上 下
24 / 39

悪役令嬢レート=マクダーナ

しおりを挟む
 この世界にはその時代の苦難を乗り越えるために異世界から何人もの人物が時折やってくる。

 それは魔王を討伐するために召喚された勇者タイガのような場合が一番多い。

 だが、それ以外にもレートの様に異世界の記憶を持ったままこの世界へ『転生』してくる異世界人も希に現れる。
 その者たちは最初から前世の記憶を持っている場合もあるし、レートのように何かのきっかけで前世の記憶を思い出す場合もある。

 いや、それどころか『人間』ですらないこともあると聞く。
 今回倒された魔王も元異世界人だったのではないかと噂されているが、定かではない。

「異世界人はみんな『スキル』ってのを持ってるんだろ?」
「そうみたいですわね」
「つまりお前も持っているわけだ」

 その言葉にレートは少し目を伏せ、両手で包み込むように持ったコップの水面に目線を落とす。

「私の場合、生まれた時に神殿の『スキルチェック』を受けてわかりました」
「生まれてすぐにスキルチェックなんてするのか。俺たちの周りでそんなことやってる奴はいなかったが」
「普通の人たちは冒険者にでもならない限りやりませんわね。ですが、私たち貴族社会では『スキル』というのは大きな意味を持ちますの」

 望むと望まざるとに関わらず、貴族に生まれるというのは将来的に国を、領地を治めていかねばならない立場になるということとだ。
 なので貴族たちにとって自らの子供がスキル持ちかどうかというのはかなり重要な案件なのである。

「私の家……マクダーナ家というのは王国でも珍しいほどスキル持ちが生まれる一族なんです」

 彼女の本名はレート=マクダーナというらしい。
 マクダーナ家というのは田舎の村人でしかなかったおれですら聞いたことがある名家である。

「貴族にはスキル持ちや転生者が生まれやすいとは聞くな」
「一番スキル持ちが生まれやすいのが辺境伯。次は没落しかけている貴族の元らしいのですが」
「何か法則でもあるんだろうか」
「思い当たる節は前世の記憶の中にありますが」
「マクダーナ家がスキル持ちが多い理由もそこにあるのか?」

 前世の記憶を探っていた様子のレートに俺はそう問いかける。
 彼女は俺の問いかけに小さく頷くと話し始める。

「そうですね。前世の記憶によれば私のいた元の世界では『異世界転生』や『異世界転移』を扱った物語が沢山ありました」

 そんな物語で大抵主人公が転生する先が、先ほどレートが語った辺境伯や没落貴族の子供らしい。
 レートの家はその二つとは真逆ではあるが、王族や身分の高い貴族に転生するパターンも多いという。

「特に私のような立場に転生した場合は『悪役令嬢』というのが定番の一つでした」
「そうそれだよ。悪役令嬢ってなんなんだ?」

 レートはその『悪役令嬢』に転生したせいで突然婚約破棄された上に、位の高い貴族の娘であったにもかかわらず地方へ追放されたのだ。
 本来なら、それほど身分が高い貴族の娘が追放されることはあり得ない。

「悪役令嬢というのは、私の世界で存在した乙女ゲームという女の子が主に楽しむために作られた物語がありまして」

 レートは異世界の知識を持たない俺に、なんとかわかりやすいように説明をしてくれた。
 それによれば彼女は『時の流れの中で3』という乙女ゲーに搭乗する悪役令嬢としてこの世界に生まれたらしい。

 悪役令嬢というのは乙女ゲーの物語における主人公のライバルという立場の人物で、さんざん主人公と衝突したあげく、最終的に悲惨な目にあって退場するという立場なのだそうだ。

 早めに自分が悪役令嬢の立場だと気がつくことが出来れば、そのフラグ……というものを回避できることが多いらしいのだが。
 ただ彼女自身が前世の記憶を取り戻したのは婚約破棄された時だったので、すでに手遅れだったというわけだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...