上 下
38 / 505
第3章 バイシュ国の内乱

再開

しおりを挟む
篤郎は追い掛けていた。
リヒッテットの逃げた方向を馬の蹄の跡を確認しながら追い掛けていた。ゆっくりと確実に迫っていた。

リヒッテットは馬を走らせなから、体の奥深い処から黒い何かが這い回る感じに悩まされていた。
デェンゲルを出て1日も経って無いのに、背中に冷たい汗をかいているのだ。生きた心地も無い。それが今なのだ。
おかしいとも考えた。
二千の兵を率いての進軍なのに、今の私は何をしているのかとも。しかし、実際は馬を止める事もなく、ただ、駆けているだけだった。
しかし、無茶をすれば破綻するのが定石。馬が倒れてしまったのだ。リヒッテットも投げ出される様に地面を転げ、大木の幹にぶつかり止まった。

「なんだ?なんで、リヒッテット侯爵の鎧を着た人が倒れてる?」

何かを食べながら、男が近付いて来た。リヒッテットは細く目を開けてから閉じてしまった。

「おーい、侯爵か?ちっ、気を失ったよ。」

男は頭を掻いてから、腰の袋からポーションを取り出して、リヒッテットに飲ませた。

「飲んだ、飲んだ。これで飯の種は助かったな。しかし、なんで、こんな事になってる?」

そう考えていると、

「リヒッテット侯、リヒッテット侯!」

の探してる声が聞こえて来る。

「ここだー!リヒッテット侯爵はここに居るぞー!」

男はそれに対して答えていた。その声に導かれる様に蹄の音が数多く近付いて来た。

「リヒッテット侯!」

近付いた騎士は馬から降りてリヒッテットに駆け寄った。

「やはりリヒッテット侯爵か。侯爵は大丈夫だ。ポーションを飲ませたから治るだろ。」

「かたじけない。貴殿は?」

「雇われた、バイゼル・クラッチだ。」

「貴殿がバイゼル殿か!」

「あぁ、宜しく。で、聞きたいのだが、此れはなに?」

バイゼルはリヒッテットを指差して言った。聞かれた騎士も困惑しながら、

「分からない。なぜにリヒッテット侯は、突然に早駆けされたか、私も分からない。」

「ふーん。処で兵隊は此れだけか?」

バイゼルは状況を把握しようと確認をした。現在はリヒッテットと騎士が18人だけなのだから。

「いや、まだ居るのたが、候を追い掛けていたら、な。」

「ま、仕方ない、此処で休憩でもするか。」

「そうだな。」

騎士達はそれぞれ動いた。リヒッテットを守る為に。
バイゼルは取り敢えず傍観を決めて見ていた。思った以上に優秀な兵を見ていたのだ。
やがて牢馬車等を引き連れた一団が追い付いた。疲れた敗残の兵を思い出す姿に驚いてしまう。

「おい、兵はまだ来るのか?」

「あ、当たり前だ、二千の兵で来たのだ。来るだろう。」

そこから一刻経って、兵が少しは来た。二刻経ったのに、それ以上の兵は来なかったのだ。

「おい、おい。兵が此だけ?此が二千の兵か?百も居るのか分からん数だぞ?」

「私も分からん。ただ、最後に来た兵が奇妙な事を言ってたな。」

「なに?」

「人の身をした悪魔に襲われたとか。」

「悪魔?」

「あぁ。ただ、兵が追い付かない理由になるのかは不明だ。」

バイゼルは騎士と話している途中で、

「リヒッテット侯がお目覚めになられまひたぞ!」

の声に、そちらに向かった。
バイゼルは向かいながら新しい雇い主を見たが、未だに憔悴しているのである。

「初めまして、リヒッテット侯爵。」

虚ろな目でバイゼルを見るリヒッテットは、

「そなたは?」

「はい。ガルガンドから依頼されて来ました、バイゼル・クラッチでございます。」

「バイゼル?バイゼル。バイゼルか!」

リヒッテットの顔に生気が戻ってきたのか、急に元気になった。

「待っておったぞ!そなたが居れば安心だ。そなたを余の警護を任す!」

「はぁ、でも私の契約は護衛じゃなくて傭兵と聞いてますが?」

「構わん!余が勝利した暁には、そなたに爵位や重要な椅子を授けよう!頼んだぞ、バイゼル。」

「はっ!」

リヒッテットは笑い出したが、バイゼルは困っていた。
大抵、こんな事を言う奴は信用出来ないからだ。上手くいってる時は煙たがれ、失敗した時は泣いてすがる。この依頼は失敗だな。と思ったし呆れてしまっていた。
そして後方から叫び声が聞こえ出した。
バイゼルは、こんな時にと思ったが、恐ろしい圧に汗が吹き出していた。ヤバい。

「リヒッテット侯爵、お逃げ下さい!」

騎士達に支えられて馬車に乗るようだが、時間が掛かりそうだった。

「騎士達よ!侯爵を守るぞ、突撃!」

誰が言ったか知らないが、4名の騎士でリヒッテットのお守りをしながら馬車に乗せようとしていた。

奥から「うわっ!」「ごはっ!」等の声とドカカカカカカ。バキバキバキバキバキ。等の恐ろしい音が聞こえた。人間よりもモンスター、それも最低でもランクSが居るのだろうか。
バイゼルは久方ぶりに剣を取り出して、構えていた。
音が近付いて来たら、騎士が飛んで仲間を巻き込みながら回転するのを見た。人が回転しながら飛んでいる?
ゼウントにしても理由が分からない事が起こっていたのだ。
やがて、その犯人が見えて来た。まず、人型で有ることを確認した。見た事がある人物だった。小柄で細くてモサそうな男。つい気を許してしまった。バイゼルは手を振ろうとした。
篤郎の目を見て気を引き締めた。

「この気迫はアイツが?なんで、敵討ちなのに?」

悩んで居るバイゼルの側に篤郎が来た。馬車も何とか出発したが、疲れが有りすぎた馬は早くは走れなかった。
馬車を見送りながら、篤郎はバイゼルに話しかけた。

「昨日振り。」

「オメー、なんでリヒッテット侯爵を?」

「あぁ、仇の内の一人だからな。」

「それは困ったな。名前を聞いとく。」

「篤郎。」

「俺はバイゼル!バイゼル・クラッチだ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

処理中です...