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木の壁の章
初めての水分
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「はぁはぁ……」
カラカラになった喉を押さえつつ、平原を歩くこと数時間。
太陽が真上で輝く頃、俺はようやく目的地である森の入り口に到着した。
森からはけたたましく鳴く鳥の声や獣が枝をパキパキと踏みしめる音が響く。
これは大型の肉食獣もいるんだろうなぁ……。
不幸なことに俺の持っているチートは戦う力ではない。壁を自由に生み出すという謎の力だ。
バリケードとして使うには便利かもしれんが、所詮木製の壁だ。
熊などの大型の獣やファンタジーでいうところの魔物なんかが出てきた時は簡単に破られてしまうかもしれん。
何もないよりはマシだがね。
ネットでの知識しかないが、森っていうのは命を育む場所。水原があり、そこに多くの木々、植物が根を下ろす。
それを狙って多くの動物が集まり、生態系を作り上げていく。
生態系があるということは食物連鎖もあるってことだ。一体どんな動物がいるのやら……。
俺は腰に巻いていたスーツに袖を通す。
ワイシャツだけでは枝に引っ掻けた時に怪我をするかもしれないからな。
訳の分からない世界では未知の病原菌がいるかもしれないし、ましてや怪我や病気になっても治す手段がない。
俺のチートが魔法だったら回復魔法とか使えたのかもな。
なんて無い物ねだりをしながら森の奥に進む。
なるべくなら川を見つけたい。駄目なら最悪、窪地を探そう。
窪地には降った雨が貯まるはず。地面を掘れば水が湧いてくるかもしれない。
とは言ってもキャンプ経験すらない素人の俺が、そう簡単に水を見つけられるだろうか?
いやいや、弱気になるな! 俺に残された時間は恐らく二日。その間に水分を摂取しなければ待っているのは避けられい死だけだ。
気合いを入れ直し、森を歩いていると……。
――コンッ ガササッ
な、なんだ? 何かを蹴ったようだ。
石にしては軽かったし、それなりの大きさがあったような。
気になるので俺が蹴った何かの正体を調べることにした。
確かにあっちに飛んでったよな。
軽く辺りを探してみると……?
こ、これは!? これは果物だ!
俺は果物を手にしてみる。ずいぶんと軽い。木から落ちて大分時間が経っているんだろうな。
少し腐敗臭もする。これは食べられないな。
だが嬉しい事実も見つけた。その果物は明らかに他の動物が齧ったような痕跡があった。
動物が食べられる。つまり毒がないということだ!
腐った果物を捨て上を見上げる!
きっと木には果物がなっているはず!
期待を胸に十メートルはあろうかという木を見上げ続けていると……。
「あった! よっしゃー!」
木の天辺付近にたわわに実った果物を発見!
見た目はリンゴのようだ。だがここは異世界。味はリンゴのそれと似ているかどうかは分からない。
だがそんなことは関係無い! 安全に水分を摂ることが出来るのだ!
だがここで問題が発生する。
「登れ……るわけないよなぁ」
そう、果物を取ろうにも木が高すぎるのだ。
子供の時は気軽に木登りなんかした覚えはあるが、それは高くて三メートル程度。
大人になり、しばらくまともに運動などしたことがない俺にこんな高い木を登れるわけないじゃん。
ならば! これならどうだ!
――ガッ ビュオンッ!
地面に落ちていた拳大の石を拾い、果物目掛け投げつける!
お願い! 当たって!
――スカッ
石は果物にがすることなく、森の中に消えていった。
き、期待通りにいくとは思っていないさ……。
「どちくしょー!」
――ガッ! ビュンッ!
でもやっぱり悔しい!
その後も石を拾っては投げるを繰り返す!
投擲を続けること数十回。
ようやく投げた石が果物に命中。
地面に落ちた果物を拾う。
こ、これでようやく水分が摂れる……。
大きく口を開けた……ところで、ちょっと試してみたいことを思い付いた。
俺をこの世界に送り込んだ神の言葉を思い出したんだ。
確か転移者特典でステータスが見られるようになったんだよな?
もしかしたらこの果物のステータスなんかも見られるかもしれん。
一応動物が食べたという痕跡は発見したものの、念には念を入れよう。
動物にとっては食べ物かもしれんが、人にとっては毒になり得ることだって考えられなくはないし。
俺は果物に向かって唱えてみる。
「ス、ステータス」
すると視界に現れたステータスボード。
おお、こんな感じで見られるんだな。
・ミンゴ:食用。魔の森ではポピュラーな果物。水分は多いが甘味は少ない。
食用! これはもう間違いない!
――ガブッ! シャクシャクッ!
俺はミンゴと呼ばれる果物を齧る。
確かに甘味は少ないが、水分は多いようだ。
だがそんなことはどうでもよかった。
「美味え……」
美味いのだ。体が欲していた水分が補える。
とりあえず命を繋ぐことができたが、まだ安心は出来ない。
一日に必要な水分は3リットル程度だと聞く。
今摂取した水分は数百グラム程度に過ぎないだろう。
石を投げるのにもカロリーを使うだろうし、これは非効率過ぎるだろうなぁ。
「やっぱり川か泉を見つけなくちゃ」
誰が聞いてるわけでもないのに口に出してしまう。
しかしこの先に水源があるとは限らない。
少しだけ石を投げ続け、3つのミンゴなる果物をゲットした。
そこでようやく気付く。
「ヤバい……」
そうヤバいのだ。いつの間にか辺りは暗闇に包まれていた。
カラカラになった喉を押さえつつ、平原を歩くこと数時間。
太陽が真上で輝く頃、俺はようやく目的地である森の入り口に到着した。
森からはけたたましく鳴く鳥の声や獣が枝をパキパキと踏みしめる音が響く。
これは大型の肉食獣もいるんだろうなぁ……。
不幸なことに俺の持っているチートは戦う力ではない。壁を自由に生み出すという謎の力だ。
バリケードとして使うには便利かもしれんが、所詮木製の壁だ。
熊などの大型の獣やファンタジーでいうところの魔物なんかが出てきた時は簡単に破られてしまうかもしれん。
何もないよりはマシだがね。
ネットでの知識しかないが、森っていうのは命を育む場所。水原があり、そこに多くの木々、植物が根を下ろす。
それを狙って多くの動物が集まり、生態系を作り上げていく。
生態系があるということは食物連鎖もあるってことだ。一体どんな動物がいるのやら……。
俺は腰に巻いていたスーツに袖を通す。
ワイシャツだけでは枝に引っ掻けた時に怪我をするかもしれないからな。
訳の分からない世界では未知の病原菌がいるかもしれないし、ましてや怪我や病気になっても治す手段がない。
俺のチートが魔法だったら回復魔法とか使えたのかもな。
なんて無い物ねだりをしながら森の奥に進む。
なるべくなら川を見つけたい。駄目なら最悪、窪地を探そう。
窪地には降った雨が貯まるはず。地面を掘れば水が湧いてくるかもしれない。
とは言ってもキャンプ経験すらない素人の俺が、そう簡単に水を見つけられるだろうか?
いやいや、弱気になるな! 俺に残された時間は恐らく二日。その間に水分を摂取しなければ待っているのは避けられい死だけだ。
気合いを入れ直し、森を歩いていると……。
――コンッ ガササッ
な、なんだ? 何かを蹴ったようだ。
石にしては軽かったし、それなりの大きさがあったような。
気になるので俺が蹴った何かの正体を調べることにした。
確かにあっちに飛んでったよな。
軽く辺りを探してみると……?
こ、これは!? これは果物だ!
俺は果物を手にしてみる。ずいぶんと軽い。木から落ちて大分時間が経っているんだろうな。
少し腐敗臭もする。これは食べられないな。
だが嬉しい事実も見つけた。その果物は明らかに他の動物が齧ったような痕跡があった。
動物が食べられる。つまり毒がないということだ!
腐った果物を捨て上を見上げる!
きっと木には果物がなっているはず!
期待を胸に十メートルはあろうかという木を見上げ続けていると……。
「あった! よっしゃー!」
木の天辺付近にたわわに実った果物を発見!
見た目はリンゴのようだ。だがここは異世界。味はリンゴのそれと似ているかどうかは分からない。
だがそんなことは関係無い! 安全に水分を摂ることが出来るのだ!
だがここで問題が発生する。
「登れ……るわけないよなぁ」
そう、果物を取ろうにも木が高すぎるのだ。
子供の時は気軽に木登りなんかした覚えはあるが、それは高くて三メートル程度。
大人になり、しばらくまともに運動などしたことがない俺にこんな高い木を登れるわけないじゃん。
ならば! これならどうだ!
――ガッ ビュオンッ!
地面に落ちていた拳大の石を拾い、果物目掛け投げつける!
お願い! 当たって!
――スカッ
石は果物にがすることなく、森の中に消えていった。
き、期待通りにいくとは思っていないさ……。
「どちくしょー!」
――ガッ! ビュンッ!
でもやっぱり悔しい!
その後も石を拾っては投げるを繰り返す!
投擲を続けること数十回。
ようやく投げた石が果物に命中。
地面に落ちた果物を拾う。
こ、これでようやく水分が摂れる……。
大きく口を開けた……ところで、ちょっと試してみたいことを思い付いた。
俺をこの世界に送り込んだ神の言葉を思い出したんだ。
確か転移者特典でステータスが見られるようになったんだよな?
もしかしたらこの果物のステータスなんかも見られるかもしれん。
一応動物が食べたという痕跡は発見したものの、念には念を入れよう。
動物にとっては食べ物かもしれんが、人にとっては毒になり得ることだって考えられなくはないし。
俺は果物に向かって唱えてみる。
「ス、ステータス」
すると視界に現れたステータスボード。
おお、こんな感じで見られるんだな。
・ミンゴ:食用。魔の森ではポピュラーな果物。水分は多いが甘味は少ない。
食用! これはもう間違いない!
――ガブッ! シャクシャクッ!
俺はミンゴと呼ばれる果物を齧る。
確かに甘味は少ないが、水分は多いようだ。
だがそんなことはどうでもよかった。
「美味え……」
美味いのだ。体が欲していた水分が補える。
とりあえず命を繋ぐことができたが、まだ安心は出来ない。
一日に必要な水分は3リットル程度だと聞く。
今摂取した水分は数百グラム程度に過ぎないだろう。
石を投げるのにもカロリーを使うだろうし、これは非効率過ぎるだろうなぁ。
「やっぱり川か泉を見つけなくちゃ」
誰が聞いてるわけでもないのに口に出してしまう。
しかしこの先に水源があるとは限らない。
少しだけ石を投げ続け、3つのミンゴなる果物をゲットした。
そこでようやく気付く。
「ヤバい……」
そうヤバいのだ。いつの間にか辺りは暗闇に包まれていた。
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