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鉄の壁の章

エルダードワーフの正体 シャニ達の気持ち

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 とある日の深夜。

「んん……。ぐー……」
「…………」

 シャニは一人ベッドから抜け出す。
 隣では彼女の最も大切な者である来人が眠っていた。
 彼を起こさないよう静かに服を着て寝室を出ようとする。
 
 ――チラッ

 つい後ろを振り向いてしまった。
 別に来人が起きた気配がしたからではない。
 先ほどまで自分を愛してくれた男の顔をずっと見ていたかったからだ。

(愛しい人。そのままあなたの胸の中で眠っていたいけど。行かなくちゃ)

 自宅を出たシャニは気配を殺し、一人ラベレ村の中を駆けていった。
 彼女が目指すのは遭難者を一時的に保護する小屋である。
 シャニも発見された時は少しの間、この小屋の中で過ごした。

 村の中は平和であり特に見つかって困ることはないが、無用な混乱を避けるためだ。
 それにシャニは今から聞かれてはならない話をしようとも思っている。
 これは彼女なりの配慮であった。

 保護室には見張りなどはおらず、誰でも気軽に入れる。
 シャニは音を立てないよう静かに部屋に入っていく。
 そしてエルダードワーフの少女が眠るベッドの横で止まった。

「リリ、起きなさい」
 
 シャニの言葉を聞き、昏睡状態だった少女がゆっくりと目を覚ました。
 
「こ、ここは……。一体私は何を……。あれ? た、隊長っ!?」

 ――スッ

 少女の口を押さえた。
 今は深夜だ。寝ている村民が声を聞いて起きてくるかもしれない。
 
「静かに。落ち着きなさい」
「…………」

 リリと呼ばれた少女は声を出さずに頷いた。 
 どうやらこの二人に面識はあるようだ。

「そのまま聞きなさい。少し長くなります」

 シャニは語り出す。
 自分達の身に何が起きたのかを。
 王都を守るために異形に戦いを挑み、そして敗れたこと。
 命は助かったが意識を失い長い時間森をさ迷っていたこと。
 そして異邦人の男に助けられたことを。

「そ、そんな……。では王都は……」
「滅びました。私達が帰る家はもうありません」

 そう、エルダードワーフの少女もまたシャニが率いる暗殺部隊の一員であった。
 
 だがリリは実行部隊ではなく、どちらかというと研究員としての役割が多かった。
 それはエルダードワーフ特有の能力を買われてのものだ。

 エルダードワーフは一般のドワーフとは違う姿をしている。
 見た目はほとんど人間と変わらない。唯一違うとこがあるとすれば目だろう。
 白目が小さく、黒目が大きい。まるで子犬のような瞳をしているのだ。

 元々ドワーフは妖精が種族の祖と言われている。
 だが妖精と言っても幅が広く、ノームであったりニンフであったりと様々だ。
 長い時間の中でドワーフは強靭な肉体を得て今の姿になったが、古来より妖精の血を引くもの全てをドワーフと呼んでいた。リリのような者も含めてだ。
 
 リリはニンフとしての特性を強く受け継いでしまったのだろう。
 そういったドワーフは今は古代種、エルダードワーフと呼ばれている。
 
「隊長、ではここは一体どこなのですか?」
「ここは魔の森の奥深くです」

 リリはシャニが何を言っているのか理解出来なかった。
 王都最強と呼ばれた暗殺部隊ですら異形達に歯が立たなかったのだ。
 そのような化け物の住みかで生活するなど自殺行為に等しい。

「信じられないのも無理はありません。ですが事実です」
「隊長が嘘を言うとは思えません。恐らく真実なのでしょう」

 シャニは部隊を率いる時は常に冷静に判断し指示をしてきた。
 そのシャニが夢物語のようなことは言うはずがない。
 
 そしてシャニは言葉を続ける。
 彼女がリリを起こしたのはかつての部下との再会を喜ぶためではないからだ。

「覚えていますか? 私達の計画を」
「はい。忘れるはずがありません。そのために生きて来ましたから」

「ならば協力しなさい。私達……いえ、ライト殿ならば異形達の喉元に刃を突き付けられるはずです」
「ライト? 新しい部隊員ですか?」

 とリリは尋ねる。
 しかし返ってきた答えは想像していたものではなかった。

「恋人です」
「恋人っ!?」

 ――パシッ

 シャニは再びリリの口を押さえる。
 リリは信じられなかった。
 仕事一筋であり、1000人もの猛者を束ねていた最強の女の口から出た台詞とは思えなかった。
 しかもシャニは亜種であり、その奇異な姿から近づく男性はいないはず。
 たまに一緒に飲みに行ったが、その度に淡々と彼氏が欲しいだの、ムラムラするなど聞かされていたのだ。
 
「声が大きいですよ。嘘ではありません。ライト殿は異邦人です。強大な力を持っています。ライト殿の力、そしてあなたの知識があれば……」
「そうですか。分かりました。協力することにします。ですがその前にライトなる人物がどのような者かを知る必要があります」

 リリは暗殺部隊に所属はしていたが、実行部隊ではなく役割としては研究員のようなものだ。
 エルダードワーフは肉体としての強さはドワーフより遥かに劣る。
 しかしその代わりに聡明な知識を持っていた。
 そしてリリは対異形用の兵器の製造を任されていたのだ。

 リリの知識は大きな武器となる。
 それを素性の分からない者に任せるか否かを自分の目で確かめる必要がある。
 それと興味があった。シャニとは暗殺部隊の一員として20年以上の付き合いだ。
 彼女の気持ちなど手に取るように分かる。
 
(あの隊長が……。ライトという男の名を出す度に尻尾をあんなに激しく動かすなんて……)

 リリ自身も興味があった。沈着冷静、一騎当千のシャニをここまで夢中にさせる男の存在を。
 
 そして怒りも感じていた。リリは異形殲滅に命をかけるシャニを尊敬していたからだ。
 そんな彼女が男にうつつを抜かしていると思ったからだ。
 そして自分と同じ悩みを持つシャニだからこそ彼女に付き従ってきた部分もあるのだ。

 ドワーフの間ではエルダードワーフに対して差別などはなかった。
 このような仲間もいるのだろう。奇妙な隣人程度の認識だ。
 リリもドワーフ社会の中で特に苛めに会うこともなく平和に過ごしてきた。
 だがエルダードワーフ特有の姿はドワーフ、そして他種族にとって受け入れ難い特徴を持っていた。

 前述でも語った通り、シャニとリリは20年以上の付き合いがあるのだ。
 しかしその姿はまるで少女のようだ。
 妖精の血が濃いためか、子供のような姿で成人を迎えてしまったのだ。
 そう、彼女はすでに大人なのである。

 胸も尻も小さく、女としての魅力に欠ける。
 エルフにとっては小さい胸は魅力的に見えるかもしれないがリリの身長は140㎝あるかないかだ。
 貧乳好きのエルフでさえ、子供のような姿のリリに魅力は感じないだろう。
 
 そう、リリもシャニ同様、恋愛はすっぱり諦めて仕事に生きる女なのであった。
 しかしリリとあることを思い付く。 
 どうやらシャニの話では来人という男はシャニだけではなく複数人の恋人がいる。
 一人の男に多数の女を囲うのはこの世界では珍しいことではない。
 シャニの様子を見ると良好な関係を保っていることが分かった。

 ならば……。リリはとあることを思い付き、シャニに伝え始めた。

「は、はい。しかしライトという者に私の正体を明かさないで下さい。力を貸すに足る人物かをこの目で確かめなければなりませんから」
「分かりました。ではこれで失礼します。また明日会いましょう」

 ――シュタッ

 シャニは去っていった。

(隊長を受け入れてくれた男。もしかしたら私も……。で、でもさすがに私は無理よね。だってこんな体なんだし)

 とリリはAカップに満たない自分の体を見つめ、そして無用な期待はすまいと決心した。

 いやリリよ。その必要はないかもしれないぞ。
 日本にはこんな諺がある。
 YESロリータNOタッチ。
 紳士たる来人はその一線は絶対に超えることはなかった。

 しかし……。
 多くの紳士同様、来人は合法ロリならばAカップでもごはん三杯は食べられる男であり、むしろ大好物の一つなのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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