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明けに火を灯す人

バーリカリーナの光

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 城の前でカグヤが一時離脱し、リューシーと共に入城することになる。あんなに自分の家のように出入りしていたお城が、こんなに帰り辛い場所になるなんて思わなかった。

『はぁ…。信徒たちはこんな服を着せて来るし、胃は痛いし…リィブルーなんて野暮用とか言ってどっか行っちゃうし…』
 
 城に帰ると言えば信徒たちは次々に肩を落としてしまった。だが、婚約者を奪い返しに行くのだと茶化したリィブルーの置き土産が彼らに火を付けた。

『天使のようである。御使は皆、白い衣服に身を包んだ幼子の姿だとされているので…この方は御使であるという神殿からの主張か。

 金の鎖の装飾も同様である。確かに御使と言われても遜色ない仕上がりであるな』

 真っ白なシャツワンピースに裾に美しいレースが付けられた白い半ズボン。頭には金の鎖で出来た飾りがつけられ、足元にはこれまた金色のサンダルと…大層な天使様にされてしまった。

 大丈夫かこれ…馬鹿にされない?

 リューシーじゃ信じられなくて門番たちに聞いてみれば大丈夫らしい。誰もが力強く頷くので、変ではないらしい。

 信じるからな?! ダメだったら連帯責任だからな、お前ら!!

『畜生…、人をすぐに着せ替え人形にしやがって。見てろよ今にスマートでセクシーな大人の男性ってやつに成長してだな…』

『よくわからないが、タタラはそのままの方が愛らしくて素敵だが…』

『いーや、オレは必ずお前らにも負けないカッコイイ大人の男になるんだい!』

 カッコイイ…、そう呟いたリューシーが柔らかく微笑んだのを見て堪らず目を瞑る。

『そーゆーとこだっ!! やめなさい、イケメン過ぎて心臓に悪いからッ』

『そうか。すまない』

 そう言いながらも微笑みながらオレの手を取り、城に入るリューシーはさり気なくエスコートしてくれる。三日振りとは言え…激動を迎えるバーリカリーナ城の者たちは皆、オレを見て口々に名を呼ぶ。

『生憎…今はハルジオン王子とスーレン王子は出払っているようで、帰る時間も不明だが夕食は毎回豪勢にするよう要請がある。

 …王より今宵は特別豪華にしてやると許しを得られたのである。隠し通すつもりだったが、こうなれば貴殿をここぞとばかりに盛大に紹介してやろうということだ。ベルアルナの者を全て集めて、貴殿に登場してもらいたいらしいが…』

『…そうか。

 うん、わかった。こうなるなら、初めから正攻法でぶつかれば良かったんだな。精々…天使様らしく度肝を抜いてやる』

 そう。

 最初から…あの人の隣で守護をしていたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。

『ベルガアッシュ殿下の元へ行こう。タタラを心配している…夕食会までの時間に少し準備をして行く必要もある。

 安心すると良い。バーリカリーナの王族は誰もがタタラの味方である』

『ベルガアッシュ殿下の? 準備ならシーシアやナニャの方が慣れてるけど…あ、さては警備を厚くしたいんだな? それなら第一王子の居住区にお世話になるか』

 なんてことない会話のはずなのに、リューシーは少し困った顔をして言葉を詰まらせる。此処では言えないのか黙ったまま肯定して、足早にベルガアッシュ殿下の元へと急いだ。

 初めて足を踏み入れる他の王族たちの居住区。いつもはハルジオンのところにしかいないから新鮮で、ついつい周りを見ながら足元が疎かになる。

『転んでしまうわよ、タタラ』

『あ、貴女は…!』

 軽く躓いてバランスを崩したオレを支えてくれたリューシーと、手を引いてくれた女性。

『愚弟のせいで二度と貴方が戻らなければ、どんな仕置きをしてやろうか考えていたけど…次に持ち越しね。

 おかえりなさい。待っていたわ』

『コペリア王女殿下…!』

 凛とした佇まいにハルジオンにも負けない毒舌なお姫様である、コペリア王女殿下。そんな彼女の横からもう一人が出てきて手を上げて挨拶をしてきた。

『やぁ。無事に連れて来れたようだね、リューシー。

 おかえり、タタラ。中々迎えを寄越せなくてごめんね、寂しかっただろうに』

『ベルガアッシュ殿下も…!』

 王族の、しかも王権持ちの二人がわざわざ来てくれたのか…?!

 二人に案内されてベルガアッシュ殿下の居室まで向かい、四人で雑談を交わす。その間にコペリア王女自らが椅子に座らせたオレの髪を梳かし、香を纏わせたり身嗜みを整えてくれる。

 畏れ多いって断っても笑顔で櫛を持つ彼女の気迫に負け、好きなようにさせているのだ。

『し、シーシアやナニャが…?!』

『…ああ。ハルジオン王子が解雇してしまったんだ。勿論、すぐに保護して城下街の宿で保護させてもらったよ。彼女たちだけじゃない…ハルジオンに異議申し立てをした者は漏れなくクビにされた。

 残ってるのはポーディガー君だけさ。彼も力付くで残っているに過ぎないし、限界も近い』

 スーレンに惚れたハルジオンに、何人もの人がオレとの婚約を破棄するべきではないと抗議してくれたらしい。だが、過去に暴君だったハルジオンはまるで昔に戻ったように権力を振り翳して好きに彼らを解雇しているらしい。

 それを見て新たな反発が生まれ、ベルガアッシュ殿下たちも尻拭いに奔走していたのだ。

『頭を打ったか、腐ったか。私は後者を推しますわ。ほら…腐ったものって移りますから』

『…ベルアルナも腐ってるって? 絶対に口にしないでくれよ、コペリア…』

 本当のことだわ、と怖い笑顔を浮かべる彼女は背後に不吉なオーラを背負っていた。

 怖っ、笑顔が黒いんだが…。

『本当にこの子との婚約を破棄するのであれば、わかっているのかしら?』

 肩に触れる手が、優しく撫でられる。

『アタシたち、多分死ぬわよ? 慈悲で救われたんだもの。この子があの愚弟を愛し、愚弟もこの子を愛した。婚約が破られてこの子が悲しめば…どうなるか、なんて世界共通の理解が得られていると思ったけど…やっぱり滅びは避けられないようね』

『諦めるのはまだ早いさ。

 …可愛い婚約者を見れば、悪い夢から覚めるはずだ。タタラから見て今のハルジオンがどう映るかも知りたい。

 頼めるかな、タタラ』

 三人からの視線にワンピースの裾をギュッと握り締める。体が動くたびに金の鎖が揺れ、腕に付けた…贈り物も一緒になって動く。目立つように髪を結う花飾りに、彼に貰った鈴が光る。

『…オレも、直接聞きたいです』

 交わした言葉も笑顔も全てが嘘なわけない。むしろ、今までの話が全て間違いだと言われた方が納得できる。

『まだ…仲直りも出来てなかった。怒ってるならちゃんと謝らないと…、

 約束したんです…また、料理も作るって約束も…だから話して来ます。だってオレはまだ何も聞いてないから』

 まだ何も知らなかったこの時は、幸せだった。

 その後に起こる現実を…夢にも思わなかった幸せな頃のオレは、

 な未来を迎えることになる。


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