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運命の糸を宿した君へ

秘密の会議

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【んじゃ。

 看守室に移動させて一人でどうにか治めてもらってるが…、お前はぁ? ヌいとく?】

『結構です!』

 本格的にどうにかなりそうな雰囲気をぶっ壊して現れたリィブルーは、ぬいぐるみの体から抜け出して人型へと戻る。

『ちょ、戻って平気なのか?』

【へぇき。此処なら魔力は漏れねぇよ。

 さてと。あー…よし、ケツも無事だな。向こうが終わるまで俺様たちはちょっとやることがあるからなぁ。それとも、本当にあの王子は諦めてさっさと還り者のガキと結ばれたかったかぁ?】
 
 反論する言葉は出てこなかった。

 膝を抱えて床に座っていれば、リィブルーは目の前に浮かびながら更に問い掛ける。

【良い選択だ、奴ならお前を裏切る心配もねぇし死ねと言われれば喜んで死にそうなタイプだ。扱い易くて従順。あの魔王連中もアレなら受け入れるだろぉなぁ】

 …何が言いたいんだ、この魔人さんは。

【率直に聞く。

 お前がこの世界を救いたい場合、お前は二度とこの世界には帰れず地球に強制送還。めでたく還り者のガキと故郷で生きる羽目になる。

 良いんだな? あの王子とはもう結ばれねぇ。互いに違う世界で違う軸を歩まなきゃならねぇんだ。構わないな?】

 嫌だと言えば、希望があるとでも言うのか?

 絶望的な状況なんて何度もあった。実際に死んでしまって、怒られたし…それでも最後には必ず彼の元に帰れた。

 だけど。

【あの還り者を好きな気持ちが偽りじゃねぇのは理解するがなぁ。お前は一生、あの王子に何も言わずに帰ることを後悔するぞ】

 わかってる。

 そんなこと、わかってる。

 残された世界で死ぬほど罵倒されるのも想像が付く。互いに離れてから、やっと全ての感情が放たれてどうにかなってしまうんだ。

 それでも…彼を選ぶことは許されない。それは、この世界の崩壊を意味する。

【…ふぅ。

 なら、こう言えば良いのかぁ?

 お前は。残されたアスターが平和になって、お前らがいなくなった世界でお前以外のどっかの誰かがあの王子と付き合って、やがて結婚しても構わねぇって腹積もりか?

 お前が還り者のガキと歩み出すなら、あの王子だって案外簡単に新しいパートナー見付けてお前が救った世界で、そんなバカみたいな未来を許すってことなのか?】

 それ…は、考えたことは…ないわけじゃ、ないけども…。

 抱えた膝を更に強く抱えながら顔を伏せる。胸が痛くて、吐き出したいのに何も出ない。言葉も何も、息が詰まる。

 オレは最初から王子の一番ではなかった。彼の初恋はクロポルド・アヴァロアであり婚約の約束をしたのも彼だ。偽りとは言え、その一部を見ていたオレは…劣等感しかない。

 比べてはいけない、そうわかってる…アヴァロアにはアヴァロアの良さがありオレにはオレの良さがある。だけど。

 異世界人で、まだ体も小さくて、男らしさも足りなくて、落ち着きもないしさぁ。

『っわかってる…、でも…だからこそ、オレなんかより同じ世界の人の方が良いだろ…?

 ノルエフリンは連れて行かなきゃ、アイツにこの世界で生きる目的がないんだ…簡単に生を諦める、だけど死なせたくない。けど、王子は…あの人は、生きていく。自分の存在をっ価値を…考えて、見出す人だ。

 …その先に、オレはいなくたって同じだよ。道さえ示せば、あの人は…大丈夫。光なんだ。ハルジオンは、光そのもの。道があれば照らして歩いて行ける人…、だからオレはそれを作る』

 でも今だけは。今だけは、どうか許してほしい。彼と共に歩めない未来を想って泣くことを。そんな我儘を許してほしい。

『ありがとう。オレ、ちゃんとやれるよ』

 顔を上げて涙を拭えば…リィブルーは舌打ちをしながらもオレの頭を骨張った手で雑に撫でてくれた。納得いく解答が出来て良かったと胸を撫で下ろしながらも、自分が居なくなった後のこの世界を思うと堪らなく寂しい。

 例え明日、この世界にオレがいなくても。誰もが安心して笑い合える世界なら、それが良い。

【…はぁ。わぁかったよぉ…。

 作戦会議だ、タタラ。よぉく聞きな】

 リィブルーの話はこうだ。

 まず、数時間後には魔王たちが過去厳重に封じられた異世界式魔楼道を稼働させる。それを開通させるのに地球にいる神とのパスを繋げるため…王族を生贄にする。

 恐らくその生贄には全員が投入されるが、本来ならパスを繋げるなら一人でも構わないらしい。

 そこで出るのがオレだ。もしかしたら移動の際に魂が擦り切れて死ぬかもしれない、というか普通なら死ぬがオレは一度生き残っている。王族よりもよほど生存率が高い。

 が。

 勿論、一方通行でしかないので戻ることは叶わない。ノルエフリンは共に行くが通行料はオレなので彼の体力次第だ。そして一番重要な魔王の足止めはリィブルーが。

『六人も相手出来そう?』

【やれってんならやる。俺様も大変だけど、お前もかなりしんどいぞ? まぁ一度通路を繋げりゃアマリア神もアスターに戻れるはずだからなぁ。魔王共も放り込んで通路を閉じれば終いだ。

 で、こっからが面倒な作業でよぉ…。

 オイ。居るのはわかってんだ、出て来い】

 闇と同化し、呼び声と共に現れた影。ヒタヒタと底の薄い靴を鳴らしながら現れたのは、変わらず髪を触りながら俯き気味で歩くメッチェル。

 …これが、闇の魔王の力か。

【口止めを頼みてぇんだが? 植物で監視できない場所はテメェがバロック・シャムラの目になってんだろ?】

『容認致せぬ内容かと…。吾輩とて暴かれれば危うい身。故に、容赦願いたい』

 監視役か…。

 ダンジョンから唯一好きに移動できるメッチェルが、この塔の地下でのことをバロックに伝えているってこと。

【俺様はバロック・シャムラの目を欺けるし、タタラにはもう効かねぇ代物だ。今お前の口さえ防げりゃ大勝利なんだが…】

 リィブルーがどんな言葉を使っても、メッチェルは応じない。しかし何故かチラチラとこちらを見遣るので何か突破口があるのではと、ふと…自分の服を見た瞬間、閃く。

『メッチェル!!』

 はい? と首を傾げる彼に、服を少しだけ引っ張って…こう言った。

『作戦のこと黙っててくれたら、

 明日! メッチェルが望むどんな服でも着るよ!!』

『乗ったぁ!!!』

 チョロい! チョロすぎる!!

 しかし効果は抜群、オレの周りを歩きながら興奮冷めやらぬ状態のまま顔を恍惚に歪めて早口で喋りながら歩く姿は異常だ。そのあまりの内容に死んだ魚みたいな目をしたリィブルーが…

【…魔王大丈夫かなぁ】

 思わず敵の心配をしたのは、仕方ないことだと思う。



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