上 下
39 / 505
第3章 バイシュ国の内乱

一撃

しおりを挟む
バイゼルは覇気を出して答えたのだが、

「バイゼルね。強いの?」

不思議な質問に覇気も消えてしまう。

「つ、強いぞ。」

「へー。どれくらい?」

「Sランクなんだが。」

「ほー、Sか。この時代のSってどれ位か、真面目にやるかな。」

篤郎はマトックをバイゼルに突き出した。

「まてまてまて!鉱山じゃあるまいし、なんでマトック?!」

「・・・・・・」

「なんか言えよ!」

「持ち易かったから。」

「へっ?」

「扱いに馴れたかった。」

「馬鹿か!」

「うるさいな。」

マトックを肩に担ぐと、

「先に進みたいんだが。」

篤郎の気質が変わる、あの圧を受けて汗が出て居る。

「へっ。此れは本気で殺らんとな。行くぜアツロウ。」

バイゼルは駆け出していた。
普段のゼウントなら動かなかっただろう。バイゼルの対人はカウンター込みの受けの剣技だからだ。なのに駆け出したのには、バイゼル自身が驚いていた。しかし、留まる事は出来ないので本気で撃ち込んでいた。

「うおおおぉぉぉぉぉ!」

剣は篤郎には触れもせずに、空振りしたので直ぐに旋回して横に振るった。

「ふーん。まぁまぁだな。得意な得物できなさい。それでは俺に届かないから。」

バイゼルの後ろから聞こえる篤郎の声に、バイゼルは笑顔になりながら、

「はははははは。本気でと言いながら、本気では無かったな。」

バイゼルは剣を捨てて、袋から大剣を取り出した。

「魔剣:ロッグラグナー。俺の相棒だ。」

「待った!」

篤郎は真剣になっていた。

「なんだ?怖じ気ついたのか。俺の相棒に。」

バイゼルは低い体勢になりながら言ったが、

「その、腰の袋はなんだ?」

「は?」

「ふーくーろ!袋だよ!」

篤郎は腰を指差しながら、バイゼルにジェスチャーをしていた。

「これって、『旅袋』か?オメーも持っているだろ?」

「いやいや、持ってないから。それ欲しいな。」

「はっ?言ってろ。」

「何処で売ってる?いくらするんだ?」

「俺に勝てたらくれてやるよ。」

バイゼルは集中していた。大剣からの突き、鋭くて早く全身を使った突きを狙っていた。篤郎はマトックを杖のようにして、のんびりしていた。
誰が見ても戦っているのを忘れた男の行動としていた。(格下に思っていろ。)と心で呟いて、間合いを少しずつ詰めていた。

「勝ったらかー。」

篤郎はマトックを肩に乗せてツカツカと近付いた。バイゼルは幸いと動きに出した。

「魔技・狼牙!」

瞬時に篤郎の胴体を突き斬ったのだ。しかし、アツロウは居なかった。

「うーん。紋章?見た事がないなー。」

バイゼルの右腰から声が聞こえた。

「しっ!」

蹴りを繰り出したが、あっさりと篤郎にかわされ距離を離された。

「そうかー、勝ったら貰えるのかー。悪くないな。うん。おまけを付けよう。」

篤郎は笑顔になりバイゼルを見ていた。

「剣のお稽古だ。」

バイゼルは身体能力を上げる薬を取り出して飲み、身体能力を上げるスクロールを開いた。
対人不可にしていた、対モンスター用の切り札。身体能力を五倍まで増やした状態での、狼牙を狙っていた。

「お前を殺す。」

低い体勢と引き絞ったバネの様な手足。距離は篤郎が詰めだしていた。至近距離からの狼牙は初めて出した。言葉も無く、ただ突いた。白い風景を初めてみた。体がふわりとした。

「はい、お疲れ。」

ドスン。地面に落とされていた。
ゼウントは何が起こったのか分からないが、最高の剣技が篤郎に通用しなかった事を理解した。

「うわあぁぁぁ!」

ゼウントは未知の恐怖から剣を振り回していた。それを余裕で、ステップのみで交わしていた。

「こらこら。身体能力と剣がバラバラだぞ、それでは。」

篤郎の言葉も耳を貸せない状態で、駄々っ子の様に振り回していた。

「駄目だね。」

篤郎は交わしていた動きから攻めの動きをした。バイゼルの目にはそれだけしか分からなかった。次に見えたのは空だった。雲が近く手が届くと思った瞬間、遠退いて行った。

ドオスゥゥン。

「い、痛い。」

バイゼルは地面に横たわっていた。
篤郎が近付いて、バイゼルの腰から袋を取った。

「総評だが、動きは50点、剣は30点。必殺技は0点。最後の技もバネの様に筋肉を使ったら駄目ね。突くなら身体を軽く、動作も少なくするのがコツだからね。てな事で貰うよ。」

篤郎はそそくさとリヒッテットの後を追った。

バイゼルは初めて人に敗北をした。しかも対竜用の大技も難なく交わされて、剣を合わす事無く負けたのだ。

「化け物・・・・・」

そして意識を手放した。

篤郎は新しい息吹きに感動していた。まだまだ荒削りで贅肉が付いた剣技だ。狼牙とか言う技も昇華すれば必殺技になるだろう。て、いっても先の話しだが。負けて落ちてから登ればねー。
と、ニマニマして走っていた。
未来にも良い人材が居ることに喜びを感じれたのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...