻騎士団団長アイアシル・フリーリー。
五人目、同じくバビリアダンジョン崩壊にて真っ先に現地に向かい多くの民を救ったことを評価して第十一王子守護魔導師タタラ。こちらはギルドのクエストにて現地に向かいましたが、クエスト以外の内容である民の救助に深く関わり……また、民からの感謝の声が多く届いたため特例として表彰します】
その瞬間、まるで爆発でもしたかのように大きな歓声が街から響いた。その場の誰もが驚いていたし、オレも聞いていなかったことにオロオロするも空から飛んで来た撮影魔道具がオレを大きく映し出す。
……おーい、聞いてないよぉ。
『おーっす、迎え来てやったぜー。早く行くぞ行くぞー』
『あ、アシル様? って、ちょっと待っ……引く力が強ぇ!!』
小っちゃな二人が手を繋いでおつかいみたいに表彰台まで歩いて行く姿が、水魔法によって映し出された巨大な水鏡にデカデカと映された。全く内容を知らされていないオレと全く周りを気にしないアシル様。何かの間違いなのではと不安そうにするオレを見て何を思ったのか、面倒臭そうに歩いていたアシル様が笑いかけ更に手を引いて歩いて行く。
このお兄ちゃん絶対楽しんでますぜ?
『さんきゅー』
アシル様の後で表彰台に乗り、初めてこの国の王様と対峙した。身長は高く百八十くらい。ほっそりとした体格でかなり長い金髪らしく、結ばれた髪がたまに見える。
【大儀であった。今後も励むように】
『身に余る光栄です。精進致します』
まぁ辞めますが。
なんて言えず、会場からの拍手に包まれて戻ろうとしたら……再びアシル様が良い笑顔で左手を差し出している。半ばやけになって右手を伸ばして帰る途中、街では花やら酒やら様々なものが飛び交い人々の笑い声が溢れてきた。
実は乱闘とかしてないよね、アレ?
遂にはテーブルやら酔っ払いなどが飛び交い始め、この国の行く末が不安になった。
『すまん。昨日の話し合いでお前も表彰されると言われていたのであった。つい忘れていたわ』
『タタラ様、素敵な勲章ですよ! とてもお似合いです!』
堅苦しい式典は前半が終了。オレたちはみんなで移動を始めているが、その最中に大事なことをしていた。王子追求である。
『びっくりしました……。アシル様が来てくれなければ我が耳を疑ったまま固まっていましたよ。またオレを揶揄って伝えなかったんじゃ……』
『安心せよ。忘れていた』
それはそれで問題ですねぇ。
胸元に光る勲章。小さな銀色の丸と、それを更に覆うように金色の丸があり薄っすらとバーリカリーナ王国の国旗が刻まれている。そして赤と白のリボンによって更に華やかになったそれを見ていれば、王子に頭を撫でられる。
ここを去る人間に勲章だなんて、無駄なものにお金を使わせてしまったものだ。
『リューシーに悪いことをしてしまいました。彼だってあの場にいたのに……』
『民を救うために魔法を使ったのはお前だ。そして民も同様にお前に救われたと思ったのだから、胸を張っていれば良い』
王子に手を引かれれば、遅れていた移動する集団へ合流する。移動の際に知らない人がたくさんのおめでとう、を言ってくれた。勿論知っている人たちも、何人も……。
胸に光る、この国を代表する者たちと同じもの。それを自分が持っているなんて不思議な気分で……やっぱり外したい。
『そのような不安そうな顔をするでない。今日一番の催しが始まるのだぞ、そんな顔で国民の前に立つなど許されることではなかろう』
『……やっぱりノルエフリンを替え玉にしましょうよ! なんかオレ、お腹痛くなってきましたー!』
『あ。タタラ様、整腸作用のある回復薬ならこちらに用意してあります』
逃げることは許されない。
本日の最大のイベントである、親善試合……という名の各守護者によるトーナメント式ガチンコバトルが始まるのである。
.
今日は、雲一つないこの良き日は……バーリカリーナ王国式典その日である。
窓からいつもに増して華やかな街を見ながら……昨日用意した正装を目を移す。これを着る日は毎度えらい目に遭ってきたが、今日ばかりは違う。そしてベッドの横には小さく纏められたオレの荷物。
今日の夜にでも、オレはここを発つ。
『結局……逃げずに最後まで来ちゃったよ。上等だな。オレは自分が誇らしいよ』
唯一の後悔は王子の結婚式を見られないことだが、ここにも前世のような記録を残せる魔道具がある。ノルエフリンが後日それを送ってくれるらしいから、楽しみだ。
結婚衣装も無事完成し、夜には届けてくれることになっている。大変有り難いことだ。体を張った甲斐があったというもの。しかもギルドでお世話になった人たちが食材をくれたり、結婚式を華やかにする魔道具なんかも祝いの品としてくれるそうでかなり賑やかな式になりそうなのだ。
『たくさんの人に会って、支えられて……最後には大変お世話になるんだ。
いつかまた……戻って来たいな』
まだ大事な式典があるというのに、早くも泣いてしまいそうになり慌てて顔を洗ってから着替えを始める。最後にいつも通り、鈴と糸の花を髪に飾れば完成だ。
『……さーて。最後の一日、頑張りますか!』
成人を迎えるハルジオン王子。流石に今日の煌びやかな衣装はオレの手に負えないのでメイド長を筆頭としたメンバーで飾り立てられた。黒と金を中心にしつつ、ド派手とはいかなくても最近の王子の衣装にしてはまぁ派手な方。
『ノルエフリンも式典用だからいつもに増してカッコイイな』
『本当ですか? 慣れない衣装ですが、タタラ様にそう言っていただけると……着て良かったと思います。タタラ様はいつも通り大変素敵です!』
第十一王子の守護騎士ということで、いつもは白を基調とした隊服を着ていたノルエフリンも黒の立派な隊服を新調されている。普段は各自で自分たちの定めた制服や、好きな衣装を着ているが今日のような式典の際には騎士は隊服。魔導師はそれぞれの王子或いは王女の色を取り入れた正装、または隊服。守護獣には規定はないが、必ず一目見てわかるよう数字か色を取り入れること。
ちなみに隊服はバーリカリーナ王国で定められた服であり、王都内にて戦闘に準ずる者は一着は持っているものだ。
『その服装でおんぶやら抱っこやらしてみろ、王国中の恥となるのだぞ』
いつか預かった腕輪をして立ち上がった王子は、誰がどう見てもバーリカリーナの王子である。美人さんだし気品もあるし文句なし。
『ちゃんと自分で歩くから大丈夫ですよ。この正装も直した側から破かれたりしたら堪りませんもんね』
『そうですね。タタラ様だけのために仕立て屋にアレコレ指示を出して作った特注ですから。
おっと!』
言った本人がノルエフリンに向かって側に置いてあった置物を投げ付ける。流石に当たれば無事では済まないと思ったのだろう、ノルエフリンも投げられたそれを見事キャッチした。
……オレのための、特注……?
『はぁ……。もう良い、さっさと行くぞ』
部屋を自分で出て行ってしまった王子の背中を追いながらノルエフリンを見れば、苦笑いを浮かべている。よく見れば少しだけ耳が赤い王子の後ろ姿に、オレの笑い声が廊下に響く。
王国式典は、城の中にある会場で行われ会場内の様子が国中に中継されている。他国の来賓のみが会場に来ていて厳粛なる空気に包まれていて中々息が詰まりそうだ。
『あっ、』
各守護者たちが集まる控え席に移動すれば、かなりの人数の守護者たちがいた。十一番という文字の場所には席が二つあり、移動する際に知った顔が何人かいたので小さく手を振った。
今まで見たことがなかった守護獣なんかもいて、正に錚々たるメンバー。中には会場に入りきらない守護獣もいるそうで、流石に留守番をしているそうだ。
【それでは、これよりバーリカリーナ王国式典を始めます】
バーリカリーナ王国の、国王。初めて見た国王はまるで夜の信徒のように顔を隠していて表情もまるでわからなかった。王子曰く昔からそうだったようで不審に思う者は誰もいない。
成人を迎えるのは二人。ハルジオン王子と、第十王子であるキッカ・久遠・バーリカリーナ王子。
隣のスペースを盗み見れば五人の男女と、その後ろに守護獣の魔獣がいる。魔獣もそれぞれで人間をただ襲うだけのものが大半だが、時々魔王からの厳命が外れることもある。更に中には知識を得た希少な個体もいるのだ。小さな狐のような見た目の愛らしい白い魔獣は、その希少なタイプなのだろう。
成人となればまた公務も忙しくなる。多くの者に祝われる二人の王子は、成人した姿を惜しげなく晒し少し遠くから大きな歓声が聞こえる。中継を見た民が祝ってくれているんだ。続いて学園を卒業した三人の王子と王女が紹介され、近いうちに彼らの就く職種も紹介されるらしい。
【先日のリーベダンジョンにて活躍した各守護者たちに、バーリカリーナ王国より宝物授与を開始します。魔人という脅威から王族を守護した働きに、心から感謝を。
それでは、事前調査により宝物をご用意致しましたので代表して王子殿下、王女殿下に授与を】
壇上に用意されたのは、大小様々な包装を施されたプレゼントたち。一番小さいのは紙っぺらみたいなもので……恐らく小切手や土地の契約書などはこれなのだろう。大半の王子や王女たちはこれを受け取っている。一番大きいのは一メートル以上あるバカでかい包みに入れられていて……中身はまるでわからない。誰か彫像でも頼んだ?
謎のバカでかい包みは舞台裾から出て来たスタッフたちがカートに乗せ、そのまま運ばれて行った。流石に王子や王女にはアレは運べないだろうしな。
【続きまして、バーリカリーナ王国へ多大なる貢献をした者を表彰致します。この度は五名の王子と勇士が名を連ねます。
一人目、新たな魔道具にて発展を促した最善の名を冠す第六王子タルタカロス・万国・バーリカリーナ殿下】
『……はいはい』
タルタカロス殿下が開発した魔道具は、まだ完成はしていないが試作品まで出来上がった。王族にしかない魔力を媒介として、更に強力な結界を起こす魔道具。これさえあれば王族がわざわざ現地に赴く必要もなく、脅威が多いこの世界では大きな結果をもたらしたと言える。
あのバビリアダンジョン崩壊の際にあんなところにいたのも、わざわざ自分で魔道具の調子を試していたからだ。
【二人目、北の国境にて異種族より国防を守った日の輪騎士団。代表として日の輪騎士団団長クロポルド・アヴァロア】
『はい』
これはオレと殿下が出会う前から行われていた日の輪騎士団の長期任務。極寒と恐れられる地に住む謎の異種族の侵攻に急遽向かった日の輪騎士団が、見事にそれを負かして国境を守り抜いたのだ。
今日も相変わらずイケメンな団長殿は、胸に新たな勲章と賞状を国王より賜る。惜しみない拍手に包まれながらピクリとも表情を動かさない、流石は騎士団団長である。
【三人目、東の大海に棲む巨大魔獣マンモヌゲリアス討伐により周辺地域に安寧を取り戻した功績を称えて冒険者、ギルド等級 全等級のイイルカ・ハートメア】
『……すみません、欠席しています』
【では、後日ギルドにて。次を発表します】
まさかのボイコットである。
しかし、全等級冒険者であればそれでも文句は言われない。なんせ全等級など国に一人が二人いれば良い方で、このバーリカリーナには確か四人が在籍するという歴代最高人数を誇る。
【四人目、バビリアダンジョン崩壊にて一人王命により現地に向かい速やかにこれを止めたことを評価して星の廻騎士団団長アイアシル・フリーリー。
五人目、同じくバビリアダンジョン崩壊にて真っ先に現地に向かい多くの民を救ったことを評価して第十一王子守護魔導師タタラ。こちらはギルドのクエストにて現地に向かいましたが、クエスト以外の内容である民の救助に深く関わり……また、民からの感謝の声が多く届いたため特例として表彰します】
その瞬間、まるで爆発でもしたかのように大きな歓声が街から響いた。その場の誰もが驚いていたし、オレも聞いていなかったことにオロオロするも空から飛んで来た撮影魔道具がオレを大きく映し出す。
……おーい、聞いてないよぉ。
『おーっす、迎え来てやったぜー。早く行くぞ行くぞー』
『あ、アシル様? って、ちょっと待っ……引く力が強ぇ!!』
小っちゃな二人が手を繋いでおつかいみたいに表彰台まで歩いて行く姿が、水魔法によって映し出された巨大な水鏡にデカデカと映された。全く内容を知らされていないオレと全く周りを気にしないアシル様。何かの間違いなのではと不安そうにするオレを見て何を思ったのか、面倒臭そうに歩いていたアシル様が笑いかけ更に手を引いて歩いて行く。
このお兄ちゃん絶対楽しんでますぜ?
『さんきゅー』
アシル様の後で表彰台に乗り、初めてこの国の王様と対峙した。身長は高く百八十くらい。ほっそりとした体格でかなり長い金髪らしく、結ばれた髪がたまに見える。
【大儀であった。今後も励むように】
『身に余る光栄です。精進致します』
まぁ辞めますが。
なんて言えず、会場からの拍手に包まれて戻ろうとしたら……再びアシル様が良い笑顔で左手を差し出している。半ばやけになって右手を伸ばして帰る途中、街では花やら酒やら様々なものが飛び交い人々の笑い声が溢れてきた。
実は乱闘とかしてないよね、アレ?
遂にはテーブルやら酔っ払いなどが飛び交い始め、この国の行く末が不安になった。
『すまん。昨日の話し合いでお前も表彰されると言われていたのであった。つい忘れていたわ』
『タタラ様、素敵な勲章ですよ! とてもお似合いです!』
堅苦しい式典は前半が終了。オレたちはみんなで移動を始めているが、その最中に大事なことをしていた。王子追求である。
『びっくりしました……。アシル様が来てくれなければ我が耳を疑ったまま固まっていましたよ。またオレを揶揄って伝えなかったんじゃ……』
『安心せよ。忘れていた』
それはそれで問題ですねぇ。
胸元に光る勲章。小さな銀色の丸と、それを更に覆うように金色の丸があり薄っすらとバーリカリーナ王国の国旗が刻まれている。そして赤と白のリボンによって更に華やかになったそれを見ていれば、王子に頭を撫でられる。
ここを去る人間に勲章だなんて、無駄なものにお金を使わせてしまったものだ。
『リューシーに悪いことをしてしまいました。彼だってあの場にいたのに……』
『民を救うために魔法を使ったのはお前だ。そして民も同様にお前に救われたと思ったのだから、胸を張っていれば良い』
王子に手を引かれれば、遅れていた移動する集団へ合流する。移動の際に知らない人がたくさんのおめでとう、を言ってくれた。勿論知っている人たちも、何人も……。
胸に光る、この国を代表する者たちと同じもの。それを自分が持っているなんて不思議な気分で……やっぱり外したい。
『そのような不安そうな顔をするでない。今日一番の催しが始まるのだぞ、そんな顔で国民の前に立つなど許されることではなかろう』
『……やっぱりノルエフリンを替え玉にしましょうよ! なんかオレ、お腹痛くなってきましたー!』
『あ。タタラ様、整腸作用のある回復薬ならこちらに用意してあります』
逃げることは許されない。
本日の最大のイベントである、親善試合……という名の各守護者によるトーナメント式ガチンコバトルが始まるのである。
.
30
お気に入りに追加
260
あなたにおすすめの小説
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!
あ
BL
16才の初川終(はつかわ しゅう)は先天性の心臓の病気だった。一縷の望みで、成功率が低い手術に挑む終だったが……。
僕は気付くと両親の泣いている風景を空から眺めていた。それから、遠くで光り輝くなにかにすごい力で引き寄せられて。
目覚めれば、そこは子どもの頃に毎日読んでいた大好きなファンタジー小説の世界だったんだ。でも、僕は呪いの悪役の10才の公爵三男エディに転生しちゃったみたい!
しかも、この世界ってバッドエンドじゃなかったっけ?
バッドエンドをハッピーエンドにする為に、僕は頑張る!
でも、本の世界と少しずつ変わってきた異世界は……ひみつが多くて?
嫌われ悪役の子どもが、愛されに変わる物語。ほのぼの日常が多いです。
◎体格差、年の差カップル
※てんぱる様の表紙をお借りしました。
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
影の薄い悪役に転生してしまった僕と大食らい竜公爵様
佐藤 あまり
BL
猫を助けて事故にあい、好きな小説の過去編に出てくる、罪を着せられ処刑される悪役に転生してしまった琉依。
実は猫は神様で、神が死に介入したことで、魂が消えかけていた。
そして急な転生によって前世の事故の状態を一部引き継いでしまったそうで……3日に1度吐血って、本当ですか神様っ
さらには琉依の言動から周りはある死に至る呪いにかかっていると思い━━
前途多難な異世界生活が幕をあける!
※竜公爵とありますが、顔が竜とかそういう感じては無いです。人型です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる