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第10章 アルテウル

極悪非道

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「ううう・・・」

吊り下げられた魔族の男が唸った。

木工で作られた、三メートルの高さから吊り下げられている。それを三十人の奴隷が持ち上げて運ぶ仕様になっていた。

下手に攻撃されれば、魔族の青年が落ちて死ぬだけ。もちろん、最後の止めはアリテウルが行う。

この方法が有力なのは、魔族の社会構成にある。魔族は力が全てだが、負けた者の死刑方法は勝者の特権であり、それを見守る事が礼儀としていた。そう、捕まえる事が難しく、勝負になれば全力出てくる取り掛かる魔族の世界には、敗者は死しか無いのだ。

この変わった礼儀が、この捕虜と出来たのだから、魔族を討つ為の道具にしたのだ。

「間抜けな魔族でしたね。」

「確か、崖から落ちた所を捕らえた、と報告を受けてました。」

「はっ?あはははは、本当の間抜けでしたか!」

「ええ、でも五メートルの高さから落ちても生きているのは、魔族の底力は凄いですね。」

「ははははは、人より魔力も耐久も強いのが魔族です。それが間抜けとは、あはははは!」

アリテウルは勝利を確信していた。

生きた敗者の魔族と、1万を超えるステータス。人類最高にして最強の『狂った英雄』の魂が揃っているのだ。更にアルテウル神の加護を受けている。万が一にも負けるとは、考えていなかった。

長い拡張工事をしながら、アリテウルは演説をした。

「聞くが良い魔族達よ!我はアルテウル神の命を受けて、魔族討伐に来た!魔王を討つ者として、見せしめに負けた魔族の処刑を行う!門の前に来たら行うから、良く見ているのだ!」

挑発とお酒と増長を行っている事を、アリテウルは忘れていた。
冷静なアナスタシア達は、門の中で笑っている。

その事さえも、アリテウルは理解してない。

だが、1時間で拡張をしても、距離は進まない。道が広がるまで、翌日の朝を迎える事になった。

もちろん、この時点で魔族からの攻撃は無い事に疑念を持つべきなのに、アリテウルは持たなかった。

処刑を行う場所を作り、会場らしきモノを作りあげた。火炙りでは無く、ギロチンを作ると言う間抜けな事をしだしたのである。

無抵抗すぎる魔族に連合は、アリテウルとアルテウル神の力を見た感覚だった。

舞台を作り、ギロチンを設置して、会場を作り酒を振る舞い、躍りや歌を歌う者まで居た。
魔族を降ろして、ギロチンに乗せる。

慎重も疑問も持たずに。

段取りをして、ロープを切るのはアリテウルだ。それを執り行う為に、演説をした。

「魔族達も見よ!敗者の為の舞台を作り、最高のギロチンで最後を執り行う!」

普通ならアリテウルは、司祭席で処刑を見てるのだが、それでは経験値が入らない。

「勝者が執り行うのが作法と聞く!魔族の最後を特と見よ!」

ラッパが吹かれ、ドラムが鳴り響いた。
処刑ショーの過剰な演出である。
そして、音が止まった。

「アルテウル神よ、魔族の魂を御身に捧げます!」

と言うと、ロープを切った。
そして、ギロチンの刃が魔族の首に落ちた。

ガチィンンン!

と言う音が、鳴り響いた。

「ん?ガチィン?」

アリテウルは不思議な音だと思っていた。
そして、客席側ではあり得ない光景を目にした。声も出ない程に驚いていた。

「桶に首が無い?何故だ!」

アリテウルだけが吠えた。

「もっと、マシな物を作ら無いのかねー。」

舞台から、声が聞こえる。

「だ、誰だ!」

「しかも、要らん舞台に過剰な演出とか、マジあり得ん。」

アリテウルは舞台に上がると、ギロチンの刃が首で止まっている光景を目にした。

「何故だ?魔族にそんな!敗者の癖に、何故だぁー!」

「魔族?いや、俺、魔族じゃあ無いし。」

青年は、難なくギロチンを壊して、立ち上がった。

「嘘だ!人がそんな力は無いはず・・・・」

「だから、人間だって。分かる?人間。」

「にんげん?」

「藤並篤郎、人間、18歳、男。オッケー?」

「は?」

風が吹いた。
魔王様の間抜けな登場となった。
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