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side エルフの里にて
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「ふむ……これはまた徹底的にやってくれたわねぇ」
日が沈みかけ、森の木々の陰が夜を先導する。
そのせいでかなり辺りが暗くなっているその場所で、一人の男が黒焦げになった地面の土を指先で弄びながらそう呟く。
ここはルキシオスとエルモが襲撃し、焼き尽くしたエルフの里の跡である。
「周りの木に全く被害を出さずにここまでのことが出来るなんて。予想以上だわ……それに」
男はそこかしこに転がる残骸を意に介することも無く、空を飛ぶように移動すると一つの塊の前に降り立つ。
そして、つま先でその塊を蹴った。
ぶわっと舞い上がる灰に、男は思わず口元を押さえる。
舞い散った灰の後には何も残っていない。
「ここまで完全に燃やし尽くされちゃったら、この子たちもどうしようもなかったでしょうねぇ」
彼が蹴り散らかした塊の正体は、エルモの魔法で燃やし尽くされたエルフの成れの果て。
どうやらエルモはエルフたちを、その体の芯まで燃やし尽くしたようだ。
「もしかしてあの子、エルフに仕込んだアレの正体に気がついていたのかしら。どこまで聡い子なのよ。まったく計画がおじゃんだわ」
男は周りを見渡しながら、その地には既に何もないことを確認すると一つため息をつく。
だが、その顔は言葉とは裏腹に残念そうな気配はみじんも感じられない。
むしろ新しい『おもちゃ』を手にした子供のように無邪気で、それ故に恐ろしい笑顔が浮かんでいる。
「まぁいいわ。あの子たちにはエルフちゃんの代わりに新しい実験対象になってもらいましょう」
そう呟く彼の目が一瞬何かを感じたのか見開かれる。
そしてそのまま細められた目には悦びの色が浮かんで。
「あらあら、あの子たちったら。もうあの場所を見つけちゃったのね」
男が見つめる先はルキシオスたちの村の方向。
「まだもう少し時間が欲しかったけど仕方ないわぁ。これは早めに勇者ちゃんに頑張って貰う必要が出てきたってことね」
そう言って体についた灰を両手で払った男は、どこからか取り出した剣を一本地面に突然突き刺した。
身の半分まで埋まった剣が、日の代わりに登ってきた月の光を反射して輝く。
いや、その剣は自ら輝いている。
徐々にその光が増して行く剣を男は満足げに見下ろし。
「予定よりは少ないけど、まぁこれくらいあれば十分でしょう」
そう口にすると、剣を地面から抜きだし、天へ掲げる。
その刀身は青白く輝いていて、力ある者が見れば、途轍もない魔力を秘めているのを感じ取れただろう。
「さぁて、あの子たちが真なる魔王の器かどうか、勇者ちゃんを使って確かめさせて貰おうかしらぁ」
その声が風に流された月明かりの下。
もうそこにはその男も剣も無く。
ただ、黒く全てが燃え尽きた地面が広がっているだけだった。
============= 第一部 完 =============
日が沈みかけ、森の木々の陰が夜を先導する。
そのせいでかなり辺りが暗くなっているその場所で、一人の男が黒焦げになった地面の土を指先で弄びながらそう呟く。
ここはルキシオスとエルモが襲撃し、焼き尽くしたエルフの里の跡である。
「周りの木に全く被害を出さずにここまでのことが出来るなんて。予想以上だわ……それに」
男はそこかしこに転がる残骸を意に介することも無く、空を飛ぶように移動すると一つの塊の前に降り立つ。
そして、つま先でその塊を蹴った。
ぶわっと舞い上がる灰に、男は思わず口元を押さえる。
舞い散った灰の後には何も残っていない。
「ここまで完全に燃やし尽くされちゃったら、この子たちもどうしようもなかったでしょうねぇ」
彼が蹴り散らかした塊の正体は、エルモの魔法で燃やし尽くされたエルフの成れの果て。
どうやらエルモはエルフたちを、その体の芯まで燃やし尽くしたようだ。
「もしかしてあの子、エルフに仕込んだアレの正体に気がついていたのかしら。どこまで聡い子なのよ。まったく計画がおじゃんだわ」
男は周りを見渡しながら、その地には既に何もないことを確認すると一つため息をつく。
だが、その顔は言葉とは裏腹に残念そうな気配はみじんも感じられない。
むしろ新しい『おもちゃ』を手にした子供のように無邪気で、それ故に恐ろしい笑顔が浮かんでいる。
「まぁいいわ。あの子たちにはエルフちゃんの代わりに新しい実験対象になってもらいましょう」
そう呟く彼の目が一瞬何かを感じたのか見開かれる。
そしてそのまま細められた目には悦びの色が浮かんで。
「あらあら、あの子たちったら。もうあの場所を見つけちゃったのね」
男が見つめる先はルキシオスたちの村の方向。
「まだもう少し時間が欲しかったけど仕方ないわぁ。これは早めに勇者ちゃんに頑張って貰う必要が出てきたってことね」
そう言って体についた灰を両手で払った男は、どこからか取り出した剣を一本地面に突然突き刺した。
身の半分まで埋まった剣が、日の代わりに登ってきた月の光を反射して輝く。
いや、その剣は自ら輝いている。
徐々にその光が増して行く剣を男は満足げに見下ろし。
「予定よりは少ないけど、まぁこれくらいあれば十分でしょう」
そう口にすると、剣を地面から抜きだし、天へ掲げる。
その刀身は青白く輝いていて、力ある者が見れば、途轍もない魔力を秘めているのを感じ取れただろう。
「さぁて、あの子たちが真なる魔王の器かどうか、勇者ちゃんを使って確かめさせて貰おうかしらぁ」
その声が風に流された月明かりの下。
もうそこにはその男も剣も無く。
ただ、黒く全てが燃え尽きた地面が広がっているだけだった。
============= 第一部 完 =============
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何だかなあ
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ゴブリン1人の言うことを鵜呑みのして実際の損失はほとんど無いのにエルフの里を襲撃して皆殺しにしてるし、そもそも意志疎通の手段はあるのに速攻放棄してるし
エルフが醜い種族って後付け設定のせいで流されてるけどやってることはメチャクチャですよね
だいたい勇者への恨みだって逆恨み臭いし
最初っから婚約者は主人公を好きじゃないし、心の交流とかもなかったし主人公も顔しか見てなかった感強いから寝とられた感0だしね
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