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第3章 バイシュ国の内乱

カタルシス

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城では再度、大騒ぎであった。

悪来した男が、また現れたのだ。
城にはある程度の兵は居るものの、どうにか出来る事も出来ないのは理解してる。篤郎を捕らえるのは不可能である。

その篤郎の足元に血が着いた姿には、遠巻きに見ている意外に出来る事がなかった。
びちゃびちゃの音が鳴り響く廊下に、恐れと恐怖を感じていた兵士達は死を覚悟した。
謁見の間に篤郎が入ると片付けをしていた侍女達や兵士達は目を見開いて驚いた。真ん中に来ると篤郎は止まり、黙って立っていた。
全員は謁見の間から退避したのだが、篤郎はただ立っていた。



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「くっそー!どうなっているのだ!」

馬車の中で、リヒッテット侯爵は怒っていた。

「王家の奴隷を使ったのに、なぜ効かないのだ!」

「侯爵様も落ち着いて下さい。手下も使ったのを見てました。次の町でも、奴隷紋を調べて見ましょう。」

「糞っ!あの阿保英雄にも困ったものだ!」

「そうですな、リヒッテット侯爵。白金貨を何処の者か分からない者に与えるは、ログイシュ家の剣妃を与えるは、狂ってますな。」

「ふん。しかし、ゼウントがまさか裏切るとはな。」

「今頃、反逆罪でも受けているのでは?」

「レクッチの報告が楽しみですな。」

「「「ははははははははっ。」」」

「それと、白金貨の方はどうなっている?」

「はっ、レクッチはそれも献上できるとか。」

「白金貨が手に入れば、ガンガルド帝国の後ろ楯になり、三国も落ちよう。ガンガルド帝国でも随一の領地持ちに!帝国、いや新しい王朝を作ってやるわ!がははははははは!」

「「我等も忘れずに侯爵様、ははははははは!」」

と、馬車の中で馬鹿騒ぎをしていたリヒッテット侯爵達である。

その頃リザリアも檻の馬車に乗せられていた。檻では手枷と足枷を付けられ、紐で逃げれない様に縛られていた。厳重な事になっているのには訳があった。
ゼウントと篤郎が交わした王家の契約には秘密があった。奴隷としての主の所をリヒッテット侯爵になるように細工が施されていたのに、全く契約されていないのだ。篤郎による改造、いや改編で正規の奴隷としての紋章から篤郎に嘘を着けない死ねない呪いの紋章に変わっていたのだ。

違反行為をして、奴隷という詐欺にあったのだ。
でも、内容も分からないリザリアはリヒッテット侯爵からの命令を無視。いや、拒否をしたのだ。
だが、侯爵は牢に閉じ込めて、王都を出て領地に戻る必要があった。バイシュ国を手に入れる条件に、配下にログイシュ家から騎士を得る事。今まで王家に就いていたログイシュ家の者がゼウントの配下に就いて四年。バイシュ国の王ハイド8世は寛大にもそれを許した。ゼウントはハイド8世に忠誠を誓っていたから工作をして、金をかけて時間をかけて人をかけて来たのだ。
その意味を良く知らないリザリアはムカついていた。

「なぜリヒッテット侯爵はあんな暴挙を?」

リザリアは何故を考えていた。
リヒッテットの暴挙、デニー家族の安否、捕まった篤郎と旨聞亭の事も考えていた。

「パレーにも心配をかけちゃたな。」

知らないリザリアは、今は旨聞亭を優先して店の成功を祈っていた。



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「アツロウ様は謁見の間だな。」

着替えたゼウントとフォフナー軍部卿は、謁見の間に急いでいた。
それは、ハイド8世も近寄れない状態で困っていたからだ。
その、篤郎が謁見の間の真ん中で立っているのだ。部屋も片付いていないのだが、篤郎が居るお陰で何も出来ないでいた。
そして、ゼウントに、掛かる期待が大きかった。篤郎をどうにかしてるれると!の期待だろうが。

ゼウントとフォフナー軍部卿は恐る恐る入室した。
ゆっくりと篤郎の後ろから前に回り、篤郎の顔を見て泡を食った様に驚いてしまっていた。
当然、それを見ていたハイド8世とライナー宰相、おくがたのイバウナ妃と騎士達や侍女達は、その驚いた姿に驚いていた。
ゼウントの死ぬ覚悟の気力は続かないのかとも思えた。
だが、ゼウントは驚いた姿で聞いた。

「アツロウ様、何を哀しんでおられるのですか?」

陛下達は少し前めりになり、興味を持ってきた。

「俺は情けない男だ。俺の野望の為に店を復活させて、クダラナイ理由で殺されたデニーさんやレウル、パレー、ロイシュの仇も満足に討てなかった。この手で無念を晴らすと誓ったのに、、、」

篤郎の目から涙が溢れていた。

「レクッチの家族に遠慮して、生かしてしまうなんて。昔の俺とは違うのか。済まないデニーさん、済まないレウル、済まないパレー、済まないロイシュ。済まない・・・・」

篤郎は立ったまま、無念の声を出して泣いていた。ゼウントは自らの過ちに恥じて、

「アツロウ様の罪は無く、私が保身を欲した為に起こした私の罪です!我が領地の民も守れなかった私の・・・・」

と言って泣いた。
ハイド8世は、はっと気が付く。篤郎の背丈は低い。そんな男に怯えていた自分を恥じた。また、篤郎の怒りが正当なモノだとも理解した。いや、その場に居た者が感じていた。

ハイド8世とイバウナ妃は玉座に向かって歩いた。ライナー宰相も着いて行くし、騎士達も入って行った。
玉座に着くと、立ったまま篤郎に話し掛けた。

「アツロウ殿、臣下の不始末を謝らしてくれ、済まぬ。」

ハイド8世が頭を下げて、イバウナ妃も下げた。

「アツロウ殿に報いる為にリヒッテットを討とう。それで許してくれまいか?」

「無理です。」

「何故、無理なのか?」

「リヒッテットは殺します。でも、それだけでは駄目なんです。」

「理由は?」

「黒幕はリヒッテットでは無いからです。」
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