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明けに火を灯す人

最初の誕生日

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 大規模な結婚式の後は、誰もがお祭り騒ぎ。王都では何度民の乾杯! という叫びを聞いたかもわからない。飲んで歌って、笑って踊る。そんなものは絵本の中だけだと思っていたのに…彼らはオレたちの結婚を祝って騒いでいるのだ。

 …まぁ。理由を付けて飲みたい奴等もいるだろうけどな…冒険者とかは、そんなもんだろ。

『…ビローデアさん…』

『はいダメー!! 文句は受け付けません!』

 沢山の水鏡に囲まれたオレは、本日一番…恥ずかしい衣装に身を包んでいる。

『ほらほら、笑って! バーリカリーナ全土どころか全世界に配信されるんだからね?! 可愛く可憐に儚げに!!』

 元の世界の…ロリータ、という服に近いのだろうか。先程の結婚衣装以上にふわふわで可愛らしい服。今回はハーフパンツだが全体的にブルーが使われていて、ビローデアさんから貰ったドラゴンローブまで着ていて…その理由は両手で抱かれたリィブルーだ。

 ぬいぐるみの体を小さくしたリィブルーは、オレに抱っこをされて不満そうに腕の青いリボンをガジガジと噛む。

 …気持ちはわかるぞ、リィブルー。

【なんで俺様にまでこんなリボン付けやがる! 今回の主役はタタラと王子だろッ!】
 
『そのハルジオン王子が他国の来賓の相手をしている間に、アンタの安全性を世界に伝えるの!

 リィブルーがさっきあんな風に脅すもんだから、他国の貴族や王族はすっかり腰抜かしちゃったんだからね?!』

【…チッ。貧弱な奴等めェ…】

 しかし、今後も平和的に生きるにはオレたちが無害だとアピールすることも重要だ。

 ハルジオンが他国の来賓をもてなす間…オレたちもキッチリ仕事をしなければな!!

『…よし。ロロクロウム、良い感じに民に言葉を。いつもの調子で頼むぞ』

 指示を出すカイニスキーに対して頷くと、水鏡が輝いてあらゆる国に通じる。多くの人がオレたちを見ると口々におめでとう、と祝福の言葉をくれるので自然と笑みが溢れた。

『ありがとうございます。バーリカリーナ王国第十一王子ハルジオンと結婚した、タタラ・ロロクロウムです』

【…そこは貰った方の名前のが良んじゃねェ?】

『えっ?! そ、そう? 間違えちゃった、どうしようリィブルー…』

【知らん。しれっと訂正してしまえ】

 あわあわとリィブルーを抱きながら狼狽えていると、腕の中のリィブルーが水鏡を見る。

【ヒメト・リーベ・バーリカリーナ。俺様は魔人、ドラゴン種のリィブルー。コイツの名前はタタラが主流だ。そっちで呼べ】

 リィブルーを抱きながら必死に頷くと、水鏡の向こうの人々が口々にオレたちの名前を呼ぶ。その表情は楽しそうで緊張し過ぎていたオレの心を解してくれる。

【タタラは世界に散らばる呪いを解き、テメェらの未来を保つ力を持つ。順番に巡ってやるから待ってやがれ】

『あっ。ズルい、リィブルー! 台詞全部取らないでよ! オレにも残しといてくれたって良いじゃん』

【あ? 本番に弱いお前の代わりに言ってやってんだよォ?】

 ギャイギャイ騒ぎ出すオレたちがいつものように言い争いを始めると、すぐに状況を把握してギュッとリィブルーを抱きしめればカエルを潰したようなマヌケな声が響く。

『…やっちまった。カイニスキーが悟った顔してる…怒られる…』

 唯一オレに臆することなく叱ってくる人の一人であるカイニスキーが、額を押さえている姿を見て怒られる未来を察知。

 お説教は嫌だと目を潤ませれば、リィブルーが胸に手を置いて必死に慰めてくる。

【は?! なに泣いてんのォ? ふざけんな、泣くなよ…お前の誕生日なんだからもっと笑え!】

 そうだ。

 笑えって、ビローデアさんも言ってたし…カイニスキーは…なんて言ってたっけな?

『…ぐすっ。今日はいっぱいお祝いしてくれて、ありがとう。とっても幸せだよ。みんなの国に行ったらまたオレたちの名前を呼んでね?

 バーリカリーナ国のみんな。こんなオレとドラゴンだけど、みんなの国の仲間に入れてくれたら嬉しい。多くの人に日輪の加護を。アスターに、光あれ』

 水鏡にアップされると、リィブルーが頬にくっ付いて一緒に映る。

 一拍置いてから…水鏡の向こうから割れんばかりの歓声が響き渡る。多くの人の拍手と、名前を叫ばれて…何がなんだかよくわからなくて首を傾げる。

『…オレ、上手く出来たのかな?』

【上出来なんじゃねェの? この反応が結果だろ】

 気付けばカイニスキーもグッジョブサインを出し、ビローデアさんも両手で丸を作っている。

 …初任務達成か?!

『嬉しいっ! みんな、どうもありがとう! 必ずみんなの国に行くからね!』
 
 すると沢山の返答が返って来て、早く来てー! やら待ってるよー! といった元気な返事ばかりだ。これはみんな呪いに困っているらしい…早いとこ回りに行かないと!

【…チガウチガウ。多分な、ただのファン。八割は新規ファン層だから】

『ふぁん? …リィブルーがマスコットキャラクターみたいに可愛いから?』

【やだァ照れるゥ。…ンなわけあるかァ!!】

 怒ったリィブルーに追い掛けられて急ぎ退散すれば、対応を終えたハルジオンが帰って来た。そんなハルジオンの傍らには大量の荷物があって…不思議そうに眺めていると簡潔にそれらが何か伝えられる。

『お前への誕生日の贈り物と、結婚祝いだな。前者はギャバ王国やエルフの里から。後者は…もう多過ぎて今は把握出来ぬ。一応中身は改める故に確認出来次第、部屋に届くであろう。

 …疲れたか? もう魔の差しも間もなくだからな。部屋に戻って少しゆっくりするとしよう』

『でも、まだやらなきゃいけないことがあるんじゃないのか?』

 ハルジオンを追うように現れた王様に目を向けるが、ゆっくりと首を横に振られる。

『良い。明日も昼から催しが控えておる。早めに部屋で二人、ゆっくりすると良い』

 あ、明日もあるのか…。

 と言っても明日は王都はお祭り騒ぎだが、オレたちは結婚に関する書類などを纏めたりするらしい。後は神殿に顔を出したり。

 …結婚後の、初めての夜…?

 はっ!!!

『では戻るか。行くぞ、リィブルー』

【いやいや。俺様は明日から合流するわ。…折角お前にくれてやったんだ。少しくらいは二人きりにしてやんなきゃなァ?】

 妙にニヤニヤしたリィブルーはビローデアさんの肩に降りると、二人して笑顔で手を振ってくる。しかもその後ろには…何故か誇らしげに胸を張る二人のメイドたち。

『準備は万端ですからね!!』

『ごゆっくり~!』

 これは、まさかっ…この時が、遂に?

『王よ。先に退室致します。…本日はありがとうございました、また明日も宜しくお願いします』

『うむ、ご苦労。…魔人に啖呵を切るとは中々立派であった』

 嬉しさを噛み締めるように笑うハルジオンに手を握られ、二人歩き出す。真っ赤に染まった空を眺めながら歩くハルジオンにバレないよう、

 オレは…暫くこの空が続くことを一人祈った。


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