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第9章 ミネルシルバ

アルケニーの貴族と篤郎

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スベールにしても、クリスにしても篤郎が捕まったのに驚いたが、申告したのが上級貴族のエフリート・ブリュケと聞いて反論出来なかった。

エフリートはブリュケ家の四男だが、ブリュケ家に連なる者には手出しが出来ない。ブリュケ家は、伯爵だが、王族から娘を拝領している家柄なのだ。

そう、上級貴族とは王族と外戚関係にある家柄なのだ。
王族に反論など出来ないのだ。

「なんてこった。済まん、アツロウ。」

「仕方無いさ・・・・」

スベールもクリスも何も出来ない。

何もしないのが、貴族の通例だからだ。例え、上が間違っても、上級貴族に逆らえる者はいない。上級貴族に逆らえるのは、同じ上級貴族か王族のみだからだ。
もし、逆らえば一族郎党は死刑なのだから。

「パーロット上官もベンツ副上官も何も出来ないもんな。」

「当たり前だろ、エフリートだぜ?」

「アツロウも嫌な奴に目をつけられたな。」

他人事のように言ってるが、税務課の二人が原因でもある。篤郎と言う、駒をいたぶるのが目的なのだ。
誰に逆らったのかの見せしめにしたいと思っていたのだ。

「あーあ、もっと旨い飯を食べたかったな。」

「本当にな。」

彼等も下級貴族である。
貴族とは『青い血』が流れた人であり、それ以外は『赤い血』の家畜なのだから。もったいないだけで、命を尊ぶ事はない。

人と家畜の差が、貴族社会の要なのだから。

「人の尊厳を守る」の言葉も、人を家畜にすると意味が違う。『貴族の血の1滴は平民1人よりも重い。』と言う諺がある。そう、人は貴族の事であり、平民以下は家畜と言う意味なのだから。

クリスもスベールでさえも、子犬を拾って上級貴族に取られた程度の痛みしかない。



だが、彼等も知らなかったのは、篤郎が篤郎だと言うことに。







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「汚い。」

暗い地下の牢獄に篤郎は閉じ込められていた。

入れられて思ったのは、『汚い』であった。掃除が出来ていない場所に、首枷に手枷、足枷を付けられて鉄柵に縛られているのだ。

篤郎に我慢は無い。

思いたったら、掃除をしなければとの思いから、全ての枷を外して牢獄を掃除しだしたのである。

全ての牢獄を綺麗にして、入れられた牢獄のDIYを始めたのだ。そして、快適に過ごしていたのである。



上級貴族の過ちとは、篤郎の持ち物も取り上げずに牢獄に入れた事である。

それと税務経理課の地下牢には、門番は居ない。

上級貴族も二週間も飲まず食わずにしたら、さぞ楽しい事になると思っていたのだ。

しかし、篤郎にとっては楽しい事になっていたが、それが思ってもいない形で破られるとは思わなかったのだ。

昔の貴族社会と今の魔王。

交わらない者が混じる事がどうなるのかしらない。
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