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運命の糸を宿した君へ
素朴で清楚な君
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自分の名前はあまり好きではなかったけど、嫌いではなかった。漢字はカッコイイし…何より、
『お母さん!』
公園の原っぱに咲いていた花を摘んで、一緒に来ていた母に捧げる。まだ小学校に入る前の小さなオレの手にいっぱいある花を見て、母は嬉しそうに笑ってから受け取ってくれた。
『ありがとう、火明人。あら…ハルジオンの花ね、春だからたくさん咲いてる』
母が嬉しそうだから喜んだのも束の間、その口から出た名前にオレはブスッと顔を歪めた。
『…うー。どうしてオレ、お姫様の名前がついてるの? 隣の組の子に、男なら王子様じゃないの? って笑われた…』
しゃがみながらブチブチと雑草を引っこ抜くオレの姿に、母は笑いながら髪にハルジオンの花を飾ってきた。
『ごめんね、火明人。でもお父さんは火を使うお仕事でね昔から火はたくさん人を助けて来たの…危ないけど、使い方を間違えなければ心強いのよ。
貴方は、そんな風になってほしくて名付けたのよ。火だけじゃないわ。風も土も水も、他にも色んなこと。人の為になる、貴方であってね』
『…ん? ヒメト、お姫様じゃないの?』
難しいことを言う母の言葉はよくわからなかったけど、大切な名前なんだということは理解できた。だけどやっぱりよくわからなくて首を傾げれば、母は楽しそうに笑ってオレの頭を撫でてくれる。
『そうねぇ…、あ!
でもね、火明人! このハルジオンのお花にはそっくりな花があるの。姫女苑…白くて可愛い、そっくりなお花よ。貴方と同じヒメってお名前がついたお花なの』
『ひめじょおん…? 言い難い~』
ピンク色のハルジオンと、白いヒメジョオン。
『お花にはね、それぞれ込められた言葉があるの。調べてみましょうか』
『うん! オレのヒメジョオン、なんて言葉なのか知りたい!』
母と一緒に原っぱに座りながら、スマホで二つの花の花言葉を調べる。画面が見たくて膝に触ると、すぐに体を寄せてよく見えるようにしてくれる。スマホで見せてもらった写真にあるヒメジョオンは、ハルジオンと凄く似ていた。
『ヒメジョオンはね、素朴で清楚、かな』
『ソボク? セーソ?』
なぁに、それ。と答えるオレに母は暫く悩んでから隣に座るオレにわかりやすく答えようと頑張っていた。
『そうね。飾りっ気がない、みたいな…ありのままで、うーん。
あ! お父さんはそういう人が好きって、初めて会った時に言ってたわね!』
『じゃあお母さんは、ソボクでセーソ? お父さんオレのことも好きって言ってたから、オレもソボクでセーソ??』
お父さんが好きな人を全て素朴で清楚にしようとしているオレを見て、お母さんは声を上げて笑った。どうして笑うの、と詰め寄るオレをお母さんは抱きしめてくれた。
『そう! お母さんも火明人も素朴で清楚ってことね!』
『へー…。じゃあ、ハルジオンは?』
『ハルジオンは…あら、素敵。追想の愛ですって』
愛。
その言葉だけは知っていた。よくお父さんとお母さんがくれる言葉。
『ハルジオンの茎…あ、ここね。ここが空っぽで、蕾の時は蕾が重いから下がっちゃうんだって。その姿がね、昔の大好きな人を想い出してるみたいに昔の人は見えたんだって。
なるほどねぇ』
『オレわかった!』
そう言って立ち上がって喜ぶオレに、今度はお母さんが首を傾げる。
『ヒメジョオンは、初恋のお花! ハルジオンは、エンキョリのお花!』
『ぶっ、遠距離なんてどこで…。でも、どうして?』
不思議そうにするお母さんに対してオレは得意げに胸を張ってみせる。
『お母さん、お父さんが初恋って前に言ってた! ソボクでセーソなお母さんがそう言ってたから、ヒメジョオンは初恋のお花!
幼稚園の先生、遠くに離れたエンキョリの人と会えなくて寂しいってこの写真のハルジオンみたいに職員室でガッカリしてた! だからハルジオンはエンキョリのお花!』
そうに違いない、と名推理を披露して笑っていたが…お母さんは何故か顔を覆ってソウネ、としか言わなかった。
後、先生の話はお母さんにだけ教えてねって言われた。約束したからお母さんにだけお話してあげる。
『…いつか、貴方も』
ハルジオンの花をつけたオレを見て、お母さんが少しだけ寂しそうに笑う。
『ハルジオンが、こんな風に項垂れるくらい誰かに愛してもらえるかしら。…まぁ、貴方は素朴っていうか今はとっても可愛らしいのだけど…』
『可愛くないよ!! カッコイイだよ!!』
『いやいや。お前はお母さんに似て可愛いぞ、火明人。大きくなったらお父さんみたいに格好良くなってくれ』
脇を持たれ、グッと視界が高くなる。いつの間にか現れたお父さんに肩車をしてもらってキャッキャ騒いでいれば髪に手が触れる。
『どうした、お姫様みたいに花付けて。王子様が来てやったぞー?』
『お父さんのお姫様、お母さんでしょ。しっかりしてよね!』
そうだった、と言いながらお母さんと手を繋ぐと二人はニコニコしながら笑い合う。
また、ヒメジョオンの花が咲き始めたら三人で来ようと約束した。またすぐに咲いているよと教えられ、嬉しくて元気に返事をした春の日。
ハルジオンが咲いた後、追いかけるように咲き始めるヒメジョオン。そして奇しくも、十一月十八日が誕生花であるヒメジョオンとオレの誕生日が一緒だったことが新たな衝撃を与える。
オレの名前は、火明人。
誰かの為にと願われたオレは今…もう知っている人は誰もいない故郷へと還るところです。
.
『お母さん!』
公園の原っぱに咲いていた花を摘んで、一緒に来ていた母に捧げる。まだ小学校に入る前の小さなオレの手にいっぱいある花を見て、母は嬉しそうに笑ってから受け取ってくれた。
『ありがとう、火明人。あら…ハルジオンの花ね、春だからたくさん咲いてる』
母が嬉しそうだから喜んだのも束の間、その口から出た名前にオレはブスッと顔を歪めた。
『…うー。どうしてオレ、お姫様の名前がついてるの? 隣の組の子に、男なら王子様じゃないの? って笑われた…』
しゃがみながらブチブチと雑草を引っこ抜くオレの姿に、母は笑いながら髪にハルジオンの花を飾ってきた。
『ごめんね、火明人。でもお父さんは火を使うお仕事でね昔から火はたくさん人を助けて来たの…危ないけど、使い方を間違えなければ心強いのよ。
貴方は、そんな風になってほしくて名付けたのよ。火だけじゃないわ。風も土も水も、他にも色んなこと。人の為になる、貴方であってね』
『…ん? ヒメト、お姫様じゃないの?』
難しいことを言う母の言葉はよくわからなかったけど、大切な名前なんだということは理解できた。だけどやっぱりよくわからなくて首を傾げれば、母は楽しそうに笑ってオレの頭を撫でてくれる。
『そうねぇ…、あ!
でもね、火明人! このハルジオンのお花にはそっくりな花があるの。姫女苑…白くて可愛い、そっくりなお花よ。貴方と同じヒメってお名前がついたお花なの』
『ひめじょおん…? 言い難い~』
ピンク色のハルジオンと、白いヒメジョオン。
『お花にはね、それぞれ込められた言葉があるの。調べてみましょうか』
『うん! オレのヒメジョオン、なんて言葉なのか知りたい!』
母と一緒に原っぱに座りながら、スマホで二つの花の花言葉を調べる。画面が見たくて膝に触ると、すぐに体を寄せてよく見えるようにしてくれる。スマホで見せてもらった写真にあるヒメジョオンは、ハルジオンと凄く似ていた。
『ヒメジョオンはね、素朴で清楚、かな』
『ソボク? セーソ?』
なぁに、それ。と答えるオレに母は暫く悩んでから隣に座るオレにわかりやすく答えようと頑張っていた。
『そうね。飾りっ気がない、みたいな…ありのままで、うーん。
あ! お父さんはそういう人が好きって、初めて会った時に言ってたわね!』
『じゃあお母さんは、ソボクでセーソ? お父さんオレのことも好きって言ってたから、オレもソボクでセーソ??』
お父さんが好きな人を全て素朴で清楚にしようとしているオレを見て、お母さんは声を上げて笑った。どうして笑うの、と詰め寄るオレをお母さんは抱きしめてくれた。
『そう! お母さんも火明人も素朴で清楚ってことね!』
『へー…。じゃあ、ハルジオンは?』
『ハルジオンは…あら、素敵。追想の愛ですって』
愛。
その言葉だけは知っていた。よくお父さんとお母さんがくれる言葉。
『ハルジオンの茎…あ、ここね。ここが空っぽで、蕾の時は蕾が重いから下がっちゃうんだって。その姿がね、昔の大好きな人を想い出してるみたいに昔の人は見えたんだって。
なるほどねぇ』
『オレわかった!』
そう言って立ち上がって喜ぶオレに、今度はお母さんが首を傾げる。
『ヒメジョオンは、初恋のお花! ハルジオンは、エンキョリのお花!』
『ぶっ、遠距離なんてどこで…。でも、どうして?』
不思議そうにするお母さんに対してオレは得意げに胸を張ってみせる。
『お母さん、お父さんが初恋って前に言ってた! ソボクでセーソなお母さんがそう言ってたから、ヒメジョオンは初恋のお花!
幼稚園の先生、遠くに離れたエンキョリの人と会えなくて寂しいってこの写真のハルジオンみたいに職員室でガッカリしてた! だからハルジオンはエンキョリのお花!』
そうに違いない、と名推理を披露して笑っていたが…お母さんは何故か顔を覆ってソウネ、としか言わなかった。
後、先生の話はお母さんにだけ教えてねって言われた。約束したからお母さんにだけお話してあげる。
『…いつか、貴方も』
ハルジオンの花をつけたオレを見て、お母さんが少しだけ寂しそうに笑う。
『ハルジオンが、こんな風に項垂れるくらい誰かに愛してもらえるかしら。…まぁ、貴方は素朴っていうか今はとっても可愛らしいのだけど…』
『可愛くないよ!! カッコイイだよ!!』
『いやいや。お前はお母さんに似て可愛いぞ、火明人。大きくなったらお父さんみたいに格好良くなってくれ』
脇を持たれ、グッと視界が高くなる。いつの間にか現れたお父さんに肩車をしてもらってキャッキャ騒いでいれば髪に手が触れる。
『どうした、お姫様みたいに花付けて。王子様が来てやったぞー?』
『お父さんのお姫様、お母さんでしょ。しっかりしてよね!』
そうだった、と言いながらお母さんと手を繋ぐと二人はニコニコしながら笑い合う。
また、ヒメジョオンの花が咲き始めたら三人で来ようと約束した。またすぐに咲いているよと教えられ、嬉しくて元気に返事をした春の日。
ハルジオンが咲いた後、追いかけるように咲き始めるヒメジョオン。そして奇しくも、十一月十八日が誕生花であるヒメジョオンとオレの誕生日が一緒だったことが新たな衝撃を与える。
オレの名前は、火明人。
誰かの為にと願われたオレは今…もう知っている人は誰もいない故郷へと還るところです。
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