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桃色の花は、誰か

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 風邪ひいた。

 なんのこっちゃと思うだろう、しかしオレは…風邪、みたいなものを発症している。

『うーっ…アイツら、やっぱり軽くお仕置きしてやれば良かった…』

 カグヤを痛め付けてくれた他国の刺客たちの呪いを吸い取り、魔道具からも呪いを抜け落とし拘束することで事態は一時終わりを迎えた。後のことは偉い人に任せるわ、と気を抜いて神殿に足を踏み入れた瞬間…オレはぶっ倒れた。

『…で? 此処は一体?』

 そんで目が覚めたら頭は痛いし寒気はするし、おまけに咳まで出始める。この世界に来てからなったことはなかったが、まるで風邪のようだ。

『いつだったかに泊まった部屋とも、少し違う造りだな…。相変わらず殺風景だけど』

 ふと窓を見れば既に日輪は高い場所にある。昼前くらいだろうかと首を傾げたところで扉が開く音がしたのでそちらに視線を動かした。

 木桶に入っていた水ごとそれを落とし、派手な音を立てると…片手で口を押さえてからすぐに地面を蹴って腕を伸ばす。走った時に光るエメラルドグリーンが、綺麗だなぁなんて思っていればすぐに長い腕に囚われて抱きしめられる。

『タタラっ!! 良かった、良かった…目が覚めましたか…』

 そういえば、いつからカグヤに呼び捨てにされていたんだろう…オレを意識して呼んでるみたいで、なんだか嬉しい。

『如何されましたか? …まだ具合が優れない様子。ですが、良かった…目が覚めたのであれば一安心でしょう…』

 くあぁ、と欠伸をしてからまた重くなる瞼と戦っていればヒンヤリとしたカグヤの手がオデコに置かれてグッと寄り掛かる。

『…熱が高い。すぐに薬を…、まだ苦しいようなら遠慮せず寝ていなさい』

 そうする、という一言すら出せずにコクンと一つだけ頷いて目を閉じる。部屋に入って来た人たちの話し声を遠い意識の向こうで聞きながら、たまに与えられる温もりを感じて何度も起きてはまた眠る。やがて覚醒したら、もうどっぷり夜。

 …一日を無駄にした気分だ。

『そんなに膨れないでください。可愛い顔が…っ更なる魅力に溢れています! ああっ、こんなにまん丸で白くて可愛いなんて…罪深い人だ』

『やめやめやめ!!』

 夜になって本調子を取り戻して部屋の中で体操をしていたら、息遣いに気付いた夜の信徒の一人が入って来て悲鳴を上げられた。その僅か数秒後に突入してきたカグヤにあっという間に担ぎ上げられ強制的にベッドに縫い付けられたが元気なことを訴え続け…やっと解放されたのだ。

 聞けばこの部屋、カグヤのものらしい。

『んー…』

『如何されました?』

 ベッドで不貞腐れていると、近くにあった枕を手にしてみる。気になっていたカグヤの匂いは…。

 …え? なんか…外、みたいな匂いする…。

『日輪の匂い…? 洗い立て?』

 全然汗とか体臭とかないんですが。匂いフェチのオレ、かなしい。

『エルフは体臭が薄いので…、闇のエルフであれば多少は臭うと思うのでその…勘弁して下さい…』

『これで多少…? お前世の男性を敵に回すぞ、マジで。はーやれやれ、本体で我慢するか』

 ベッドに腰掛けていたカグヤのお腹に腕を回してギュッと抱きしめる。病と違って怪我なら光魔法で治る、わかってはいたがオレよりもずっと重症だった彼がこうして元気になったのは喜ばしい。

 オレの風邪もどきは、つまりは呪いの過剰な摂取による不調だ。薬でも魔法でも治らない…全ては時間が解決してくれるものだったから。

 素直に甘えられないからって、ちょっと無理矢理だったかな…。

『…一つ。確認したいことがあります』

 眼鏡の向こうで妖しく光る眼光が…オレの耳を飾るエメラルドグリーンを捕らえて放さない。抱きついたオレの体に腕を回されてドキリと心臓が暴れる。

『本当に…結婚を許して下さるのですか? 殿下や他の者とは約定を交わし、許可を得ていますが貴方の国では結婚を重ねることはほぼないと聞き及んでいます。

 …無理をしなくても、良いのです。我々の為などと思わず自らの意思を尊重して構いません』

『んー…それは色々考えたし、未だに微妙なとこだけど。でも…さ。それを受け入れてもらって…オレも好きだって心があって、カグヤたちも同じように愛してくれるから応えたいって思う。

 だって、嬉しい…から。こんな風に…愛してもらえるくらい想われてるのは、やっぱり嬉しい。応えたい。オレも愛したい。

 …まぁ、これ以上は無理だけど。旦那様はもうお腹いっぱいだ。最初で最後の四人。だから…一緒にいてほしいな』

 こんなに我儘だと誰かしら愛想を尽かされそう…す、捨てられないように…頑張ります。

 頬に触れて上を向かせるカグヤのされるがままになれば、眼鏡のない瞳に驚いて呆けている間に唇が重ねられた。合わせるだけの軽いものから、徐々に深くなり信徒の服を握って息を漏らしながらもキスに応えていたのが…最終的には殆ど縋り付くような形になってしまい苦汁を飲まされる。

 闇のエルフっ、恐るべし…!

『すみませ、ん…まだ体調が戻っていないというのに、このような…』

『へあっ?!』

 褐色の肌でもよくわかるほど赤面したカグヤに言われ、視線を下に移せばなるほど…闇のエルフの性事情は軽く聞いたが、これほどとは思うまい。

 見ただけでわかるほどにギンギンに天を仰ぐ、キスだけで勃ち上がったそれは黒い和装を押し上げて大変窮屈そうだった。

 …で、デカくね…?

『本当にすみません…。本能的に惹かれる相手には手加減がっ難しく…平時ですら激しいと悪態を吐かれる闇のエルフですが、その…伴侶相手だと発情しやすくて…』

『…百年にして初めての発情ってこと?』

 悩ましげに眉を顰めるカグヤに、なんだか悪戯心が芽生えてえいっ、とエルフチンポを突っつく。ビクンと跳ねる体に気を良くしたのは一瞬だけ。

 視界が反転し、ベッドに押し倒された後には息を荒ぶらせる闇のエルフが…欲に溺れたように瞳を蕩けさせる。

『ーっ、そうです!! こんなに興奮するのは、産まれて初めてでっ…!』

『そ、そうなんだ…。じゃあ、シても良いよ。…ううん。

 …初めてのハツジョーでエロエロになった旦那様の姿が見たいから…一緒に、気持ち良くなろう?』

 薄い一枚だけ着せられた着流しを捲り、相変わらずどこもかしこもぺったんこな体をチラリと覗かせる。だけどたったそれだけでカグヤは固唾を飲み、一切目を離さない。

『…優しくしてね、旦那様?』

 挑発的な態度で僅かな理性がぶっ壊れたカグヤ。粉砕してしまった理性をオレが悔やむのは…今からそう遠くない未来だ。


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