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森の中で出会うもの
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エルモの飛行魔法によって魔族領の森の上空にたどり着いた俺たち。
しばらく鬱蒼と茂る木々の上を巡回する。
「エルモ、あそこに少し開けた所があるぞ」
「えっ、どこ?」
「右だ右」
「えっと、あったあった。それじゃあそこに降りる?」
「ああ、たのむ」
俺がそう答えると、エルモはその広場に向けて一気に速度を上げ降下していく。
「ひゃああああああああああああああああっ」
エルモを挟んだ反対側からレートの少し間の抜けた悲鳴が聞こえてくる。
そういえば俺も初めてこの魔法で空を飛んだときは怖かったっけ。
だが、何度か飛んでいるうちにすっかり慣れてしまった。
何よりエルモの飛行魔法は、彼女の体に触れているものたち全体を魔力で包み込み浮遊させるため、風の抵抗も重力の反動も感じない。
だから慣れると飛んでいる間すべてエルモ任せで自分は寝ていても大丈夫なくらい快適なのである。
「お、落ちるぅぅぅぅぅぅ」
なので、目を開けてさえいなければ自分の体が地面に向けて落ちている事すら気がつかないで済む。
それをレートに伝え忘れてたなと思いつつ、俺は着陸地点の状況を確認する。
「小さいけど池があるな」
「近くに川は見当たらないし、地下水でも湧き出しているのかもしれないね。そのせいで木が生えてないのかな」
「わかんねぇけど、水が簡単に手に入るならそれに越したことはないな」
赤茶けた平原と違い、森は緑の木々で覆われている。
目的地である泉の周りも小さな草原のように見えるが、その草を掘り返せば赤い土が現れることだろう。
「魔族領の地面って何であんなに赤いんだ?」
「賢者オリジも調べてたらしくて、書物の中に魔族領についての研究資料が一杯あったよ」
「それに何か書いてあったか?」
「あ、もう着くから後で教えるよ」
エルモの言うとおり、俺たちはまもなく森の中に開けた池のほとりにゆっくりと着地した。
飛行魔法が解除されると同時に体に重みが戻る。
「きゃっ」
同時にレートがかわいらしい悲鳴を上げて地面にへたり込んでしまった。
よほど怖かったのかその唇が紫色になっている。
「エルモ、とりあえずここら辺にテントを建てて、周りに結界を張っておいてくれないか?」
「わかった。ルギーはどうするの?」
「俺はちょいとこの周りを軽く一周してヤバげなものがないかどうか確認してくる」
そうエルモに答えると、へたり込んだまま動かないレートに近寄り、その肩を叩く。
「レート、そういうわけだから、俺が帰ってくるまでエルモの近くから離れるんじゃないぞ」
その言葉に、レートはこわばったままの顔を俺に向ける。
ちゃんと俺の話を聞いていたのだろうか。
「ここは元魔王領だ。森の中にも凶悪な魔物が彷徨いている可能性がある。だから絶対にエルモから離れて彷徨くんじゃないぞ。そんなことをしたら多分死ぬ」
「死……」
少し脅しが効き過ぎた。
戻りかけていた顔色が一瞬で青ざめさせると、彼女は勢いよく頷き立ち上がった。
「わわっ。何っ」
レートはそのままエルモの方へ走っていくと、彼女の腕を両手でぎゅっと抱え込むように握ったのだ。
突然のことに慌てふためくエルモに俺は「じゃあ任せたぜ」と笑顔で告げるとその場を離れ、森の中に飛び込んだのだった。
◇ ◇ ◇
「とは言ったものの、気配探知をしても大して強い魔物もいなさそうだな」
俺は森の中を小走りで移動しながら周りを観察する。
といっても鬱蒼と茂った木のおかげで見通しは最悪で。
時折り襲いかかってくる魔獣は全て一撃で撃破出来る程度のものばかりだ。
それどころか手加減をしないと四散してしまう。
素材として使ったり、食料にするにはそれでは拙い。
なので、美味そうな魔獣はなるべく破壊しないように心がけて、収納ポーチに放り込んでいく。
「腐る前に保存食にしないとな。帰ったらエルモに手伝ってもらおう」
お嬢様育ちのレートは獲物の処理などできないだろうしな。
それでも一緒にここで生きていくつもりなら覚えてもらわないと。
いや、まてよ。
あいつ確か転生者だって言ってたな。
だったらもしかして元の世界でサバイバルな経験があるかもしれないぞ。
そんな思考に意識を取られていたせいだろうか。
突然目の前に飛び出してきたその小柄な魔物に、俺は一瞬攻撃動作に入るのが送れてしまう。
「むっ」
「わぁぁぁぁっ!!」
振り上げた拳を慌てて振り下ろそうとしたが、目の前で悲鳴を上げ頭を抱え込み、うずくまったその魔物の姿に思わず手を止める。
叫び声に一瞬人間の子供かと思ったからだが、よくよく見るとどうやら違うようだ。
薄暗い森の中、緑色の肌に長い耳、俺の胸までくらいしかなさそうな小柄な体。
腰蓑だけを巻いたその姿。
あの賢者の部屋で読んだ書物に描かれていた絵で見た事がある魔物だ。
確かあの書物に書かれていた魔物の名前は……。
「お前はもしかして……ゴブリンか?」
俺の前に突然現れて、怯えてうずくまったまま震えてる魔物。
それは間違いなく魔族領に住むというゴブリンであった。
しばらく鬱蒼と茂る木々の上を巡回する。
「エルモ、あそこに少し開けた所があるぞ」
「えっ、どこ?」
「右だ右」
「えっと、あったあった。それじゃあそこに降りる?」
「ああ、たのむ」
俺がそう答えると、エルモはその広場に向けて一気に速度を上げ降下していく。
「ひゃああああああああああああああああっ」
エルモを挟んだ反対側からレートの少し間の抜けた悲鳴が聞こえてくる。
そういえば俺も初めてこの魔法で空を飛んだときは怖かったっけ。
だが、何度か飛んでいるうちにすっかり慣れてしまった。
何よりエルモの飛行魔法は、彼女の体に触れているものたち全体を魔力で包み込み浮遊させるため、風の抵抗も重力の反動も感じない。
だから慣れると飛んでいる間すべてエルモ任せで自分は寝ていても大丈夫なくらい快適なのである。
「お、落ちるぅぅぅぅぅぅ」
なので、目を開けてさえいなければ自分の体が地面に向けて落ちている事すら気がつかないで済む。
それをレートに伝え忘れてたなと思いつつ、俺は着陸地点の状況を確認する。
「小さいけど池があるな」
「近くに川は見当たらないし、地下水でも湧き出しているのかもしれないね。そのせいで木が生えてないのかな」
「わかんねぇけど、水が簡単に手に入るならそれに越したことはないな」
赤茶けた平原と違い、森は緑の木々で覆われている。
目的地である泉の周りも小さな草原のように見えるが、その草を掘り返せば赤い土が現れることだろう。
「魔族領の地面って何であんなに赤いんだ?」
「賢者オリジも調べてたらしくて、書物の中に魔族領についての研究資料が一杯あったよ」
「それに何か書いてあったか?」
「あ、もう着くから後で教えるよ」
エルモの言うとおり、俺たちはまもなく森の中に開けた池のほとりにゆっくりと着地した。
飛行魔法が解除されると同時に体に重みが戻る。
「きゃっ」
同時にレートがかわいらしい悲鳴を上げて地面にへたり込んでしまった。
よほど怖かったのかその唇が紫色になっている。
「エルモ、とりあえずここら辺にテントを建てて、周りに結界を張っておいてくれないか?」
「わかった。ルギーはどうするの?」
「俺はちょいとこの周りを軽く一周してヤバげなものがないかどうか確認してくる」
そうエルモに答えると、へたり込んだまま動かないレートに近寄り、その肩を叩く。
「レート、そういうわけだから、俺が帰ってくるまでエルモの近くから離れるんじゃないぞ」
その言葉に、レートはこわばったままの顔を俺に向ける。
ちゃんと俺の話を聞いていたのだろうか。
「ここは元魔王領だ。森の中にも凶悪な魔物が彷徨いている可能性がある。だから絶対にエルモから離れて彷徨くんじゃないぞ。そんなことをしたら多分死ぬ」
「死……」
少し脅しが効き過ぎた。
戻りかけていた顔色が一瞬で青ざめさせると、彼女は勢いよく頷き立ち上がった。
「わわっ。何っ」
レートはそのままエルモの方へ走っていくと、彼女の腕を両手でぎゅっと抱え込むように握ったのだ。
突然のことに慌てふためくエルモに俺は「じゃあ任せたぜ」と笑顔で告げるとその場を離れ、森の中に飛び込んだのだった。
◇ ◇ ◇
「とは言ったものの、気配探知をしても大して強い魔物もいなさそうだな」
俺は森の中を小走りで移動しながら周りを観察する。
といっても鬱蒼と茂った木のおかげで見通しは最悪で。
時折り襲いかかってくる魔獣は全て一撃で撃破出来る程度のものばかりだ。
それどころか手加減をしないと四散してしまう。
素材として使ったり、食料にするにはそれでは拙い。
なので、美味そうな魔獣はなるべく破壊しないように心がけて、収納ポーチに放り込んでいく。
「腐る前に保存食にしないとな。帰ったらエルモに手伝ってもらおう」
お嬢様育ちのレートは獲物の処理などできないだろうしな。
それでも一緒にここで生きていくつもりなら覚えてもらわないと。
いや、まてよ。
あいつ確か転生者だって言ってたな。
だったらもしかして元の世界でサバイバルな経験があるかもしれないぞ。
そんな思考に意識を取られていたせいだろうか。
突然目の前に飛び出してきたその小柄な魔物に、俺は一瞬攻撃動作に入るのが送れてしまう。
「むっ」
「わぁぁぁぁっ!!」
振り上げた拳を慌てて振り下ろそうとしたが、目の前で悲鳴を上げ頭を抱え込み、うずくまったその魔物の姿に思わず手を止める。
叫び声に一瞬人間の子供かと思ったからだが、よくよく見るとどうやら違うようだ。
薄暗い森の中、緑色の肌に長い耳、俺の胸までくらいしかなさそうな小柄な体。
腰蓑だけを巻いたその姿。
あの賢者の部屋で読んだ書物に描かれていた絵で見た事がある魔物だ。
確かあの書物に書かれていた魔物の名前は……。
「お前はもしかして……ゴブリンか?」
俺の前に突然現れて、怯えてうずくまったまま震えてる魔物。
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