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第2章 転移しました!

篤郎、奴隷を持つ。

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夜が明ける前に篤郎は腕時計で時間を確認した。起きる時間の4時を過ぎた頃になる。直ぐに裸になり、軽く『銭湯』を使う。風魔法でクールダウンしてるが、改良の余地を考えていた。直ぐに屋敷を出て日課の運動を始める。
今日は体が異常に軽いのだ。不思議な感覚の中でマラソンを始めた。いつも通りに走り出したが、

「う、うあぁぁぁぁぁぁぁー。」

ダッシュ以上のスピードと疲れない体に驚きながらも走っていた。走り去る風景はバイクと変わらないのだから、正に異常事態に間違いない。時間にして十分もかからないで門まで来てしまったので、そのまま壁を蹴って外に出た。

「嘘だろ?何が起こった。」

停まる事なく走り続けたが、息切れをしないまま走った。30分で湖が見えたので走りを緩めて止まった。

「何か嫌な予感しかないな。」

型を始める。基本は中国武術だ。そこに日本の武道を織り混ぜてリザイデント流に近付けた自己流の武術だ。震脚で地面が下がってるのは不安になる。意味が分からなかったのだ。昔は無い事が起こって要るのは分かったが。そして、20分で止めた。力の強弱は昨日と違うので気を付ける事を理解出来たが、慣れないとダメだとも分かった。

「人なのに人と違うのか?いや、俺は人だ。」

不安に駆られたが、直ぐに思いを改めて、神アルテウルを倒す為の力と考えた。神と戦うのだ、いっそ神と同等の力を持つ龍を倒せないと駄目だと思っていた。
そして、屋敷をノライの町を目指して走った。一時間かけて町に到達した。やっと汗が出て安堵しながら門番と会う。

「あれ?アツロウ様、おはようございます。」

声と顔を見て、

「リーベット、おはよう。」

「アツロウ様、リーで良いですよ。皆にリーと呼ばれていますから。」

「そうか、じゃ。リー、おはよう。」

「てか、アツロウ様は何故外にいるのですか?」

「あ!しまったー。」

「どうかされました?」

「いや、朝のジョギングに出た時に調子に乗って門を越えてしまったんだ。」

「こ、越えた?ははは、冗談ですよね?」

「いや、本当だよ。しまったなー。」

「えっ?」

篤郎の言葉に止まってしまう、リーベットは門を見上げた。4メートルの門を。規格外の文字が頭から蘇ってきて、落ち着いた。

「そうですか、アツロウ様でしたもんね。そうだアツロウ様だ。はははは。問題ありません。中にどうぞ!」

リーベットは敬礼をして篤郎を見送った。もちろん、篤郎は頭をハテナにして屋敷に戻って行った。

屋敷に戻る道中に今現在の状況を整理していた。身体能力が異常で、昔の全盛期を大きく超える。前世でもこんな力を持った人間はいない。魔族でもドワーフやエルフにもいないし、ドラゴンにもいなかった。ヘルダイスでも不可能か。魔王でもこんな力はないからだ。

悩みは尽きないが、部屋に戻るといつもの事をして、タオルで下半身を隠して涼む。飲み水にも困らないので、屋敷から出て今後を考えていた。
何にしても情報が少なかった。
知っている世界なのに知らない事の方が多いからだ。それと、自身の過去がトンでも無いことになっていたのも問題である。何が悲しくて男で物語を作られているのだ。悲しむなという方が無理な話だ。
綺麗な服を着て、朝食を取る。野菜とパンと水になる。
朝食を食べ終わっても6時過ぎだ。体をほぐし直していたら、使用人が朝食に呼びにきた。直ぐに着いて行くと食堂に通された。てっきり下座に座ると考えていたのに、ゼウントの右に座らされる。

「おはようございます、アツロウ様。」

「おはようございます、ゼウント騎士伯様」

「「おはようございます、アツロウ様」」

「アツロウ様、私めに敬称は不要です。」

「貴族と平民なんですよ。騎士伯様は必要でしょう。」

「それでは、騎士伯で止めて下さいませんか。様と付けられると恐縮しますので。」

「わかりました、ゼウント騎士伯。」

「では、食べましょう。」

「いた・・・・」

「主よ・・・・」

篤郎とゼウントの視線が合う。篤郎はゼウント達と同じ仕草をして、顔を下げた。
(キリスト教と同じ?でも文言は似てるがアルテウルを讃えている?)ますます謎は深まっていた。
お祈りが終わって食事になった。食事は味が悪く素材も悪い。強いて言うならスープは食べれる。
食事はしたがとにかく食べた。終わって、大作ご馳走さまと言い、ナプキンで口を拭いた。
篤郎の動作と同じ様に、ゼウントはナプキンで口元を拭いて、

「アツロウ様、後で呼びますので。」

「分かりました、部屋にいます。」

と部屋に戻った。
部屋に戻ると、必要な魔法を作り直した。紋章も新型が必要になっていた。使えない作った魔法が多すぎた。例えば『レンジ』にしても攻撃魔法レベルなのだ。『携帯電話』は何処で間違ったのかパルスレーザーなのだ。役立つ物が戦略兵器なのは笑ってしまう位な泣き言な話だ。

紋章は日本から持って来たのに使う予定だ。靴等は手に入らない。長持ちで破れない様にしなければ、今後に困る事態になる。靴の底に木や鉄は嫌なのだ。酷くなれば木をまるごと使った靴になる。多分、報酬と賠償だけで良い金額になるだろう。昨日の品物の代金を支払っても余ると目算している。モンスターも有るので、お金には困らないので、日常雑貨の仕入れと武器と防具の仕入れになる。鉱物も仕入れる必要もある。

それにトイレだ。トイレは必要だ。日本のトイレは優れている。考える事が一杯だ。
篤郎はノートパソコンに向かって、打ち込みをしていた。そして、気が付く。先に電源確保じゃねぇ?と。新魔法『充電』を構築していた。
基本は出来たがという所で使用人が呼びに来た。

「アツロウ様、ゼウント様がお呼びです。」

「はい。」

ノートパソコンをしまい部屋を出ると、昨日のレベールが居たのだ。ただ、昨日と違い顔が沈んでいた。

「どうかしました、レベールさん?」

「あっ、いえ。こちらです。」

と先頭になり歩いて行く。しかし、途中で篤郎に振り向いて頭を下げて、

「アツロウ様。どうか、どうかリザリアを助けて下さい。」

「どうしてですか?」

「リザイアは、リザイアは悪い人ではありません。女の身でノライ騎士団の隊長にもなりました。それにログリシュの家系です。」

「それが?」

「そんな伝説の家系の方が、アツロウ様を襲うなんて考えられません。」

「伝説の家系が、私をオーク扱いをして暗殺しに来たのに、許せと言いたいのですね?」

「暗殺!」

「ふむ、ここでは有名だから許せると言うのですか。なんと酷い国なんですね。」

「いえ。すみません、今の発言を取り消します。でも、アツロウ様!どうか、減刑を。」

レベールは篤郎に頭を深く下げていた。篤郎もリザリアの罰よりもお金なのだ。戦うよりも衣なのだ。

「考えておくよ。」

「お願いします。どうぞ。」

レベールは再び歩き出した。しかし、リザリアがログリシュと繋がっているとは。本当にログリシュ家は私にとって敵のようなものだ。関わりたく無いのが本音だ。ウエルにしても最後はあれだし。
レベールが立ち止まり、振り向いて頭を下げた。

「主がお待ちです。」

篤郎は部屋に入った。部屋は本が多い。ゼウントと男の騎士とリザリアが居た。

「アツロウ様、どうぞこちらに。」

ゼウントは椅子に篤郎を導いていた。

「はい。」

何かしら無作法があったのだろうか、ゼウントの後ろの男の顔が渋い。

「アツロウ様。早速ですが、報酬をお渡しします。」

ゼウントは硬貨を一枚渡してきた。金の様にも見えるが、篤郎はこの世界のお金を知らない。いや、知ってはいるが昔である。今の貨幣は知らないのだ。

「はぁ。」

「少ないですが、お納め下さい。次に賠償ですがー。」

男が少し前に出て、

「初めてお目にかかる。某はノライ騎士団団長、パウエル・ゼクトと申します。今回は部下のリザリアが大変失礼をした。」

パウエルとリザリアは頭を下げる。パウエルは頭を下げたまま、

「それと、御身を襲い傷付いた身体も治して戴き、重々にお礼を申し上げる。ありがとう。」

パウエルは頭を上げて篤郎を見る。

「伯からも刑罰に関しては篤郎殿の気持ち次第とお聞きしておる。どうだろう、許してもらえぬか?」

パウエルは薄ら笑いをしながら言った。ゼウントは動じていないが、額には汗が滲んでいた。

「ゼウント騎士伯。賠償とはこれで終わりなのですか?」

「違います!パウエル、お前はアツロウ様を愚弄する気か?」

「しかし、伯よ。報酬で白金貨を支払っております。賠償込みではなかったのですか。」

「当たり前だ!アツロウ様はノライ領のモンスターを狩られたのだぞ!甚大な被害がでる前にマイティコア等を!」

「マイティコアを一人で狩られたと言いますが、某は信じておりませぬ。」

「儂もリザリアも他の騎士達も見てもか!」

「いえ。しかし、賠償は!」

「黙っておれ。リザリア、お前は何か言いたい事はないか。」

リザリアも前に出て、

「アツロウ様、私は見誤って貴方を殺そうとしました。この身を委ねます。」

と片膝を着いて腕を胸の前で交差させる。

「アツロウ様。」

ゼウントは篤郎に意見を求めた。

「これをもう一枚で手打ちにしましょう。」

この時、篤郎は間違いに気付かずに軽く発言したのだ。白金貨がどれ程の価値なのか知らないし、それを求める事がどうなるなんて考えてもいなかった。篤郎として昔ならでの発言である。大抵の昔の貴族なら、報酬と同じを求めたら、報酬を下げる交渉を始めるものだ。そして落とし所を探して報酬と賠償を支払うものと思っていた。
そう、思っていたのだ。
ゼウントとパウエルは落胆していた。リザリアは涙を流していた。篤郎は何かを間違ったのかは分からないが、不味い事になったのを感じた。そして、篤郎が言う前にゼウントが発言した。

「リザリア、白金貨一枚に決まってしまった。」

「は、い。」

「済まない、リザリア。某が要らぬ事を言い過ぎたのがいけなかった。」

「ま、ま、ままった。ちょっと待って下さい。」

篤郎は慌てて止めた。茶番を止めたとも思っていた。

「これを一枚程度で何もそこまで落胆するのですか?」

貴族と駆け引き。篤郎はそう捉えていた。

「な、程度と。」

「アツロウ様なら、この程度ですな。申し訳ございません。では、書類を作ります。」

「へっ?」

ゼウントはサラサラと書き終えて、書類を篤郎に向けた。

「ご確認下さい。」

篤郎は驚いた。言葉は同じなのに文字が違っていた。いや、町で見た文字は知った文字なのに、書かれた文字が分からなかったのだ。

「は、はい。宜しいかと。」

とにかく、ログリシュ家の者と離れたくて適当に返事をしてしまったのだ。ゼウントは書類を取るとリザリアの前に置いた。リザリアはナイフを親指に当てて血を出して書類に押した。
書類は光を放ちながらリザリアの首に紋様が刻まれた。

「ゼウント様、長らくお世話になりました。私の過ちは一生拭えません。アツロウ様にお仕えします事をお詫び申します。」

「えっ?」

ログリシュ家と別れたつもりが仕えると聞いて慌てた。

「ゼウント騎士伯。」

「アツロウ様、リザリアはこう見えてログリシュ家の名を持つ者ですが、白金貨を支払える事は出来ません。アツロウ様に心身供にお仕えしますでしょう。リザリアを可愛いがって下さい。」

ゼウントは立ち上がり、礼をしてきた。パウエルもお辞儀をしたし、リザリアもそのまま礼をした。

「えーと、はい?」

「これで賠償は終わりましたな。パウエル、アツロウ様をお送りしてくれ。アツロウ様、私はこれから仕事をしますのでこれで。」

と、部屋を出て行った。戸惑う篤郎にパウエルは、

「アツロウ様、行きましょう。」

と部屋を出たので追いかけた。

「パウエルさん?何か俺は。」
「間違っていません。むしろ間違ったのは某ですから。」

早歩きの為に篤郎の部屋には直ぐに着いた。

「アツロウ様、リザリアの事を頼みます。」

礼をして去った。篤郎は呆然としていたが、ドアを開けて部屋に入った。ドアをいつもの通りに閉めたと思ったら、ドアは不規則にしまったのだ。変な閉まり方にドアを見て固まった。
そこには、リザリアが居たからだ。

「リザリア?」

リザリアは先ほどと同じスタイルになると、

「ご主人様、これからリザリアを如何様にもお使い下さい。」

「え、ええー!」

面倒が来た。
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