上 下
33 / 505
第3章 バイシュ国の内乱

悪鬼羅刹

しおりを挟む
馬で駆け抜けて、平民が王都から城内に入る暴挙に出たと、城では騒ぎになった。

本来なら通常の手段に従ってもらえると安心していた、ベルエントの宛は外れたのだ。リーベットは、そうなるよねと思っていたが。

まさか、城門まで停められず駆け抜けるなんて、がベルエントの本音だろう。
悪鬼と化した篤郎は素手で兵士達を殴る様は恐ろしく、槍で停めようが剣だろうが魔法だろうが、篤郎の歩みを停められないのだ。

「ゼウント卿、アツロウと思われる者が乱入しました!」

の報告は、ゼウントには当然となっていたが、ハイド8世、ライナー宰相、フォフナー息子、フォフナー軍部卿も驚いていたが、

「陛下、お逃げ下さい!アツロウと云う者は停まりませぬ!」

の報告にフォフナー軍部卿は慌てていた。

「ゼウント卿、大丈夫なのか?アツロウ殿は停まるのか?」

「分かりませぬ。でも、我が一命をとしても皆様をお守り致します。」

「ゼウントよ、」

ドオォォォォオン。

謁見の間の豪華な扉を突き破って兵士達が吹き飛んで来た。
ハイド8世もライナー宰相もフォフナー親子もゼウントの息子達も、煙の先に居た篤郎を見て恐怖を与えられた。

「よぅ、ゼウント。レクッチを逃がしに王都に来てたか。」

「違います、アツロウ様!」

ゼウントは震える足で前に出た。

「なんだ、悪の親玉は王様だったのか。」

「違います!私の話をお聞き下さい!」

ゼウントは、篤郎の氣で立つのもやっとなのだが、気を持って話を続けた。

「デニー一家を殺った黒幕はリヒッテット侯爵です!侯爵は領地に逃げ帰りました。レクッチは冒険者を集めてるようです。」

「それで?」

「はい。レクッチは王都からは逃げ出せません。此方の手筈が整い次第に捕らえる予定です!」

「あ、予定?なんで城にこさした。」

「レクッチは証人です!殺してはなりません!」

「じゃ、捕まえろよ。」

「それでは!」

「レクッチから王様もぐるだと吐かせて殺して滅ぼすは。」

ハイド8世は背中に刃を当てられた思いになって、汗が異常に出ていた。

「お止めませんが、それは勘弁をお願いできないでしょうか。」

ゼウントは涙を流し、土下座して訴えていた。

「今回件は、元は私が招いた事。私奴の不徳です。私の命でどうか。」

篤郎は一瞬にして、ゼウントの前に来た。

「じゃぁ、道案内だ。」

165cmの篤郎が179cmもあるゼウントの首根っこを捕まえて引き摺って歩いていた。
謁見の間の五人は安堵の息をしたが、息子達は慌てて父の後ろを追った。

「らららら、ライナー、こここここ、怖かった。」

「命が助かったのか。」

「ゼウント卿の言ったのは誠でしたな。」

「父上、腰が。。。」

少しの間の後に、軍を引き連れてフォフナー親子が後を追うのだ。町に被害が出ないように。
篤郎は待ての命令を無視して、城から町に出ていた。

「方向は?」

「ななな、南西の方角で」

「城を中心?」

ゼウントは必死に首を縦に振った。殺されない為に、そして篤郎から信頼を取り戻す為に、掴まれながらも篤郎の知りたい事を考えていた。
それでも、篤郎の動きは異常で、南西の方角へと一直線に屋根を富んでいるのだ。生きた心地はもう無かったのだから。

因みにゼウントが高所恐怖症になったのはこの時だ。
経った数分の事であったが、落ちる感覚に粗相もしてしまった。地面に着くと離された。

「レクッチの店はここか?」

「がっ、ばい、げぼっ、げほっげほっ。」

冒険者達は目の前に現れた者を確認できないていたが、

「レクッチを出しな。篤郎が殺しに来たぞ。」

静かな声は響き渡ると、冒険者達は篤郎に斬りかかった。篤郎はそれまで素手だったが、ベルトを外すと剣にして、襲う冒険者達を切り殺していた。

「死にたい奴は向かって来い。」

篤郎が言うと、また襲って来たが全員の首が飛んでいた。ゼウントはその光景を見つつ、頭にエーベルトの言葉を思い出す。『アツロウは間抜けのカードになりやした。』エーベルトの困った顔はとても愉快だったが、今は違って、

「間抜けのカードじゃ無いぞ、エーベルト。」

と、呟いて腰を抜かしていた。
篤郎は正面玄関から建物に消えて行った。ゼウントが見れたのはそこまでであった。

篤郎の殺戮は続いていた。入って直ぐの男女の冒険者を一刀にすると、二階から足音が聞こえたので、二階へと向かった。襲って来た数人のお手伝いを切りながら、奥へと急いだ。
途中で、偉そうな冒険者達も居たが、何かを云う前に殺していた。豪華な扉を開けると、6人の冒険者とレクッチと女子供と大きい男が三人居た。

「レクッチ~、デニーさん達の仇を取りに来たぞ。」

「ひぃいぃぃぃぃい!」

レクッチは女子供を抱きしめながら、

「ドガー、報酬は倍、いや、三倍は出す!」

「へっ、そんなに怖いのですかね?やれ。」

篤郎から死角の左右の天井から二人が奇襲した。冒険者『ジャガー』の室内での必勝の技だ。
動かない篤郎に迫るが、篤郎に近付く前に斬られていた。

「なっ!」

「くそっ!レブー!」

一人が飛び掛かったが、頭を斬られた。血が吹き出したと同時に篤郎が動いた。あっという間にレクッチ親子を残して切り殺したのだ。

「レクッチ~。逃げれると思った?」

「や、やめ、やめ。」

手足を斬ると

「デニーさんとレウル、パレー、ロイシュの仇。」

「「きゃやあああぁぁぁぁ!」」

「アツロウ様!」

ゼウントはフォフナー軍部卿に助けられながら、篤郎の跡を追ったのだが、部屋の悲惨な状況を見ていた。

「ア、アツロウ、様。」

「レクッチの手足で今は助けておく。取り調べをするなら早く手当てをしろ。」

「何も女子供の前で殺さなくても。」

「デニー一家にそう言えるのか?」

一番の篤郎の覇気を纏った氣を受けた者は、腰を抜かし脱糞をした。それは外も同じだった。

血の池の中を篤郎が歩いて外に出た。その足で城に向かっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...