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第11章 モンスター

エメリアの戦場

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ワンブーヘ王の軍が進む場所では、勝ちに勝ちまくっていた。

ワンブーヘの旗が上がらない日は無いと言われる程に、ワンブーヘ軍は強かった。

と、ワンブーヘ国の民も周辺諸国も、感じただろう。その異質な強さと転戦してる事実に。
転戦が出来たのは、リザリテの策略のお陰だし、攻める場所を探っていた諜報部隊の情報があったからだ。

だが、それは限界に達しようとしていた。

先ず、情報収集の限界が先に来たのだ。
小国が集めれる諜報部隊の数は20人程。その内の優秀な者は、2名から3名まで。更に、優秀な者から部隊長が1人引かれるので、実質は19名。情報収集の観点から見ても少な過ぎる。

特に、携帯電話もメールも無い世界で、情報と言う『生物』を伝えるには無理があった。
それでも、リザリテの頭と情報を基に戦略で戦えたのは、規模が小さかったからだ。

王都などの首都を目指さず、必要な場所だけを奪う作戦が上手く行ったのが、一番の理由だろう。

が、頭が良くても、戦禍が広がればリザリテでもどうにもならなかった。
それでも、軍を支えていたのは、唯一の光エメリアだった。

「ねー、私のレベルって3なんだけど。」

「それは、エメリア様が戦っていませんから。」

「レベル、必要ですね。」

エメリアは、自分のカードを眺めて現実を見ていた。
後方勤務の『聖女』様だから、安息である。

「戦争してるのよね?」

「してますね。」

「なのに、回復仕事は無いよね?」

「無いですね。」

「何せ、聖女様が引きこもりしてますしね。」

「他の回復系の得意な人のレベルは異常に上がってますね。」

二人は、エメリアを見る。
決して、非難や抗議の声は出さずに、黙って真正面からエメリアの目を見ていた。

「あれよ!私にもやる事があるのよ!」

突っ込みもボケも入らずに、ただただ見つめられるエメリア。

「それに、こんな世界で私の創作意欲がですね、湧くんですよ!」

ジーと見つめられる。

「それで、それで・・・・」

無言で見られる。

人は、話を聞かれる人の行為によって、その瞳の理は違う。

例えば、学校の授業や仕事の打ち合わせなら、学ぶ意欲や仕事をどうするのか?の為に建設的な瞳になり、話す方も安心して話せる。

しかし、自身の失敗やサボりや引きこもりの中での言い訳になると、その瞳は非難やクレームになり、言い訳に言い訳を重ねる話となる。

耐えれる人など居ない。だって、悪いのは自分なのだから。

「ごめん・・なさい」

エメリアの最大の譲歩の謝り方だったが、二人は黙ったままだった。

静かな時間が、無駄に過ぎていく。

善なる人なら何も語らないが、やましい者は沈黙に耐える事が出来ない。

良心の呵責に耐えれる人は居ない。
よって、

「本当にごめんなさい!」

と謝り、涙が溢れる。
だが、此処で優しい言葉は出ない。
男なら、その涙に狼狽するが、女同士に涙は通じない。

「本当に、本当に、ごめんなさい!」

そう、女の特技はどんな時でも涙を流せるにある。男の涙は真実を表し、女の涙は場合によると言う格言もある。

女の涙には、多数の意味がある。だが大きく別けて2つ。それは、感情と自覚である。

よって、女は感情で流す涙と、自覚して流せる涙があるのだ。

悪さをして、直ぐに流せる涙は嘘である。

そう、この場合は嘘になる。

だから、二人は黙ったままなのだ。

エメリアは、チラリと二人の顔を伺うと、いっそう大きく泣いた。

「えーん!ぼんどうに二度としないがら、ごめんなさーい!」

嘘をつくと、嘘を重ねてしまう。
嘘は嘘を呼び込み、相手を信じ込ませて破綻してしまう。

台本が有ろうと、嘘には必ず綻びがある。そこを、責められると、人は逆上して有耶無耶にしたくなる。

ま、最低な事なのだが、やってしまうのだ。

だから、黙ったままの二人なのだ。

因みに、嘘泣きの弱点は、長く続かない事だ。涙を流せても、それも直ぐに止まるし、泣き声も普通に戻る。
だから、黙って見ていられると、一番辛い。

「こんなに、謝っているのに、何故許してくれないの!」

男なら、返答してしまい、話の論点をずらされてしまう。
が、女だから更に冷静に見つめている。

男の思考は論理的、女の思考は感情的なのだが、男でも女であろうと、冷静に黙られると狼狽しだす。

「ちくしょう!私が悪いんだろ!私が!」

此処で返答をしても駄目だ。
泣ける女は、相手の出方を見ている。感情的なのに冷静なのだ。

「ちっ!分かったよ!此れから真面目にしますよ!」

「では、本らしき物も中断してくれますね。」

「あー!分かったよ!」

「私達を謀ったら、お仕置きしますね。」

冷静にして、単調な言葉ほど怖いモノは無い。
大声の時よりも背筋が冷たくなり、冷静な顔と口調は相手の肝も冷やしてしまう。

「わ、分かりました。」

女の戦いは、エメリアの負けで決着が着いた。
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