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桃色の花は、誰か

バトロノーツの仲間たち

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 父さんと神殿長の話によれば、現在…城はなにやら立て込んでいるようでかなり忙しいらしい。オレはギルドに呼ばれているようで、そちらに向かって用事を済ませて帰りに迎えを寄越すという話になった。

 王子も心配していたようで、またお説教が飛んでくるのだと…気が重くなる。

 オレの悪い癖のせいなんだけどねぇ~。

『でも何かあったのかな? 城が慌てるなんて、よっぽどのことが起きたんだろうね』

 ねっ。とカグヤに同意を求めたが…何故か明後日の方を見ている。父さんも苦い顔をしているし最後に爺ちゃんを見れば、孫に向けるような優しい顔で微笑んでくれた。

『タタラ様は良い子ですなぁ』

『…さっき父さんに怒られてたけど…?』

 一体なんのこっちゃと考えることを放棄していれば、父さんが手を繋ぐよう諭してくる。信徒から大切なギルドのリュックと服を渡されて準備万端に済ませれば裏口から見送ってくれる皆に手を振る。

 屋根の上から元気よく手を振るアマリア神にも手を振り返せば、何故か信徒たちから拍手喝采を貰う。

『また来るね、カグヤ』

『はい。また…詳しいお話は後日。

 愛しています、愛しい…愛しい私の伴侶よ』

 お揃いの耳飾りに触れる手がそのまま動き、顎をくいっと上げてしまい綺麗な顔が迫って来るものだから流石に慌てる。

 こ、こんな公衆の面前でキスだとッ…?!

『…あまり調子に乗らないように』

 しかしキスされる直前に父さんに抱き上げられて華麗に躱される。不服そうに父さんを睨むカグヤだが、父さんはまるで気にした様子はなくオレを抱えたまま歩き出してしまう。

 …うーん。いつからこんなに親バカになってしまったのか…割と最初から、か?

『あ。花の匂い…』

 手を振る彼から、風に運ばれて花の匂いがした。

 カグヤと信徒たちに見送られて神殿の階段を降りると、既にロロクロウム家の竜車が到着していてそれに乗り込む。

『ギルドに護衛が来ていますから、今回は依頼もないので彼は置いて行ってはどうでしょう。まだギルドに申請していませんからね…使い魔として』

『あー…そっか。育ての親です、なんて言っても流石に魔人は許してくれないよね…』

 竜車の中でゴロゴロと転がるリィブルーをそっと抱き上げる。

『先に城に帰っててくれる? また帰りに迎えに来てくれても良いし、なんなら一人でお出掛けして来ても良いんだよ』

【んじゃ、ちょっくら城に寄ってからぶらぶらしてるわ。なんかあったら…まずは足元を確認するこったな!】

 …それはオレの足元がいつもお留守だと言いたいのか、コイツめ…。

 ジト目で見つめればこれは外しとけと言われて耳飾りを取って大切にリュックに仕舞う隙を突き、窓から颯爽と飛び出したリィブルー。空中で一回転してからパタパタと飛んでいく。

 はぁー。ぷりぷりしたお尻がまた可愛いんですわ!!

『私も月の宴に戻らなくては。寂しいですが、本日は此処までのようです。

 …痛かったでしょう。口煩い親だと…君は思ったでしょうが、また…帰って来て下さいね?』

 スリ、と頬に伸びて撫でる手に無意識に擦り寄る。そんなオレの行動が意外だったのか少し跳ねた手に、自分のを重ねた。

『…オレの方こそ。悪い子でごめんね? 次こそ父さんと添い寝するんだ、オレ寒いの苦手なんだよね』

『甘え上手な子で、困ってしまいますね…。必ず来て下さい。何人旦那がいようが、父は一人だけですよ。…リィブルーは抜きにして下さい』

 確かにリィブルーは父親っていうより、母親みたいだ!

 そう言ってしまえばツボに入った父さんの笑いが止まらず、それを見てオレも面白くて腹が痛くなるまで笑った。

 ギルドに着くと早々に竜車が去ってしまい、父さんがエスコートして行かなかったことに一瞬唖然としたが理由はすぐにわかる。

 ギルド…バトロノーツから出て来た男は、昼の日輪にも負けないくらいの眩しい笑顔で出迎えてくれると真っ直ぐオレのところへ来てくれた。

『回復したようで、何よりである。心配したぞ』

『リューシー!』

 なるほど、リューシーが父さんの言ってた護衛なんだ。…カグヤとの信頼度の差が激しすぎないか? 清々しいくらいすんなり任せて行くじゃん…。

『どうかしたか? …急に日輪の下に出たせいでは…、こちらへ』

『えっ? あ、ありがとう…』

 確かに今日は一段と日が照りつける。リューシーは自分の身で影を作るとオレを抱き寄せて日が当たらないようにしてくれた。

 …このスマートさよ!! なにそれ優しいっ惚れてまう…!

『礼など不要である。我がやりたいだけだ。さぁ、行こう』

『くっ…惚れるぅ』

 しかも大胆さすら兼ねているのだ。肩を寄せられて大きな体に手を付けば…爽やかな笑顔が頭上から落ちて来る。眩しさに目を瞑れば続けて前髪を割るように何かが押し付けられてパチクリと瞬きをした。

『あ…、すまない。堪らなく愛おしくて…つい、やってしまった。手が早い男で申し訳ない限りである』

 もうダメだ…。

 恥ずかしさがカンストして熱い顔を隠すように手を覆う。リューシーの含み笑いに抗議してやりたいが、戦略的撤退を選ぶ他ない。

 そんな時、ギルドの扉から…激しい開閉の音と共に一人の男が現れた。

『なぁにイチャコラしてんのー!! お姫ちゃまはーやーくー!! リューシー君ってばお迎えにいつまで掛けてんのさ!!』

『ちょ、ダメっすよハートメアさん! 邪魔したらダメですって大人気ないなこの人?!』

 扉が開く音があまりにも大きくてリューシーに飛び付けば、ギルドの入口でニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる…イイルカ・ハートメアとギルドメンバーたち。

『テメェらー!! バトロノーツ所属の熱々な二人が来やがったぞ、道開けろー!』

 熱々っ…!?

 逃げ腰のオレに腕を回してギルドに連れ込むリューシーに抗えないまま、いつもは割と静かなそこに足を踏み入れれば大きな歓声や拍手が響く。

 な、何事だ…?

『ギルドの仲間が正式に帰って来たんだぜ! みんなで迎えてやるのは当然だろー?』

 顔を合わせる程度の人に、よくクエストボードの前で悩んでいた人、たまに話しかけてくれる人や良くしてくれる受け付けさんたち…。

 みんなに迎えられた…歓迎するように温かく、笑顔で…。

『…ぅん、うんっ!』

 そうだ。

 彼らは同じギルドの仲間たち。同じ看板を背負った、頼もしくて優しい仲間。

『ただいまっ!!』

 みんなの輪に入れば、どんちゃん騒ぎに巻き込まれる。たくさんのギルド員に話しかけられて何度もお礼を言われたし、また帰って来て嬉しいと言われて顔がだらしなく緩んでしまう。

 二階に移動して常に隣にいるリューシーに寄り掛かり、声を抑えて話す。

『…リューシーがみんなにオレのこと話したんでしょ。こんなにすぐ受け入れられるはずないもん…』

『事実しか口にしていないのである。ハートメアも散々みんなに話して回ったから、貴殿の人徳の賜物に他ならない。

 …いつでもギルドに来ると良い。みんなが、貴殿を迎えてくれるのである』

 本当にっ、この相棒は…!!

『…ありがとう。すっごい好き』

『すっごい、か! それは良い評価を得てしまったのである!』


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