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第10章 アルテウル

魔国と繋ぐよ 1

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レトワトン国の軍が、ダクネトに負けた事が一週間もしないうちに広まった。
レトワトン軍の生き残りは居らず、全滅である事と戦場は地面を掘った状態だった事が伝えられた。

掘ったと言う表現は正しく無いが、爆撃を知らないのだから掘ったと伝わる。

ダクネト国も変わった事が伝わっている。



この事が伝わると、連合の約定は破綻した。

強者になるべく、他国と戦う準備をしだしたのである。

残った土地を、どれだけ確保するかの国取り合戦となっていた。

これは、アルテウル神国の長である巫女が、精神が壊れた事が広まった為でもある。信徒も教会も機能しなくなったので、猜疑心と恐怖で歯止めが効かなくなったのだろう。

魔国に負け、弱小国が大国に勝った。

これだけで、人の団結は潰れたのだ。



その最たるは、レトワトン国であった。

レトワトン王は負けても良い考えだったが、臣下の気持ちは違っていた。『虎の尾を踏んづけてしまった』と言う観念になり、国内で分裂して新たな国が出来た。

もちろん、この状態になれば他国があっさりと奪う事になり、敗戦から2ヶ月でレトワトン国が滅亡したのだ。

そして、ダクネト国の周辺国は庇護を求めて属国になるべく使者を送って来たのだ。

「あぁ!某に見合いの話が来ても!」

ダクネトは、ワルドと篤郎に訴えたいのだ。

「アツロウ様が国王なのですから、取り下げて下さいませんか!」

「俺は嫌だぞ?」

「ダクネトさんに来てる訳でも無いのでは?」

「それはそうなのですが・・・・」

シュンとなるダクネト。

実に篤郎が新国王となって、1ヶ月しか経って無いのだから、他国がダクネト国の内情等は知らない。

その為に、ダクネト元王に好を取るのが、見合いなのだ。

友好とか同盟では、ダクネト国が立てば滅ぼされる事が伝わっているのだ。周辺国としたら、縁戚になった方が楽であり、属国になってもの打算もある。

それが、篤郎に出さずにダクネトに使者を送ったのは仕方がない話だ。

「見合い話が来て良かったな!」

「そんな・・・・」

「主様、目から汗が流れてます。」

ワルドが、篤郎の所にタオルを渡す。
18歳の男の身空で、候補者は居ても恋人は居ないのだ。いや、一方的な愛情を受けても、スルーしてしまうのが篤郎だ。

そんな男でも、恋に恋するのは女とか関係は無い。したい年頃なのだから。

「ありがとう。」

「いえ。」

「本当に済みません!」

ダクネトは土下座をした。許す許されるよりも、篤郎の惨めな姿に謝ったのだ。

「これで、ダクネト家は安泰だな。」

ビーンと鼻を噛んだ。涙も一段落したようだ。

「しかし、この事態をどうなさいますか?」

「良い所を選んでみては?」

「しかし、王よりも先にするなど臣下としては!」

「いや、しても良いで?」

「へっ?」

「問題無いから。それよりワルド。」

「魔国と我が国に挟まれている、キューレ国の属国ですね。」

「ただ、『助けてもらいたい』だけだよな?」

「ええ、無条件降伏に近い申し出です。」

「俺が行く。」

「えっ?アツロウ様が!」

「分かりました、段取りをします。」

「宰相殿!何を言われているのですか!」

ダクネトだけが、大慌てしている。

篤郎にしたら、魔国以外は対して興味がなくなった。敵対していたアルテウルも、捕まえたのだ。

他にしたい事が、あるのかもしれない。例えば、同じように、この世界に連れて来られた、日本人を帰すとかだ。これはミネルシルバに頼らなくてはならないので、保留中だ。

あの四人は多分、冒険的な事をしてると思う。だって異世界だもん。冒険したいのは、来たからだ。

ただし、問題は残る。モンスターにしろ人にしろ、命を掛けた戦いをして元の生活が出来るだろうか?人が持つ闇の鍵を開けてしまったら、人は人ではなく鬼になる。

それが、善か悪かは知らないが、心を保てるのかはその人による。そして、戻せる錠を手にしてるかだ。

それは誰にも分からない。

「では、主様。私は準備をしてきます。出発は明日の朝で?」

「それで頼む。」

「はっ。」

ワルドは、何時の間にか居なくなっていた。
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