上 下
86 / 191
運命の糸を宿した君へ

一番は僕

しおりを挟む
 軽々とオレを抱き上げ、そのままガゼボへ戻ると王子は座った自分の膝の上にオレを乗せた。肩にタオルケットを掛けられると寒くないように抱き寄せられ、胸にもたれる。

 ハルジオンと、結婚…? 夢みたいだっ凄く嬉しい…!!

『少し話しておかなければならぬことがある。聞いてくれるか?』

『話…? ん。聞くよ』

 話というのは世界について。

 バルカラと神殿の調査により、各国や様々な組織が動いてオレを調べたり…或いは捕まえようとする集団が出てきたらしい。なんせ世界にたった一人しかいない異世界人であり、千年を生きた人間だ。しかも生命の危機により魔王という最強のカードを使えるイレギュラーな存在。

 …まぁ、誰もが喜んで迎えてくれるわけじゃないよな。

『バーリカリーナはお前を必ず護ってみせる。同盟国を募り何人たりともお前には触れさせぬ…必ずな。だが、敵は未知数な上に誰かも不明。

 …どれだけ僕が息巻いたところで、いつかお前が奪われてしまうことは明白だ。だから…タタラ。お前に複数の伴侶を得ることを許す。彼らの権力、地位、力…全てが合わさればどんな外敵すらも退けられるであろう。

 お前の平穏のために、三人との結婚を認める』

『でもっ、ハルジオン…!』

 王子が嫌なら誰とも結婚はしない。…彼らには、誠心誠意謝罪して諦めてもらう。

 そんな気持ちを伝えたくて抱きしめれば、彼も同じように体に腕を回してしっかりと抱きしめてくれた。肩に沈めた額。王子はゆっくりとオレの頭を撫でて自分自身に言い聞かせるよう語る。

『ふん。どうということはない。お前が一番、最も愛する伴侶は僕なのだ。初めての口付けに…初めての初夜、全部全部…僕が一番最初。

 そうだろう? …ああ、初めての恋の相手も僕なのだから…初恋まで貰ってしまったな』

『うっ…!!』

 え、エッチはまだしてない…!!

 そんな答えを予測していたように、王子はオレの胸に手を当ててから首を傾げる。

『僕には身を捧げられないと?』

『あ、あぅ…そんな言い方っ』

 つまり初めての結婚も、王子。

 …いや待て。つまり結婚するまでエッチはダメなのか? こっちではそれが普通なんだろうか…。

『…結婚するまでは、しちゃ…ダメなのか?』

『いや? 結婚の後には初夜が行われるものだが、婚約中であっても性行為を咎められることはない』

 ならば。

『…でも…』

 本当に、良いのだろうか。

 よくよく考えてみれば王子が好きだったのはクロポルド・アヴァロア。彼の体格に一番近いのはリューシーだ。騎士として剣も扱い、鍛錬により筋肉もついた男らしい体。

 客観的に見て…彼を抱きたい、よりも…抱かれたいと思うのではないだろうか…。

『…ぅ、』

 そっと自分の貧相な体を見て…思わずガクリと項垂れてしまう。せめてもう少しオレが逞しい男であればと無い物ねだりをしてしまうのも仕方ない。

 …プロテインをくれ…。

『うぅ…』

『な、何故そんな泣きそうな声を上げるのだ?!』

 だってエッチ出来ないんだもん。

 彼の理想とする体ではない、あまりにも違う肉体に心が折れてメソメソとその胸に寄り掛かる。訳がわからないまま…しかし王子は優しくオレを受け入れて大切なものを扱うように体を撫でてくれた。

『本当にどうしたのだ、お前は…。そんな悲しそうな顔をしないで僕に教えてくれ。何がそんなに悲しいのだ…申してみよ』

 観念してポツポツと悩みを吐き出す。最初はうんうん、と素直に聞いていた王子が段々と表情を曇らせ…遂には天を仰ぐ。

 ね?

 一大事だろ?

『オレじゃ王子のこと、満足させられる自信…ないよぉ…』

 せめてもう少し成長してからで良いですか? 肉体年齢が二十代後半くらいになれば少しは…マシになるかと信じたい!

 …え? 今?

 …十代半ばくらいですが、何か。

『真剣に悩んでくれているところ申し訳ないがな、正直あの者との行為のことなど深く考えておらんかった…。ただ手に入れたいという子ども染みた欲求だな』

 初めて会った頃より逞しく成長してしまった王子は、オレの両脇を持って抱えると彼の足を跨ぐようにして座らせる。そのまま隙間なく抱きしめられ、密着した上半身に興奮すら覚えてしまう。

『だが、お前は違う』

 グッと抱きしめられ、王子の背中に手を回して必死にしがみ付くと甘い笑みを浮かべた彼が…色っぽく言うのだ。

『お前は抱きたい』

 ズクン、と甘い刺激が腰を貫く。言葉だけで達してしまったようにビクビクと蠢く腰をガッチリ掴まれては困惑する。

『きっと甘く蕩けるような声で鳴いて、何度も何度も僕の名を呼び僕に縋り付くんだ』

『ぁ、あっ…やぁ!』

『タタラ』

 名前を呼ばれて、顔を合わせる。スッとオレのお尻に回った手に大袈裟に体を揺らして反応すればなんとも嬉しそうな笑い声がした。

『…本来なら、まだ手を出すところではないんだが…お前がそうやって可愛く強請るのが悪いのだ。そんな風に関係を迫られて断れるほど出来た男ではない』

 それって…!

 それって、まさか!

『誘惑するのが上手だな?

 …抱かせてくれるか、婚約者殿?』

 意地悪で生意気な顔。だけどすぐに愛おしさに溢れたような甘い顔で強請られればオレみたいな単純野郎はイチコロだ。

 キュンキュンと騒ぐ体を…大好きな人に弄ってもらえる。既に反応したそこに気付かれないように取り繕うが、要らぬことだったかもしれない。

『ほしいっ、エッチ…なこと、したいっ…我慢出来ない!』

 だってオレたちは未来を約束したんだから。

『っ優しくして、くださいっ…!』

『馬鹿…何処で覚えてきたのだ、そんな台詞…

 優しくする。だから…たくさん乱れるが良い』


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。 草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。 露骨な性描写あるのでご注意ください。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと

糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。 前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!? 「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」 激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。 注※微エロ、エロエロ ・初めはそんなエロくないです。 ・初心者注意 ・ちょいちょい細かな訂正入ります。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

「陛下を誑かしたのはこの身体か!」って言われてエッチなポーズを沢山とらされました。もうお婿にいけないから責任を取って下さい!

うずみどり
BL
突発的に異世界転移をした男子高校生がバスローブ姿で縛られて近衛隊長にあちこち弄られていいようにされちゃう話です。 ほぼ全編エロで言葉責め。 無理矢理だけど痛くはないです。

【R18/短編】僕はただの公爵令息様の取り巻きAなので!

ナイトウ
BL
傾向: ふんわり弟フェチお坊ちゃま攻め、鈍感弟受け、溺愛、義兄弟、身分差、乳首責め、前立腺責め、結腸責め、騎乗位

音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)

柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか! そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。 完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>

処理中です...