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第11章 モンスター

怖がる逃避行 ※篤郎視点

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「ち、ちょっと!大丈夫でしょうね!」

「うるさいな、見つかるぞ?」

「あ!」

柱の影に隠れる、エメリアと篤郎。
エメリアの顔やヤバい所の汗が異常に湧いているのが、見て無くても分かる。

汗かき体質なのだろう。

気持ち悪いのだが、子供に言う訳にもいかない。心に傷を着ける事にもなりかねない。
多感な年頃には、注意が必要なのだ。いや、責任を取りたく無いだけなのだが。

「あのさ。」

「何よ!」

「服を掴むの止めてくんない?」

「うるさい!」

ガタガタ震えるエメリアを護衛はならない立場から言うと、動きを制限されるのは困る。
それに、これは脱出を演出しなくてはならない。
安全で安心だとは知られてはならないのだ。
だから、

「声が大きくて、見つかるかもよ。」

「!」

我儘で聞かない子を脅すなら、怖がらせる方が良い。単純だが、躾の為だ。
篤郎は、エメリアを静めて周辺を確認の振りをした。

「よし、この先の部屋に逃げ込むぞ。」

エメリアが頷くと、篤郎は動いてエメリアを誘導しだした。
篤郎が、そっと鍵も掛かって無いノブを回して、

「鍵が掛かってる。見張ってくれ。」

「嘘!は、早くして!」

篤郎は、懐から針金を取り出すと形を整えてから鍵穴に向かった。
此処からは、上手くやらなくても良い。雰囲気を出すだけで、十分に騙せるのだから。

「なかなかやるな。よっ。んー。」

「早く、早く!」

「もう少し。」

エメリアの汗は、床を濡らした。それほど迄に、エメリアは焦っていた。

神経が高ぶり、自分の鼓動が高鳴る。
此処で足音が、カツーンカツーンと聞こえて来る。
なのに、気付かないエメリア。

大事なイベントなのに・・・・

「何か、足音が聞こえるけど?」

篤郎はヒントを与えた。

「えっ?あっ!階段を上って来たよ!」

「ちっ、あと少しだ。」

「早く!お願い!」

そうしてギリギリの所で、鍵を開けて部屋に入り鍵を閉めた振りをする。
エメリアは、胸の鼓動が高鳴ったままだが、足音だけは耳に入っていた。息を潜め、足音が通りすぎるのを待った。

これも、良く出来ているが妖怪達の演出だ。人を騙したり脅かす才能は、妖怪達にとってはスペシャリストなのだ。

それに作戦式にルナがいるのだから、失敗の要素がない。
エメリアは、ゆっくりと足音が聞こえないのを確認してから、

「はー!はー!はー!はー!」

と、大きくて早い息使いをしていた。

普通なら、大きな音を立てれば張れるのだが、ワンブーヘ盗賊部隊の兵は全員寝ている。
泣こうが、騒ごうが問題では無い。

篤郎は、室内に飽きたので外に出る為の行動に出た。

「落ち着いたか?この部屋から裏庭に入る。」

「裏庭に?」

「ああ、裏庭から庭園に入って川に向かう。」

「川に?」

「そこから、泳いで逃げる。」

「私の本が!」

エメリアは、カバンを抱き締めた。

これが、ワンブーヘ国の機密扱いに指定された、女の同人誌か。
読むのに勇気がいるのは、前世よりも男の感覚が強いのだろう。

何か、複雑な気分だ。
さて、どうするか?

「その中身は知らないが、それとお前の命はどっちが必要だ?」

「この中身よ!」

「ふーん、そんなに大事か?」

「そうよ、必死に書いた私の子供達よ!」

「あー、それが大事?」

「そうよ!」

エメリアは必死に守った。

面倒だな。
ま、ルナが回収してくれるので気にしない方が良い。例え、ど腐れでも娯楽に飢えた民には必要なのだ。

ルナ達の存在が確認されたので、ど腐れでも必要な娯楽担当要員になる。

必要なのは、知識と脳ミソと生きていること。

「アホか。」

「な、何よ!」

「それを書いたのは、お前だろ?」

「そうよ!」

「なら、中の内容を知ってるよな?」

「当たり前でしょ!」

「で、命よりもその中身が大事?」

「そう言ってるでしょ!」

「なら、その中身はゴミだな。」

「なっ!」

驚くエメリアに、篤郎はエメリアの頭を心配した。
そんな事を、今気付いたのかと。

「お前の頭の中に、その中身が入ってるのだろ?なら、その中身はゴミにしても問題無い。」

「これを書くのに、どれだけの時間が!」

「その内容を、もう知ってるのだろ?」

「だから!」

「そんなカバンよりも、お前の命が大事だろ?中身を覚えている脳があれば、中身を書けるだろ?」

「あ・・れ?あっ!そうよ!そうなのね!」

「なら、それは置いて行けるな?」

「分かったわ。」

エメリアは、名残惜しむようにカバンを置いた。
これで、重い荷物を持つことは無い。

次に、某映画の様にカーテンをムリしとり切り裂いてロープ状にして身体に巻いてみた。
それっぽくしないとね。

「降りるとするか。」

「そうね。」

「それでは聖女。」

「キャ!」

篤郎は、エメリアの身体をお姫様抱っこした。
汁の多さに、不快な気持ちもある。

たく、多汗症め!

「えっ!」

エメリアの顔が赤くなる。汗も大量になって、更に不快指数が上がる。

我慢だ、篤郎!

「・・・・・さて、では降りるぞ。」

「何よ!その間は!」

「掴まっていろよ!」

篤郎は窓に向かって走り出した。
映画の様にはいかないが、こうすれば演出的に格好がつく。
かな。

「えっ?」

窓が割れて、ガシャーンと音が鳴った。
悪そうな顔をした篤郎の顔を見たエメリアは、気を失った。

「あっ!気絶したぞ!気持ちわるー!ションベンを足らした!ルナー!」

「はい、マスター!」

「あーあ。」

「く、臭いニャー!」

「着替えを、魔王様!」

演出をするのは、ほどほどにしないとね。
新たな教訓になったな。
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