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第10章 アルテウル

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『何が?』

8メートルに満たない自分の姿を、逆さまに見ているのが不思議になる。

『何だ?体が!気持ち悪い!』

「あ!ごめん、ひっくり返すわ!」

ドスンと言う音と、初めて色の着いた世界を見ようと首を伸ばした。

「亀だな。」

『亀?我は亀と呼ばれるのか?』

「いや、この世界の呼び方は知らないが、俺の世界なら同士の姿から亀と言う種族になる。」

『そうか。亀か、我にも種族があったのだな。』

亀は泣いていた。
大きいが、意外に可愛い。

『はっ!封印が、龍が此処に現れるぞ!』

「分かっているよ、同士。」

空いた穴から、黒煙が洞窟に広がった。
そこから、龍の姿が現れたのだ。

『くくくくく、わあはははははははは!外に出られたぞ!先ずは封印していたモノを殺してやる!その次は人、人を殺してあの女の神も殺す!』

『逃げよ同士よ。』

「あっ、お構い無く。」

『へっ?いや、龍だぞ?』

「龍で、人を殺す宣言したんやろ?」

『そうだ!人も神も殺してやる!』

「殺すなら、殺される覚悟もあるよな。」

『はぁ?ワシを殺す?殺せるならしてみろ!』

龍は吠えた。洞窟よりも国に轟いた。
それも、

『いたーい!』

と言う声が。
龍が吠えると、篤郎の姿は龍の額にあった。
そこから、龍の鱗を引き剥がしたのだ。
そして、地面に降りた。

その動きは、レオンもアーラカンも捉えていない。

「殺してみろ?俺は殺すと言ったよな?」

『人が、人がワシの鱗を引き剥がした?神でも不可能なのに、イタッ!つー、お前も殺される覚悟はあるんだな!』

言い放った瞬間に、篤郎の姿は再び龍の額にあった。

「やってみろ、よっ!」

『痛いー!』

額の鱗を2つ、引き剥がしたのだ。

生きた龍の鱗を剥がすのは、人であろうとも出来ないとされていた。
死んだ龍ならいや、腐った龍ならば人でも採取は出来る。
でも生きた龍には不可能な訳がある。
龍の魔力によって、体中に纏われた特殊な防御がされている。
それに干渉は出来ないのが、理になっていたのだ。龍同士であっても不可能。

しかし、篤郎と云う特異点が現れるまでの事。
今では、理と云うロジックは壊れかけている。

「あーん?殺すのだろ?俺がお前の顔の鱗を引き剥がすのが先か、俺を殺すのが先かのデスマッチを開始しまーす!かーん。」

『ギャアー!痛いー!止めて、痛い!止めてー!』

篤郎は鬼気として、鱗を引き剥がしていく。
久しぶりに自由になれたら、弱い存在に懲らしめられていた。
悪者はどっちだ?と探すまでもない。
当てるのも意味がない。

『止めて、止めてー!ごめんなさい!ごめんなさいー!』

「おお?ごめんなさいだと?俺に殺意を向けといて、止めろだと?」

『本当に済みませんでした!私が悪いので、許してください!』

「ああ?許せだと?たかが、鱗を20枚剥がしただけで、降参だと?許されると思っているの?」

『本当に、本当ーに済みませんでした!』

「あっ?許されるか?喧嘩を吹っ掛けてきて、許すか?ああ!」

『ごめんなさい、許してください、ごめんなさい、許してください、ごめんなさい、許してください、ごめんなさい。』

黒い龍は、地面に降りて土下座をしていた。
久しぶりに龍の土下座を見て、篤郎も懐かしく思っていた。

だが、それとこれとは話が違う。

「龍を奴隷にするか?いや、ティムの方が楽か?どっちが良い?」

『済みません、ごめんなさい、済みません、ごめんなさい、済みません。』

篤郎と龍の会話は成立していない。
その光景を魂が抜かれたみたいに、アーラカンは呆けていた。
人が、龍の鱗を引き剥がしたのだから。
それから、回復するまでには十分な時間が必要だった。

それは、額から両目の回りと鼻の頭の鱗を剥がされるという、龍史上で初の侮辱を犯されて、涙を流して許しをこうのを見て、仲裁に入ったのだ。

『同士!龍が、泣いてるぞ!』

「当たり前だろ、人を殺すとか、同士を殺すと言われたのだぞ。簡単には許せんからな。」

『泣いて許しをこうてるのに?!』

「これぐらいなら、大丈夫だって。」

『何故だね?』

「あぁ、前にもした事があるからね。ま、此処まではしてなかったか?」

『『!』』

アーラカンと龍は戸惑いしか無かった。

前にも、龍の鱗を剥いだ事があると言ったのだから。
それを冷静に受け入れる事は出来ないのは、篤郎との付き合いが短い為だろう。多分・・・・・・

「龍の殆んどが、変態だからな。これで、変態を減らす事が出来るな!」

『・・・・』

な!と言われても、困る事案である。
それと、龍には変態が多いとの情報も得ることになる。
そんな、要らない情報を教えられても困るのだ。
困るついでに、他の龍の処遇も知りたいものだ。

「さて、同士は許しても、俺は許さん。」

『ごめんなさい、許してください、ごめんなさい、許してください、ごめんなさい。』

「でも、許されたいとして、どうしてやるか?ま、今回は俺に恨みを当てたかな。他の龍に話を聞くかな。」

『他の龍?ど、同士さんには、龍の知り合いが?』

「あぁ、ティムしたのがー、えーと、何匹いたっけ?」

『はっ?』

龍に知り合いが居るだけでも驚くのだが、それが何体もティムしたのだと聞いてアーラカンは呆然とした。

「確か、『サモンティム白龍』!」

白い魔法陣が浮かび上がると、対象モンスターが姿を現した。

「今日も主の為に綺麗な私~♪」

素っ裸で頭をシャンプーしていたので、泡で目を瞑っている。
そして、歌に連動して腰をくねらせているのは、自分のリズムに乗っていたのだろう。

「シャワシャワ、シャワー♪あれ、蛇口が無い?あれ?」

「『ホットウォーター』」

「えっ!主さゴブガブゴブゴフコブ。」

湯の滝を浴びながらも、白龍は篤郎に向かって歩いている。
湯が切れると、白龍が篤郎に飛び付いたのだ。

「初めて、呼び出されました~♪」

「あぁ、初めてだっけ?」

「はい~♪それで、何を知りたいのですか?」

「うん。あそこの龍の事なんだけど。」

「えっ?」

篤郎の指先には、龍の体を器用に土下座をしているのだ。
白龍は頬をヒクヒクさせながら、

「何がありました、主様?」

黒い龍はまだ、謝っていた。

白龍の額から、流した水と違う水が流れていた。
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