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第十一王子と、その守護者
違和感
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それはオレを含めた一行が歩き始めて数分後のことだった。バカ王子の命令により隊列の一番後ろから中央を走る竜車のすぐ隣に配置され、初めての長距離移動に心躍らせながら辺りの景色を見て楽しんでいた時。
『ハルジオン殿下! 探知魔道具にて、魔獣を確認しました。中位級の魔獣が多数存在するため、この場で防御魔法を張ります!』
『……またか? 来る時も魔獣との戦闘があったではないか。この辺りも大分、生態系が崩れているらしいな。
早く片せ。それが貴様らの役目であろう』
竜車から片手を出し、追い払うような仕草で騎士をあしらうと慣れているのか、その騎士は気にする様子もなく一礼をしてから去ってしまった。
そして、間もなく止まった竜車を覆うように金色の半球体が現れる。
光魔法の一種、設置型防御魔法というやつだ。数人揃えば家や街も覆える優れもので、当然これから向かう城にも常に張られているらしい。
『おお、凄い……初めて見た』
感動しながら防御魔法に触れると、それは難なく向こう側に触れた手が出る。外からは硬いが中からは自由に攻撃が出来るって本当だったんだなぁ。
出した手をグーパーグーパーしていれば、同じように王子の護衛に残っている騎士たちが微笑ましくこちらを見ているのに気付いて中から手を振れば、相手も返してくれた。
『オレの母なる護りも防御力は問題ないんだけど、内部がなぁ……。糸で繭作ってるもんだからこんな風に中で動き回れるなんて夢のまた夢だし……』
オレも竜車くらい覆えるような、大きな護りが発動できるようにならないと。いつまでもグルグル巻きじゃダメだよな。
うんうん、と頷きながら今後の修行についての方針まで決めたところで竜車の周りを一周したり、辺りをキョロキョロ見回したりして数十分。
……誰も帰って来なくね?
『討伐に行った人たち、大丈夫か?』
騎士団は全員で三十人。十人が討伐に向かってからもう三十分ほど。護衛対象を残したまま呑気に素材等を剥がしてるとは思えないので、速やかに帰還すると思っていたのに全然来ないのだ。
その不自然さを当然、他の騎士団員もわかっていたのかその場にいた副隊長の元に指示を仰ごうと集まっている。
『まだ戻らぬのか? 中位級程度、我が王国騎士団であれば容易いはずであろう』
『何かトラブルでしょうかね』
明らかに不機嫌になる王子に、話を聞いて来ますと防御魔法から出て騎士団の元へと駆け寄った。オレが来ただけで王子の機嫌が悪くなったと察したのだろう、一人の騎士が近付くオレに膝を折って迎えてくれた。
『討伐組が出てから、どうにも探知魔道具が可笑しいのです。故障ではないかと思いますが……』
『魔道具が故障?』
A4サイズくらいの白い紙を取り出すと、そこには魔力を流すことによって映される簡易地図が表示される。
『先程はこの辺りに中位級魔獣を示す黄色の印があり、我々の進行方向だったため討伐組が出たのです。
しかし、今はもう印は一つもなく、地図全体が赤く塗り潰されています。……このような表示は見たことがなく、やはり故障かと』
『だから討伐組も表示されたはずの魔獣がいなくて探し回ってるんでしょうかね? もう一度地図を見て不具合に気付けば、すぐに戻って来るでしょう』
折角討伐組が出発したのに、これではとんだ骨折り損、だな。
まぁ何事もなくて良かったというべきか。
『旅立ち早々から魔獣に襲われなくて良かった。天気も良いし気温も丁度良いし、本当旅立ち日和って感じ……。
……ん?』
上を見た。
なんとなく、天気良いよなぁ、なんて思いながら空を見たのだ。なのになんだろう?
お空になんか、いない?
『……っ!!』
オレには、それが何かはわからなかった。ただ、それを一目見ただけでヤバい、ということだけは理解した。
『戦闘態勢!! 即時、戦闘態勢っ!! 空だ!! 上空にいるっ、
大量の、魔獣だ!!』
腹の底から叫びつつ、足は先程からずっと動かしている。履き潰しすぎて突然の猛ダッシュについて来れなかったのか、右足の靴が脱げた。しかし気にしてなどいられない、むしろもう片方も自分でどっかに脱ぎ飛ばしてこの人生一番の走りを披露した。
辿り着いたのは勿論、竜車だ。すぐに竜車を背にして上空から迫り来る魔獣に対抗するため、スッと息を吸って両腕を出す。
『……まさか、初戦からこんな面倒なことになるなんて』
泣き言など言ってはいられない。
自分で背後にいるバカ王子の守護魔導師になったのだ、どれだけ早く役目が回って来ようがやると言ったからにはやり遂げねばならない。
あ。やっぱ、アイツらメチャクチャ気持ち悪いから帰っても良いかな?!
『オレ、魔獣とか詳しくないから弱点とか特徴とか全然わかんないなぁ』
上空に占める魔獣、それは見た目は虫に近い。蜂のような、ハエのような形をしているが何より大きい。一体が大型犬並みにデカいのだ。お尻には毒々しい色をした袋を持ち、両手にはそれぞれレイピアのような武器を持ち、終いには羽は全部で十枚。とんだ化け物だ、逃げたい。
『魔道具は間違ってなかった。ここいら一帯が全部コイツらだらけになって中位級のはずが集団となったことで真っ赤なエラーを起こしてたんだ。赤は、もう一段階上の上位級を示す……か。
全く、こっちはそういう全体攻撃系の技はあんまりないんだから嫌だな……きっと討伐組も予想外の数に圧されてるかもしれないし、早く合流して戦力を集めつつ逃げるのが得策だ』
少し離れた場所にいる騎士団たちも、それぞれ持ち直して魔獣を各個撃破している。すぐに隊列が崩される心配はない、確実に魔獣を倒そう。
『さてと。始めましょうかね』
今こそ、この世界で唯一自分を誇れる瞬間だ。
そっと騎士団に目を向ければ彼らは魔獣の多くある羽を狙って攻撃を繰り返している。狙いやすい胴体ではなく羽を狙うには何か理由があるのかもしれない。
『糸魔法 硬絲の術』
無数に出した糸を硬くする硬糸の術。大群に向かってそれを一気に放つ。様子見として放ったものだが、魔獣の胴体には傷を付けられないものの、羽は見た目よりも柔らかいようで硬絲の術で貫通することがわかった。
羽の数が多いのは傷付いても大丈夫なように、か。
『いくつか羽を潰せばバランスを崩して地に落とせる。羽を失い、身動きが取れなくなったら一気に叩くことも出来るし。
勝機が見えたか……? うん、意外とイケるのでは』
あれだけの質量のある魔獣を倒し尽くすのは難しいと思われたが、羽だけを狙って少ない魔力で撃退出来るのであればそれは細やかな操作を得意とする糸魔法の活躍の場だ。
『って、ぎゃあっ!!』
羽を無くして落下する魔獣が、その下にいた魔獣の体を持っていた武器で貫いた。普通ならラッキー、共倒れだと喜ぶところだが違う。
体を突き刺された魔獣は、お尻の袋を破裂させて絶命した。問題は袋。なんと破裂した袋から大量の黄緑色の液体がぶち撒かれてこちらに飛散してきたのだ。
誰だってわかる、あれは絶対に浴びちゃいけない。
『あぶね!!』
地面を転がるようにしてその場から離れ、飛び散った液体が今までオレがいた場所に落ちるとジュッという恐ろしい音を立てていた。そっと振り返れば、そこだけ地面が抉れているではないか。
ああ……だから誰も胴体を狙わないのね。
『体になんちゅーもんを抱えてるんだ!! あ、あんなの大量に降って来たらたまったもんじゃない……まさか防御魔法の壁まで溶かすとか言わない……よな?』
それは一大事、これだけの防御魔法はオレには扱えない。もしもの時のためと、馬車への護衛のためもっと沢山の騎士を近くに呼ぶべきだ。
オレだけじゃこの大きな防御魔法に包まれた竜車を守りきれないっ……!
『誰か、もう少し竜車の近くに……』
言いかけて気付く。
何故、護衛対象の近くにオレだけしかいないんだ?
『おい……なぁ、聞こえてるだろ?』
距離にして数十メートル。これだけの喧騒の中でも充分なほど大きな声をオレは出している。
そもそも、コイツらは王国騎士団だ。じゃあ役目はなんだ? 決まってるだろ……だって、目の前に王族の乗る竜車があるんだ。それを守らずどうするよ。
しかし、現実にはバカ王子の側にいて、その身を護るために立っているのはオレだけだ。たった数時間前に出会い、数えるほどしか言葉を交わしていない、ただのガキだ。
……なんなんだよ、どうなってるんだよっ……?
『……そうかい、ならもう
助けてくれなんて叫ぶだけ、無駄なわけだ』
何チラチラこっち見てんだよ。
心配そうに振り返るなよ。
前見てろよ、背中に何にも護らずに。
『……これも王族のゴタゴタ、ってやつか? おーおー好きにやれ好きにやってくれ。
悪いけど助けてくれないなら、こっちは忙しいんだ。オレだってこんなとこで魔獣の餌にされるなんて冗談じゃない。
泣き言も命乞いもなしだ。忘れてくれ……こっちは真剣なんだ』
足に力が入る。今一度力を入れれば、裸足の足から血が出ていた。
そういえば、さっき……靴が脱げたんだったな。
『靴……』
この魔獣の倒し方はわかった。しかし、この圧倒的な数にどうしても技が間に合わない。しかも相手を下手に攻撃してあの袋をまた掠めてしまえば強力な溶解液が飛び出して来る。
『十本の、指』
羽さえ的確に散らしてしまえば、奴らは地上では上手く戦えない。むしろ逃げても良い。欲を出して地上に落ちた分も倒そうなどと考えなくても、地に落ちた魔獣など放置して逃げ……後で改めて討伐隊を出してもらえば良い。
『違う。オレには……オレには、二十本の指がある!!』
糸を操るのは難しいんだ。今のオレでは、一本の指に数本の糸を伸ばすのが精々。今までも馬鹿正直に指から出した糸を操っていた。それがオレの糸魔法だと思っていた。
ならば、足の指だって使えば良い。勿論不慣れな作業だから足の指からは一本くらいしか糸が出せないかもしれない。
『ここでやらずに、いつやるんだ!! ふふっ……オレの糸魔法が凄くてヤバいってところを見せてやるんだ!!』
枯れ草を踏み潰し、走って走って……魔獣の波に突っ込んで行く。誰もがオレの血迷った行動に理解が及ばずアホ面をキメているので大変結構。
だってオレだってわかんないんだ。でも、あれだ。新しい魔法を使う時ってのは誰だって飛び跳ねるくらい楽しいものなのさ。
『感謝する! こんな独壇場を譲ってもらって!! あーあ、次は絶対に長生きしそうな人生を送りたいもんだね!!』
溢れる涙が、どうして出たのか。その時のオレには全く理解出来なかった。だってオレは、目の前のオレの命を刈り取ろうとする邪魔者たちしか見えていなかったから。
『糸魔法 硬絲の術!!』
両手から放った硬絲。そしてすぐに右足の親指から魔力を放って生まれて初めて足の指から魔法を出した。それを前方に捉えた木に放って巻き付けると、一気に引きつける。勿論引きつけても木はビクともしない。オレの体が弾丸のように引きつけられて移動する。足から引っ張られる未知の感覚。目を回して気が動転するも、体勢を整えて右手に左手に左足の全ての指から糸を放って羽を撃ち抜く。
たまに外れてしまいそうなものはすぐに魔力を断ち切って失くしてしまう。そうやって、オレは地味で細かくて馬鹿みたいに動き回った。
漸く魔獣が一瞬、ほんの一瞬だが途切れ始めてきたのだ。好機を逃すものかとすぐに糸を竜車に伸ばして移動する。この騒ぎで御者はとっくに逃げ出していたらしい、繋がれた地竜だけが怯えて地面に伏している。
良かった、よく躾けてある……暴れ出されたら更に大変だった。
『よしよし。良い子たちだな、無事に一緒に帰ろう。お互いこんなところで死にたくないよな』
土色の鱗を持ち、震えてお互いに寄り添っていた二匹の地竜に触れる。比較的温厚で走ることが好きなのが地竜の特徴だと聞いたことがある。しかし頭が良くその気になればすぐに危険も察知し、その自慢の脚力を使って逃げ出せる。そんな地竜たちですら竦んでしまうほど、この魔獣の包囲網はどうしようもなかったのだ。
『立て。王国に召し抱えられた者同士、己の役目を果たすぞ。
大地を駆ける足に誇りを持つ地竜たち、オレと共にもう一度走ってくれ』
転んで、切り裂かれ、木にもぶつかってボロボロになった身だ。目の前に立つそんな人間を見て一体何を思ったのか橙色の瞳をした地竜たちは地に向けていた視線をオレに合わせた。そっと辺りを見渡し、お互いに何か喋るように鳴き合うとゆっくりと体を起こした。
立った! やった、コイツらまだ走ってくれるみたいだ!
『すまない。御者は経験がないんだ、リードしてくれると助かる。その代わりオレがお前たちが傷付かないよう魔獣を牽制し続けるから』
頼む、と一言告げれば地竜たちは心得たとばかりに一つ鳴いてからオレに御者の席に座れとばかりに背を押す。
この戦場で一番心強いぞ、コイツら……。
『殿下!! 殿下、無事ですね? 申し訳ありません、ここにいる戦力では魔獣の掃討は難しいようです! 私が竜車を引き、この場を抜け出すだけの討伐は完了したので走ります!
申し訳ありませんが未経験のため、少々居心地が悪いかと。どうかしっかりとお掴まり下さい!』
『……許可する。後で覚悟しておけ』
ええ、ええ。生きて帰れたのであればいくらでも怒られてさしあげますとも。
地竜たちに繋がれていた鎖を解き、意思の疎通を多少は可能に出来るようオレの糸を出して地竜たちに繋ぐ。糸に走り出すよう意思を込めて少し引けば、すぐに地竜たちは地を蹴り出した。
『告げる!! この場を脱出し、先にいる討伐組を拾って走り抜ける許可を得た! 死にたくない者は走れ!! 私が出来る限り魔獣を落とす、とにかく走ることに集中して竜車から離れるな!!』
地竜たちの高らかな咆哮を合図に、オレたちは走り出した。最初は何がなんだかわからずといったような騎士団も、すぐに状況を理解して竜車を追って走り出したが……同時に魔獣たちも一気に追いかけてきた。
そもそも、何故魔獣が人間を襲うのか。
理由はとても簡単なんだ。魔獣は全てこの世界のどこかにいるとされる数人いる魔王の内いずれかの支配下にあり、それらは全て人間を滅ぼすことを厳命されているそうだ。だから奴等は人間を襲うし、必要とあらば食べられる。食べて、その魔核ごと強さの糧にするために。
『糸魔法 硬絲の術!!』
いつだってこの世界には命の危機が間近にある。そんな世界に飛び出して、期待していたのに……こんな大冒険も悪くないな。
超死にそうだけど。
『糸魔法 母なる護り』
竜車から離れて魔獣に襲われそうだった騎士団の一人を糸魔法で防御し、そのまま繭を作って一気に引き上げる。空中で魔法を解いてから糸で体を持ち上げ、今度こそ竜車のすぐ近くまで連れてきてから糸を断つ。魔獣に食われそうだった騎士団の者は突然のことに驚いていたようだが、すぐに他の者にフォローされて再び走り出す。
そんなことを繰り返していれば、目当ての討伐組が漸く森の中で発見された。
最悪の形で。
『……っ、マジかよ……』
互いに背中を任せ、上空から飛来する魔獣を剣で斬り伏せたり、魔法による攻撃で地に落とす討伐組。問題はその数だ。十人はいたはずなのに……戦っているのはたった二人だ。その内の一人も、もはや立っているのがやっと、という疲労具合でフラフラしている。そんな彼を叱咤しつつ、必死に剣を振るのはオレに街での別れを勧めてくれた人だ。
『そんな、討伐組がっ……』
『光魔法師も一人こちらについていたのでは?!』
魔獣との戦いにおいて、死体は滅多に残らない。魔核ごと体を食われるから戦場には精々血と臓物くらいしかないのだ。
ここの惨劇を見れば、誰だってもうあの二人以外は食われたのだと想像出来る。
『っ、くそ、ここも魔獣が多い!!』
どうする、どうする!?
止まれば追いかけて来る魔獣の餌だ、かと言ってもう魔力の少ない光魔法師に防御魔法を張らせることも出来ないっ……、
なら、どうする?
地竜たちを引く糸を握り締めすぎて、知らずと皮膚が裂けて血が染みる。揺れる竜車につられて思考まで鈍るようだ。ああ、誰かオレを殴ってくれ。
最善策なんて一つだ。彼らを置いて行く、それが一番こちらに被害は少なくて済む。
『っ……』
チラリと竜車を覗くも、肝心のバカ王子からの命令はない。そもそもオレはコイツの身を守るのが仕事だ。人助けなんてしてる場合じゃない、そう……そうなんだ。わかってるんだ。
だけど。
『殿下!! 討伐組を発見しました、しかし対峙する魔獣が多く、とてもすぐ離脱出来る状況ではありません』
『……捨ておけ』
気を抜いていたら気付けないような小さな声で、ポツリと呟かれた声。その声を聞いた時に胸の底から湧き上がってきたのは大きな後悔だった。自分は今、この状況の判断を彼に託して、その彼が出した結果がこれだ。
まだ幼い、今の自分とあまり歳も変わらない彼にオレは残酷な決断を下させた。この判断を招いたのは……この結末を変えられなかったのは、オレだ。
前世の記憶があっても、オレは別に勇者とかでも救世主とかでもない。ただ普通に産まれて、一人で育って、今までなんとか生きてきて……将来は飢えや寒さから逃れてそこそこ楽しく、やっていければ良いって……そうだ。それが、オレの願い。
なら、少しでも楽しい明日を迎えるためにもオレは……たくさん足掻かないと。
『申し訳ありません、殿下!! 何か言いましたか? 竜車のせいでよく聞こえませんでした!!』
『……何度も言わせるな、僕は』
出会ったのも何かの縁だ。
オレの明るい未来のために、この我儘で未熟でまだ人生の面白さも明日を迎える楽しさも謳歌していない王子と共に頑張らなくては。
だって、オレは
『実は今しがた新しい魔法を思い付いたのです! 王国の大切な騎士団を、私の糸魔法で見事救出してみせますね!』
『……は?』
お前の守護魔導師様なんだからな!
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『ハルジオン殿下! 探知魔道具にて、魔獣を確認しました。中位級の魔獣が多数存在するため、この場で防御魔法を張ります!』
『……またか? 来る時も魔獣との戦闘があったではないか。この辺りも大分、生態系が崩れているらしいな。
早く片せ。それが貴様らの役目であろう』
竜車から片手を出し、追い払うような仕草で騎士をあしらうと慣れているのか、その騎士は気にする様子もなく一礼をしてから去ってしまった。
そして、間もなく止まった竜車を覆うように金色の半球体が現れる。
光魔法の一種、設置型防御魔法というやつだ。数人揃えば家や街も覆える優れもので、当然これから向かう城にも常に張られているらしい。
『おお、凄い……初めて見た』
感動しながら防御魔法に触れると、それは難なく向こう側に触れた手が出る。外からは硬いが中からは自由に攻撃が出来るって本当だったんだなぁ。
出した手をグーパーグーパーしていれば、同じように王子の護衛に残っている騎士たちが微笑ましくこちらを見ているのに気付いて中から手を振れば、相手も返してくれた。
『オレの母なる護りも防御力は問題ないんだけど、内部がなぁ……。糸で繭作ってるもんだからこんな風に中で動き回れるなんて夢のまた夢だし……』
オレも竜車くらい覆えるような、大きな護りが発動できるようにならないと。いつまでもグルグル巻きじゃダメだよな。
うんうん、と頷きながら今後の修行についての方針まで決めたところで竜車の周りを一周したり、辺りをキョロキョロ見回したりして数十分。
……誰も帰って来なくね?
『討伐に行った人たち、大丈夫か?』
騎士団は全員で三十人。十人が討伐に向かってからもう三十分ほど。護衛対象を残したまま呑気に素材等を剥がしてるとは思えないので、速やかに帰還すると思っていたのに全然来ないのだ。
その不自然さを当然、他の騎士団員もわかっていたのかその場にいた副隊長の元に指示を仰ごうと集まっている。
『まだ戻らぬのか? 中位級程度、我が王国騎士団であれば容易いはずであろう』
『何かトラブルでしょうかね』
明らかに不機嫌になる王子に、話を聞いて来ますと防御魔法から出て騎士団の元へと駆け寄った。オレが来ただけで王子の機嫌が悪くなったと察したのだろう、一人の騎士が近付くオレに膝を折って迎えてくれた。
『討伐組が出てから、どうにも探知魔道具が可笑しいのです。故障ではないかと思いますが……』
『魔道具が故障?』
A4サイズくらいの白い紙を取り出すと、そこには魔力を流すことによって映される簡易地図が表示される。
『先程はこの辺りに中位級魔獣を示す黄色の印があり、我々の進行方向だったため討伐組が出たのです。
しかし、今はもう印は一つもなく、地図全体が赤く塗り潰されています。……このような表示は見たことがなく、やはり故障かと』
『だから討伐組も表示されたはずの魔獣がいなくて探し回ってるんでしょうかね? もう一度地図を見て不具合に気付けば、すぐに戻って来るでしょう』
折角討伐組が出発したのに、これではとんだ骨折り損、だな。
まぁ何事もなくて良かったというべきか。
『旅立ち早々から魔獣に襲われなくて良かった。天気も良いし気温も丁度良いし、本当旅立ち日和って感じ……。
……ん?』
上を見た。
なんとなく、天気良いよなぁ、なんて思いながら空を見たのだ。なのになんだろう?
お空になんか、いない?
『……っ!!』
オレには、それが何かはわからなかった。ただ、それを一目見ただけでヤバい、ということだけは理解した。
『戦闘態勢!! 即時、戦闘態勢っ!! 空だ!! 上空にいるっ、
大量の、魔獣だ!!』
腹の底から叫びつつ、足は先程からずっと動かしている。履き潰しすぎて突然の猛ダッシュについて来れなかったのか、右足の靴が脱げた。しかし気にしてなどいられない、むしろもう片方も自分でどっかに脱ぎ飛ばしてこの人生一番の走りを披露した。
辿り着いたのは勿論、竜車だ。すぐに竜車を背にして上空から迫り来る魔獣に対抗するため、スッと息を吸って両腕を出す。
『……まさか、初戦からこんな面倒なことになるなんて』
泣き言など言ってはいられない。
自分で背後にいるバカ王子の守護魔導師になったのだ、どれだけ早く役目が回って来ようがやると言ったからにはやり遂げねばならない。
あ。やっぱ、アイツらメチャクチャ気持ち悪いから帰っても良いかな?!
『オレ、魔獣とか詳しくないから弱点とか特徴とか全然わかんないなぁ』
上空に占める魔獣、それは見た目は虫に近い。蜂のような、ハエのような形をしているが何より大きい。一体が大型犬並みにデカいのだ。お尻には毒々しい色をした袋を持ち、両手にはそれぞれレイピアのような武器を持ち、終いには羽は全部で十枚。とんだ化け物だ、逃げたい。
『魔道具は間違ってなかった。ここいら一帯が全部コイツらだらけになって中位級のはずが集団となったことで真っ赤なエラーを起こしてたんだ。赤は、もう一段階上の上位級を示す……か。
全く、こっちはそういう全体攻撃系の技はあんまりないんだから嫌だな……きっと討伐組も予想外の数に圧されてるかもしれないし、早く合流して戦力を集めつつ逃げるのが得策だ』
少し離れた場所にいる騎士団たちも、それぞれ持ち直して魔獣を各個撃破している。すぐに隊列が崩される心配はない、確実に魔獣を倒そう。
『さてと。始めましょうかね』
今こそ、この世界で唯一自分を誇れる瞬間だ。
そっと騎士団に目を向ければ彼らは魔獣の多くある羽を狙って攻撃を繰り返している。狙いやすい胴体ではなく羽を狙うには何か理由があるのかもしれない。
『糸魔法 硬絲の術』
無数に出した糸を硬くする硬糸の術。大群に向かってそれを一気に放つ。様子見として放ったものだが、魔獣の胴体には傷を付けられないものの、羽は見た目よりも柔らかいようで硬絲の術で貫通することがわかった。
羽の数が多いのは傷付いても大丈夫なように、か。
『いくつか羽を潰せばバランスを崩して地に落とせる。羽を失い、身動きが取れなくなったら一気に叩くことも出来るし。
勝機が見えたか……? うん、意外とイケるのでは』
あれだけの質量のある魔獣を倒し尽くすのは難しいと思われたが、羽だけを狙って少ない魔力で撃退出来るのであればそれは細やかな操作を得意とする糸魔法の活躍の場だ。
『って、ぎゃあっ!!』
羽を無くして落下する魔獣が、その下にいた魔獣の体を持っていた武器で貫いた。普通ならラッキー、共倒れだと喜ぶところだが違う。
体を突き刺された魔獣は、お尻の袋を破裂させて絶命した。問題は袋。なんと破裂した袋から大量の黄緑色の液体がぶち撒かれてこちらに飛散してきたのだ。
誰だってわかる、あれは絶対に浴びちゃいけない。
『あぶね!!』
地面を転がるようにしてその場から離れ、飛び散った液体が今までオレがいた場所に落ちるとジュッという恐ろしい音を立てていた。そっと振り返れば、そこだけ地面が抉れているではないか。
ああ……だから誰も胴体を狙わないのね。
『体になんちゅーもんを抱えてるんだ!! あ、あんなの大量に降って来たらたまったもんじゃない……まさか防御魔法の壁まで溶かすとか言わない……よな?』
それは一大事、これだけの防御魔法はオレには扱えない。もしもの時のためと、馬車への護衛のためもっと沢山の騎士を近くに呼ぶべきだ。
オレだけじゃこの大きな防御魔法に包まれた竜車を守りきれないっ……!
『誰か、もう少し竜車の近くに……』
言いかけて気付く。
何故、護衛対象の近くにオレだけしかいないんだ?
『おい……なぁ、聞こえてるだろ?』
距離にして数十メートル。これだけの喧騒の中でも充分なほど大きな声をオレは出している。
そもそも、コイツらは王国騎士団だ。じゃあ役目はなんだ? 決まってるだろ……だって、目の前に王族の乗る竜車があるんだ。それを守らずどうするよ。
しかし、現実にはバカ王子の側にいて、その身を護るために立っているのはオレだけだ。たった数時間前に出会い、数えるほどしか言葉を交わしていない、ただのガキだ。
……なんなんだよ、どうなってるんだよっ……?
『……そうかい、ならもう
助けてくれなんて叫ぶだけ、無駄なわけだ』
何チラチラこっち見てんだよ。
心配そうに振り返るなよ。
前見てろよ、背中に何にも護らずに。
『……これも王族のゴタゴタ、ってやつか? おーおー好きにやれ好きにやってくれ。
悪いけど助けてくれないなら、こっちは忙しいんだ。オレだってこんなとこで魔獣の餌にされるなんて冗談じゃない。
泣き言も命乞いもなしだ。忘れてくれ……こっちは真剣なんだ』
足に力が入る。今一度力を入れれば、裸足の足から血が出ていた。
そういえば、さっき……靴が脱げたんだったな。
『靴……』
この魔獣の倒し方はわかった。しかし、この圧倒的な数にどうしても技が間に合わない。しかも相手を下手に攻撃してあの袋をまた掠めてしまえば強力な溶解液が飛び出して来る。
『十本の、指』
羽さえ的確に散らしてしまえば、奴らは地上では上手く戦えない。むしろ逃げても良い。欲を出して地上に落ちた分も倒そうなどと考えなくても、地に落ちた魔獣など放置して逃げ……後で改めて討伐隊を出してもらえば良い。
『違う。オレには……オレには、二十本の指がある!!』
糸を操るのは難しいんだ。今のオレでは、一本の指に数本の糸を伸ばすのが精々。今までも馬鹿正直に指から出した糸を操っていた。それがオレの糸魔法だと思っていた。
ならば、足の指だって使えば良い。勿論不慣れな作業だから足の指からは一本くらいしか糸が出せないかもしれない。
『ここでやらずに、いつやるんだ!! ふふっ……オレの糸魔法が凄くてヤバいってところを見せてやるんだ!!』
枯れ草を踏み潰し、走って走って……魔獣の波に突っ込んで行く。誰もがオレの血迷った行動に理解が及ばずアホ面をキメているので大変結構。
だってオレだってわかんないんだ。でも、あれだ。新しい魔法を使う時ってのは誰だって飛び跳ねるくらい楽しいものなのさ。
『感謝する! こんな独壇場を譲ってもらって!! あーあ、次は絶対に長生きしそうな人生を送りたいもんだね!!』
溢れる涙が、どうして出たのか。その時のオレには全く理解出来なかった。だってオレは、目の前のオレの命を刈り取ろうとする邪魔者たちしか見えていなかったから。
『糸魔法 硬絲の術!!』
両手から放った硬絲。そしてすぐに右足の親指から魔力を放って生まれて初めて足の指から魔法を出した。それを前方に捉えた木に放って巻き付けると、一気に引きつける。勿論引きつけても木はビクともしない。オレの体が弾丸のように引きつけられて移動する。足から引っ張られる未知の感覚。目を回して気が動転するも、体勢を整えて右手に左手に左足の全ての指から糸を放って羽を撃ち抜く。
たまに外れてしまいそうなものはすぐに魔力を断ち切って失くしてしまう。そうやって、オレは地味で細かくて馬鹿みたいに動き回った。
漸く魔獣が一瞬、ほんの一瞬だが途切れ始めてきたのだ。好機を逃すものかとすぐに糸を竜車に伸ばして移動する。この騒ぎで御者はとっくに逃げ出していたらしい、繋がれた地竜だけが怯えて地面に伏している。
良かった、よく躾けてある……暴れ出されたら更に大変だった。
『よしよし。良い子たちだな、無事に一緒に帰ろう。お互いこんなところで死にたくないよな』
土色の鱗を持ち、震えてお互いに寄り添っていた二匹の地竜に触れる。比較的温厚で走ることが好きなのが地竜の特徴だと聞いたことがある。しかし頭が良くその気になればすぐに危険も察知し、その自慢の脚力を使って逃げ出せる。そんな地竜たちですら竦んでしまうほど、この魔獣の包囲網はどうしようもなかったのだ。
『立て。王国に召し抱えられた者同士、己の役目を果たすぞ。
大地を駆ける足に誇りを持つ地竜たち、オレと共にもう一度走ってくれ』
転んで、切り裂かれ、木にもぶつかってボロボロになった身だ。目の前に立つそんな人間を見て一体何を思ったのか橙色の瞳をした地竜たちは地に向けていた視線をオレに合わせた。そっと辺りを見渡し、お互いに何か喋るように鳴き合うとゆっくりと体を起こした。
立った! やった、コイツらまだ走ってくれるみたいだ!
『すまない。御者は経験がないんだ、リードしてくれると助かる。その代わりオレがお前たちが傷付かないよう魔獣を牽制し続けるから』
頼む、と一言告げれば地竜たちは心得たとばかりに一つ鳴いてからオレに御者の席に座れとばかりに背を押す。
この戦場で一番心強いぞ、コイツら……。
『殿下!! 殿下、無事ですね? 申し訳ありません、ここにいる戦力では魔獣の掃討は難しいようです! 私が竜車を引き、この場を抜け出すだけの討伐は完了したので走ります!
申し訳ありませんが未経験のため、少々居心地が悪いかと。どうかしっかりとお掴まり下さい!』
『……許可する。後で覚悟しておけ』
ええ、ええ。生きて帰れたのであればいくらでも怒られてさしあげますとも。
地竜たちに繋がれていた鎖を解き、意思の疎通を多少は可能に出来るようオレの糸を出して地竜たちに繋ぐ。糸に走り出すよう意思を込めて少し引けば、すぐに地竜たちは地を蹴り出した。
『告げる!! この場を脱出し、先にいる討伐組を拾って走り抜ける許可を得た! 死にたくない者は走れ!! 私が出来る限り魔獣を落とす、とにかく走ることに集中して竜車から離れるな!!』
地竜たちの高らかな咆哮を合図に、オレたちは走り出した。最初は何がなんだかわからずといったような騎士団も、すぐに状況を理解して竜車を追って走り出したが……同時に魔獣たちも一気に追いかけてきた。
そもそも、何故魔獣が人間を襲うのか。
理由はとても簡単なんだ。魔獣は全てこの世界のどこかにいるとされる数人いる魔王の内いずれかの支配下にあり、それらは全て人間を滅ぼすことを厳命されているそうだ。だから奴等は人間を襲うし、必要とあらば食べられる。食べて、その魔核ごと強さの糧にするために。
『糸魔法 硬絲の術!!』
いつだってこの世界には命の危機が間近にある。そんな世界に飛び出して、期待していたのに……こんな大冒険も悪くないな。
超死にそうだけど。
『糸魔法 母なる護り』
竜車から離れて魔獣に襲われそうだった騎士団の一人を糸魔法で防御し、そのまま繭を作って一気に引き上げる。空中で魔法を解いてから糸で体を持ち上げ、今度こそ竜車のすぐ近くまで連れてきてから糸を断つ。魔獣に食われそうだった騎士団の者は突然のことに驚いていたようだが、すぐに他の者にフォローされて再び走り出す。
そんなことを繰り返していれば、目当ての討伐組が漸く森の中で発見された。
最悪の形で。
『……っ、マジかよ……』
互いに背中を任せ、上空から飛来する魔獣を剣で斬り伏せたり、魔法による攻撃で地に落とす討伐組。問題はその数だ。十人はいたはずなのに……戦っているのはたった二人だ。その内の一人も、もはや立っているのがやっと、という疲労具合でフラフラしている。そんな彼を叱咤しつつ、必死に剣を振るのはオレに街での別れを勧めてくれた人だ。
『そんな、討伐組がっ……』
『光魔法師も一人こちらについていたのでは?!』
魔獣との戦いにおいて、死体は滅多に残らない。魔核ごと体を食われるから戦場には精々血と臓物くらいしかないのだ。
ここの惨劇を見れば、誰だってもうあの二人以外は食われたのだと想像出来る。
『っ、くそ、ここも魔獣が多い!!』
どうする、どうする!?
止まれば追いかけて来る魔獣の餌だ、かと言ってもう魔力の少ない光魔法師に防御魔法を張らせることも出来ないっ……、
なら、どうする?
地竜たちを引く糸を握り締めすぎて、知らずと皮膚が裂けて血が染みる。揺れる竜車につられて思考まで鈍るようだ。ああ、誰かオレを殴ってくれ。
最善策なんて一つだ。彼らを置いて行く、それが一番こちらに被害は少なくて済む。
『っ……』
チラリと竜車を覗くも、肝心のバカ王子からの命令はない。そもそもオレはコイツの身を守るのが仕事だ。人助けなんてしてる場合じゃない、そう……そうなんだ。わかってるんだ。
だけど。
『殿下!! 討伐組を発見しました、しかし対峙する魔獣が多く、とてもすぐ離脱出来る状況ではありません』
『……捨ておけ』
気を抜いていたら気付けないような小さな声で、ポツリと呟かれた声。その声を聞いた時に胸の底から湧き上がってきたのは大きな後悔だった。自分は今、この状況の判断を彼に託して、その彼が出した結果がこれだ。
まだ幼い、今の自分とあまり歳も変わらない彼にオレは残酷な決断を下させた。この判断を招いたのは……この結末を変えられなかったのは、オレだ。
前世の記憶があっても、オレは別に勇者とかでも救世主とかでもない。ただ普通に産まれて、一人で育って、今までなんとか生きてきて……将来は飢えや寒さから逃れてそこそこ楽しく、やっていければ良いって……そうだ。それが、オレの願い。
なら、少しでも楽しい明日を迎えるためにもオレは……たくさん足掻かないと。
『申し訳ありません、殿下!! 何か言いましたか? 竜車のせいでよく聞こえませんでした!!』
『……何度も言わせるな、僕は』
出会ったのも何かの縁だ。
オレの明るい未来のために、この我儘で未熟でまだ人生の面白さも明日を迎える楽しさも謳歌していない王子と共に頑張らなくては。
だって、オレは
『実は今しがた新しい魔法を思い付いたのです! 王国の大切な騎士団を、私の糸魔法で見事救出してみせますね!』
『……は?』
お前の守護魔導師様なんだからな!
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