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明けに火を灯す人

問い。その愛を誓いますか?

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【…は、過去…貴様らの尊ぶ女神を故郷に封じてやった災厄なり】

 会場の騒めきと、自分の置かれた状況がよくわからなくて目を白黒させる。

【タダではやらねェ】

 魔人の姿へと変身したリィブルーの鋭く尖った爪がある手によってハルジオンと離され、囚われる。

『リィブルーっ?! 貴様一体何をっ』

【何を? 事実しか述べてねェさ。この俺は魔人、恐らくアスター最強のだ。

 …そんな魔人の最たる宝を奪うってんだ。こっちもちゃんとした対応をしねェとな】

 翼を動かすだけでどれだけの被害が出るかはわからないほどの威力。外から守護者たちが入って来るも、入口付近に控えていたノルエフリンが何もしないようにと指示を出す。

 リィブルーとハルジオンが睨み合う中、オレが口を挟もうとしたら見計らったようにリィブルーの手によって塞がれる。

【ドラゴンってのは手に入れた宝を渡したりしねェんだよ。…どうよ。世界最古であり最強のこの俺と、やり合って勝つってんならくれてやる。

 …別にこの俺からしてみれば、この国を焦土と化すのも僅かな時間さえあれば可能だ。最初から真っ新な地にタタラを王に添えるってのもアリだなァ。

 …やるか? 王子様よォ】

 それはまるで、あの絵本のワンシーンのようだった。いや…実際にモデルとなったのはリィブルーなのかもしれない。

 ドラゴンの鱗を浮かび上がらせ、尻尾を出して地に叩き付ける音に人々が怯える。

【そっちから来ねェなら、この俺が仕掛けてやろーかァ?】

『…お前と戦う気はない』

 歩き出したハルジオンにリィブルーは威嚇するようにその周りを青い炎で焼き尽くすが…ハルジオンは臆さず進む。

『お前を傷付けでもしたらタタラが泣いてしまうではないか。僕は…タタラに笑っていてほしい。お前と同じようにそう願っている。

 …再び魔楼道に彼を落とす日は、二度と来ない。約束しよう』

 その言葉が図星だったようでリィブルーはより強くオレを抱く。

『第二の故郷が焼かれる日も来ない。…お前も手助けをしてくれるのであろう?』

【なァんでこの俺が、そんなこと…】

『するさ。

 腕の中にいる子を、よく見てみよ。その瞳が全てを物語っておるわ』

 悪いドラゴンに囚われたお姫様なんて、ガラじゃない。確かに今日はどこぞのお姫様みたいに煌びやかだが。

 見下ろすリィブルーに笑って見せる。手に触れて、魔人に寄り添うようにしているオレは…彼を信じているからこそ怯えも疑いもしない。

『…最古のドラゴンに誓おう。

 僕はお前の宝を生涯愛し、大切にし、笑顔にし続けると。どうかお前の一番の宝を僕に譲ってもらいたい』

 黒をベースにした惚れ惚れするほどカッコイイ結婚衣装に身を包んだハルジオンが手を伸ばす。胸元に飾られた…白と桃色の花が見えて思わず笑顔になってしまうオレをリィブルーが見つめる。

 この世界に落ちて来た時から誰よりも早く駆け付けて、甲斐甲斐しく看病をしてもらい…赤ん坊になってからも大切に…大切に育てられた。

 一時は離れなければならなかった。だけど、オレたちはまた出会っている。それはきっとリーベ…母さんによって引き合わされたんだ。

【…本当か】

 命を二度も救ってくれたドラゴンは、泣きそうな顔でオレに擦り寄る。

【リーベの願いだ…生きていて、良かったって思わせたいって。本当にお前はコイツにそう思わせてくれるってのか?】

『僕はそう思わせる自信はある。当たり前だ、そう思わせる為に結婚するのだからな。

 …その役目は僕が貰おう。だからお前はタタラの隣で、しっかりその顔を見ているが良い』

 押し黙るリィブルーに、そっと手を伸ばす。

 泣いているように見えた彼の頬に手を添えて額と額をくっ付ければ黙ったまま両手をオレの体に回して長い腕を使って呆気なく抱き上げてしまう。

『もう、良いの?』

【…ああ。最後に、直接聞いてみたかった。

 お前のこと…リーベにも、見せてやりたかったなぁ…】

 二人で目に涙を溜めていると…オレの涙が、フワッと宙に浮いてしまう。

『…ぅえっ?!』

 リィブルーと二人で驚きながらその行方を追って目を向けた先には、王様の玉座があった。その裏から現れて小さな雫を手に収めた…水色の髪をした人の姿に、涙が引っ込む。

 悪戯っぽく手を振るクロポルド。その姿が…何故か、母さんと重なったような気がした。

【…チッ。

 番のアイツがあんなだと、この俺がメソメソしてんのがバカみてェ…】

『心配してくれたんだろ? ありがとな。…ああ、でも一個だけ訂正してくれ』

 なんだ? と顔を近付けた心配性なドラゴンの額にデコピンを食らわせると、会場が一気に騒がしくなる。

『勘違いすんなよ、リィブルー?』

 額を押さえて鈍い痛みを堪えるリィブルーの腕の中から飛び出すと、パタパタと走りながらハルジオンに向かって両腕を広げる。彼もすぐに気付いて走って来てくれると、勢いよくその胸に飛び付いてから二人で笑い合う。

『…お前はオレの宝物だ。まぁ、オレは宝物を手放したりしないから、そこんとこ宜しくな!』

【…は?】

『リィブルーはオレを手放すかもしんないけど、オレは大事なものは手放しませんし? しょーがないよねぇ、リィブルーは手放すみたいだけど?』

 ニヤニヤと魔人を煽れば、ポン! とぬいぐるみの姿になったリィブルーが鉄砲みたいに飛んで来てオレの背中にしがみ付く。

【腹立つっ!! 腹立つこの反抗期ィ!! あー言えばこー言う、赤ん坊の頃は、あーとかうーしか言えなかったクソガキがーッ!!】

『あっはははははっ!!』

 その後、最低限の掃除だけされて仕切り直すと本来は王様の前で婚姻書という例のサインが必要な紙に二人でサインをするところを急遽その横にリィブルーが人型になって配置された。

 王様とリィブルーに見守られながら一緒にサインをすると、それを見て王様からオレにだけ…一枚の紙を手渡してくれる。

…?』

 そこに記された名前を読み上げると王様が静かに頷いてから口を開く。

『左様。そなたの他の婚約者と、保護者一同から同意は得ておる。バーリカリーナ王国の王族として名を冠してほしい。

 そこで、タタラ・ロロクロウムの名は父であるトワイシー・ペンタ・ロロクロウムに。

 ヒメトの名にバーリカリーナを。どうか貰ってほしい…真ん中には産みの親である一の親の名を刻むのが伝統なのだ。この世界に生きる間、地球の親に失礼であれば即刻取り下げるが…』

 ヒメト・リーベ・バーリカリーナ…。

 ハルジオンを見れば、彼は何も言わずに手を握ってくれて…リィブルーを見ればそっぽを向かれてしまうが、小さく…良いんじゃねェの。と言ってくれた。

『…っ有難く、頂戴します!』

 その名前が呼ばれることは殆どない。だけど、歴史にも確かに母さんが刻まれたのだと思うだけで…胸がいっぱいだ。

【…んじゃ、お二人さん。

 二人の愛をこの世界の全ての者の前で、誓いますか?】

 はい。と答えた瞬間…突然の浮遊感に驚く間もなく、ハルジオンからキスをされて国中の至る所から歓声と花火が上がった。

 バーリカリーナ王国第十一王子ハルジオン・常世・バーリカリーナと、異世界の民である多々良場火明人の結婚式は盛大に祝われ…夜まで一行は王都で顔を見せては民に祝福された。

 その日、バーリカリーナ王国には…アマリア神と最古のドラゴンが真の姿で空を泳ぎ、何故か小競り合う様子が何度か目撃されたとか…。



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