上 下
321 / 505
第10章 アルテウル

魔国と繋ぐよ 1

しおりを挟む
レトワトン国の軍が、ダクネトに負けた事が一週間もしないうちに広まった。
レトワトン軍の生き残りは居らず、全滅である事と戦場は地面を掘った状態だった事が伝えられた。

掘ったと言う表現は正しく無いが、爆撃を知らないのだから掘ったと伝わる。

ダクネト国も変わった事が伝わっている。



この事が伝わると、連合の約定は破綻した。

強者になるべく、他国と戦う準備をしだしたのである。

残った土地を、どれだけ確保するかの国取り合戦となっていた。

これは、アルテウル神国の長である巫女が、精神が壊れた事が広まった為でもある。信徒も教会も機能しなくなったので、猜疑心と恐怖で歯止めが効かなくなったのだろう。

魔国に負け、弱小国が大国に勝った。

これだけで、人の団結は潰れたのだ。



その最たるは、レトワトン国であった。

レトワトン王は負けても良い考えだったが、臣下の気持ちは違っていた。『虎の尾を踏んづけてしまった』と言う観念になり、国内で分裂して新たな国が出来た。

もちろん、この状態になれば他国があっさりと奪う事になり、敗戦から2ヶ月でレトワトン国が滅亡したのだ。

そして、ダクネト国の周辺国は庇護を求めて属国になるべく使者を送って来たのだ。

「あぁ!某に見合いの話が来ても!」

ダクネトは、ワルドと篤郎に訴えたいのだ。

「アツロウ様が国王なのですから、取り下げて下さいませんか!」

「俺は嫌だぞ?」

「ダクネトさんに来てる訳でも無いのでは?」

「それはそうなのですが・・・・」

シュンとなるダクネト。

実に篤郎が新国王となって、1ヶ月しか経って無いのだから、他国がダクネト国の内情等は知らない。

その為に、ダクネト元王に好を取るのが、見合いなのだ。

友好とか同盟では、ダクネト国が立てば滅ぼされる事が伝わっているのだ。周辺国としたら、縁戚になった方が楽であり、属国になってもの打算もある。

それが、篤郎に出さずにダクネトに使者を送ったのは仕方がない話だ。

「見合い話が来て良かったな!」

「そんな・・・・」

「主様、目から汗が流れてます。」

ワルドが、篤郎の所にタオルを渡す。
18歳の男の身空で、候補者は居ても恋人は居ないのだ。いや、一方的な愛情を受けても、スルーしてしまうのが篤郎だ。

そんな男でも、恋に恋するのは女とか関係は無い。したい年頃なのだから。

「ありがとう。」

「いえ。」

「本当に済みません!」

ダクネトは土下座をした。許す許されるよりも、篤郎の惨めな姿に謝ったのだ。

「これで、ダクネト家は安泰だな。」

ビーンと鼻を噛んだ。涙も一段落したようだ。

「しかし、この事態をどうなさいますか?」

「良い所を選んでみては?」

「しかし、王よりも先にするなど臣下としては!」

「いや、しても良いで?」

「へっ?」

「問題無いから。それよりワルド。」

「魔国と我が国に挟まれている、キューレ国の属国ですね。」

「ただ、『助けてもらいたい』だけだよな?」

「ええ、無条件降伏に近い申し出です。」

「俺が行く。」

「えっ?アツロウ様が!」

「分かりました、段取りをします。」

「宰相殿!何を言われているのですか!」

ダクネトだけが、大慌てしている。

篤郎にしたら、魔国以外は対して興味がなくなった。敵対していたアルテウルも、捕まえたのだ。

他にしたい事が、あるのかもしれない。例えば、同じように、この世界に連れて来られた、日本人を帰すとかだ。これはミネルシルバに頼らなくてはならないので、保留中だ。

あの四人は多分、冒険的な事をしてると思う。だって異世界だもん。冒険したいのは、来たからだ。

ただし、問題は残る。モンスターにしろ人にしろ、命を掛けた戦いをして元の生活が出来るだろうか?人が持つ闇の鍵を開けてしまったら、人は人ではなく鬼になる。

それが、善か悪かは知らないが、心を保てるのかはその人による。そして、戻せる錠を手にしてるかだ。

それは誰にも分からない。

「では、主様。私は準備をしてきます。出発は明日の朝で?」

「それで頼む。」

「はっ。」

ワルドは、何時の間にか居なくなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...