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第10章 アルテウル

勝負の行方はこんなもの

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「ゴキゴキ鳴るなー。一晩中の縄は、体に悪いな。」

と、準備運動をする篤郎に対して、アリテウルは驚いたままになっていた。

無抵抗なものが、ギロチンの刃を首だけで受け止める事が可能なのか?と問われれば、不可能と答えるだろう。

実際には不可能だ。

例え、気功などを体得しても長時間は不可能だ。それに魔法も使えない様にしていた。

それなのに、何故?

人は疑問では思考停止は起きない。理解不能な現象を見た時に思考停止は起きる。

特に、殺したはずや死んだ者が無事だったとなれば、思考が停止してもおかしくはない。
ただ、目の前に何故生きているのかだけを見ているからだ。

「何で?」

普通なら答えの「仕掛けを~」とかの事を言うと、次の会話に繋がって思考が活性する。
だが、

「あー、ベトベトする。ウエット♪ウエット♪」

などの脈絡の無い会話を続けられる(無視をするなども有効)と、思考は停止したままになる。
それは、自信が有れば有る程、思考停止は持続する。

篤郎は空間から筒状のモノを取り出し、そこから布を取って汚れた所を拭いた。

「あー、気持ちいい。でも風呂に入りたいわ。」

綺麗に汚れを拭き取れば、怪我一つもない素肌が現れる。
非現実でも、実証が目に入れば正気というか、疑問が口から出てくる。

「な!馬鹿な、そんな事があるか!傷も無いだと・・・・」

「怪我なんかしてないぞ。」

「う、嘘だ!」

「してないって。実際にしてないだろ。」

篤郎は、完全にアリテウルを馬鹿にしていた。
馬鹿にされたアリテウルは、疑問も持たずに乗っている。

「しかし、万の人を使って、道を拡張するのは見事。感動さえもするけど、君の流儀では無いよね。」

「な!何を根拠に!」

「君からは、多くの血の臭いがする。」

アリテウルは声を出せないでいた。

「それも、無抵抗な者を切り殺した、怨まれた血の臭いがする。」

「・・・・何故だ、何故分かった?」

「言葉使いは丁寧だが、行動が粗暴で、目が人を見下げている。アルテウルと呼ぶときの仕草に、嫌悪感を感じる動きもある。些細な事だが、それらから診断すると、人を道具程度しか思ってない。」

「仕草?嫌悪感。道具ね。仕草は知らないが、他は合っている。・・・・何故分かった?」

「イチイチ言わなあかん?」

「し、しかしだ!神アルテウルの使徒として魔族には負け無い!」

「いや、だから俺は人間だって。」

アリテウルと篤郎は見つめ合った。
篤郎は涼しい顔をしているが、アリテウルは混乱している。
それでも、アリテウルは必死にもがいている。

「う、嘘だ!お前は魔国のものだろうが!」

「そうだが。」

「ほら見ろ!魔国の民だろう!」

「いやいや、民じゃ無いし。」

「な、なに!じ、じゃあ、お前は魔国の何だ!」

「俺?俺は王だが。」

「王?お前が王?魔族の者では無い者が、人間が王だと!?」

「そうだが。」

「人が!そんな馬鹿な。アルテウルから聞いていた魔王は・・・・」

有能な者が一度混乱しだすと、自ら言ってはならない事を漏らすものだ。
特に有能で有れば有る程の存在には、自分の思い通りにいかなければ、秘密を言ってしまう。

「ほー。アルテウルと会った事があるのか?」

「当たり前だ!俺はアルテウルから体をもらったのだからな!」

「あの駄神が作った体なんだ~。へ~。」

「べ、別に言っても良いわ!お前を殺せば、全て終わりだ!」

書いていた瞬間に感じたが、篤郎も思っただろう。

死亡フラグを打ち立てたよ、こいつ。と言う事を。

アリテウルは剣を抜くと、篤郎に向かった。

「死ねー!」

確かに、アリテウルは素早い行動であった。
剣を抜いて篤郎の近くに行くのに、瞬きする瞬間だった。
普通の人なら危ないが、篤郎にとっては違う。
だから、

「本気でも良いわな。」

半歩、右足出して右アッパーを出した。

だが、見れた者だとアッパーに吸い込まれる様にアリテウルの顎があり、打ち上げられた。
それで終われば良かっただろう。
打たれた瞬間に、篤郎の拳から光が上空までを照らした。

「えっ?」

篤郎は驚いた。
いや、そこに居た者達も見ていた者達も、声を出すことを忘れていた。
因みに、ルナ達は焦る事になっていた。

『観測機8台大破、17台の中破です、御姉様!』

『他の宇宙衛星をカバーに!マスターの生存確認を優先してー!』
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