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石の壁の章

ダイヤモンドは砕けない

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 異形の襲撃をなんとか退けつつ、俺達は三回目の満月の夜を迎える。
 村の広場には戦いに参加する村民が集まってくれた。
 その数総勢30名。村民の中にはまだ幼い者もいる。
 子供の世話が必要なデュパの奥さんなんかは家で待機してもらった。

「そろそろ来ますね。それでは配置につきます」
「あぁ、気をつけてな」

 リディア達エルフは壁に隣接している櫓に登る。
 今回は敷地の外にも櫓を建てておいた。より遠くの異形にいち早く攻撃するためだ。
 櫓同士の移動は竹の橋を使う。村の中にある櫓から外の櫓に移動出来るのだ。
 櫓の間に橋を渡してあるので、もし先頭の櫓が破壊されてもすぐに隣の櫓に逃げられるようにしている。
 
 安全……とは言い難いが、勇敢なエルフ達は勇んで櫓を登っていった。
 
「さぁ来なさい! 金剛石の矢で貫いてあげるから!」

 リディアは櫓の上から雄叫びをあげる。
 それに呼応するようにエルフ達も大きな声を出した。

「リディアさん、大丈夫でしょうか……」
「心配だよな……。だが異形に勝つには先手を打つ必要があるからね。とにかく村に到達する前に数を減らすんだ」

 今回の櫓は竹で骨組みを作った後、石壁で囲っている。 
 防御力は村を守る壁と同等のものだ。
 だが最近現れる異形は体の大きなものが多く、石壁といえど油断していると破壊される可能性もある。
 実際前回の襲撃はかなりヤバかった。

 だが今の俺達にはダイヤモンドで作った槍と矢じりがあるからな!

「アーニャ、戦う前から気落ちしちゃ駄目だぞ。俺達なら勝てる。勝って生き残ることだけを考えるんだ」
「はい……。ふふ、そうですよね。ライト様とこれからもずっと一緒にいたいですから。こんなところで死んでしまう場合じゃないですよね!」

 とアーニャは笑う。
 ふふ、元気が出たみたいだな。
 それじゃ俺達も気合いを入れるか!

「槍を持て! 近づく異形は串刺しにしてやれ!」
「はい!」「グルルルルッ!」

 ラミア、リザードマンは各自覗き穴の前に立ち槍を構える。
 前回の竹槍では異形に攻撃が通らなかったが、今の槍は特別でね。
 穂先がダイヤモンドなんだ。モース硬度10の世界で最も硬い石。これがあれば異形と充分に渡り合える。
 もちろんダイヤモンドは砕けやすいことは知っている。
 なので壊れてもすぐに攻撃に戻れるよう一人5本のストックを用意してある。
 ダイヤモンドの矢じりも1000個は作ってある。
 恐らく足りるはずだ。
 むしろ矢と槍が尽きれば俺達の負けは決まるんだけどな。

 まぁそうならないように努力するさ!

「来ます! 森からです!」
「よし! 撃てー!」

 俺の掛け声に応じてリディア達エルフは櫓から矢を放ち始める!

 ――ドシュッ! グサッ!

『ウバァッ!?』
『ウルルルッ!』

 よし! きいてるぞ!
 ダイヤモンドの矢は次々に異形を撃ち抜いていく。
 だが死を恐れない異形達は仲間の屍を踏みつけ、やがて外に建てた櫓に到達した。

 ――ドォンッ! ピシッ!

「きゃあっ!?」

 最前線に立っていたリディアの櫓が攻撃を受ける。
 敵の数は膨大だ。百や二百じゃすまないんじゃないか?

「リディア! 無理するな! 櫓にヒビが入った! 倒れる前に撤退しろ!」
「はい!」

 リディアは竹の橋を渡り、隣の櫓に移動する。
 次の瞬間……。

 ――ドカッ! ズズウンッ

 異形の攻撃によって櫓が倒れた。
 あ、危なかった。撤退してなかったらリディアは異形の餌食になっていただろう。

 別の櫓に移動したリディアはそのまま矢を放ち続ける。
 リディア、頼むから無理はしないでくれよ。

 その後も外に建てた櫓は次々に打ち破られていく。
 だが俺達も負けてはいない。
 先手を打ったことで異形の数を減らすことが出来たしな。

 しかし矢の雨を掻い潜り村の前に到達した異形もいる。
 ここからが俺達の出番だ!

「突け!」
「はい!」「グルルルルッ!」

 ――ザクッ! ドシュッ!

 さすがはダイヤモンドの穂先だ。
 プリンにフォークを刺すが如く異形を貫いていく。
 力では俺に及ばないアーニャですら一撃で異形を倒してしまった。

「す、すごい……」
「ははは! さすがはダイヤだな! ちょっと贅沢な使い方かもしれないけどな!」

 壁を壊そうとする前に俺達の槍が異形の数を減らしていく。
 ふぅ、このままいけば勝てそうだな。
 リディア達も順調だ。矢はまだ余裕があるみたい……。

 ――ダダダダダッ……

 音がした。今までの異形とは違う足音。
 まるで獣が野を走るような音だ。

「あれは……。み、みんな逃げ……!」

 ――ダダダダダッ! ズドォンッ!

 櫓の上から異変に気づいたリディアだが、判断が遅かった。
 足音の正体である大きな影。それの体当たりを食らい、櫓は粉々となる。
 間一髪櫓にいたエルフは逃げられたが、リディアだけは……。

 ――ドサッ

「う、うぅ……」

 背中から地面に落ちてしまった。
 肺の空気が抜けてしまったのだろう。まともに息が出来ていないようだ。

「ライト様! 大変です! え? ラ、ライト様……?」
「グルルルルッ! ライト! 何をしている!?」
「すまん! 援護は頼んだ!」

 アーニャ達の驚きの声がする。
 仕方ないよな。だって俺は既に壁の外にいるからだ。
 リディア、今助けるからな。

『ウルルルッ!』
「うるせえっ! 退きやがれ!」

 ――ザクッ! ドシュッ!

 襲いかかる異形に槍を突き立てる!
 やはり俺自身の力もかなり上がっているようだ。
 順調にレベルアップしたからな。
 今では転移してきた時の20倍の力があるんだ。
 それなりには戦える。
 だが所詮それなりだ。他の転移者はどうやら戦うことに特化した力を持っていたようだが、俺は違う。
 クラフト寄りの力を持つ俺は異形に囲まれてしまい……。

『ウバァッ!』

 ――ザクッ

 右腕に激しい痛みが走る。
 ざっくりと肉を抉られたようだ。
 日本だったらすぐに救急車を呼ばなくてはならないだろう。
 ここにそんなものはないがね。

「邪魔だ!」

 ――ビュンッ

 円を描くように槍を振り回す!
 さすがはダイヤの穂先だな。
 胴体が真っ二つになった異形が地面に倒れた。

「ライト様を守って!」
「グルルルルッ! 援護射撃だ! 撃てー!」

 村からはデュパとアーニャが必死に指揮をとっていた。
 その甲斐あってか俺を囲む異形を次々に撃ち抜いていく。

 そしてとうとう俺はリディアのもとにたどり着くわけだが……。もちろん馬鹿みたいにでかい異形もいるわけだよ。

「リディア、大丈夫か?」
「ごほっ……。ライトさん、なんでここに……」

 なんでって? そりゃ恋人がピンチだからさ。
 助けに来ない彼氏なんているか?
 でも今は言わない。
 まずは目の前にいる化け物を退治してからだよな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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