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第9章 ミネルシルバ

八つ当たり

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「敵は?」

あくまでも、主人として国の王としての威厳ある態度で来たよ。と云う呈で現れる篤郎。
周りも温かくも真面目な顔をして、

「2キロの地点まで来てます。」

と言うが、顔の口元はピクッピクッしていた。
当然だが、篤郎の後ろにはアナスタシアとレベルタンが居て、その後にクラーク達が居る。

そして、温かい雰囲気に篤郎は、居たく無いのだ。

詰んだ状態で、否定しても泣かれてしまって終わりになる。言わないと肯定になる。騒ぐ事よりも、騒がないのが安全だと思う。篤郎の最後の一手を打った。と心に決めた。

だが、アナスタシアとレベルタンは共同して、部下に噂を流していた。もちろん、此処だけで終わらす事はない。外にも流しているのだから。

ゴシップの恐ろしいのは、嘘であれ事実を誇大にして流されると、誰でもそれを信じる。それは伝線して拡大されるのである。紙が無くても、遠い所まで届く事になる。

本人だけが知る事が出来ないのが、噂でありゴシップなのだ。

ネットがあれば、噂を集める事も出来るのだが、そこまでの整備をしてない。電話が魔国では主流で、飛地の場所には無い。ルナと云う存在がリークとなるのだ。

そう、目的の為に手段を選ばない身内が居ることが、篤郎の敗因だとは気付いて無いのだ。


さて篤郎は、居たく無い場所から逃げる事にした。

「出る。」

それだけを言うと門の外に出ていた。

殆んどの兵達は、安心して見ていたがクラークは慌てていた。篤郎ほど、慎重を重んじる人は居ないからだ。安全を得てから戦うスタイルが篤郎とも言える。

そんな人物が、一人で人数も分からない軍に対峙していれば、焦るに決まっていた。

「篤郎様!」

「どうされましたか、クラークさん?」

「情報も調べ無いで、外に出られた!早く部隊を!」

のんびりと見ていた兵達は、慌てて防具を着出した。部隊を出すのに最低一時間はいる。魔国の恐ろしいのは、篤郎が居るから成立してる国であって、篤郎が死ぬ事は魔国の滅亡になる。

飛地でも、それを知るには時間も人も少なかった。そして、恐ろしい実力を持つ篤郎の行動を、安心して見ていた兵の失態でもある。とクラーク達は思っていた。

「ああ!篤郎様が突撃を!」

クラークは慌ててるが、誰も追いつく事が出来ない。
もちろん、敵も突撃する篤郎に矢の雨を降らした。誰もが篤郎の死を覚悟したのだ。


魔国の由来とは、魔法でも魔王を示した名前でも無い。国名には皮肉を込めただけで、本当の意味を知る者は極わずかである。篤郎とルナ、レディ、アイの四人だけが知っている。そして、それは単純に神の反対を国名にしただけが、本来の意味である。しかし、ルナ達だけが裏設定を知っている。それは、篤郎の強さにも当てはまる事だが、悪魔的なと云う事になる。

エレリーナには、太古に悪魔が存在していた。悪魔の前は神であり、ミネルシルバの夫でもあった。悪魔になった元夫は、世界の敵となり、全ての攻撃を受け付けなかったという伝説が残っていた。もちろん、ミネルシルバにより悪魔は打たれる事になるのだが、悪魔には人の武器や魔法が効かないと云う伝承は残る事となった。それは、魔国に引っ付く様にしていた。決して、悪意では無い。


矢が篤郎を捉えたと誰もが思っていた。だが、それは残像であり、既に篤郎は敵の中で拳だけで壊滅的な攻撃をしていた。
人が飛び、人を巻き込んで人を凪ぎ払い、人が山の様に壁となった。
魔法を唱えていた者も気を失いって倒れ、逃げる事を許さないまでに篤郎の追撃は手を抜かなかったのだ。

魔法でも万人にも匹敵してるのに、武器も持たない状態で軍を壊滅している篤郎を見て、クラークはまた常識を失う事になった。

「篤郎様に逆らうのは、死ぬ事と同義でしたか・・・・」

「喧嘩を売るのは禁止ですね。」

「売った神国に同情しますか?」

「しない。それよりも四将達に同情します。」

それを聞いたアナスタシアは、

「えっ!どうして?」

驚いていたが、

「篤郎様に逆らったのですよ?」

「あっ!」

クラークの言葉に、青くなるアナスタシア。
そして、篤郎の悪魔的な強さを見ている事しか出来なかったのだから。
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