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辺境の地を出発して幾つもの街や村を経由し、行商人の紹介で乗った馬車に揺られながら王都にたどり着いたのは十日後でした。
途中の村や街の人たちの中には、既に避難を始めている人たちもかなりいるようでした。
なぜなら、この国では王都以外は、他国との要所以外にまともな防御壁を持った所は殆どないからです。
死霊の王による進軍で、簡単に村や街が潰されたのはそういったこの国の形態が影響しているのは間違いありません。
「それにしても嬢ちゃんは凄いな」
「そうですか?」
「ああ、途中であれだけたくさんの人たちに癒やしの力を使っても魔力切れ一つ起こさねぇんだもんな」
アンデッドによる襲撃の噂を聞いて、一部の人たちはパニックを起こしていました。
そのせいでもめ事が増えたのか、通る途中の街や村ではかなりのけが人が発生していたのです。
中には私より前にその場所を通っていったレオン先生によって治療された人たちもいました。
ですがレオン先生でも治せない怪我や、先生が去った後に出来た物も多く、それを私は道すがら全て治療していったのです。
しかし、それはただ単に私は善意だけで行ったことではありませんでした。
「でもよぉ。少しぐらい金を貰っても良かったんじゃねぇか? 全部無償で治してやるなんて、本当にあんた聖女みたいだぜ」
「私はそんな清い人間ではありませんよ」
私はそれだけ返事をすると目を閉じます。
これ以上褒めそやされても心が苦しくなってしまうだけなのですから。
なぜなら私が道すがら人々を救ったのは、この先に待っている死霊の王軍との戦いに必要だったからなのです。
聖女の力というものは本人の資質が大きく影響するのは当然のことですが、実はそれ以外にも必要なものがあるのです。
「レオン先生の仰っていたとおりでした」
聖女の力の研究を、ずっと行っていたレオン先生は、その力の源について、ちょうど私が聖女になると決まったときに一つの結論に達しました。
あの日、聖女としての任命式が行われる前日でした。
突然、深夜に聖女の館にやって来たレオン先生は、興奮気味に私に告げたのです。
「聖女の力は人々の聖女に対する思いが集まるほど強くなることがわかりました」
「聖女に対する思い……ですか」
「正しくは聖女の力を持つ人そのものに対する善なる思いというものでしょうか」
詳しくレオン先生の話を聞いていくと、聖女という肩書きでは無く、その行いを行った者に行われた者の感謝の念が、そのまま聖女の力を強くするという話でした。
そんな話は今まで一度も聞いたことが無く、学校でも教会でも習っていません。
なので、あの日の私は、それがレオン先生の言葉であっても簡単に信じることは出来なかったのです。
ですが、聖女となり、兵士の皆さんや冒険者の方々。
そして王都に住む人々を聖女の力で救うたびに、自らの中にあるその力がどんどん強くなっていくのを実感したのです。
その日から私は、レオン先生の説を実証するために、更に聖女としての仕事に力を入れていったのです。
あの日、レオン先生の追放を聞かされるその日までは……。
途中の村や街の人たちの中には、既に避難を始めている人たちもかなりいるようでした。
なぜなら、この国では王都以外は、他国との要所以外にまともな防御壁を持った所は殆どないからです。
死霊の王による進軍で、簡単に村や街が潰されたのはそういったこの国の形態が影響しているのは間違いありません。
「それにしても嬢ちゃんは凄いな」
「そうですか?」
「ああ、途中であれだけたくさんの人たちに癒やしの力を使っても魔力切れ一つ起こさねぇんだもんな」
アンデッドによる襲撃の噂を聞いて、一部の人たちはパニックを起こしていました。
そのせいでもめ事が増えたのか、通る途中の街や村ではかなりのけが人が発生していたのです。
中には私より前にその場所を通っていったレオン先生によって治療された人たちもいました。
ですがレオン先生でも治せない怪我や、先生が去った後に出来た物も多く、それを私は道すがら全て治療していったのです。
しかし、それはただ単に私は善意だけで行ったことではありませんでした。
「でもよぉ。少しぐらい金を貰っても良かったんじゃねぇか? 全部無償で治してやるなんて、本当にあんた聖女みたいだぜ」
「私はそんな清い人間ではありませんよ」
私はそれだけ返事をすると目を閉じます。
これ以上褒めそやされても心が苦しくなってしまうだけなのですから。
なぜなら私が道すがら人々を救ったのは、この先に待っている死霊の王軍との戦いに必要だったからなのです。
聖女の力というものは本人の資質が大きく影響するのは当然のことですが、実はそれ以外にも必要なものがあるのです。
「レオン先生の仰っていたとおりでした」
聖女の力の研究を、ずっと行っていたレオン先生は、その力の源について、ちょうど私が聖女になると決まったときに一つの結論に達しました。
あの日、聖女としての任命式が行われる前日でした。
突然、深夜に聖女の館にやって来たレオン先生は、興奮気味に私に告げたのです。
「聖女の力は人々の聖女に対する思いが集まるほど強くなることがわかりました」
「聖女に対する思い……ですか」
「正しくは聖女の力を持つ人そのものに対する善なる思いというものでしょうか」
詳しくレオン先生の話を聞いていくと、聖女という肩書きでは無く、その行いを行った者に行われた者の感謝の念が、そのまま聖女の力を強くするという話でした。
そんな話は今まで一度も聞いたことが無く、学校でも教会でも習っていません。
なので、あの日の私は、それがレオン先生の言葉であっても簡単に信じることは出来なかったのです。
ですが、聖女となり、兵士の皆さんや冒険者の方々。
そして王都に住む人々を聖女の力で救うたびに、自らの中にあるその力がどんどん強くなっていくのを実感したのです。
その日から私は、レオン先生の説を実証するために、更に聖女としての仕事に力を入れていったのです。
あの日、レオン先生の追放を聞かされるその日までは……。
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