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明けに火を灯す人

運命の糸 赤い糸は

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 行為の後にお風呂に連れて行ってもらうと、一人で入浴している間にハルジオンがベッドを綺麗にしてくれている。早く帰って来ないかと広い浴槽で糸を出して遊んでいると、魔法で浄化を終えたハルジオンが入って来て浴槽の縁まで迎えに行く。

『ありがとう、ハルジオン…。掃除くらいオレがやっても良いのに』

 糸魔法を使えば浄化は出来ないがシーツくらい簡単に変えられる。だけどハルジオンは体を労わるようにと自らやってくれたんだ。

『造作もない、気にするな。…退屈していたか? すまぬ。おいで? タタラ』

 最近ハルジオンは子どものようにオレの名前を呼んで呼び寄せる。だけど不思議とその呼ばれ方だと断れない。

『ひゃ、擽ったいよハルジオンっ!』

 浴槽に浸かるハルジオンに抱き着けば、頬や首など色んな場所にキスをされて擽ったくて笑みが溢れる。出しっぱなしだった糸もユラユラとご機嫌に揺れるので、ハルジオンが驚いて目を向けた。

『…前から気になっていたのだが、お前のあの…色を使い分けた魔法は幾つあるのだ?』

『色? ああ、七色シリーズか。あれは虹の色から七色をそれぞれ戦いに応用させた万能型魔法だ』

 紫は幻覚。
 橙は移動。
 黄はカウンター。
 青は変幻自在。
 緑は粘質。
 藍は透過。

『…凄まじいな。普通は魔法を獲得するまで相当の訓練が必要だが、これも個人魔法の成せる技か』

『えっへん! あ、ちょ…頭撫でるなっ、んっ』

 オレを撫でながら宙に浮かぶ虹を見ていたハルジオンが、不思議そうに首を傾げてとある色を指差すと…やはり気付かれたかと肩を落とす。

『タタラ。は? 赤はどんな効果があるのだ?』

『あーっと…えっと…』

 早く聞きたいとばかりに迫るハルジオンに、上手い誤魔化しが浮かばなかったオレは仕方なく正直に話すことにした。

『…一番最初の魔法なんだ』

『一番最初? 糸魔法を使った時の、初めての魔法が…赤、なのか?』

 左手を広げて掲げる。

 それだけで…幼かった頃の、どうしようもない寂しさが思い出された。

『元の世界の言い伝えさ。左手の小指には、運命の人との赤い糸が繋がる…って伝説。昔…そんな運命の人がいたら良いって。そこに繋がってほしいって願いを込めたら、赤は発動した。

 だから運命の人に、いつか辿り着けるんだって信じてたんだ』

 何も持たない自分を奮い立たせるまじない。いつか、いつか巡り合うのだと信じていた。

 …だけど。

『…違ったんだ。赤は、元の世界との繋がりをオレに結び付けた。元の世界に帰れる生命線になって、そしてあの日…オレは、糸を…断った。

 運命に翻弄された人生だ。赤い糸に繋がれて、オレは偽りの世界に降ろされてただ帰還するまで踊り続けた人形みたいなもの。

 …結局、その糸も自分で切ったんだ。糸がなくちゃ人形は生きることは出来ない。演じることは出来ない。この世界で何度も何度も、オレは死にそうになる…だけど、オレは…それでも、』

 帰るための糸は、もうない。

 だけどこの世界には目に見えない大事な繋がりがたくさん出来たから。

『…糸魔法 七色の罠アカ

 その糸を握れば、最後だった。

『これはもう、オレには必要のない魔法だよ』

 甘い罠に堕ちるように幸せな未来を得られたのかもしれない。故郷であり新しい時代を迎えた世界。誰ももう、オレを知らないオレが生きていたあの世界。

『…運命の人は、ちゃんと見つけた』

 そこまで言い切ると、なんだか小っ恥ずかしくて仕方ない。俯くオレを強く…強く、抱きしめてくれた。

『ハルジオ、んっ…』

 柔らかな唇が合わさり言葉が奪われる。同じ男なのに…どうしてこうも、惹かれて止まないんだろう。

 最近厚さを増した胸に寄り掛かるように、体重を預けてキスを繰り返す。

『…これからも、お前の人生には更なる困難や試練が待ち受けるであろう。だが僕たちは必ずその全てを退けて幸せにすると誓う…僕一人では、無理かもしれぬ。それを補える者と共にっ…必ず、

 必ず、お前を…護り抜いてみせよう…! 一緒に歩もう。

 そして…、僕の子を産んでくれ。それにこの世界でのタタラの親に…リーベ・ロロクロウムにも献花を。結婚の挨拶をしなくてはな。あと、元の世界への慰霊碑も建てよう。まだまだ、やるべきこと山ほどある。一緒に全てしよう』

『…っはい! オレだってっまだまだハルジオンを護れる守護者なんだからな! …ふへへ、ハルジオンとの子ども、かぁ…』

 か、可愛いだろうなぁ。男の子ならきっと王族らしくてカッコイイ? 女の子なら清く美しく可愛らしい子? 

 どんな子でも嬉しい! だって、オレたちの…うへへ、愛のっ結晶…なんちって!

『忘れていそうだから言わせてもらうが…タタラよ、既に王族になっているのだぞ。守護者なんてとんでもない。

 お前は既に、護られる側だ』

 …はえーっ?!

 確かにっ!! は、ハルジオンと結婚したってことはつまり…王族?! いやでも名前ロロクロウム…ってもう一個名前あるんだ!!

『ど、どうしようっ!! ただでさえオレとノルエフリンしかいないのに、また守護者の枠が空いちゃう!』

『案ずるな。アマリア神の帰還により僕たちの魔力も向上しておる。タタラの守護を優先すべきだ。まぁリィブルーがおるからな、大事無いだろう…』

 軽いパニックを起こすオレにハルジオンは大して動じずぶつぶつと言葉を漏らしながら問題を解決していく。しかしハルジオンにしがみ付きながら、ある不満を漏らす。

『でもっ…! 守護者じゃなきゃ、側にっ…普段だって学園に裁判所にで…ハルジオンは忙しいし。また…前みたいに置いてけぼりじゃ、オレ…』

 さみしい。

 目頭を押さえ、もう片方の手でオレを抱き寄せるハルジオンに喜んでくっ付く。

『…よし。日ごと、タタラを四人の居住地に帰らせ基本は僕の元で守護者として働く。そして海外への浄化任務の際にはタクトクトかカグヤを必ず同行。

 これなら四人、ある程度平等である。そしてお前も寂しい思いはしない…これなら、どうだ?』

 窺うように優しく問い掛けるハルジオンは、相当あの時のことに敏感なのか即座に折れた。確かにそれなら特に問題ないだろうし、休みの日も順番に出掛けたりすれば楽しそう。

 …な、なんか凄いな…オレ、異世界に来てからとんだモテ期だ…。

『これから忙しくなるな。

 …だが、伴侶との最初の一日という響きは…存外素晴らしい。寝かせてやれなくてすまぬ…疲れたらすぐに言うのだぞ』

『まだ夢みたいだから、寝ないくらいが丁度良いよ。ねぇ、ハルジオン…もう一回、キス…しても良いかな…?』

 そう問えば、ハルジオンが笑ってから自分の唇を指差す。自分から…という意図に気付き、オレは顔を真っ赤に染めながら胸に手をつき、唇と唇を重ねると素肌にハルジオンの手が回って厭らしく撫で回してくる。

 こ、このエロエロ王子めっ!!

『んっ…すき。好きだよ、ハルジオン…ずっとずっと、愛してるよ』

『当たり前だ。離れることなど許さぬ。

 …可愛い可愛い、僕の伴侶。これからもずっと、大切に愛し抜くと誓おう』

 運命の糸は、もうない。

 赤い糸も、既に消えた。

 だけど。

『…あなたはオレを導く、光そのもの。頭上に糸がなくなっても…光が、照らしてくれるから。寒い思いはもう二度としない。

 ありがとう…、見つけてくれて…ハルジオンは、あったかいんだね』

 あなたがいるなら。

 オレはまた、世界の一部になれるんだ。



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