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アスターの罪

千年と神を信じた者たち

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『待てぇい!!

 あー、もう! 病み上がりのくせになんだってそんなに元気なんだよお前たちーっ!!』

 バタバタと手を繋いで走る双子の弟たちを追い、私は必死に足を動かす。城を出て一目散に駆け出した彼らを何故私が追うか。

 悲しいことに、これらが私の血の繋がった弟たちだからだ。産みの親も同じ…もう一人のキッカはあんなに落ち着いていて静かな子なのに、この双子は本当に台風みたいな奴等だ。

『最短の兄様、来なくて良い』

『最短の兄様、一緒に来ないで』

 しかもこの反抗期っぷり…。可愛くない、本当に我が王家の子どもたちは捻くれすぎだ。

『どこに行くんだよ! イリューモンズとモルトバリヤーが守ってくれなかったら、お前たち今頃酷い目に遭ってたかもしれないんだぞ!』

『でも、行かなきゃダメ』

『でも、知りたいんだ』

 まだ十一歳のパジータとパルカリーダは昨日、魔王によって攫われ他の二人の王子と共に監禁されていた。

 それを…今、世界で最も話題となっているだろう人物によって救われて、なんとか敵の魔の手から逃げ出すことに成功した。しかし怪我もあって城の医務室に寝かせていたのに…目が覚めて日輪が高く上がると、双子は外へ飛び出してしまった。

 偶々私がそれを目撃してしまい、こうして自ら追い掛ける羽目になるなんて。仕方ないんだ。今はどこも手が足りないから、脱走した王子たちを追い掛ける余裕はない。

『っ…レレン!! 先回り出来ないのか!』

『やー…無茶言わないで下さい。アテの空間魔法だって万能じゃないんですから。というか、朝から色々こき使われて魔力の回復が間に合ってませーん』

 くっ…、魔王の資料を取り寄せるために働かせ過ぎたのが仇となったか!

 王都を駆け回り、辿り着いた場所。そこは今起きている異常事態の騒ぎを毛程も感じさせないほど静かで別世界のようだった。

『あ、まっ待ちなさいお前たち!!』

 階段を駆け上がり門をこじ開けて神殿へと入って行く双子を、守護魔導師のレレンと共に追いかける。普段なら信徒たちがいるはずの通りも…今日は誰もいない。

 そもそも、門…閉まってたな。

『…ダンジョンで信徒を見たんだったな。彼らはその後はどうしたんだ?』

『一瞬しか見てないです。魔王にも普通に攻撃されてたみたいですし、内通してるような感じではなかったような…』

 神殿は、このバーリカリーナ王国の建国からあったとされる…否。本当はもっと古くからあったともされる。

 豊穣と祝福の神であるアマリア神。

 世界でも名だたる女神であり、バーリカリーナはアマリア神の血筋ではないかともされている。真相はわからないが、アマリア神に愛されたバーリカリーナもまたアマリア神を信仰している。

 …そんなアマリア神が、もう千年も前に消えてしまったなんて私は今でも信じられない。

『メメボニー様。早く追わないと、あの御二方どっか行っちゃいますよ』

『あ、ああ…すまないな』

 神殿の内部に入り、再び双子を追うために走る。少し見ない隙に二人を見失ってしまい慌てる中、奥の部屋が騒がしい。

 やれやれ…世話の焼ける弟たちだ。

『教えて。千年前の知っていることを』

『教えて。お前たちは知っているはず』

『『お前たちが王家に秘密にしてること、吐け』』

 そこには、多くの信徒が祈りを捧げていた。もうこの世界に神はいないというのに熱心に手を組み、見たこともない神の姿を追うのは…少し不気味だ。

 立ち上がって私たちの前に立った、神殿長…アストロイヤ・ゲインツ。

『…やれやれ。まさか、やって来たのがバーリカリーナの若き芽だとは。

 王が来ないのは少々腹立たしいことですが、ここは導いて差し上げるのが老人の仕事でしょうか』

 窓もない薄暗くて肌寒い空間に、蝋燭の火がゆっくりと灯る。

 やがてその空間の天井には…美しい緑の髪を持った女性の絵。壁には古い壁画。足元から湧き出た浅い水の水面に浮かぶ文字。

 …古代の言葉か、…古代?

『読めるか、レレン』

『…』

『レレン?』

 古代魔法の中の空間魔法を操るレレンは幼い頃から古代文字を頭に叩き込んだと言っていた。そんな彼ならばと聞いてみたが、一向に返事が返って来ない。

 やがて顔を真っ青にしたレレンが、顔を覆う。

『…なるほど、ねぇ』

 暫くしてから顔を上げた彼はいつもの気怠そうな雰囲気を一変して、神殿長を睨み付けた。その意味がわかっているのか両者は見合ったままだったけど説明されなきゃ私たちにはわからない。

『疑問には思ってたんですよ。奴等は何故、今になって現れ何を目的としているのか。でも奴等は何度かタタラに言ってた言葉があります…

 って。つまり、滅びたはずの地球という星があり帰る手段がある…どうやって? その答えが、コレですよ!!』

 バシャン、と上げた足を水に叩き付けて文字が揺れる。しかし文字はまた変わらずに現れた。

 いつも以上に感情を露わにするレレンに代わるように神殿長が語る。

『あの方が来なければ、今この瞬間すら有り得ませんでした』

 好々爺みたいな顔した神殿長が愛おしむように顔の皺を深くして笑う。それはそれは嬉しそうに、その存在を愛しんだ。

『大変だったのですよ。

 各所の信徒を動かし、魔王の存在を把握するのは勿論…彼らに必要な力の情報を提供する偽装として他国の中枢を傀儡かいらいとするなど…中々働かせていただきましたね。

 最近では、実験なども行いましたよ。

 …など、大変でした』

 …なんだ、それは。

 ダンジョンを、陥とす? まさか、まさか奴は…バビリアダンジョンのことを言っているのか…?

『一番大変な作業はの捜索でしょうか。何せこれは千年前の目撃情報のみで、我々としては何かしらの痕跡か遺品だけでもと思っていましたが…

 まさか。伝説を生きたままこの目に宿せるなど、何という幸運。

 感謝致します、神よ』

 後退りする双子の元へ行き、すぐに抱え上げてから踵を返して出口へと走る。しかし、そこに出口はなくレレンが魔法を発動させようと僕たちに触れるが…空間魔法が、発動しない。

最後最期に教えて差し上げます』

 周りを数百もいる信徒に塞がれ、双子を抱きしめながら身を屈める。レレンが私たちを守るように前に出たのが意外だったが、その顔は真剣そのものだった。

 …帰れたら報酬を弾んでやらないとな。明日までしかない人生らしいが。

 今死ぬよりは…マシかもな。

『…ならば、喜んで聞かせてもらうとするか』


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