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石の壁の章

愛してる

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「ライトさん、逃げて……」
 
 逃げられると思う? 可愛い恋人が命の危機にあるのにさ。
 まぁ命の危険があるのは俺も同じだがね。
 
『ブルルルルッ……』

 こいつは初めて見るタイプの異形だな。
 まるで猪のようなフォルムをしている。
 だがその大きさは猪の比じゃない。
 まるで小型トラックくらいの大きさだ。

 そりゃ櫓も壊されるよな。
 
 残る異形はこいつと村にヘイトが向かっている10体程度だ。
 壊滅は避けられた。村を襲っている異形はデュパ達が退治してくれるだろう。
 後は目の前の化け物をどう倒すかだよな……。

 まずは動けないリディアを守らないとな。

【壁っ!】

 リディアの四方を壁で囲う。
 さぁ化け物、お前の相手は俺だ!

「おらぁっ!」

 ――ザクッ!

 槍を投げつけると、穂先は異形に刺さる。
 大したダメージにはならないだろうが、しっかりとヘイトは取れたみたいだ。

『ブルルッ!』
「ははは! こっちだ! 来いよ豚野郎!」

 と猪型の異形を挑発する!
 さぁ逃げないとな!
 
 異形は俺を轢き殺そうと四本の足を駆使し、ものすごいスピードで迫ってくる!

【壁!】

 ――ドゴォッ!

 異形の目の前に壁を作るが、まるで紙を破るが如く簡単に突破された。
 くそ、なんて威力だよ。
 こりゃ軽自動車に轢かれるどころじゃないぞ。

 よくニュースで全身を強く打ち……と流れるが、それは体の水分が衝撃により体内を圧迫。
 人間の体は破裂するそうだ。
 こいつに轢かれたら俺もそうなるかもな……。

 ――バヒュッ!

「うおっ!?」

 間一髪! 咄嗟に身をかわし異形の体当たりを避ける! 
 やべえ! 今のは危なかった!

 まったく、考える時間もあったもんじゃない。
 態勢を立て直しダイヤで作った短剣を構える。
 槍はまだ異形に刺さったままだからな。

 ――ザッザッ

 異形は突進する前の牛の如く、前足で土をかく。
 ここは平原であり身を隠せる場所は見当たらない。 
 向上した身体能力はあるが、異形の攻撃を避け続けることには限界があるだろう。
 
 ならやるしかないよな!

「来い!」
『ブルルルルッ!』

 異形が風のような速度で突進してくる!
 これは避けられんなぁ。
 ふふ、むしろ狙い通りだったりして。

【壁っ!】

 ――ズゴゴゴッ!

 異形に向かって壁を発動する。
 目の前に壁が現れたにも関わらず異形は突進し続ける。
 さっきはあっさりと壁を破られた。
 石壁程度じゃこいつは止められないだろう。
 
 それが分かっていながら何故俺が壁を建てたと思う?
 
 ――ズゴッ!

『ブルル……』

 壁は破られ……ることはなかった。
 今建てた壁はとある仕掛けを施してある。
 T字型に壁を建てたんだ。要は中央に支えを取り付けたのと同じだ。
 壁っていうのは建てた方向によって強度が変わってくる。
 横向きに建てた壁にこいつ程のパワーで体当たりされたら例え石壁であっても耐えられないだろうさ。
 
 でもな、縦向きならどうだ?
 今建てた壁は幅5m程のものだ。
 壁の厚みは30㎝程度だが、縦向きならば5mの支えがあることになる。
 
 異形はしこたま頭を打ったのだろう。
 フラフラとよろめき、そして足を折るように地面にひれ伏した。
 
 むふふ、俺が壁しか作れないと思って油断しただろ?
 異形に刺さった槍を抜く。
 そしてさらに異形の脳天にめがけ……。

「あばよ」

 ――ドシュッ

 渾身の力を込めて貫いた。


◇◆◇


 ふぅ、何とかなったな。
 まさかあんなにでかい異形が出てくるとは思わなかったよ。
 
 俺は疲れなのか出血しているのか分からないが、異形を倒した後に動けないでいた。
 地面に座ったまま少し休んでいるとラベレ村から歓声が聞こえてくる。

「グルルルルッ! 勝ったぞ!」
「やりました! で、でもライト様が! リディアさんだって!」

 アーニャの声だ。
 しまった! すっかり忘れてた!
 リディアを助けるために一人で村を飛び出したんだ。
 それにリディアはシェルターとして作った壁の中にいる。
 迎えに行かなくちゃ。
 
 多少ふらつくが歩けるぐらいには回復した。
 リディアがいるのは森に近い場所だったな。
 一人平原を歩いていると石壁に囲まれたシェルターはすぐに見つかった。

 リディアは無事かな? 
 櫓から落ちた時は背中を打ったせいでかなり苦しそうだった。
 後で背中をさすさすしてやろう。

 俺は壁の前に立ち……。

【消えろ】

 ――ズズウンッ

 大きな音を立て壁が消え去る。  
 リディアはその中で膝を抱くようにして座っていた。
 
「リディア?」
「ラ、ライトさん……?」

 良かった、もう大丈夫そうだな。
 俺は座ったままの彼女に手を伸ばすが。

 ――ガバッ! ギュゥゥゥッ!

 突然抱きついてきた!

「うわあぁぁんっ! ライトさん! こわがったよ~!」
 
 リディアはそのまま泣き出した。 
 よしよし、我慢してたんだな。怖かったよな。
 俺はそのままリディアを抱きしめ、彼女が落ち着くのを待つことにした。
 
 少し経つとリディアはスンスンと鼻を啜りながら……。

「ライトさん、なんであんな無茶なことをしたんですか……?」

 と俺に抱かれつつ睨んでくる。
 お、怒ってるな。
 
「分かってるんですか!? 壁はライトさんしか使えないんです! もしライトさんの身に何かあったら村に住む人達を危険に晒すことになるんですよ!」

 おぉう……。予想はしていたが、これは反論出来んなぁ。
 確かにリディアの言う通りだ。俺の死ねば明日から異形の襲撃には耐えられないだろう。
 それは村にいるアーニャ達の死を意味する。
 それでも俺はリディアを助けに向かった。

「ごめんな。でもさ、仕方ないだろ? リディアのことを愛してるんだから」
「そんなこと言っても駄目です! ライトさんは自覚が無さ過ぎ……? え? い、今なんて言ったんですか?」

 ん? どういうこと?
 リディアの顔が一気に赤くなったぞ。

「いや、リディアのことが大切だから……」
「ち、違います! そうじゃなくて愛してるって……」

「うん、愛してるよ。あれ? 言ってなかったっけ?」 
「初めて言われましたよ! う、うえ~ん。ようやぐ言ってもらえた~」

 とリディアはさっきよりも大きな声で大号泣。
 嘘だぁ。毎日のように愛してるって……?
 ん? そういえば言ってなかったかも。
 毎日のようにエッチはするし、その都度好きだと伝えていたが、何気に愛してるは初だったか。

「ほ、ほら。泣かないでさ。村に戻ろう」
「やだ~。もっと言って欲しい~」

 仕方ないのでリディアが許してくれるまで彼女のことを愛してると伝える。
 その後村に戻った俺はアーニャにこっぴどく怒られた。
 
「ライト様! 反省して下さい! 貴方の代わりはいないんですよ!」

 ガラガラ蛇のように尻尾を鳴らして威嚇してくる。
 ラミア怖いっす。

「ご、ごめんな。そうだ、アーニャにはまだ言ってなかったな。アーニャ、愛してるよ」
「そんなこと言っても……? い、今なんて……」

「二人とも愛してるよ」
 
 ――ピコココココーンッ

【配偶者満足度が上限に達しました。成長ボーナスとしてXY軸移動がアンロックされます】

 ちょろい二人だな。


◇◆◇


☆現在のステータス
名前:前川 来人
年齢:40
種族:ヒューマン
力:120(+20) 魔力:0 
能力:壁レベル3(石)
派生効果①:敷地成長促進
派生効果②:遭難者誘導
派生効果③:感度調整
派生効果④:A/P切り替え
派生効果⑤:モース硬度選択
派生効果⑥:XY軸移動
配偶者:リディア、アーニャ

名前:リディア
年齢:???
種族:エルフ
力:70(+20) 魔力:110(+30)
能力:弓術 精霊魔法(敷地内限定)
配偶者満足度:1/100000

名前:アーニャ
年齢:???
種族:ラミア
力:100(+15) 魔力:0
能力:薬の知識
配偶者満足度:1/100000

☆総村民数35人
・エルフ:10人
・ラミア:5人
・リザードマン:20人

☆総村民満足:0/10000
・大規模襲撃のストレスによりリセット

☆現在のラベレ村
・石壁
・敷地面積:5000㎡

☆設備
・家屋:10棟
・倉庫:2棟
・櫓:4基
・畑:1000㎡
・露天風呂:2つ
・水路
・養殖場:運用開始
・金剛石の矢
・金剛石の槍

☆生産品
・ナババ:パンの原料。
・ミンゴ:果物。
・ヤマイモ:生食可。ねっとりしてる。
・茶葉:薬の原料。嗜好品としても優秀。
・カエデ:樹液が貴重な甘味となる。
・豆:保存がきく。大豆に近い。
・キャ采:葉野菜。鍋にいれたい味。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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