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運命の糸を宿した君へ

君の答えを抱きしめる

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 アシル様との談笑を終えると彼もまた仕事があるからと去って行った。目の前の王都を見下ろし、お昼ご飯は外で食べることに決めた。糸を出して意気揚々と店を探していたところを、誰かに手を掴まれる。

『見ぃ~つ~け~た~わ~っ!!』

『ぎゃー!!!』

 王都に木霊する悲鳴。

 そして、長身のだ…女性に担ぎ上げられて連れ去られるオレ。オシャレな服装に独特の声。久しぶりに会うその人は問答無用で歩き出す。

『まさか王都に下りて来てるなんてね! まぁそのおかげで易々と捕まえられたってものよ』

 オホホ、なんて聞こえる声に頭に血が登り始めてグッタリするオレは苦笑いのまま広い背中を叩いて助けを乞う。

『ビローデアさぁん…、気持ち悪いでーす…』

『あら、ごめんなさい! タタラちゃんってば軽いから簡単に担げちゃうから、つい!』

 …料理長にもっと筋肉が付く料理頼まなきゃ。

 ビローデアさんに捕まって隣をガッチリと固められ、一緒に花色の仕立て屋まで行くことになった。道中で今までの心配を事細かく伝えられて何度も謝罪をした。

『心配したんだからね! 王都に魔王が攻めて来るなんて前代未聞だし、…色々あったけどタタラちゃんがいてくれること…凄く嬉しいの。ずっと見てたわよ、ちり紙で何個も山作ってやったんだからね』

『…はい。心配させて、ごめんなさい。ビローデアさんのお店やお家は大丈夫でしたか?』

『ええ。幸いこっちの地域はあまり被害はなかったし、壊れたって今回の破損は国が賄ってくれることになってるらしいから。

 さぁ!! あの時のタタラちゃんの衣装で私の心には火が点いてるんだから! …悔しいわ!! あんなにも独創的で艶っぽい衣装を着せるなんて、魔王も中々見所があるわね!!』

 そっちかぁ…。

 あんの丈が短いスカート、オレは二度と御免だと言うのに隣のビローデアさんは妙に息が荒い。最強に嫌な予感を感じて若干距離を取ったら、そのせいか誰かとぶつかってしまう。よろけた体をビローデアさんが軽く受け止めてお礼を言ってから、ぶつかった相手に謝罪しようと振り返る。

 そこには、二人組の若い女性がいてオレを見た瞬間…甲高い声を上げた。

『タタラ・ロロクロウムだ!!』

『あのの異世界人?』

 それを皮切りに、どんどんと人の視線を集めてしまい通路でオレたちは囲まれてしまった。

 ま、まずい…少しくらい変装すれば良かったかな?

『…タタラちゃん。私から離れないで、しっかり掴まってちょうだい』

『ビローデアさん…すみません、オレのせいで…』

 好奇の目に、尊敬。恐れと…怒り。様々な感情を乗せた目に晒されて今まで以上に自分の不安定な存在が露見されて臆してしまう。

 城のみんなは、大なり小なりオレがどういう人間かわかっているから受け入れてくれている。だけど一般人にはそんなことはわからない。いくらあの日々を水鏡で見ていたとは言え、歓迎ばかりされるとは思っていなかった。

 魔王軍による侵攻は、死者も出したし…街や建物も破壊した。残ったオレにその恨みが飛び火するのは最初からわかっていたことだ。

『ねぇ! なんで自分の世界に帰らなかったの、みんな違う生き物なのに怖くない?』

『また魔王が来るの? …君がいるからまた奴らが攻めて来るんじゃないの…』

 ビローデアさんが話しかける人々を押し退けて進むのを必死に追いかける。だけど知らない誰かに手を掴まれて、足を止めてしまう。

『人殺し!』

 その言葉に過剰に反応すると、誰かがオレを指差して言葉を重ねる。

『世界を巻き込んで…戦争を起こした! 君が早く死んでいれば、今回のようなことはきっと起こらなかったんだ!!』

『っ…ちょっと!! 誰よ、今の!? 絶対に許さないわ、ふざけやがって!!』

 憤慨して拳を握りしめながら群衆に向かうビローデアさんの手を引き、止めた。何故止めるのかと問う彼女に…オレは何も言わないまま歩き出す。

『な、なんで黙ってるんだ!! 本当のことだからって…』

 感情のままに動くことは、オレにはもう出来ない。そりゃ怒って否定したいし殴り飛ばしたいけど…オレの怒り具合がどれだけに伝わってしまうかわからない。

 繋がりは完全には消えていない。

 二度目は絶対にないのだ。彼らにこの世界を滅ぼされたくはない…此処には、大切な人たちがいるんだから。

 だけど。

『…行きましょう』

 自分が今いる奇跡を作り上げてくれた人たちを否定するような言葉は、とても悲しかった。

 ちょっぴり涙が出てしまってすぐに手袋でゴシゴシと拭ってから、再び暴走するビローデアさんの手を引いて行く。それでも飛び交う様々な言葉にウンザリしていた、その時だ。

『…何をしているのか』

 透き通った綺麗な低い声が、スッと周囲に響く。下から上に突き上げるような風が舞い…それを受けながら若草色の髪を揺らす男は、腕を組みながら無表情で立っていた。

『そちらにいる方が、どういう存在か理解出来ないのであれば我が国の未来など数年と保たないであろう。魔王軍の襲来など、千年前から約束されていたのである。

 滅亡から逃れられたのが、ただ一人の生き残りである彼からの願いの元に成り立つと理解出来ないのであれば声を上げろ』

 細めた金色の瞳に睨まれた者たちは、それに一瞬怯みながらも震える声を出した。

『だ、だけど! その子がいたから魔王は目覚めたって…』

『元々魔王はいた。死と再生を繰り返し、彼らは完全なる肉体で戦争に挑む気でいたのだから…死なない体は永遠を生きる。キッカケなど最初からなんでも良かったのだ…何故ならもう、魔王は完成された強さだったのである。

 つまり。死なない存在を相手に我々はどれだけ足掻こうが無意味。むしろ彼がいてくれた期間に行動を起こしてくれたからこそ、今がある。

 あまり頭の悪い質問をしないでほしい』

 肩で風を切るように堂々とした姿で、真っ直ぐこちらに来る…リューシー。

 思わずに流れてしまった涙を見て走り出した彼はそれが落ち切る前に目の前まで来て、そっと頬を伝うそれを奪ってしまった。

『誰がなんと言おうと』

 両脇に手を差し込んで持ち上げられると、片腕のみで抱き抱えられリューシーの首に腕を回してバランスを取る。

 ち、力持ちっ…!

『我は彼の答えに心から感謝する。

 貴殿らも間違えを認めるも良し、まだ声を荒げるも良し…だが心せよ。我よりも話の通じないものなど、いくらでもいるのである』

 空は雲がない快晴だったはずなのに、何故か辺りが暗くなる。急な雨なんてと誰もが不満げに空を見上げて…思考を停止した。

 日輪を遮る巨大なドラゴンが上空から威嚇するように牙を露わにしながら唸る姿が、そこにはあったから。

 
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