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運命の糸を宿した君へ

君の旦那様

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 アスターの民と、魔王たちに見守られながらとやらの詳細を聞くために身構えた。

 一騎討ちか?

 舌戦か?

 …まさか何かしらの幻のアイテムを探して来いとか言わないよね、かぐや姫でもあるまいし…。

『お前を置いていくなら、最低条件としてお前の番を決めさせる。…だがまぁ。これは後はお前が指差せば終わりそうだな』

 アーエードに肩を抱かれて促されるようにして振り向けば、知った顔が四名…勢揃いしていた。

 バーリカリーナ王国第十一王子であり審眼という王権を持つ…ハルジオン・常世・バーリカリーナ。

 還り者でありながら守護騎士にまで上り詰め、今は始祖であるアーエードの加護を受ける…ノルエフリン・ポーディガー。

 第一王子守護魔導師であり貴族出身の風魔導師、並びにギルドにも所属する…リューシー・タクトクト。

 闇のエルフでありながら神殿に属し、影の者として数多の任務を遂行する暗部…カグヤ。

『粒揃いだことでまぁ。お前なんかフェロモンでも出てんじゃねぇのか? いくらこの世界が男同士が公認とはいえ、全部雄じゃねーか。

 …まぁ…非力な村娘とか、農家のお嬢さんとかじゃお前を守れねぇから…力があるのは良いことなんだが』

『…うっ。な、なんでだろう…オレ、そんなに好かれる要素ある…かな?』

 変だな、強くてカッコイイ守護者だったはずなのに…やっぱり見た目? ガキだから?

 …それだと四人が変態みたいだ。

 うんうんと唸っていればアーエードが楽し気に笑う。腕でもぞもぞ動くリィブルーが顔を出して、また余計な一言を言う。

【はっ。この俺様に言わせりゃ、どいつもこいつもガキに発情する哀れな野郎共だなぁ! …あれ。なんか俺様心配になってきた】

『はつっ…?! そ、それじゃあまるでオレが体で誘惑したみたいだろ…絶対無理なこと言うな!』

 ギリギリとぬいぐるみの首を絞めあげれば、ふと表情が険しくなったアーエードが四人を睨み付ける。気付けば控えている魔王たちもなんだか怖い顔をしているようで。

『…よし。頭がピンクなだけの糞野郎がいねぇか炙り出す。心配過ぎて次の段階にも進めねぇ。

 タタラ・ロロクロウムを欲する人間、或いは生物は全て前に。真の愛とやらを持つのであれば先ずは言葉で証明しな。

 嘘は許さねぇ。ウチの嘘発見機を欺けるなら好きにしろ』

『…え? イチってば機械扱いかい?』

 えー。と言いながら頬を掻くバロックだが、アーエードは本気だ。何を馬鹿なことをと口を挟もうとしたのに…あろうことか、四人が出てきた。

 …えっ!? マジか!!

『ほほぅ。見よ、我らの子が欲しいと名乗り出て来よった』

『しかも四人も出て来ましたぞ? 吾輩は存じておりますとも…これが噂の逆ハーレム!!』

『ふーん…まぁ。本当に好きなのかどうかは、キッドたちのリーダーに見極めてもらおーよ』

 賛成~、とヘラヘラ笑うオレヴィオを加えて他の魔王たちは見物。腕を組んで四人を睨み付けるアーエードに、バロックと一緒に事の顛末を見守るオレ。

 …なんか。

 凄く…恥ずかしいことが始まる予感が、する…。

『そっちの二人は結構だ。ハルジオン・常世・バーリカリーナは態度と言葉で既に愛を確認した。…タタラに地球を諦めさせた大罪人だが、それを決断したのはタタラ本人。

 ノルエフリン・ポーディガーについても同様だ。あんな感じで血族とは決別を選んだようだし、己が世界を裏切ってまでタタラに着いてこようとした度量は考慮する。

 テメェらの覚悟を聞かせろ』

 後ろからオレの肩を掴むバロックが、少し斜めにオレの体をズラすと…そこには土魔法によって全身を固められた一団がいた。何故か年老いた老人の口には土が詰め込まれていて、どうしてそんなことになったか知らないオレは首を傾げた。

 …なんか心なしかアーエードが嬉しそうだったな、まぁ…放置した方が良さそう、か?

『我が名はリューシー・タクトクト。…失礼ながら、タタラには既に我が想いは伝えてある。そして残念ながら断られているのであるが、まだ…我が想いは健在だ。

 共に肩を並べて戦い、同じ景色を見たことに人生で最も幸福を感じた。すぐに変わる表情が愛らしく、どんな任務でも直向きで頑張り屋なところも好ましい。この世界に変わらずいてくれる喜びと、また会える嬉しさからこの場に立ってしまった。

 我が想いに偽りはない。どんな逆風でも、我はタタラを守ることを誓う』

『リューシー…』

 同じ立場であり、初めて本音を真っ直ぐぶつけてくれたリューシー。戦場でも必ず側にいてくれて頼もしいし…清廉潔白って言葉が似合う男だ。

 リューシーは、絶対…千年前のことでオレと距離を置くと思ってたのに…まだそんなに…?

 もじもじと…相変わらず恥ずかし気もなく真っ直ぐな言葉をくれるリューシーに体が無意識に動いてしまう。羞恥からくるそれを見て、バロックが大きく丸を作ってアーエードにサインを送る。

『…チッ。本音か。まぁ良いだろ。

 最後、お前だが…』

『待て』

 アーエードを遮って現れたのは、水の魔王代理…クロポルド・アヴァロア。辺りに赤い泡を浮かべながら歩いて来たアヴァロアはカグヤを指差す。

『還王。これは神殿の影の者、綺麗も汚いも与えられた任務を全て忠実に遂行する暗部。

 …そんな輩に、真実の愛など…』

『貴様にだけは言われたくありません、役立たず。タタラ様を迎えるに値するなど今では思いません。むしろ、この中で最も魔力を有し世界の知識にも長け…更に年齢も重ねた私こそタタラ様を迎えるに相応しいのでは?

 名を持たず、信仰心のみで生きてきた私にとってタタラ様は全てを塗り潰す闇の存在。師と仰がれ純粋に慕われるのは…とても心地良い。しかし彼は絶望の存在であるはずなのに、むしろ我々に神を与えて下さった。そんな方に恋をしてしまうなど…むしろ、当然とも言えます』

 バチリ、と視線が絡んで思わずバロックの服を握りしめる。色々思い出して悶々とするオレを見たカグヤは愛おしいものを見たようにスッと目を細めてから口角を上げた。

 そのあまりにも…幸せそうな顔に、一気に彼と過ごした日々が思い起こされては色付いていく。視線を逸らさず見つめれば、更に嬉しそうに笑うから…憎めなくて困る。

『私からお伝え出来ることは一つのみ』

 グッと胸の辺りの服を掴み、膝をつくカグヤ。

『次に、もしもこの世界がタタラ様に牙を剥くようなことがあれば。

 私は全てを賭して彼を貴殿らの元へ送りましょう。それが出来ると自負するほどには、積み重ねたものがありますから。

 なんせ。

 闇のエルフの愛は重いものでして』

 …え。

 カッコイイけど、何アイツくっそ怖い。


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