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明けに火を灯す人

遺す者

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『…本当、なのであるか…?』

 第一王子居住区の一室を借り、部屋に集まってもらったのはオレとノルエフリンにリューシー、そしてカグヤだ。

 足首の痣を見せてしまえば…みんながすぐにそれがなんであるのか、理解した。

『本当だ。

 …ごめんな、オレは弱かった。まんまとアスターを怨んで呪いに侵食された。寿命も縮まっただろう。全てオレが…悪い』

『馬鹿なことを言わないように』

 ずっと入口の扉に寄り掛かっていたカグヤがそう口にすれば、椅子に座るオレの肩に手を置くノルエフリンも同意するように頷く。

『そんなものはあの王子共が悪いに決まっているでしょう? 全く…何が貴方を護るための同盟ですか。言い出した本人が真っ先に役目を放棄するなんて』

『そうである。それに、希望を失うべきではない。アスターを怨んでそうなったのであれば…それ以上の幸福をタタラに与えれば再び打ち勝てる道もあるかもしれない。

 それをしてあげられるのが、我々である』

 手を取るリューシーが優しく微笑んでそう言ってくれた。

『…だって、もうオレこんな姿だよ? これも呪いのせいで…元の姿に戻って魔力はどんどん失われるだろうって。好きになってくれた時と違うのに…良いのか? なんでそんなにっ』

『私はそちらの方が好きですよ? 元の姿も大変可愛らしく好ましいのですが、中身は変わりない…貴方のまま。なんの問題もありません』

 オレを支えるように後ろに控えるノルエフリンがそう言えば、確かにと笑ってしまう。

『貴方の望みを。貴方の不安を全て下さい。私にそう言ったように、タタラの言葉を』

 カグヤの言葉に他の二人の表情も真剣なものとなり、オレに向く。ちゃんと覚えていてくれたんだと安心するように胸を撫で下ろすと…ずっと言うべきだと思っていた言葉を放った。

『…バーリカリーナからは出ようと思う。各地に残る呪いを断つのに、力を使う…だから多分、オレは早く死んでしまうだろう。

 許して、ほしい…我儘だと分かってるんだ。だけど…この世界を呪いで滅ぼしたくない。やっと進み始めたんだ、アスターは。

 だからオレが道半ばで、倒れたとしても…笑って送り出してやってくれ。よくやったって、たくさん…褒めて、褒め倒して? あの人の答えは待てないけど、許してあげてくれ』

 各地の呪いを抑え、いつか…いつか許されたアスターが美しくその後を生きるように。

 愛する人たちをたくさん見つけた、二つ目の故郷を護るために。

『結婚…それでも良ければ、して…下さい。勿論無理にとは言わないし断ってくれて良い。でも、結婚するのって夢だったから、きっと…力出るっ』

 はぁー恥ずかしいっ!!

 サイズが合わない服ばかりで困っていたところ、カグヤが父さんに連絡すると…なんと父さんは今後成長するオレの為にあらゆる服をビローデアさんに作ってもらっていたらしい。それの一部を持って来てもらい、着ているのだ。

 控えめなフリルがあしらわれた袖が特徴的な黒いシャツには、胸元の紐の赤いリボンがオシャレでそれに合わせたズボンも黒いが側面にはお揃いの赤い紐が編み込まれたもの。

 もう…ハルジオンからもらった花飾りも、鈴もないので同じ赤い髪紐で三つ編みを縛っている。その三つ編みを弄りながら恥ずかしさから逃れようとしていれば、何故か三人が輪になっていた。

 な、なにその陣形…?!

『最初の結婚はハルジオン王子と決まっていたが、どうする?』

『公平にくじ引きでしょうか』

『くじですか。ご本人に選んでいただくのは火種が生まれそうですからね。…あ。お父上に頼みますか?』

 どうやら話の内容は、誰が一番最初に結婚するかというものらしい。

 …オレは子どもを産んであげることが出来ない。だけど今はそれを話すべきではないと、リューシーから口止めされているのだ。そのことを言われたと…過激派のカグヤから信徒たちにも知れ渡ればどうなるかわからないから。

 今度、ちゃんと話さないとなぁ…。

『仲良く順番を決めてる最中だし、静かにしとくか』

 きっと此処に彼がいたら、自分が一番だと一喝してオレと共に部屋を出ただろう。

 操られているとしても…オレは彼の望みは叶えられないし、相手は皇子だ。それにもう死ぬオレは隣で支えることも出来ない。

『…何か一つくらい、持ってくれば良かったな』

 いつでも大好きな彼を思い出せるものを一つ持つくらいは、許されるだろうか。

『呪いが大地に蔓延るせいで食べ物も穢れて、王子の審眼に視える可能性もある…。オレなんかより長生きしてほしいから、頑張るか』

 いつの日か。

 彼がオレを思い出した時に、もしもオレがいなくなっていたとしても…綺麗になった大地を見て、少しはよくやったと笑ってくれるかな?

『で? 結局決まらなかったの?』

『はい。先ずは移住先で生活の基盤を固めた方が良いという結果に』

 バーリカリーナからは早めに出ると決めた。最初に行くのはギャバ王国が良いと伝えたら、リューシーは快く受け入れてくれた。

『タクトクト殿は常にタタラ様と行動を共に。カグヤ殿は先にギャバに赴き、拠点を作るそうです。私は後から追います。守護者も辞めようかと…タタラ様のいない国に興味はありませんからね』

 行動が早い、早過ぎる…。

 だけど三人が一緒にいてくれるとわかると凄く安心する。大切な人を失ってしまったけど、まだ一緒にいてくれる人がいる。どんな姿でも受け入れてくれる、彼らとなら…。

『ありがとう…、本当に…を好きになってくれて、ありがとう…!』

 その時。

 僅かに引いた痣に気付いたのは、ただ一人。

 その者がそれを確認して…身を焦がす様な怒りを止めて、愛する者に微笑んだことを知らない。

『では、タタラ。タルタカロス殿下より今後のことや体の検査をすることを提案されているのである。

 …それと、な。実は旅に参加したいと願い出る方がいるのである。その熱意だけでも聞いてもらえないか?』

『え? 旅に? わざわざ、誰だろう…。わかった、話くらいは聞くよ。まだ外は魔獣も新たな刺客も増えたそうだし戦力は欲しいか…』

 だけどオレは知らない。

 リューシーがかなり微妙な顔で顔を引き攣らせているのも、ノルエフリンが不思議そうに首を傾げるのも、カグヤが変わらず微笑む理由も。

 これからまだ、苦しむことになるなんてことも…まだまだ何も知らないまま。



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