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第一章 黒瑪瑙の陰陽師
《十七》
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笙を始め、三管の音色が太鼓の拍子に合わせて鳴り響く。
厳かに、静かに。
白い装束を纏った舞師は斉天に扮し、役を全うする。
しかし、舞台の外は隔たれた別世界のように妖魔で満ちあふれていた。
舞台の外壁で身動きが取れず留まるワニの群れ。
それらの下には未だ勢いが止まらず、ワニを吐き出すテムイがあった。
この暴走を止めなければ、事態を収束させるのは困難きわまりない。
「よし」
舞台の淵には朱色の柵が囲っている。
境界線のように設置された柵から桜下はテムイを見定めた。
桜下は舞台の柵を跳び越えて、下へと落下していく。
いや、落下と言うのは些か語弊がある。
重力によって加算された力はテムイを目がけて一直線に突き進む。
「せえ、のっ」
振り落とされた蹴りの一撃が白無垢の門に容赦なく亀裂を走らせる。
ガラガラと。
上から下へ、大理石で作られた強固な門が崩れた積み木の城のように。
巨大な石の残骸が紫の光を失い崩れていく。
「ふぅ」
息を漏らし、桜下は崩れたテムイの上から辺りの様子を見渡す。
黒いワニが桜下を囲むように覆い尽くし、よだれを垂らし禍々しい目が桜下を捕食しようと狙っている。
「これだけ派手に壊せば気がつくか」
桜下はワニに囲まれた状況に怯えることなく、冷静に片手で印を組む。
「一線」
口を開きやってくるワニの一匹に向けて桜下は糸を走らせる。
糸が絡まり、ワニの動きが遅くなっていく様子を見計らうと、
「はい」
左手を広げる印と同時に糸が展開していく。
捕らえたワニを中心に糸が爆発して広がり、ほかのワニを捕らえていく。
直径六メートルほどに範囲にいたワニたちは桜下の糸の結界の餌食となった。
「シリウス君は向こうに落ちたんだっけ」
正四角に立った舞台の方角に視線を向ける。
大量の妖魔のうめき声と式神の音色が聞こえる中、ズシンと重く叩きつける震動が地面を伝っている。
舞台の外壁とテムイの残骸周辺は糸を張り巡らせるも、まだ動ける妖魔の数は圧倒的に多い。
シリウスの加勢に入ろうと、桜下は舞台の反対側に回ろうと走り出す。
糸の結界六メートル圏内を風の如く走り過ぎていく。
止まったワニの隙間をかいくぐり、結界を出るまでに数秒の時間もかからない。
しかし、桜下は境界線ギリギリのところで歩みを止めた。
前方から現れた四体の巨人。
三メートルの大きさ巨人型の妖魔は現れるとすぐ猛烈なスピードで直進してくる。
「これは……」
大砲の弾のようにやってくる四体の妖魔に桜下は印を掲げて糸を放つ。
放たれた糸は妖魔の身体や妖魔に絡みつくも、勢いは止まらない。
「うーん、準魔くらい?」
「分析してねぇで、避けろ!」
やってくる四つの巨人による猛突進。
髪の隙間から慌てる牡丹に対して、桜下は焦りの表情を見せない。
理性を無くした妖魔をぎりぎりまで引きつける。
「一線」
結界を放つ合図と共に、桜下は高く跳躍した。
三メートルの巨体を越え、弧を描きながら身体をしならせる。
左手から放たれた糸は四体の妖魔に絡みついていく。
「えいやっ」
着地と共に桜下は左手を振うと、妖魔は前に倒れ込み止まったワニの周辺になだれ込む。
手足を動かしながらもがくも、糸の力に立ち上がれない。
「近距離でやればなんとかいけるか。でも、数時間で準魔が四体って、帳の成長速度がやけに早いな……」
倒れた四体の妖魔に桜下は首を傾げ見守る中、一体の妖魔が腕を動かしあるものを掴んだ。
「あ」
ワニを掴みそのまま口に放り込む巨人の妖魔、すぐに身体にも変化が現れる。
身体の一部、腕が鎧の鱗のように覆われ、その様子を見たほか三体の妖魔も手近にあったワニを掴んで食べ始める。
「おつまみ感覚かな」
次々と食べられていくワニたちに向けて、桜下は印を掲げた。
結界の霊力が範囲一帯に強くのし掛かる。
その重圧に耐えきれず、巣に掛かったワニの妖魔たちは内側から糸をはじけ出す。
バン、と。
ワニの身体が白い糸をまき散らしながらはじけ飛び、巨人の上に糸を広げていく。
「大先生、今のうちにシリウス君のところに行ってくれる?」
「あ? なんで俺様があの検非違使のところに行かなきゃならねぇんだ!」
「あれ見てよ」
「あー……?」
桜下は指を妖魔の方向に向けて指し示すと、牡丹は髪の隙間から姿を現し前髪に飛び移る。
見えやすい場所から八つの目を丸くさせていると、糸の下に埋もれた妖魔の動きに気がついた。
「あれだけ糸に絡まってもまだ動けるっつーわけか」
四体ともそれぞれ身体の一部分を鎧のような鱗で皮膚を覆い、手足を未だ動かしながら這い上がろうと試みている。
「これ以上糸を使っても準魔の動きは防ぎきれない。シリウス君の方に行って帝魔に集まっている小魔を抑えた方が効率的だよ」
「冗談じゃねえ、俺様が検非違使に助太刀する義理はねぇよ」
「……そっか」
会ったばかりの相手に、蜘蛛は情をかけるほどの器量はなかった。
牡丹は冷たく言い放ちながら、再び髪の中に隠れようとする。
だがその前に、桜下は牡丹の身体を優しく手に取り手の平に乗せた。
「お願いです、牡丹様。あの子が帝魔を討つ力となって下さい」
真っ直ぐな眼差しを向けて懇願する桜下。
その佇まいは、どこか女性的な面立ちを潜ませていた。
「……ったく、お前がそこまでになるほどかよ」
桜下の様子に牡丹は小さな前足で頭をかく。
夜を纏った瞳の意思には抗えなかった。
「はぁ……しゃあねえ。だがよ、期待はし過ぎるな。勝手にやられていたらそれはあの男の落ち度だ」
「うん、ありがとう」
牡丹は桜下の手平に糸をつけると、ゆっくり安定させながら地面に着地する。
小さな身体が地面に降り立つと素早い動きでその場から離れ、あっという間に姿をくらませた。
「……」
桜下は無事牡丹が離れたところを見届けると、視線を前に向ける。
糸に絡まれた四体の妖魔たちはよろけながらも自力で立ち上がり、殺気だった目で桜下を睨みつけていた。
「さて、やりましょうか」
青年は履き慣れた靴のつま先を軽く地面に叩いて整える。
妖魔が重く動き出した途端、すかさず間合いに詰め寄った。
「はい」
落ち着いたかけ声とは裏腹に、放たれた蹴りの一撃は重く空気を振動させる。
妖魔の顎に目がけて真下から。
三メートルの巨体は宙に浮き、衝撃に耐えきれず妖魔は意識を混濁させる。
「……」
何も言わず、ただじっと。
桜下の目は機械仕掛けのようにほか三体の妖魔を映す。
三体の妖魔たちは倒れた仲間に目もくれず、一斉に桜下に襲いかかる。
大木のような腕が迫る中、桜下は隙間を縫うように身体を翻し、また一体妖魔との距離を詰めていく。
妖魔の腕を足で一蹴り払いのけ、片足で着地すると足を軸として身体をひと回転。
「えいっ」
鱗の鎧で覆われた腹部に向けて放たれた強い一撃。
桜下の蹴りを受けた妖魔は後ろにいた妖魔を巻き込みながら後ろに倒れ込む。
二つ倒れ重なった妖魔の巨体。
そして、残る最後の一体に向けて、桜下は走り高く跳躍した。
くるりと宙で一回転し攻撃の威力を加速させる。
攻撃の要、自身の踵の先は真下にある妖魔の脳天。
「せえ、のっ」
気導術で強化された、渾身の踵落とし。
タイミング良く、笙の音色が響く中、桜下は妖魔に決定的な一打を決めた。
妖魔の巨体がずしんと前に倒れ込むと同時に、桜下は床に着地する。
「……」
蹴りの衝撃によって白目を向く四体の妖魔たち。
動かない妖魔たちを桜下は淡々と機械的な目で観察する。
先手を打った結界術の糸で拘束は出来なかったものの、妖魔の動きを弱体化させるには充分効力を残していた。
手足を伸ばし気絶する妖魔たちに勝負の決着がついたと思わせる光景。
「ダメだこりゃ」
しかし、桜下は肩を落としため息をつく。
状況に慌てることなく、ただ当たり前のように。
再び立ち上がった四体の妖魔に向けて背筋を正す。
「ただの蹴りじゃあね。これは消耗戦になりそう」
桜下の気導術を帯びた蹴り技は破壊的な威力を持つものの、準魔級妖魔を倒す決め手とはなりえない。
妖魔の急所ともなる箇所、心臓もしくは頭部。
身体に合わせた急所を突かない限り、妖魔は霊力を体内で巡回させ回復を早める。
「頑張るしかないか」
桜下に残された戦略は、妖魔の霊力が尽きるまで蹴りを叩き込むのみ。
息を整え、禍々しい四体の巨人に真っ直ぐな視線を前に向ける。
「よし」
地面を駆け抜けて、妖魔の腹部に入る一発。
繰り返し倒され起き上がる妖魔たち。
立たされた修羅の道に、桜下は無情な瞳を輝かせるだけだった。
◯
桜下が四体の準魔と対峙する一方で、四角柱の舞台を中心に反対側でも戦闘が繰り広げられる。
轟く妖魔の怒号、蠢くワニの妖魔。
大地の加護を宿した武器を携える、青い目の武者。
シリウスは自身の愛刀千鳥を握りしめ、帝魔に接近しようと試みるも、行く手を阻むワニの群れに苦戦を強いられていた。
「……これじゃあキリが無い」
口を開き突き立てるワニの牙を、シリウスは感覚を研ぎ澄ませ反射的に避けていく。
その隙を見て、帝魔は上を仰ぎ見る。
頭上で鳴り響く和楽器の音色。
舞台から引きずり下ろされた帝魔は怒りに震え、跳躍しようと獣の脚に力を入れ始めた。
「さ、せ、るかぁ!」
ワニの攻撃を振り切り、シリウスは舞台に上がろうとする帝魔を睨み付ける。
足場は黒々とワニの鱗に埋め尽くされるも関係ない。
シリウスはワニの背中を踏みつけにして帝魔に向かって駆けていく。
聞こえてくる武者の雄叫びに、帝魔は無常にも長い尻尾を振い上げる。
「……ッ!」
鋼鉄のように硬く、鞭のようにしなやかとなった帝魔の凶器。
シリウスは咄嗟に上半身をのけぞらせた。
自分の鼻の上を僅か数センチ単位で尻尾の攻撃が掠めていく。
彼の後ろでは攻撃の巻き添えにされたワニたちが潰されていく音が響いていた。
運良く、攻撃の巻き添えに遇わなかった敵。
衝撃により身体の一部が欠損しながらも動こうとする敵。
回避したものの仰向けになり意識が混濁する敵。
攻撃が直撃し絶命した敵。
「仲間も関係なしか!」
帝魔の非道さに、シリウスは怒りを露わにした。
無闇に命を蔑ろにする者に、武者の青い目はますます鋭く光る。
刀を握る手に力を込め、再び帝魔に接近しようと試みる。
なぎ払われた尾に巻き込まれ、ワニの妖魔の半分は消滅していた。
それでも、残ったワニの総数百体の群れがシリウスの行く手を阻む。
帝魔は地鳴りのような叫び声を上げ、ワニたちは顔を一斉にシリウスに向ける。
「くそッ」
は虫類の鋭く尖った目が、一人の検非違使に集中される。
捕らえた獲物を逃さないよう、じわじわと。
周りを囲いながら獰猛な牙がむき出しとなる。
「とにかく、切り抜けないと」
ワニたちをかいくぐり、帝魔が再び舞台に上がろうとするのを阻止しなければならない。
道を切り開く算段をシリウスは辺りを見渡し、勘を巡らせる。
「……春明」
ここで止めなければ、何のために来た意味があるだろうか。
シリウスは友人の為に、刀を強く握りしめた。
「なんだその顔。寝小便漏らしたガキかよ、テメェは」
だが、ふいに気怠そうな声がシリウスの耳に届いた。
「エッ……エェ?」
聞き覚えのある声。
しかし、シリウスが辺りを見渡してもその姿はどこにもない。
見渡す限りの、ワニワニワニ。
「その声、ミスター牡丹でしょ? どこにいるの?」
自分の足下や地面を見渡しても小さな蜘蛛は見当らない。
首を傾げるシリウスに、ため息交じりの声が再び聞こえる。
「帽子取れ、帽子」
言われた通り帽子を取ると、ツバ部分の先端に牡丹が張り付いていた。
「なんで、ミスター牡丹がここに?」
「難癖ならさくに言え。俺様はアイツに言われて様子を見に来ただけだ」
「……さく、今一人なの?」
シリウスは四角柱の舞台の方向を振り向く。
舞台の裏側、この場から反対方向から微かに聞こえる重い音。
大きな物体が転倒するような音にも似ていた。
「アイツはこういう場に慣れてきっていやがる。心配するならまずテメェの仕事をしてからにしろ」
「……了解」
慣れているでななく、慣れきっている。
微妙な言葉の意味にシリウスは眉を寄せるが、言葉をぐっと飲む。
帽子を深く被り直し、牡丹を肩の上に乗せる。
「ミスター牡丹、君が出来るのは糸を出して動きを止めることでいいんだよね?」
「テメェだって見ていただろ、何故わざわざ改まって聞く?」
「一緒に戦ってくれる人のこと、ちゃんと知りたいからね」
「一緒に戦うだぁ? なぁに言ってやがる。こんな野暮用さっさと終わらせてぇだけだ」
反発的な牡丹の口調に対してシリウスは安堵の笑みを少し浮べ、すぐに正面を振り向く。
やってきたワニの牙に身を避けて、通りすがりざまに刃で目を貫通させる。
視界を遮られ怯んだワニ。
シリウスは隙を付いて、ワニの大きな口に刃を向けた。
「ウォラァ!」
刃は肉を切り裂き、ワニの口が裂ける。
顔を切断された倒れ落ちる妖魔に目もくれず、シリウスはやってくる妖魔たちを切り伏せていく。
無情にもシリウスが通る後に道ができるものの、帝魔まで辿り着くにはあと一手足りない。
「検非違使、霊術が効かねえってのは本当だな?」
戦いの最中、牡丹は前足で口元を整いながらシリウスに問いかける。
「お前を巻き込みながら結界をかける。さくがいねぇ分制御は効かねえ、文句言うんじゃねえぞ」
「OK.」
シリウスは親指と人差し指を咥えたまま、息を吹き込んだ。
高く鳴り響く指笛の音。
それに釣られ、大量のワニが押し寄せてくる。
引き寄せて、引き寄せて。
波がやってくるその間際、怒涛の殺意が向けられたその直後、
「今だ、ミスタァ!」
「だから命令するんじゃねえ!」
シリウスを中心に展開される妖術結界。
縦横無尽に広がる糸は、ワニたちの動きを拘束していく。
霊力を帯びた妖魔を封じる毒の糸はシリウスの頭上にも降り積もる。
しかし、彼は糸に気にとめることもせず見えた道筋に向かって駆け出す。
横たわるワニの背中を踏みつけて、帝魔の後ろ姿を捕らえた。
黒い毛の上から鎧のように覆った鱗。
ワニをたくさん食らった影響で尻尾の先まで鱗は硬く覆われていた。
帝魔は攻撃をワニに任せたまま、油断を見せている。
ワニが自分の後方で動けずにいることなど知りもしない。
「そこだ」
右後足の鱗と皮膚の繋ぎ目に出来た、わずかな隙間。
狙いを定めて刃が皮膚に入り込み、帝魔に痛みが走る。
「うわっ」
すぐに、帝魔が反撃に出た。
足を思い切りに蹴り上げ、刀を刺すシリウスをふるい落とす。
シリウスは咄嗟に刀を引き抜き退避しようとするもすでに遅し。
蹴り上げた足が直撃し、そのまま客席エリアに激突する。
「痛っァ」
左の肩に走る鈍痛。
周りは帝魔の衝撃に耐えきれず、壊れた座席が散り散りとなっていた。
シリウスが気導術で受け身を取らなければ、肩の打撲だけでは済まされなかった。
「ミスター牡丹、くっついてる?」
気を取り直し、シリウスは帽子を被り直す。
右肩に視線を落とすと、シャツの襟から牡丹が姿を現した。
「テメェ、今のは雑だろ」
「……そうだね。ちょっと焦った」
牡丹の指摘に、シリウスは素直に反省する。
勝ち筋だけ睨み付け、周りを見渡していなかった。
パシン、と響く渇いた音。
肩の痛みが悔しさを募らせるも、シリウスは頬を叩き思考を切り替える。
対して、帝魔は刺された足を舌で舐め気には止めるも所詮は虫に刺された程度のかすり傷。
シリウスに向ける殺気が止まることは無い。
「ミスター牡丹の糸であの化け物妖魔は止められないの?」
シリウスの質問に、牡丹は一つため息を漏らす。
「俺様は手を貸すつもりはねえし、ついでに言うが帝魔になると無理だ」
「オーケー、ワニワニパニックは任せた」
「おい、テメェ日本語通じてるか?」
怪訝な様子で問いかける牡丹に、シリウスは言葉を返すことはない。
青い目は数メートル先の敵を改めて俯瞰する。
全長二メートルほどの四足歩行の獣。
その帝魔は様々な動物の一部を組み合わせて成り立っていた。
尖った耳に濁った黄色い目玉が二つ。猿の顔に近いが、表情は悪魔のような凶悪さ。
虎のように俊敏な足を持ち、前足の指は五本揃い手の役目も果たしていた。
尾は蛇の胴体のようにしなやかに、左右に動いては辺りを荒らしている。
それらのパーツをワニの鱗が纏い、身体を覆う鎧の役目を担っている。
「ホント、化け物妖魔」
シリウスはソレか何者か分からない。
何故帝魔がテムイを通じて舞殿にやってきたか、検討もつかない。
しかし、彼にとっては些細なこと。
たとえ偶発的な事件であろうとも、相手に殺意がある以上、倒すべき敵に変わりはなかった。
「ファイト、一発」
打った肩の痛みなど気合いでねじ伏せる。
シリウスは客席を飛び降り、帝魔に向かって走り出した。
帝魔の雄叫びが響き渡り、動けるワニたちが一斉にシリウスに向かう。
やってくる第二波。
しかし、糸の防波がすぐさま展開される。
「ナイス、フォロー!」
「うっせぇ! さっさと仕留めやがれ!」
牡丹の糸に守られ、シリウスはワニの波をかいくぐる。
何体ものワニを踏みつけ、追い越し。
帝魔の首に狙いを定める。
「いくぞ!」
正面から飛びかかり、両手でしっかり刀を握りしめる。
黄色く濁った獣の瞳が、眼前にやってくる武者に恐怖を覚えた。
迫る白刃に、帝魔は右手の爪をシリウスに向けて振り落とすが、
「そこッ」
シリウスの青い目はすでに攻撃の一手を読んでいた。
手首を回転させ、首から前足の裏に鋒をシフトさせる。
むき出した爪の付け根を平行にそぎ落とし、鱗のない手のひらに刃が突き刺さる。
先ほどとは違う、決定的な激痛。
獣の嘆きが響く中、シリウスは容赦をかけない。
地面に着地すると、すぐに次の一手に動き出す。
帝魔が痛みに腕を引いた隙をつき、懐に入り込む。
「One more!」
下から上へ斜めに入った白刃の軌道。
鎧を覆い尽くしれなかった胸元に入った一太刀に、悲鳴がさらに増す。
痛みに苦しむ帝魔は斬られた箇所から血を流し、場を赤く染めていく。
同時に返り血が直撃したシリウスだったが、瞳の青は変わらずギラギラと輝いていた。
「ぺっ、ぺっ、俺様にまでかけるんじゃねぇ!」
巻き込まれた牡丹は身体に着いた血の汚れを足で拭き取っている。
シリウスは一瞬だけ牡丹の様子を見ると、すかさず叫んだ。
「隠れて!」
声が聞こえたと同時に、牡丹はシリウスのシャツの襟の中に隠れる。
指示を出すな、と牡丹がいらつく暇もなく、攻撃は仕掛けられていた。
胸に刻まれた深手をもろともせず帝魔の身体が横に回転。
鉄の鞭のように振われた尾は、躱したシリウスの頭の上をかすめる。
「……っぶないなァ! またそれかよ!」
尾が叩きつけられ破壊された壁の一部がガラガラと崩れ落ちる。
それを見届ける間もなく、次から次へ鉄の尾をしならせシリウスに向かって放たれた。
ダン、ダン、ガラ、ガラリ。
リズムカルに響く破壊音にシリウスは不快感を募らせていく。
「うるさいなァ、これ以上滅茶苦茶にするのやめてくれよ」
何回も繰り返し見た光景に青い目が冴えていく。
無鉄砲振り回される尾の動きを躱しながら、敵の僅かな所作も見逃さない。
尾の長さから推測される攻撃の限界範囲。
後ろ足の向きの調整による打ち付ける方角。
妖魔の視線の揺れ。青年に対する殺意と、怖れ。
全ての状況を瞬時に見極め、直感が身体を突き動かす。
鉄の尾が放たれた瞬間、真横を掠める伸びきった直線。
鉄の高度を持つ、尾を両断は叶わない。
ならば、斬るのでは無く、そぎ落とす。
鱗一枚、一枚の裂け目を見抜き、水平に刃を入れる。
鱗が逆撫で、散り散りに弾け飛ぶ。
降りしきる黒い煌めきの中、帝魔の鉄の尾が水平に削ぎ落とされた。
「ヨシ」
ぎゃあぎゃあと、痛みにもがく獣の妖魔。
暴れるごとに尾の断面から血を流していく。
シリウスは手応えをかみしめるも、追撃の手を緩めない。
この隙をつき、刃は帝魔の首元を狙っていた。
しかし、帝魔の俊敏な動きは健全なままだった。
命の危機に瀕して、左手でシリウスを払いのける。
「がッ」
当たった衝撃にシリウスはまた横に弾け飛ぶ。
気を使った受け身を取るも、全身に痛みが走る。
意識がぐらぐら揺れる中、なんとか気を保つもすぐに立ち上がれない。
次の一撃が迫れば、ただでは済まない。
だが、帝魔はシリウスに襲うことなく、むしろ距離を置いていた。
「……アレ?」
偶然にも体勢を立て直す機会を得て、シリウスは呼吸を整え立ち上がる。
疑問になりながら帝魔の方角を見ると、
「チッ」
バキバキと骨を砕く音が鳴る中。
帝魔がワニを鷲づかみにして丸ごと食らっていく光景に、シリウスは嫌悪に耐え切れず舌打ちを打つ。
そして、すぐに帝魔の身体に変化が現れる。
切断された面が止血され、荒ぶった息が整っていく。
「やっぱ、頭か心臓しかないか」
攻撃を通しても、足下にいるワニを食らえば回復する。
手足を削いだとしても、回復されてしまえば無駄な徒労に終わってしまう。
敵の急所を突かなければ終わらない戦い。
シリウスは額に浮かんだ汗を拭い状況を見渡すも最適解が見つからない。
せめて、化け物の動きが少しでも鈍ってくれたら。
シリウスが頭の中で呟く中、再び帝魔の後ろ足に力がかかる。
攻略の糸口は動きながら考えるしかない。
刀を構え、青い目で敵に見定める。
頭上から聞こえる舞の音色に耳を傾けながら、彼は再び走り出した。
その時、膝がガクンと崩れ落ちる。
倒れたのは獣の妖魔だった。
「エッ」
突然の帝魔の異変にシリウスは困惑するも、この好機を逃すはずがない。
彼の殺気の勢いは衰えることなく、帝魔に刃が向けられる。
「そこだァ!」
首を狙うシリウスの一撃を寸前のところで、帝魔が振り払う。
鱗に覆われた右手で刃を受け止めるも、つい先程までの気迫は薄らいでいた。
シリウスも刀身を伝って当たった鱗の感覚に違和感を覚える。
固く覆われた外殻ではあるものの、鱗一枚一枚が逆剥け開いていく。
網目の解れた衣類のような脆弱になった鉄の鱗。
シリウスが気力を込めて刀身を引くと、鱗が飛び散り帝魔の右手が切断された。
軌道が外れ、なんとか首の皮は繋がれたものの驚愕と苦痛に黄色い目を大きく見開く。
迫る白刃の追撃。
帝魔は身の危険を最大限に感じとり、急いでシリウスとの距離を取る。
横暴にワニに食いつく。
けれど、帝魔の傷が癒えることはなかった。
「ミスター牡丹……じゃあないよね」
「んなわけあるか、帝魔に俺の糸は効かねえ」
「じゃあ……これって……」
そびえ立つ舞台から奏でられる舞曲の音色。
シリウスは上を仰ぎ、斉天の調べに耳を傾けた。
○
左足を前へ。
打ち手の鼓が嫋やかなリズムを刻み、笙の十七管が囲んでいく。
天井に響き渡る篳篥の強い旋律。
奏でられる雅楽の中、白い斉天が舞台に君臨する。
四角く括られた舞台の中では、戦いの喧騒は一切聞こえない。
結界整備師の術の糸が、舞台を妖魔の妨げのないものへ作り上げていた。
故に彼は、ただ静かに己の演目を全うする。
舞台に上がる直前の緊張と圧迫はなど、不思議と今はどこにもない。
手にした扇は朱色に煌びやかに輝き、天へ向かって大きく円を描く。
祈るように高らかに。
それは、この世を去った聖人の手向けではない。
熱の籠もった手は、力強く扇をたたみ一直線に前を指し示す。
「……っ」
あいつら、無事でいてくれ。
仮染めの碧緑の目は、あやふやな過去ではなく、今ある現実を睨みつける。
外界と遮断された舞台で、彼は唯一残った二人の友人に背を向けることは出来なかった。
○
「春明……」
響き渡る音の知らせに、シリウスは息を呑む。
蓄積された舞の霊術が土地に浸透し、張りついた冷えた空気が和らいでいく。
夜の帳から日の光当たる日常へ。
春明の斉天は舞殿全域に渡り、人の領土を安定させる。
覆される支配権。
知らず知らずのうちに追いやられた帝魔は、弱体化する身の異変になす術がなかった。
「うわぁ、おっかなぇ」
逆剥けた鱗を撒き散らし、弱っていく帝魔に牡丹は軽い口調で様子を眺める。
一方で、シリウスは手にした刀を両手で構え直し、敵との距離をゆっくり詰めていく。
「……」
自分だけが戦っているわけじゃない。
頭上から十五メートル先の舞台で、彼の友人は今も懸命に役目と向き合っている。
「僕だって」
これまでに蓄積された疲労、張り詰めたすぎて薄れる気力。
受けた痛みに身体が悲鳴を上げるも、シリウスは根性でねじ伏せる。
負けるわけにはいかない。
青く爛々とした瞳が睨みつけ鋒を向ける。
対して、帝魔もまたシリウスの視線に気がつく。気怠い身体を奮い立たせながら、濁った黄色い目を逸らさない。
互いにぶつかり合う、殺意と殺意。
「ミスター牡丹、こっちで待っていてくれないか?」
「なんだ?」
首を傾げる牡丹の前に、シリウスは軍帽を外し手前に差し出す。
「僕も暴れてくる。危ないからこっちに」
平静を保った声色の中に、荒々しい獰猛さを潜ませる。
検非違使としてではなく、武者として。
彼の気質が戦慄を帯び、牡丹の毛先の一本一本を震わせた。
「はぁ……こっちはマジでおっかねぇ……」
抵抗素振りもせず、小さな身体はシリウスの軍帽の中に入る。
「ありがとう」
シリウスは牡丹が入った軍帽を離れた瓦礫の上に置く。
振り返れば、倒すべき妖魔が一体。
オールバックの金髪が乱れ舞い、青く光る殺意が瞳に宿る。
「Are you ready?」
眼前の敵を、ただ斬り伏せる。
武者は一握りの使命を原動とし、大地を蹴り上げた。
猛る獣の咆吼。
帝魔は砕け散る鎧の鱗を顧みず、武者に襲いかかる。
舞の影響下で重圧される中、身体の瞬発性だけは衰えを知らなかった。
飛びかかる獣をシリウスは寸前で躱しながら、刀を最低限の動きで振っていく。
弾く刀身と、砕ける鎧。
線香花火のように散る黒き断片をかいくぐり、武者は敵の懐に忍び寄る。
必殺の一撃に光る刃。
シリウスが下から帝魔の喉元に迫り切り落とす間際。
「ッ!」
それよりも速く、足下から一体の生き物が現れ出る。
勘の知らせにシリウスが咄嗟に身を引くと、黒い頭をした蛇が飛びかかっていた。
獰猛な牙の先端から透明な毒を滴らせ、外してもなお蛇はシリウスに向かって襲いかかる。
「さっきまでは、無かったんだけどなァ!」
蛇の長い胴体は帝魔の尾と同化をしていた。
驚異的な生存本能が帝魔を急激に進化させ、新たな武器を与える。
複雑怪奇の蛇の動きに、シリウスは刀を交えて迎え撃つ。
蛇と刀。
鉄同士が打ち付け合う爆ぜた音が響き続け、一歩も譲らない攻防が続く。
飛び散る様子のない蛇の鱗に、帝魔のすべての霊力があてがわれシリウスは額に汗を滲ませていく。
「この野郎……ッ!」
あと一手。
ここを切り抜けねば、全てが台無し。
シリウスは勝利を見据えず、目前を逸らさない。
春明の舞台の成功を目指して、窮地を切り開く可能性を模索する。
勘を巡らし、蛇の毒牙を避け、
「ウォ、ラァア!」
脳に巡る全ての気力を、目の前の現実に全て注ぎ込む。
シリウスの手足と勘は、今は春明の舞台の為だけに。
言い換えてしまえば、自分自身に迫る脅威には無頓着だった。
彼の背後に蠢く黒い影。
咆哮の合図は、蛇以外にも新たな生命を呼んでいた。
ゆっくり、じわじわと。
糸で繋がったワニ達が一つに集まり、巨大に膨れ上がっていく。
六足に足を増やし、二回り巨大化した爬虫類へと姿を作り上げる。
普段のシリウスであれば、その脅威にいち早く気づけていただろう。
だが、帝魔との逼迫した戦闘下。
現れた妖魔が他者ではなく、自身に向けたれた存在という起因が、悪運の優先度を下げていた。
「……ッ」
どどど、とやってくる足音。
背後から聞こえる不吉な音にやっと気がつくも、彼は後ろを振り返れない。
ここで目を逸らせば、帝魔に殺される。
「ち、くしょう……!」
蛇の毒牙を返すも、帝魔との距離は縮まらない。
背後からやってくる刺客の牙になす術なく終わる。
絶望的な状況に悔しさに噛み締めるも、それでもシリウスは向けた刃を収めることはしなかった。
「負けるかァ!」
刺し違えてでも殺す。
武者は覚悟を決め、帝魔の喉を狙い突き進む。
毒牙を刀で返し、蛇が外側に弾けるものほんの一瞬の出来事。
すぐに体勢を立て、シリウスの頭上に狙いを定める。
届かない帝魔との距離。
毒牙が先か、後ろから迫るワニの牙が先か。
間に合わない。
「そんな訳ないでしょう」
彼らの後方、距離三十メートル。
静かに呟いた乱入者は、その間わずか一秒で疾走し、流星の如く飛来する。
「シリウス君の邪魔をしないで」
漆黒の瞳は巨大化したワニに狙いを定め、蹴りの衝撃に真横に吹き飛ぶ。
ドカン、と大きな衝撃音にシリウスの口角を上げれずにはいられなかった。
振り返らずとも分かる。
巨大なワニの代わりに、彼の後ろにはあの青年がいる。
自身の頭上にはまだ蛇の牙が迫っていてもシリウスは嬉しさを噛みしめずにはいられない。
「頑張れ」
こんなヤツに負けるな。
桜下は振り返ると、刀を天にかざすシリウスの姿があった。
「これは、春明の分、だァ!!」
開かれた蛇の牙に目がけて、刃が平行に突き刺さる。
走る雷切は蛇の胴体を真っ二つに切り裂き、黒い火花を散らしていく。
ボロボロにもがれた鎧の鱗。
最後の足掻きを見せる獣は諸刃の剣を掲げる。
終わらない、まだ終われない。
生存本能を掻きむしり、仮初めの獣は牙を突き立てる。
しかし、鋭い白銀には到底追いつけず。
人の繁栄の音色が響く中、猿の顔立ちをした首が地面に転がり落ちた。
◯
ずしん、と獣が横に倒れ、すべてのワニは体の先端から崩壊していく。
黒い霧が空中で透明になる中、桜下は横たわる獣の亡骸を眺めていた。
「……」
首と胴体が切り離された獣の骸。
獣の表情は時が止まったかのように猛々しい憤怒の形相を見せる。
穏やかな水面のように切り離された断面は、獣が殺された自覚を持たずに逝ったとさえ錯覚させられた。
「シリウス君」
その横には、獣を仕留めた武者がいた。
名前を呼ばれると、武者は鞘に手を添え静かに刀を納める。
「ワァー!」
どっと額から大量の汗が流れ落ち、全身は打の痛みが治らない。
それでも、勝ち取った勝利にシリウスはいつものように屈託な笑みを浮かべた。
「凄いね」
シリウスの勝ち誇った表情に安堵し、桜下もつられて笑みを溢す。
すると、彼は桜下の前まで走り寄ると固く握手を交わす。
「凄いのはさくの方だよ! あのどデカいワニをサッカーみたいに蹴り飛ばしちゃってさァ! もう僕のハートにシュートでゴール、プラス一億ポイントさ!」
「ははは、日本語で話してくれるかな?」
元気すぎるシリウスの手を振り払おうとせず、桜下は両手を上下に振り回されるがままだった。
「ウン?」
しかし、シリウスはあることに気がつきピタリと動きを止める。
手の中に当たった硬い感触。
ゆっくり手のひらを開くと、磨かれた黒い瑪瑙の石が収まっていた。
「これさっき磨いていた要石だよね? 使うの?」
手の中にある石を不思議そうに眺めるシリウス。
彼の青い目が疑問に満ちる中、そっと桜下が石を掬い上げる。
「いざって時のために持っていただけ。もう使わないかな」
「フーン」
「ところで大先生こっちに来ていない?」
「オォー、そうだった」
シリウスは瓦礫の上に置いた軍帽を桜下の前に差し出す。
桜下は軍帽の中に収まっていた、小さな蜘蛛を軽く指で弾く。
「おーい」
「アヒョっ」
コロコロと転がる牡丹の身体。
小さな蜘蛛は帽子の縁で止まり、気だるそうに身体を起こす。
「怪我はなさそうだけど、だいぶお疲れモードですね」
「……もうこの検非違使と一緒は勘弁しろって。自分から妖魔の中に突っ走るから溜まったもんじゃねぇ」
牡丹は深いため息をつきながら、差し伸べられた指に飛び乗る。
素早い動きで桜下の腕を駆け上がり、髪の中に姿を眩ました。
「僕が無茶させたから怒った?」
一連の牡丹の態度にシリウスが不安を見せると、桜下は静かに首を横に振るう。
「そうじゃないよ。ただ……こんな横暴そうだけど、根っこはひっそり生きていく性分だからさ。糸出し過ぎて疲れているだけだよ。私もちょっと、酷使し過ぎた。反省」
「そうだったんだ……」
これまでの道中、彼らは何度も牡丹の糸に助けられた。
シリウスが帝魔を仕留められた経緯も牡丹が糸でワニの群を抑えた功績があってこそだった。
「ミスター牡丹が起きたら、ちゃんとお礼言わなきゃね」
今はただ感謝の意思を胸に秘め、シリウスは頭上を見上げる。
「さく、今日の主役を迎えに行こう」
演目はまだ終わっていない。
鳴り響き続ける舞楽の調べに、シリウスは桜下の手を引き、そびえ立つ舞台の柱を駆け上がった。
厳かに、静かに。
白い装束を纏った舞師は斉天に扮し、役を全うする。
しかし、舞台の外は隔たれた別世界のように妖魔で満ちあふれていた。
舞台の外壁で身動きが取れず留まるワニの群れ。
それらの下には未だ勢いが止まらず、ワニを吐き出すテムイがあった。
この暴走を止めなければ、事態を収束させるのは困難きわまりない。
「よし」
舞台の淵には朱色の柵が囲っている。
境界線のように設置された柵から桜下はテムイを見定めた。
桜下は舞台の柵を跳び越えて、下へと落下していく。
いや、落下と言うのは些か語弊がある。
重力によって加算された力はテムイを目がけて一直線に突き進む。
「せえ、のっ」
振り落とされた蹴りの一撃が白無垢の門に容赦なく亀裂を走らせる。
ガラガラと。
上から下へ、大理石で作られた強固な門が崩れた積み木の城のように。
巨大な石の残骸が紫の光を失い崩れていく。
「ふぅ」
息を漏らし、桜下は崩れたテムイの上から辺りの様子を見渡す。
黒いワニが桜下を囲むように覆い尽くし、よだれを垂らし禍々しい目が桜下を捕食しようと狙っている。
「これだけ派手に壊せば気がつくか」
桜下はワニに囲まれた状況に怯えることなく、冷静に片手で印を組む。
「一線」
口を開きやってくるワニの一匹に向けて桜下は糸を走らせる。
糸が絡まり、ワニの動きが遅くなっていく様子を見計らうと、
「はい」
左手を広げる印と同時に糸が展開していく。
捕らえたワニを中心に糸が爆発して広がり、ほかのワニを捕らえていく。
直径六メートルほどに範囲にいたワニたちは桜下の糸の結界の餌食となった。
「シリウス君は向こうに落ちたんだっけ」
正四角に立った舞台の方角に視線を向ける。
大量の妖魔のうめき声と式神の音色が聞こえる中、ズシンと重く叩きつける震動が地面を伝っている。
舞台の外壁とテムイの残骸周辺は糸を張り巡らせるも、まだ動ける妖魔の数は圧倒的に多い。
シリウスの加勢に入ろうと、桜下は舞台の反対側に回ろうと走り出す。
糸の結界六メートル圏内を風の如く走り過ぎていく。
止まったワニの隙間をかいくぐり、結界を出るまでに数秒の時間もかからない。
しかし、桜下は境界線ギリギリのところで歩みを止めた。
前方から現れた四体の巨人。
三メートルの大きさ巨人型の妖魔は現れるとすぐ猛烈なスピードで直進してくる。
「これは……」
大砲の弾のようにやってくる四体の妖魔に桜下は印を掲げて糸を放つ。
放たれた糸は妖魔の身体や妖魔に絡みつくも、勢いは止まらない。
「うーん、準魔くらい?」
「分析してねぇで、避けろ!」
やってくる四つの巨人による猛突進。
髪の隙間から慌てる牡丹に対して、桜下は焦りの表情を見せない。
理性を無くした妖魔をぎりぎりまで引きつける。
「一線」
結界を放つ合図と共に、桜下は高く跳躍した。
三メートルの巨体を越え、弧を描きながら身体をしならせる。
左手から放たれた糸は四体の妖魔に絡みついていく。
「えいやっ」
着地と共に桜下は左手を振うと、妖魔は前に倒れ込み止まったワニの周辺になだれ込む。
手足を動かしながらもがくも、糸の力に立ち上がれない。
「近距離でやればなんとかいけるか。でも、数時間で準魔が四体って、帳の成長速度がやけに早いな……」
倒れた四体の妖魔に桜下は首を傾げ見守る中、一体の妖魔が腕を動かしあるものを掴んだ。
「あ」
ワニを掴みそのまま口に放り込む巨人の妖魔、すぐに身体にも変化が現れる。
身体の一部、腕が鎧の鱗のように覆われ、その様子を見たほか三体の妖魔も手近にあったワニを掴んで食べ始める。
「おつまみ感覚かな」
次々と食べられていくワニたちに向けて、桜下は印を掲げた。
結界の霊力が範囲一帯に強くのし掛かる。
その重圧に耐えきれず、巣に掛かったワニの妖魔たちは内側から糸をはじけ出す。
バン、と。
ワニの身体が白い糸をまき散らしながらはじけ飛び、巨人の上に糸を広げていく。
「大先生、今のうちにシリウス君のところに行ってくれる?」
「あ? なんで俺様があの検非違使のところに行かなきゃならねぇんだ!」
「あれ見てよ」
「あー……?」
桜下は指を妖魔の方向に向けて指し示すと、牡丹は髪の隙間から姿を現し前髪に飛び移る。
見えやすい場所から八つの目を丸くさせていると、糸の下に埋もれた妖魔の動きに気がついた。
「あれだけ糸に絡まってもまだ動けるっつーわけか」
四体ともそれぞれ身体の一部分を鎧のような鱗で皮膚を覆い、手足を未だ動かしながら這い上がろうと試みている。
「これ以上糸を使っても準魔の動きは防ぎきれない。シリウス君の方に行って帝魔に集まっている小魔を抑えた方が効率的だよ」
「冗談じゃねえ、俺様が検非違使に助太刀する義理はねぇよ」
「……そっか」
会ったばかりの相手に、蜘蛛は情をかけるほどの器量はなかった。
牡丹は冷たく言い放ちながら、再び髪の中に隠れようとする。
だがその前に、桜下は牡丹の身体を優しく手に取り手の平に乗せた。
「お願いです、牡丹様。あの子が帝魔を討つ力となって下さい」
真っ直ぐな眼差しを向けて懇願する桜下。
その佇まいは、どこか女性的な面立ちを潜ませていた。
「……ったく、お前がそこまでになるほどかよ」
桜下の様子に牡丹は小さな前足で頭をかく。
夜を纏った瞳の意思には抗えなかった。
「はぁ……しゃあねえ。だがよ、期待はし過ぎるな。勝手にやられていたらそれはあの男の落ち度だ」
「うん、ありがとう」
牡丹は桜下の手平に糸をつけると、ゆっくり安定させながら地面に着地する。
小さな身体が地面に降り立つと素早い動きでその場から離れ、あっという間に姿をくらませた。
「……」
桜下は無事牡丹が離れたところを見届けると、視線を前に向ける。
糸に絡まれた四体の妖魔たちはよろけながらも自力で立ち上がり、殺気だった目で桜下を睨みつけていた。
「さて、やりましょうか」
青年は履き慣れた靴のつま先を軽く地面に叩いて整える。
妖魔が重く動き出した途端、すかさず間合いに詰め寄った。
「はい」
落ち着いたかけ声とは裏腹に、放たれた蹴りの一撃は重く空気を振動させる。
妖魔の顎に目がけて真下から。
三メートルの巨体は宙に浮き、衝撃に耐えきれず妖魔は意識を混濁させる。
「……」
何も言わず、ただじっと。
桜下の目は機械仕掛けのようにほか三体の妖魔を映す。
三体の妖魔たちは倒れた仲間に目もくれず、一斉に桜下に襲いかかる。
大木のような腕が迫る中、桜下は隙間を縫うように身体を翻し、また一体妖魔との距離を詰めていく。
妖魔の腕を足で一蹴り払いのけ、片足で着地すると足を軸として身体をひと回転。
「えいっ」
鱗の鎧で覆われた腹部に向けて放たれた強い一撃。
桜下の蹴りを受けた妖魔は後ろにいた妖魔を巻き込みながら後ろに倒れ込む。
二つ倒れ重なった妖魔の巨体。
そして、残る最後の一体に向けて、桜下は走り高く跳躍した。
くるりと宙で一回転し攻撃の威力を加速させる。
攻撃の要、自身の踵の先は真下にある妖魔の脳天。
「せえ、のっ」
気導術で強化された、渾身の踵落とし。
タイミング良く、笙の音色が響く中、桜下は妖魔に決定的な一打を決めた。
妖魔の巨体がずしんと前に倒れ込むと同時に、桜下は床に着地する。
「……」
蹴りの衝撃によって白目を向く四体の妖魔たち。
動かない妖魔たちを桜下は淡々と機械的な目で観察する。
先手を打った結界術の糸で拘束は出来なかったものの、妖魔の動きを弱体化させるには充分効力を残していた。
手足を伸ばし気絶する妖魔たちに勝負の決着がついたと思わせる光景。
「ダメだこりゃ」
しかし、桜下は肩を落としため息をつく。
状況に慌てることなく、ただ当たり前のように。
再び立ち上がった四体の妖魔に向けて背筋を正す。
「ただの蹴りじゃあね。これは消耗戦になりそう」
桜下の気導術を帯びた蹴り技は破壊的な威力を持つものの、準魔級妖魔を倒す決め手とはなりえない。
妖魔の急所ともなる箇所、心臓もしくは頭部。
身体に合わせた急所を突かない限り、妖魔は霊力を体内で巡回させ回復を早める。
「頑張るしかないか」
桜下に残された戦略は、妖魔の霊力が尽きるまで蹴りを叩き込むのみ。
息を整え、禍々しい四体の巨人に真っ直ぐな視線を前に向ける。
「よし」
地面を駆け抜けて、妖魔の腹部に入る一発。
繰り返し倒され起き上がる妖魔たち。
立たされた修羅の道に、桜下は無情な瞳を輝かせるだけだった。
◯
桜下が四体の準魔と対峙する一方で、四角柱の舞台を中心に反対側でも戦闘が繰り広げられる。
轟く妖魔の怒号、蠢くワニの妖魔。
大地の加護を宿した武器を携える、青い目の武者。
シリウスは自身の愛刀千鳥を握りしめ、帝魔に接近しようと試みるも、行く手を阻むワニの群れに苦戦を強いられていた。
「……これじゃあキリが無い」
口を開き突き立てるワニの牙を、シリウスは感覚を研ぎ澄ませ反射的に避けていく。
その隙を見て、帝魔は上を仰ぎ見る。
頭上で鳴り響く和楽器の音色。
舞台から引きずり下ろされた帝魔は怒りに震え、跳躍しようと獣の脚に力を入れ始めた。
「さ、せ、るかぁ!」
ワニの攻撃を振り切り、シリウスは舞台に上がろうとする帝魔を睨み付ける。
足場は黒々とワニの鱗に埋め尽くされるも関係ない。
シリウスはワニの背中を踏みつけにして帝魔に向かって駆けていく。
聞こえてくる武者の雄叫びに、帝魔は無常にも長い尻尾を振い上げる。
「……ッ!」
鋼鉄のように硬く、鞭のようにしなやかとなった帝魔の凶器。
シリウスは咄嗟に上半身をのけぞらせた。
自分の鼻の上を僅か数センチ単位で尻尾の攻撃が掠めていく。
彼の後ろでは攻撃の巻き添えにされたワニたちが潰されていく音が響いていた。
運良く、攻撃の巻き添えに遇わなかった敵。
衝撃により身体の一部が欠損しながらも動こうとする敵。
回避したものの仰向けになり意識が混濁する敵。
攻撃が直撃し絶命した敵。
「仲間も関係なしか!」
帝魔の非道さに、シリウスは怒りを露わにした。
無闇に命を蔑ろにする者に、武者の青い目はますます鋭く光る。
刀を握る手に力を込め、再び帝魔に接近しようと試みる。
なぎ払われた尾に巻き込まれ、ワニの妖魔の半分は消滅していた。
それでも、残ったワニの総数百体の群れがシリウスの行く手を阻む。
帝魔は地鳴りのような叫び声を上げ、ワニたちは顔を一斉にシリウスに向ける。
「くそッ」
は虫類の鋭く尖った目が、一人の検非違使に集中される。
捕らえた獲物を逃さないよう、じわじわと。
周りを囲いながら獰猛な牙がむき出しとなる。
「とにかく、切り抜けないと」
ワニたちをかいくぐり、帝魔が再び舞台に上がろうとするのを阻止しなければならない。
道を切り開く算段をシリウスは辺りを見渡し、勘を巡らせる。
「……春明」
ここで止めなければ、何のために来た意味があるだろうか。
シリウスは友人の為に、刀を強く握りしめた。
「なんだその顔。寝小便漏らしたガキかよ、テメェは」
だが、ふいに気怠そうな声がシリウスの耳に届いた。
「エッ……エェ?」
聞き覚えのある声。
しかし、シリウスが辺りを見渡してもその姿はどこにもない。
見渡す限りの、ワニワニワニ。
「その声、ミスター牡丹でしょ? どこにいるの?」
自分の足下や地面を見渡しても小さな蜘蛛は見当らない。
首を傾げるシリウスに、ため息交じりの声が再び聞こえる。
「帽子取れ、帽子」
言われた通り帽子を取ると、ツバ部分の先端に牡丹が張り付いていた。
「なんで、ミスター牡丹がここに?」
「難癖ならさくに言え。俺様はアイツに言われて様子を見に来ただけだ」
「……さく、今一人なの?」
シリウスは四角柱の舞台の方向を振り向く。
舞台の裏側、この場から反対方向から微かに聞こえる重い音。
大きな物体が転倒するような音にも似ていた。
「アイツはこういう場に慣れてきっていやがる。心配するならまずテメェの仕事をしてからにしろ」
「……了解」
慣れているでななく、慣れきっている。
微妙な言葉の意味にシリウスは眉を寄せるが、言葉をぐっと飲む。
帽子を深く被り直し、牡丹を肩の上に乗せる。
「ミスター牡丹、君が出来るのは糸を出して動きを止めることでいいんだよね?」
「テメェだって見ていただろ、何故わざわざ改まって聞く?」
「一緒に戦ってくれる人のこと、ちゃんと知りたいからね」
「一緒に戦うだぁ? なぁに言ってやがる。こんな野暮用さっさと終わらせてぇだけだ」
反発的な牡丹の口調に対してシリウスは安堵の笑みを少し浮べ、すぐに正面を振り向く。
やってきたワニの牙に身を避けて、通りすがりざまに刃で目を貫通させる。
視界を遮られ怯んだワニ。
シリウスは隙を付いて、ワニの大きな口に刃を向けた。
「ウォラァ!」
刃は肉を切り裂き、ワニの口が裂ける。
顔を切断された倒れ落ちる妖魔に目もくれず、シリウスはやってくる妖魔たちを切り伏せていく。
無情にもシリウスが通る後に道ができるものの、帝魔まで辿り着くにはあと一手足りない。
「検非違使、霊術が効かねえってのは本当だな?」
戦いの最中、牡丹は前足で口元を整いながらシリウスに問いかける。
「お前を巻き込みながら結界をかける。さくがいねぇ分制御は効かねえ、文句言うんじゃねえぞ」
「OK.」
シリウスは親指と人差し指を咥えたまま、息を吹き込んだ。
高く鳴り響く指笛の音。
それに釣られ、大量のワニが押し寄せてくる。
引き寄せて、引き寄せて。
波がやってくるその間際、怒涛の殺意が向けられたその直後、
「今だ、ミスタァ!」
「だから命令するんじゃねえ!」
シリウスを中心に展開される妖術結界。
縦横無尽に広がる糸は、ワニたちの動きを拘束していく。
霊力を帯びた妖魔を封じる毒の糸はシリウスの頭上にも降り積もる。
しかし、彼は糸に気にとめることもせず見えた道筋に向かって駆け出す。
横たわるワニの背中を踏みつけて、帝魔の後ろ姿を捕らえた。
黒い毛の上から鎧のように覆った鱗。
ワニをたくさん食らった影響で尻尾の先まで鱗は硬く覆われていた。
帝魔は攻撃をワニに任せたまま、油断を見せている。
ワニが自分の後方で動けずにいることなど知りもしない。
「そこだ」
右後足の鱗と皮膚の繋ぎ目に出来た、わずかな隙間。
狙いを定めて刃が皮膚に入り込み、帝魔に痛みが走る。
「うわっ」
すぐに、帝魔が反撃に出た。
足を思い切りに蹴り上げ、刀を刺すシリウスをふるい落とす。
シリウスは咄嗟に刀を引き抜き退避しようとするもすでに遅し。
蹴り上げた足が直撃し、そのまま客席エリアに激突する。
「痛っァ」
左の肩に走る鈍痛。
周りは帝魔の衝撃に耐えきれず、壊れた座席が散り散りとなっていた。
シリウスが気導術で受け身を取らなければ、肩の打撲だけでは済まされなかった。
「ミスター牡丹、くっついてる?」
気を取り直し、シリウスは帽子を被り直す。
右肩に視線を落とすと、シャツの襟から牡丹が姿を現した。
「テメェ、今のは雑だろ」
「……そうだね。ちょっと焦った」
牡丹の指摘に、シリウスは素直に反省する。
勝ち筋だけ睨み付け、周りを見渡していなかった。
パシン、と響く渇いた音。
肩の痛みが悔しさを募らせるも、シリウスは頬を叩き思考を切り替える。
対して、帝魔は刺された足を舌で舐め気には止めるも所詮は虫に刺された程度のかすり傷。
シリウスに向ける殺気が止まることは無い。
「ミスター牡丹の糸であの化け物妖魔は止められないの?」
シリウスの質問に、牡丹は一つため息を漏らす。
「俺様は手を貸すつもりはねえし、ついでに言うが帝魔になると無理だ」
「オーケー、ワニワニパニックは任せた」
「おい、テメェ日本語通じてるか?」
怪訝な様子で問いかける牡丹に、シリウスは言葉を返すことはない。
青い目は数メートル先の敵を改めて俯瞰する。
全長二メートルほどの四足歩行の獣。
その帝魔は様々な動物の一部を組み合わせて成り立っていた。
尖った耳に濁った黄色い目玉が二つ。猿の顔に近いが、表情は悪魔のような凶悪さ。
虎のように俊敏な足を持ち、前足の指は五本揃い手の役目も果たしていた。
尾は蛇の胴体のようにしなやかに、左右に動いては辺りを荒らしている。
それらのパーツをワニの鱗が纏い、身体を覆う鎧の役目を担っている。
「ホント、化け物妖魔」
シリウスはソレか何者か分からない。
何故帝魔がテムイを通じて舞殿にやってきたか、検討もつかない。
しかし、彼にとっては些細なこと。
たとえ偶発的な事件であろうとも、相手に殺意がある以上、倒すべき敵に変わりはなかった。
「ファイト、一発」
打った肩の痛みなど気合いでねじ伏せる。
シリウスは客席を飛び降り、帝魔に向かって走り出した。
帝魔の雄叫びが響き渡り、動けるワニたちが一斉にシリウスに向かう。
やってくる第二波。
しかし、糸の防波がすぐさま展開される。
「ナイス、フォロー!」
「うっせぇ! さっさと仕留めやがれ!」
牡丹の糸に守られ、シリウスはワニの波をかいくぐる。
何体ものワニを踏みつけ、追い越し。
帝魔の首に狙いを定める。
「いくぞ!」
正面から飛びかかり、両手でしっかり刀を握りしめる。
黄色く濁った獣の瞳が、眼前にやってくる武者に恐怖を覚えた。
迫る白刃に、帝魔は右手の爪をシリウスに向けて振り落とすが、
「そこッ」
シリウスの青い目はすでに攻撃の一手を読んでいた。
手首を回転させ、首から前足の裏に鋒をシフトさせる。
むき出した爪の付け根を平行にそぎ落とし、鱗のない手のひらに刃が突き刺さる。
先ほどとは違う、決定的な激痛。
獣の嘆きが響く中、シリウスは容赦をかけない。
地面に着地すると、すぐに次の一手に動き出す。
帝魔が痛みに腕を引いた隙をつき、懐に入り込む。
「One more!」
下から上へ斜めに入った白刃の軌道。
鎧を覆い尽くしれなかった胸元に入った一太刀に、悲鳴がさらに増す。
痛みに苦しむ帝魔は斬られた箇所から血を流し、場を赤く染めていく。
同時に返り血が直撃したシリウスだったが、瞳の青は変わらずギラギラと輝いていた。
「ぺっ、ぺっ、俺様にまでかけるんじゃねぇ!」
巻き込まれた牡丹は身体に着いた血の汚れを足で拭き取っている。
シリウスは一瞬だけ牡丹の様子を見ると、すかさず叫んだ。
「隠れて!」
声が聞こえたと同時に、牡丹はシリウスのシャツの襟の中に隠れる。
指示を出すな、と牡丹がいらつく暇もなく、攻撃は仕掛けられていた。
胸に刻まれた深手をもろともせず帝魔の身体が横に回転。
鉄の鞭のように振われた尾は、躱したシリウスの頭の上をかすめる。
「……っぶないなァ! またそれかよ!」
尾が叩きつけられ破壊された壁の一部がガラガラと崩れ落ちる。
それを見届ける間もなく、次から次へ鉄の尾をしならせシリウスに向かって放たれた。
ダン、ダン、ガラ、ガラリ。
リズムカルに響く破壊音にシリウスは不快感を募らせていく。
「うるさいなァ、これ以上滅茶苦茶にするのやめてくれよ」
何回も繰り返し見た光景に青い目が冴えていく。
無鉄砲振り回される尾の動きを躱しながら、敵の僅かな所作も見逃さない。
尾の長さから推測される攻撃の限界範囲。
後ろ足の向きの調整による打ち付ける方角。
妖魔の視線の揺れ。青年に対する殺意と、怖れ。
全ての状況を瞬時に見極め、直感が身体を突き動かす。
鉄の尾が放たれた瞬間、真横を掠める伸びきった直線。
鉄の高度を持つ、尾を両断は叶わない。
ならば、斬るのでは無く、そぎ落とす。
鱗一枚、一枚の裂け目を見抜き、水平に刃を入れる。
鱗が逆撫で、散り散りに弾け飛ぶ。
降りしきる黒い煌めきの中、帝魔の鉄の尾が水平に削ぎ落とされた。
「ヨシ」
ぎゃあぎゃあと、痛みにもがく獣の妖魔。
暴れるごとに尾の断面から血を流していく。
シリウスは手応えをかみしめるも、追撃の手を緩めない。
この隙をつき、刃は帝魔の首元を狙っていた。
しかし、帝魔の俊敏な動きは健全なままだった。
命の危機に瀕して、左手でシリウスを払いのける。
「がッ」
当たった衝撃にシリウスはまた横に弾け飛ぶ。
気を使った受け身を取るも、全身に痛みが走る。
意識がぐらぐら揺れる中、なんとか気を保つもすぐに立ち上がれない。
次の一撃が迫れば、ただでは済まない。
だが、帝魔はシリウスに襲うことなく、むしろ距離を置いていた。
「……アレ?」
偶然にも体勢を立て直す機会を得て、シリウスは呼吸を整え立ち上がる。
疑問になりながら帝魔の方角を見ると、
「チッ」
バキバキと骨を砕く音が鳴る中。
帝魔がワニを鷲づかみにして丸ごと食らっていく光景に、シリウスは嫌悪に耐え切れず舌打ちを打つ。
そして、すぐに帝魔の身体に変化が現れる。
切断された面が止血され、荒ぶった息が整っていく。
「やっぱ、頭か心臓しかないか」
攻撃を通しても、足下にいるワニを食らえば回復する。
手足を削いだとしても、回復されてしまえば無駄な徒労に終わってしまう。
敵の急所を突かなければ終わらない戦い。
シリウスは額に浮かんだ汗を拭い状況を見渡すも最適解が見つからない。
せめて、化け物の動きが少しでも鈍ってくれたら。
シリウスが頭の中で呟く中、再び帝魔の後ろ足に力がかかる。
攻略の糸口は動きながら考えるしかない。
刀を構え、青い目で敵に見定める。
頭上から聞こえる舞の音色に耳を傾けながら、彼は再び走り出した。
その時、膝がガクンと崩れ落ちる。
倒れたのは獣の妖魔だった。
「エッ」
突然の帝魔の異変にシリウスは困惑するも、この好機を逃すはずがない。
彼の殺気の勢いは衰えることなく、帝魔に刃が向けられる。
「そこだァ!」
首を狙うシリウスの一撃を寸前のところで、帝魔が振り払う。
鱗に覆われた右手で刃を受け止めるも、つい先程までの気迫は薄らいでいた。
シリウスも刀身を伝って当たった鱗の感覚に違和感を覚える。
固く覆われた外殻ではあるものの、鱗一枚一枚が逆剥け開いていく。
網目の解れた衣類のような脆弱になった鉄の鱗。
シリウスが気力を込めて刀身を引くと、鱗が飛び散り帝魔の右手が切断された。
軌道が外れ、なんとか首の皮は繋がれたものの驚愕と苦痛に黄色い目を大きく見開く。
迫る白刃の追撃。
帝魔は身の危険を最大限に感じとり、急いでシリウスとの距離を取る。
横暴にワニに食いつく。
けれど、帝魔の傷が癒えることはなかった。
「ミスター牡丹……じゃあないよね」
「んなわけあるか、帝魔に俺の糸は効かねえ」
「じゃあ……これって……」
そびえ立つ舞台から奏でられる舞曲の音色。
シリウスは上を仰ぎ、斉天の調べに耳を傾けた。
○
左足を前へ。
打ち手の鼓が嫋やかなリズムを刻み、笙の十七管が囲んでいく。
天井に響き渡る篳篥の強い旋律。
奏でられる雅楽の中、白い斉天が舞台に君臨する。
四角く括られた舞台の中では、戦いの喧騒は一切聞こえない。
結界整備師の術の糸が、舞台を妖魔の妨げのないものへ作り上げていた。
故に彼は、ただ静かに己の演目を全うする。
舞台に上がる直前の緊張と圧迫はなど、不思議と今はどこにもない。
手にした扇は朱色に煌びやかに輝き、天へ向かって大きく円を描く。
祈るように高らかに。
それは、この世を去った聖人の手向けではない。
熱の籠もった手は、力強く扇をたたみ一直線に前を指し示す。
「……っ」
あいつら、無事でいてくれ。
仮染めの碧緑の目は、あやふやな過去ではなく、今ある現実を睨みつける。
外界と遮断された舞台で、彼は唯一残った二人の友人に背を向けることは出来なかった。
○
「春明……」
響き渡る音の知らせに、シリウスは息を呑む。
蓄積された舞の霊術が土地に浸透し、張りついた冷えた空気が和らいでいく。
夜の帳から日の光当たる日常へ。
春明の斉天は舞殿全域に渡り、人の領土を安定させる。
覆される支配権。
知らず知らずのうちに追いやられた帝魔は、弱体化する身の異変になす術がなかった。
「うわぁ、おっかなぇ」
逆剥けた鱗を撒き散らし、弱っていく帝魔に牡丹は軽い口調で様子を眺める。
一方で、シリウスは手にした刀を両手で構え直し、敵との距離をゆっくり詰めていく。
「……」
自分だけが戦っているわけじゃない。
頭上から十五メートル先の舞台で、彼の友人は今も懸命に役目と向き合っている。
「僕だって」
これまでに蓄積された疲労、張り詰めたすぎて薄れる気力。
受けた痛みに身体が悲鳴を上げるも、シリウスは根性でねじ伏せる。
負けるわけにはいかない。
青く爛々とした瞳が睨みつけ鋒を向ける。
対して、帝魔もまたシリウスの視線に気がつく。気怠い身体を奮い立たせながら、濁った黄色い目を逸らさない。
互いにぶつかり合う、殺意と殺意。
「ミスター牡丹、こっちで待っていてくれないか?」
「なんだ?」
首を傾げる牡丹の前に、シリウスは軍帽を外し手前に差し出す。
「僕も暴れてくる。危ないからこっちに」
平静を保った声色の中に、荒々しい獰猛さを潜ませる。
検非違使としてではなく、武者として。
彼の気質が戦慄を帯び、牡丹の毛先の一本一本を震わせた。
「はぁ……こっちはマジでおっかねぇ……」
抵抗素振りもせず、小さな身体はシリウスの軍帽の中に入る。
「ありがとう」
シリウスは牡丹が入った軍帽を離れた瓦礫の上に置く。
振り返れば、倒すべき妖魔が一体。
オールバックの金髪が乱れ舞い、青く光る殺意が瞳に宿る。
「Are you ready?」
眼前の敵を、ただ斬り伏せる。
武者は一握りの使命を原動とし、大地を蹴り上げた。
猛る獣の咆吼。
帝魔は砕け散る鎧の鱗を顧みず、武者に襲いかかる。
舞の影響下で重圧される中、身体の瞬発性だけは衰えを知らなかった。
飛びかかる獣をシリウスは寸前で躱しながら、刀を最低限の動きで振っていく。
弾く刀身と、砕ける鎧。
線香花火のように散る黒き断片をかいくぐり、武者は敵の懐に忍び寄る。
必殺の一撃に光る刃。
シリウスが下から帝魔の喉元に迫り切り落とす間際。
「ッ!」
それよりも速く、足下から一体の生き物が現れ出る。
勘の知らせにシリウスが咄嗟に身を引くと、黒い頭をした蛇が飛びかかっていた。
獰猛な牙の先端から透明な毒を滴らせ、外してもなお蛇はシリウスに向かって襲いかかる。
「さっきまでは、無かったんだけどなァ!」
蛇の長い胴体は帝魔の尾と同化をしていた。
驚異的な生存本能が帝魔を急激に進化させ、新たな武器を与える。
複雑怪奇の蛇の動きに、シリウスは刀を交えて迎え撃つ。
蛇と刀。
鉄同士が打ち付け合う爆ぜた音が響き続け、一歩も譲らない攻防が続く。
飛び散る様子のない蛇の鱗に、帝魔のすべての霊力があてがわれシリウスは額に汗を滲ませていく。
「この野郎……ッ!」
あと一手。
ここを切り抜けねば、全てが台無し。
シリウスは勝利を見据えず、目前を逸らさない。
春明の舞台の成功を目指して、窮地を切り開く可能性を模索する。
勘を巡らし、蛇の毒牙を避け、
「ウォ、ラァア!」
脳に巡る全ての気力を、目の前の現実に全て注ぎ込む。
シリウスの手足と勘は、今は春明の舞台の為だけに。
言い換えてしまえば、自分自身に迫る脅威には無頓着だった。
彼の背後に蠢く黒い影。
咆哮の合図は、蛇以外にも新たな生命を呼んでいた。
ゆっくり、じわじわと。
糸で繋がったワニ達が一つに集まり、巨大に膨れ上がっていく。
六足に足を増やし、二回り巨大化した爬虫類へと姿を作り上げる。
普段のシリウスであれば、その脅威にいち早く気づけていただろう。
だが、帝魔との逼迫した戦闘下。
現れた妖魔が他者ではなく、自身に向けたれた存在という起因が、悪運の優先度を下げていた。
「……ッ」
どどど、とやってくる足音。
背後から聞こえる不吉な音にやっと気がつくも、彼は後ろを振り返れない。
ここで目を逸らせば、帝魔に殺される。
「ち、くしょう……!」
蛇の毒牙を返すも、帝魔との距離は縮まらない。
背後からやってくる刺客の牙になす術なく終わる。
絶望的な状況に悔しさに噛み締めるも、それでもシリウスは向けた刃を収めることはしなかった。
「負けるかァ!」
刺し違えてでも殺す。
武者は覚悟を決め、帝魔の喉を狙い突き進む。
毒牙を刀で返し、蛇が外側に弾けるものほんの一瞬の出来事。
すぐに体勢を立て、シリウスの頭上に狙いを定める。
届かない帝魔との距離。
毒牙が先か、後ろから迫るワニの牙が先か。
間に合わない。
「そんな訳ないでしょう」
彼らの後方、距離三十メートル。
静かに呟いた乱入者は、その間わずか一秒で疾走し、流星の如く飛来する。
「シリウス君の邪魔をしないで」
漆黒の瞳は巨大化したワニに狙いを定め、蹴りの衝撃に真横に吹き飛ぶ。
ドカン、と大きな衝撃音にシリウスの口角を上げれずにはいられなかった。
振り返らずとも分かる。
巨大なワニの代わりに、彼の後ろにはあの青年がいる。
自身の頭上にはまだ蛇の牙が迫っていてもシリウスは嬉しさを噛みしめずにはいられない。
「頑張れ」
こんなヤツに負けるな。
桜下は振り返ると、刀を天にかざすシリウスの姿があった。
「これは、春明の分、だァ!!」
開かれた蛇の牙に目がけて、刃が平行に突き刺さる。
走る雷切は蛇の胴体を真っ二つに切り裂き、黒い火花を散らしていく。
ボロボロにもがれた鎧の鱗。
最後の足掻きを見せる獣は諸刃の剣を掲げる。
終わらない、まだ終われない。
生存本能を掻きむしり、仮初めの獣は牙を突き立てる。
しかし、鋭い白銀には到底追いつけず。
人の繁栄の音色が響く中、猿の顔立ちをした首が地面に転がり落ちた。
◯
ずしん、と獣が横に倒れ、すべてのワニは体の先端から崩壊していく。
黒い霧が空中で透明になる中、桜下は横たわる獣の亡骸を眺めていた。
「……」
首と胴体が切り離された獣の骸。
獣の表情は時が止まったかのように猛々しい憤怒の形相を見せる。
穏やかな水面のように切り離された断面は、獣が殺された自覚を持たずに逝ったとさえ錯覚させられた。
「シリウス君」
その横には、獣を仕留めた武者がいた。
名前を呼ばれると、武者は鞘に手を添え静かに刀を納める。
「ワァー!」
どっと額から大量の汗が流れ落ち、全身は打の痛みが治らない。
それでも、勝ち取った勝利にシリウスはいつものように屈託な笑みを浮かべた。
「凄いね」
シリウスの勝ち誇った表情に安堵し、桜下もつられて笑みを溢す。
すると、彼は桜下の前まで走り寄ると固く握手を交わす。
「凄いのはさくの方だよ! あのどデカいワニをサッカーみたいに蹴り飛ばしちゃってさァ! もう僕のハートにシュートでゴール、プラス一億ポイントさ!」
「ははは、日本語で話してくれるかな?」
元気すぎるシリウスの手を振り払おうとせず、桜下は両手を上下に振り回されるがままだった。
「ウン?」
しかし、シリウスはあることに気がつきピタリと動きを止める。
手の中に当たった硬い感触。
ゆっくり手のひらを開くと、磨かれた黒い瑪瑙の石が収まっていた。
「これさっき磨いていた要石だよね? 使うの?」
手の中にある石を不思議そうに眺めるシリウス。
彼の青い目が疑問に満ちる中、そっと桜下が石を掬い上げる。
「いざって時のために持っていただけ。もう使わないかな」
「フーン」
「ところで大先生こっちに来ていない?」
「オォー、そうだった」
シリウスは瓦礫の上に置いた軍帽を桜下の前に差し出す。
桜下は軍帽の中に収まっていた、小さな蜘蛛を軽く指で弾く。
「おーい」
「アヒョっ」
コロコロと転がる牡丹の身体。
小さな蜘蛛は帽子の縁で止まり、気だるそうに身体を起こす。
「怪我はなさそうだけど、だいぶお疲れモードですね」
「……もうこの検非違使と一緒は勘弁しろって。自分から妖魔の中に突っ走るから溜まったもんじゃねぇ」
牡丹は深いため息をつきながら、差し伸べられた指に飛び乗る。
素早い動きで桜下の腕を駆け上がり、髪の中に姿を眩ました。
「僕が無茶させたから怒った?」
一連の牡丹の態度にシリウスが不安を見せると、桜下は静かに首を横に振るう。
「そうじゃないよ。ただ……こんな横暴そうだけど、根っこはひっそり生きていく性分だからさ。糸出し過ぎて疲れているだけだよ。私もちょっと、酷使し過ぎた。反省」
「そうだったんだ……」
これまでの道中、彼らは何度も牡丹の糸に助けられた。
シリウスが帝魔を仕留められた経緯も牡丹が糸でワニの群を抑えた功績があってこそだった。
「ミスター牡丹が起きたら、ちゃんとお礼言わなきゃね」
今はただ感謝の意思を胸に秘め、シリウスは頭上を見上げる。
「さく、今日の主役を迎えに行こう」
演目はまだ終わっていない。
鳴り響き続ける舞楽の調べに、シリウスは桜下の手を引き、そびえ立つ舞台の柱を駆け上がった。
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