上 下
213 / 505
第9章 ミネルシルバ

惨劇再び

しおりを挟む
「ブルルル!」

「フェイト、ワン、ツゥル、フェン久しぶりだな。」

と馬のモンスターと会話をする篤郎。
人と相容れないモンスターが、甘える様に篤郎に頭を擦り寄せている。

四人は引くしかないのか、見ている。

「バトルホースだよね?」

「軍馬の?」

「でも何か違うような?」

バトルホースは馬に歪な角が額から伸びた馬のモンスターなのだが、篤郎の側にいる馬には角がウルトラセブンの様になっているのだ。額からは2本から3本出ているのだ。

「ジェネラル?いや、カッパー以上だ。見た事が無い。」

クラークも大粒の汗を流しながら、知っている事を言う。それ以上の言葉に三人も唾を飲み込んだ。
篤郎は、一頻り撫でた後に、馬車に繋げる。

「良し、馬車が出来たぞ。」

御者席に篤郎が座る。
呆けたままの四人に篤郎が、

「早く乗れよ。置いて行くぞ?」

「はっ!エスト乗るぞ!」

クラークは何とか意識を戻して、皆を乗り込ませた。

「んー、お前達は初めてだったな。シートベルトは代用がないしな。困ったな、うーん。」

クラークだけが、一抹の不安を感じていた。

「バーだな。ジェットコースターのバーにしよう!うん、良いな!」

簡単に丸太でバーを作ったようだ。そして、固定される。

「良し!久しぶりに・・・・いっちょ走りますか!」

アミス、エスト、メルダに記憶があったのは、篤郎の「ぐひゃひゃひゃ!」の声だけだった。耐えたクラークは悪魔の馬車を見ることになった。

『ヒ、ヒーン!』

「行けー!」

それはとてつもないGが襲ったのだ。初速であらんかぎりのスピードが出ていた。走るよりも宙に浮いている感じだ。

次に見たのは、アントの群れを引き殺している風景だった。モンスターを引き殺す馬車。無い事が目の前に起こっていた。そして、馬達もモンスターを的確に探し当てていた。大蛇でも合成獣でも土竜さえも、その足元に殺していたのだ。移動した距離は短いが、走った距離は恐ろしく長い。

クラークは心の中で「嘘であって欲しい」と願いつつも惨劇を見ていたのだから、日常を壊すのに足る事であった。

そう、騎士としての矜持も戦う者の心根さえもぶっ壊した。そこには、世界のスキルもレベルも強者の仁義も無い、倒せないモンスターをただ引き殺す姿を見ていた。

しばらく走ると、悲鳴が聞こえた。

「アブベベベベっ!」

「悲鳴だな!行くぞ、野郎共!」

「ヒヒヒーン!」

悪魔の馬車が悲鳴の方に向かった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





アルケニー国のシルフットの森には開拓村がある。

その名前の無い村にも徴兵で男手は減る事になっていたのだが、力ある女が多い為に困る事はなかった。木こりとして、開拓村を支えていた。

平和なのどかに思われた村でもある。先の討伐にも木材が多く出た為に収益は大きくある。

そう、そこで何もなければ良いのだが、悪党には通じ無い。

金と女、食い物と酒もあると噂が出ただけでも危ない。

力自慢が居ても、所詮は女と子供と老人が多数を占めている村に、盗賊達は手を結び、襲撃をしたのだった。

「頭!少し壁に時間が掛かってます。」

「時間を掛け、たっぷり恐怖を与えな。他の所は?」

「ダルトの西門も攻めあぐねてます。アレグの北門も手こずってました。レブリントの南門は時間が掛かりそうですね。」

「ふんっ!どうせ落ちるのを待っているんだ。こっちは変わらず攻めな!」

「へい!」

漁夫の利を狙った盗賊達の結束は脆い。しかし、利益を得たいが被害は最小限にしたい気持ちが勝っていたのも、盗賊達の気持ちは同じだった。長く時間を掛けて、心を折る事に苦心していた。

心さえ折れば、後が楽なのは分かっていたからだ。

苦心して行う悪行には、天罰がつきものになる。それは、失敗では無い。突然の人災が引き金になるからだ。

ヒヒヒーン!

馬の嘶きが聞こえた。争いの中にあって、獣やモンスターが逃げる道中に鳴いたと思った。

次にパカッロン、パカッロン、パカッロンの音がしたと思い、音の方を見た盗賊がいたのだが、

「へぶ!」

「ぎょ!」

「あっぶ!」

東門の頭が、最後に考えたのは(馬が来た!)であった。頭を踏まれた盗賊達の殲滅に10分も掛からなかった。

ただ、「げひゃひゃひゃひゃひゃ!」の笑い声の後に襲撃が止んだ。

「襲撃が止んだ?様子を確認だ。」

門を守った女が見たのは、

「ひぃ!ぜ、全滅してる!」

おぞましい、死者の姿だけだった。

この光景を西門でも北門でも南門でも同じ様に起こった。
笑い声とともに来て、笑い声と共に去っていたのだ。
そして、東門で、

「大地を綺麗に!」

一度、大地が波打ったが、直ぐに治まった。
恐る恐る翌朝に見たのは、有るはずの死体も血も無くなっていたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

処理中です...