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明けに火を灯す人

嗤うマリオネット

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 神殿に着いたオレは、アマリア神に中庭に連れて行かれて柔らかい草の上に座って…どこから聞きつけたのか花で何か作ってくれとせがむのだ。

 やれやれ、神様とはいえ女神様…女の子であることには変わりないか。

 カグヤの膝に座らせてもらって、せっせと花冠を作っているとご機嫌な女神様がオレの膝に手を乗せ目をキラキラ輝かせながら待っている。

『タタラ、忙しいところ申し訳ありません…少し触っていても良いでしょうか』

『ん。良いぞ』

 気持ちいい風が吹く中、カグヤがオレの頭を抱き寄せてから鼻を寄せた。アマリア神は出来上がりを今か今かと寝転んで待っていて、たまに離れた木陰で眠るリィブルーの様子を盗み見るように視線を向ける。

 あまりにも静かな空間に疑問を持って神殿の方を見れば、大勢の信徒たちが…何故か泣いていたり、両手を天高く伸ばしていたり…魔道具で写真を撮ったりしていた。

 …なぁにしてんだ、あの人たちは。

『感涙、ですね』

『…アマリア神か? 信仰心半端ないな』

『いいえ。貴方と私の愛にも、ですよ』

 お腹に回るカグヤの両腕にビクンと体が揺れる。信徒たちの目があるから…恥ずかしくて花冠を作るのに集中しようとするのに、寂しがりのエルフが更に腕に力を入れる。

『っ、あーっ、もう! アマリア神が先な、お前は次だから待ってろ!』

 花冠用の花を一輪持ち、カグヤの髪に飾る。青い花がエメラルドグリーンの耳飾りに似合っていて…何よりイケメンなエルフ様の魅力を更に引き立てているようだ。

『ちょっとイケメン過ぎるから顔隠してっ』

『おやおや』

 垂れ下げている覆面を外していたカグヤのそれを元に戻す。少しだけ迷ってから握り締めた覆面を引っ張ると、カグヤが頭を下げてくれる。

 覆面越しにちゅっ、と控えめなキスをしてから慌てて花冠の作成に集中するが…何度も失敗してしまう。

『…困った伴侶です。あまり可愛いことをしてはいけない。悪い旦那様に食べられてしまいます』

『ぁっ?! ちょ、ダメだってばカグヤ…!』

 布を少し上げて口元を出したカグヤが、その口でオレの頬や首にキスをするので擽ったくて仕方ない。

 い、悪戯ばっかりしやがってー!

【ん゛ーっ…】

『は、はいはい!!』

 膝の上で不機嫌になる女神様に、構ってほしくて悪戯に走る伴侶の闇のエルフ。そして熱心にオレたちを見つめる信徒たち。

 …オレだけ忙し過ぎるだろ!!

 穏やかだけど、忙しい時間を過ごす。そんな中で一番最初に異変を察知したのは二人。悪戯を止めたカグヤは今一度しっかりとオレの体を抱きしめてから、その体を離す。

 そして、リィブルーが起き上がってからジッとこちらを見ている。

【手伝うか】

『それでは、後衛を願います。連中はこうした強襲が大の得意分野ですから』

 心得た、と呟いたリィブルーは体を伸ばしてから…ぬいぐるみの体を脱ぎ捨てて魔人の姿に戻ると骨で出来た翼を惜しみなく広げる。

 それらに興味が無さそうに相変わらず花冠を見つめるアマリア神の手を握ってから、カグヤを見上げた。

『…カグヤ?』

『タタラ。の時間です。まだ日輪が高い内から働かせるなど非常識な連中ですね…』

 あっという間に周りに夜の信徒たちが現れて厳戒態勢へと入っていた。ハッと先程まで信徒たちがいた場所を見れば…そこにはもう、誰もいない。

 は、早っ…!

『問題ありません。今の私に勝てる者など、そうはいないので。

 貴方の伴侶となった男の力を信じて待っていなさい。終わり次第ご褒美を下さいね』

『んぅ?!』

 キスをしてから形の良い唇が離れ、笑みを浮かべる。

 これはご褒美にはカウントされないと!?

『…負けたら承知しないからな。早く帰って来ないと、えっと…お、怒る!』

『ぉ、こるっ!!』

 一緒になって叫ぶアマリア神に驚きつつ、あまりの可愛さに笑いつつ彼女の頭を撫でる。嬉しそうに体を揺らすアマリア神。

 女神と一緒になって笑うオレたちを見る夜の信徒たち。それは…きっと、神と未来を求め続けて足掻き続けた彼らにとって夢みたいな光景だったのだ。

『…神の御前です。勝利以外は不要と心得よ…なっ?』

 アマリア神とくっ付きながらそう言えば、カグヤ以外の信徒たちは瞬く間に頭を下げてから返事をしてくれる。女神様に何か言いたげなカグヤに、何故か舌を出してから手を振って、追い払うような仕草をするアマリア神。

 …まさか女神に嫉妬してたのか?

 それからは早かった。神殿本部である此処が狙われて侵入者が出た。これを予感したのだなと納得しつつ、オレはアマリア神と共にゆったりと過ごす。すぐ近くで信徒たちが戦っているが手は出さない。

 まるで何も知らない無知な男のように、ただ女神様に花冠を編むのだ。

『っ…ナメやがって!!』

 更なる攻撃が襲おうが、そこにオレの旦那様がいる限りは決して振り返らない。

 その異常とも言える光景に…徐々に相手の士気が落ちるのを感じる。一番の前衛をカグヤが封じ、後方から支援する魔導師をリィブルーが潰して回る…更にその姿が恐怖を駆り立てていたのだ。

『クソっ!! こんな信徒風情が、俺の前に立つなんて許されるはずがねぇ!』

 オレたちだけが、切り取られた空間にいるように感じただろう。

 完成した花冠を持ち上げればアマリア神が喜んで宙に飛び上がる。そんな彼女にオレが笑えば、遠くで誰かの怒声が聞こえた気がした。

『っ、人形かよ…異世界人が! 俺たちとは別に決まってる! あんな不気味な野郎っ…』

 途端に展開される空間魔法。

 男のすぐ近くでカグヤと、そのすぐ隣にしゃがむ信徒が地面に手を当てて術式を更に書き加える。固定された魔法陣が転移先を決定して光を放つ。

 最後に、人に失礼なことを言ったに透明な糸を貼り付ける。カグヤに足元に潜り込まれて鋭い蹴りを入れられた男は呆気なく空間魔法の範囲に入ってしまい…なんとか自力で抜け出そうとするも見えない糸がその体を魔法陣へと放る。

 最後に男が見たのは、散々彼らを見えないフリしていた…オレたちの笑み。

 男が最後の足掻きに放つ闇魔法も間に入ったカグヤに阻まれて消える。叫びながら消える男と、ついでに周りの連中も糸で引っ張って強制的に転移させる。

 やっと静かになった中庭で…嬉しそうに花冠をするアマリア神の笑い声が響く。

『…うん。やっと静かになった』

 無事に防衛成功したし、そうだな…


 …旦那様へのご褒美…考えないとなぁ。


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