上 下
24 / 505
第2章 転移しました!

旨聞亭

しおりを挟む
篤郎は仕入れた商品の代金を支払っていたが、等々薬屋前に尽きてしまった。買いすぎたのは理解していたが、金貨十八枚が消えるとは思わなかったのだ。
一度ギルドに戻るかと、来た道を戻ろうとしたのだが、

「お願いします!」

「金が先だぁ!」

のお願いする女の声とおっさんの声だ。
相場はお願いする女が大抵は善人だ。篤郎は人垣を分けてその場に近づいた。こんなイベントはベタだとしても止まれないのは生来の性分なのだから。

「ちょっと御免よ。」

分けて行けば、何とも言えないおっさん達が居て、少女虐めてる場面にでた。生前なら問答無用で現場を荒らして、被害を拡大させていたものだ。
今回は前世と同じ轍を踏む訳にはいかないので、高見の見物になる。但し、女の子に暴力があれば、ふふふふふふ。

「本当にお願いします!小麦粉を少し分けて欲しいのです。」

「パレー、君の家は幾らの支払いが溜まったと思うのですか?」

「そこを、そこをお願いします!」

「君の父親には私は助けられたからこそ、君達の無茶を聞いてきたが、支払い額が私で金貨50枚、他を合わせても200枚にもなっている。店を畳んでもどうにもならんのよ。」

「でも!」

「でもでもない!返す算段でもすべきだ。」

「父の店が。。。」

おっさん達が離れて行った。観客も騒動が終わると、離れて何時もの市場へと戻って行った。女の子は土下座のままで泣いていた。
しばらくして、

「ご主人様!」

リザリアが駆け寄ってきた。

「済みませんでした。ご主人様のお力を知って、動けないとは。」

「リザリア。」

「はい。」

「今、泣いている子の事を知っているか?」

「えっ?」

篤郎が指を差す先にはパレーがまだ泣いていた。

「あれは、『旨聞亭』のパレーですね、確か父親が三年前に亡くなって家族でやりくりして、兄のレウルと味の研究とかで店を傾けてるとか。」

「ふーん。新しい味ね。」

篤郎はパレーの元に行っていた。パレーは篤郎の足に気が付くと、

「何ですか?」

と、涙を流しながら聞いてきた。

「味を研究していると聞いたが、何か出来たのかい?」

「何も・・・・」

「ふーん。じゃ、歩きながら今までやってきた事を教えてくれないか?」

「でも・・・・」

「まぁまぁ、無い知恵に何かがおきるかもよ。」

「はぁ。」

胡散臭そうにパレーは篤郎と歩き出した。篤郎は薬屋で支払いをしてから新たに仕入れもした。代金は金貨10枚でパレーの顔に期待感が持ち上がった。冒険者ギルドに行きロックタートルを2匹の解体を頼んでから『旨聞亭』を目指した。

道中で聞いた、味の研究は惜しいものばかりであった。甘くなるように花を煮詰めて蜜の採取や色んな草から食材にならないかとか、水以外でスープが旨くならないかとか。高級食材から変わった草や野菜、果物まで金に厭目を着けずに買い漁った結果が、借財金貨200枚なんだそうだ。
そして『旨聞亭』に着いた。建物は大きく、広い。冒険者ギルドからも近くて立地は良いが、人気がないのだ。
パレーを先頭に入ると、薄暗い奥から、

「パレーか、食材は手に入ったか?」

「レクッチさんも、借財を払わないと売らないって。」

「そうか。ごめんなー。」

レウルは泣き出したので、改良型の『ライト』で店内を照らしてみる。当然だが、篤郎は目を瞑っている。瞬時に現れた光に、

「「「わー!目、目が!目が~!」」」

と騒ぎ出した。リザリアもパレーもレウルも目を抑えて地面を転がっていた。篤郎は魔力を調整して程よい光にした。

「『ライト』は改良が必要っと。」

一人冷静な篤郎は椅子に座り、目の痛みから解放されて立ち上がる三人を待った。

「何で目が痛かった・・・」

「ご主人様、目は大丈夫でしょうか?」

「ひーひー。」

涙を流し周りを見ると、日の光の様に明るい店内を見た。

「ロウソクも無いのに?」

「明るい・・・・」

「はっ!ご主人様!」

「落ち着け、リザリア。そして、こんばんはレウル。」

「こん?へっ?」

「あっ!お兄ちゃん、アツロウ様がお話があるって。」

「話し?」

「えぇ、ちょっと料理にはうるさくて。パレーさんから色々とお聞きしました。どうです、私と契約しませんか?」

「何を狙っている!」

「狙いですか?」

「当たり前だ!」

「それは後です。まず、貴方は料理の研究をしていますね。」

「そうだ。」

「しかも、成功していない。」

「そうだ!」

「借財も増えて金貨200枚になりましたね?」

「そうだ。」

篤郎の質問にレウルは段々と声の力が弱まる。

「なぜ料理の研究に拘ったのですか?」

「親父が死んで、直ぐに親父の弟子達がこの店を辞めたんだ。俺はまだシタッパで親父から味のレシピも教えて貰ってないのさ。弟子は離れた場所で店を始めてからは、この店も廃れるばかり。何とか考えてやっても上手くいかない。あげくに母さんが試作の料理に倒れる始末さ。」

「ばっ、大変だ!直ぐに母親の所に!パレー、早く!」

「えっ?はい!」

慌てて、その場から母親が寝ている場所に向かった。リザリアとレウルも訳が分からないままに後を追い掛けていた。
母親の寝室では、男の子が看病をしていた。母親の意識はない。
四次元から懐中電灯を出して、目の反応を見る。脈に口に喉のを見ていく。流石に毒に犯されている。

「レウル、何を食べてこうなった?」

「甘い料理で。」

「花か!何の花だ!」

「レバノンの花。」

「いや、実物は無いのか!」

「無いです。」

「作ったのは何時か?」

「えっと半年前です。」

「はっ?半年もこのままだと。いかん、『診察』!えーい、効いてくれよ!新魔法『ポスムディ』もう一致『ポスムディ』&『回復』に内臓にも『回復』!」

何の毒か分からないので、ゲームからヒントを得た物を使った。理論上だが血液を全部、新品にして毒素を体内から出すとしている。即効性の毒は無理かも知れないが、改良の余地ありにしておこう。多分、人族でも獣人の羊族なので、生き永らえたのだろう。昔から毒に耐性ある種族だからな。
篤郎はホッと一息をつく。

「何とかなったー。」
「「「えっ!」」」

「台所を借りたい。レウル案内してくれ。」

「は、はい。」

「レウル、花を食材にするなよ。」

「えっ?」

「花に毒がある物が多く、間違って食べると死ぬことになる。母親は羊人だから助かっただけだ。他の人なら死んでいたぞ。」

厳しい篤郎の顔を見ながら、レウルは涙を流した。

「俺の料理で母さんが。」

「料理の着眼点は良いのだ。後は知識が必要なんだよ。」

「しかし、俺は!」

「料理は薬と同じなんだ。良い食べ物も悪い食べ物も知って作る物と知らないで作るのでは、雲泥の差だ。」

「うんでいの?」

「とりあえず、治したが空腹を取らないといけない。」

「しかし、食材がありません!」

「食材はある。」

「えっ?何処に。」

「それと狙いだが、料理を覚える事だ。」

「はい?」

「それを教える。さぁ、やるぞ。」

「は、はい!」

篤郎とレウルは台所に消えた。
寝室では母親が目覚めたようだ。口をパクパクさせているが、誰もなにも出来ないでいた。バタバタの音が近づいて、ドアが開いた。篤郎は直ぐに母親の側に寄ると、コップに魔法で水を入れて、ガーゼを浸して口に運んだ。何度か繰り返すと、

「あ、な、た、は?」

の母親の声に三人の子が喜んでいた。篤郎は、

「お節介ですかね。」

「お、せ・・・」

「ま、今は体力を付けないと。」

「あ、り・・・・」

母親はまた眠りに着いた。
何とか危機を脱したので、子供達の方を向いて、

「まだ予断は許さないが、一応は安心だ。さぁ、商談しましょう。」

篤郎の顔を四人は忘れない。黒く恐ろしい顔を。
しおりを挟む

処理中です...