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バーリカリーナ王国戦

最適の伴侶

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『それで? お主、奴等に酷く友好的な態度を取られていたではないか。儂らを裏切るつもりなら、さっさと先程の部屋に戻ったらどうだ。

 何人かダンジョンには潜入しているのだろう? 檻から出れれば、儂らはなんとかするぞ』

 結局足を怪我したイリューモンズ王子を、同じく頭部に怪我を負うモルトバリヤー王子が背負って逃げることで落ち着いてしまった。部屋を出て走り出し、何体もの魔獣を倒して休憩をしていたところでイリューモンズ王子が切り出した。

 辺りの警戒をしていたオレは、座りながら見上げてくるたくさんの目に驚きながらもまた周囲へ気を配り始める。

『同郷のよしみ、だそうです。私の出身は…遠い国で戻ることは叶わないと思っていました。少し寂しくはありましたが、此処に骨を埋める覚悟もありました。

 …国に、連れて帰りたいと言われました。ですが私は、生まれ故郷を恋しくは思えど育った国を捨てることは出来ません。共に帰りましょう。バーリカリーナ王国が、私のいたい場所なのです』

 話しながら、自分自身の整理にもなった気がする。やっぱり日本は好きだ。だけど同じくらいこの世界の…この国が好きになった。帰れるなんて夢のようだけど、きっと二度とこの世界には帰れない。

 それは…嫌だ。

 例えどんなに罵られても、薄情者と叫ばれても…大切なものが増えたんだ。あっさり手放せるほど軽い気持ちではない。

『糸。行かないで』

『糸。一緒に帰る』

 すっかり懐いてくれた小さな双子の王子たち。左右からギュッと抱きついてくる小さな生き物に感動して警戒を怠ってしまう。

 いかんいかん、気を引き締めろタタラ!

『ほぉ。あれほどの魔王連中と敢えて決別するなど、正気の沙汰ではないぞ?』

『素直にありがとうと言えないんですか? 全く…。ありがとう、タタラ・ロロクロウム君。君のような素晴らしい守護者を持って、ハルジオンは幸せ者だよ』

 隣に座るイリューモンズ王子の肩を小突き、弟であるモルトバリヤー王子がそう言って頭を下げるものだからすぐに止めてくれと詰め寄った。

 …なんだかんだ、良い兄弟なんだよな。

『で、あれば。儂らは気兼ねなくお主を頼るからな。なんたって魔法まで封じられてはなぁ…王族である限り、その魔力は生涯あの防御魔法に充てるべきと言い付けられてきたが…肝心の壁が突破されてはな。

 王族であれば並の魔導師よりは魔法も扱えるが、それもこれも兎に角此処を出んことには始まらん』

『パジータたち、光しかないけど』

『パルカリーダたち、実践不向きだけど』

 なるほど…。王族は常に魔力を温存して防御魔法壁を強化してきたのか。

 実際に王族である彼らを戦わせるのは不本意極まりないがポテンシャルは相当高いはず。光魔法は使い方次第だが、どちらかと言えば確かにサポート向き。

 頼もしい双子たちに笑いかければ、頼られていると感じたのか二人が少し嬉しそうに顔を見合わせてから胸を張る。

 あ。天使ですわ、これは。

『バーリカリーナ王国の力を合わせて戦いましょう。それしか勝つ手段はありません!』














『王族が戦う? 前線に立つ?

 有り得ない。そんなことは、有り得ないよ。常に前線に出されるのは騎士であり、魔導師たちだ。後ろで怯えているのが精々だよ。

 それを知っていて、何故君は未だにそちら側にいるのかまるで理解が追い付かない』

 薄暗いダンジョンで、彼の姿はハッキリと確認できた。あの日とまるで変わらない姿に、声。その体の周りには赤い水の塊が無数に浮かんでいた。

 もうすっかり自分のものにした魔人の力…姿は変わらないのに、中身が…。

『君はこちら側の人間だ。大人しくしなさい』

 咄嗟に左右の王子たちを背中に隠し、一年振りに会う因縁の相手と向き合う。何故という言葉が頭を占めるが、どう見ても味方には見えない。

 一体何がどうなって、この人がこんなところにいるんだよ?!

『…本当に貴方なんですか? 信じられない、貴方は地下牢に繋がれたはずだ』

 話しかけたのはモルトバリヤー王子。だがクロポルド・アヴァロアは顔を顰めてから彼を睨み付ける。それは以前まで守護者としてあった彼の姿とはまるで違う。

 嫌な予感に駆り立てられてモルトバリヤー王子の前に立ち塞がるように出れば、忽ち足元から湧き上がる赤い水の波が飲み込むように現れたがオレの存在が邪魔らしくその場でピタリと止まる。

 …王位継承権のあるモルトバリヤー王子もお構いなしに襲って来るか。

『時は動き出した。もう、この国で偽りの姿を演じる必要もない。やっと…やっとこの時が来たのに、何故そのような愚かな行動を取るのか?』

『オレにはお前らが何を言ってるのかサッパリだ。分かり合えるなんて勝手な決めつけをするなよ。

 …オレはこの世界も好きだ。だから此処を護る』

 そうして先手を切ろうとした時だ。突然真っ赤な縁が綺麗な全身を映せるくらいの水鏡が目の前に現れる。

 攻撃でも防御でもなく、水鏡…? 何を見せようってんだ?

『ならば、無理矢理にでも思い出すべきだ』

 歪む水鏡にユラユラと波紋が浮かび…向こう側に、ニッコリ笑ったバロックが現れた。彼を中心に魔王が集まり、今いるダンジョン外の上空に停滞している。何故ダンジョンを出られたんだと驚くが、やはり魔王連中にはあまり効果は…なかったのか。

 くそっ…オレの魔法じゃ、侵攻を止められないのかよ!

【災厄の子らよ。

 初めまして、と言うべきか。漸く会えたと言うべきか。これほど長い年月が掛かるなんてイチたちも正直驚いているよ。

 異なる世界にサヨウナラを告げよう。

 我々は魔王。この世界に残った最後の七人。今日、君たちに終焉を知らせに来た親切な客人さ】

 糸を上から吊るし、巨大な水鏡をジャンプして飛び越える。バロックの声に耳を傾けることなくアヴァロアに対して拳を握り、繰り出す。最小限の動きのみで拳を躱されるが読み通り。拳に巻いた藍色の糸を奴が見たら、魔法が発動する。

『糸魔法 七色の罠アイ

 七色の罠シリーズの藍色、アイ。日輪の光が届かない空間でのみ使える不可視の魔法だ。五秒という僅かな時間だけオレの姿が見えなくなる。

 ムラサキでは姿を変えることは出来ても消すことは出来ない。しかし、アイならば出来る。正面から再度拳を振りかぶる。

 恨むなよっ…!










 しかし、オレの攻撃は届かなかった。

『ぃっ…!』

 殴ろうとした右腕に鋭い痛みが走って咄嗟に手を解いてしまった。しかも、その時に声が漏れてしまってアヴァロアに捕まってしまったのだ。

 両手首を赤い水が拘束し、何故か彼に横抱きにされる。

 いやっ、それも問題だけど今はそっちより先に!!


『言ったでしょう』

 あの痛みには覚えがある。

『最適の伴侶について』

 何度も何度も修行中に浴びたもの。

『最推しですからね、彼は』

 油断すると、すぐに師匠からの雷魔法の小さな静電気バージョンをお見舞いされた。そう…あの痛みは間違いない、間違い…ない。

『ああ。とてもお似合いです。アヴァロア氏、どうか扱いには細心の注意を。

 じゃじゃ馬さんなので』

 そこにいたのは、黒い衣服に身を包んだ二人の信徒と…覆面を脱いで髪をかき上げながら恍惚に表情を歪めた、カグヤだった。

 …は?

 
 …誰がじゃじゃ馬さんか!! 蹴ってやろうか、馬らしくな!!

『私にはタタラ様を愛する資格も、その気もないが。今更取り繕っても無駄だ』

『わかってはいるのですがね。貴殿が上手くやって下されば全て丸く収まっていたものをと思うと、口惜しいのですよ』

 好きじゃない奴には触られるし、師匠にはなんかよくわかんないけど裏切られるしっ…

『正に。

 理想的な光景なもので、つい』

 …だれかっ

 ノルエフリン…!! お前の癒しが必要だーっ!


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