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明けに火を灯す人

まるで別人だとしても

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 くっそ怒られた。人生において史上最大級に怒られた。

 誰にってそりゃ…。

『反省したのかしら』

『…あい』

 甘っちょろい男たちを押し退けて開口一番に正座、と言い放ったコペリア様は無表情だった。静かな怒りに触れてオレは恐怖のあまり一切抵抗もなく流れるように床に座る。

 怒る美女もまた怖い。

『これだけ探して…心配させていたのに、なぁに? すやすや寝てました? …はぁ』

『ごめんなさい』

 ベルガアッシュ殿下の部屋だが、部屋の主人はずっとオレの後ろでオロオロしている。椅子に座ったコペリア様もため息と共に立ち上がるとオレの頭に軽いチョップを食らわせてから…優しく撫でてくれた。

『…謝らないで。そんな姿で謝られても、こっちが不甲斐なさで死にそうになるわ。

 旅立ちは延期しましょうか?』

『いいえ。大丈夫…予定通り、行きましょう』

 そう答えて解放されるといの一番にリューシーが飛び出して来てその腕に抱かれる。何も言わずにいなくなったせいで心配させたのにオレの帰還を信じて出来ることをしてくれたリューシー。

『っ…すまない、酷い目に遭わせた…!』

『リューシーのせいじゃないだろ? オレこそ、ごめんね…いっぱい心配させた…』

『護れなかったのだから同じことである! …こんなにされて、あんなに頑張って伸ばしていたのに…』

 せっせと髪を梳かす姿を見ていたリューシーは、悲しそうに髪を掬ってはキスを落とす。リューシーにしては大胆な行動に一人慌てていれば、二人の兄妹が微笑ましそうにソファに座ってこちらを見ているではないか。

 み、見せもんじゃねーんですが?!

『へっ平気! 髪ならまた伸びるし、それにほらっ短いのもたまには良いしさ!』

『…我は長い姿の方が好きである。短いのも好ましいが、あの美しい黒髪が無理矢理切られるなど…決して許されることではない』

 侵食される肌も悲しげに見つめたリューシーは、そこにも愛を捧げるようにキスをされてしまい羞恥のあまり変になってしまいそうだ。

 は、恥ずかしいっ…リューシーってば!!

『もう勘弁っ!!』

 恥ずかしさの限界を超えて、もう何もされないようにとリューシーの首に腕を伸ばしてしがみ付く。リューシーに匂いがより強く感じられる首元に顔を埋めてしまえば、何故か後ろの方から小さな歓声が聞こえる。

 なんでそんな茶化すような歓声を…?

『いやぁ。こんなに仲が良い様子は初めて見たから、なんだか嬉しいね。守護者の婚約者なんだから実質私にとっても家族みたいなものでは?』

『…それは流石に無理ですわ、兄様。ですが確かに。あの子も意外と積極的なようで…旅の間はあまりお邪魔にならないようにしなくてはいけません』

 積極的?

 …いつもキスやら、キザな台詞を言う彼らより…オレが積極的だと?

『あらあら。兄様の守護者、顔が真っ赤ね』

『リューシーは中々モテるんだけど彼は追いかける恋が性分みたいでね。追いかけ回った恋人がこうして甘えてくるのは堪らないみたいだ!』

 あははは、と爽やかに笑うベルガアッシュ殿下にお上品だかどこか意地悪そうな含みを持ったコペリア様の笑い声。オレたちで遊ぶ二人に文句を言わなくてはとリューシーから離れようと手を解いた時、力強く背中に回った腕によって更にリューシーに密着してしまう形となった。

『…はえっ?!』

 肩に手を置かせてもらい、なんとか顔を見ようと試みるが全く見せてもらえない。離れようと背を反らす度にギュウギュウと抱きしめてくるから…力ではリューシーには勝てない…。

『~っ、もう!!』

『ご覧。戯れているよ、コペリア』

『そうですわね。これは道中…退屈しそうになくて楽しみかと』

 なんかこの旅のメンバー不安になってきたんだが!!

 暫くして落ち着いたリューシーに解放されるも、今度はノルエフリンによって拘束されて涙ながらに帰還を喜ぶものだからずっと慰めていた。

 そして一番の問題児が父さんと共に現れると周りの目なんて一切気にしないエルフ様。目が合った瞬間から一瞬で間を詰められたかと思えば声を上げる暇すらなくキスをされた。勿論口に、である。

『良い度胸ですね。一回死になさい』

 父さんが大盾を持ち上げてカグヤの頭目掛けて振り下ろすも、サッと口を離したかと思えば横抱きにされてその場から脱兎の如く逃げ出した。

 少し離れた場所に下ろされてホッと胸を撫で下ろすも、再びカグヤにキスを強請られる。

『んっ?! っ、こら! …悪かったよ、寂しい思いさせてごめんな?』

『…ゆるしません』

 頬に添えられた手が震えているのに気付いて自分のを重ねてみた。

『あなたにっ、こんな仕打ちをする生き物などこの星には不要です。魔王でも魔人でも好きに暴れて好きに殺せば良いんです!』

 別人のようになってしまった。身長も、痣も髪だって。彼らが好きになってくれたタタラの要素はどんどん薄くなるのに。

『…それ以上に、あなたを護れなかった不甲斐ない自分を殺してやりたい…』

 愛はどんどん膨れ上がるような気がするのは、気のせいだろうか…?

 しかもなんか歪んでね?

『…んー、大きいオレは嫌い?』

 問い掛けにカグヤは俯きながらも首を横に振る。

『呪いの痣ばっかりのオレは気持ち悪い?』

 絶えず、首を振る。

『髪。短いのは地球の頃と同じなんだ。今のがちょっと長いかも。

 地球の頃と同じオレは愛せないかな?』

 少し照れながら問い掛ければカグヤは同じ答えをくれた。嬉しくて仕方ない。だから今度は自分からカグヤの頬にキスをする。

『…ありがとう。今ので十分、護ってもらえた』

 こんなになっても良いと受け入れてもらえるだけで救われる心がある。

 そんな気持ちを伝えたくてカグヤを抱きしめれば、不甲斐なさを噛み締めるように辛そうな顔をしつつ…安心したように腕の中で力を緩める一番年上の旦那様に苦笑いを溢す。

 一番年下のノルエフリンが聞き分けが良くて、一番年上のカグヤがこれだもんなぁ。

『手が掛かる旦那様だこと』

『少し甘やかし過ぎですよ、タタラ』

 父さんに痛いところを突かれるも腕の中の愛しい人は邪魔するな、とばかりに父さんを睨み付ける。また暴れ出さないよう金色の髪を撫でれば…ほぉ、とトロけるような笑みを浮かべたカグヤがグイグイと胸に寄り掛かってくる。

 あ、甘える年上ってのも中々っ…!

『…タタラ?』

『はいっ、気を付けますっ!!』

 ゴロゴロと懐くエルフ様にメロメロになっているオレに、父さんはやれやれと頭を抱えるのだった。


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