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青年期
王の剣
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「そっちはどうだった? アルキゴス」
「捕虜は残したが翻訳者が居るな。性濁豚の言葉は俺には分からん」
「そっちは性濁豚だったんですね。こっちは人卵植が大量に居ました。犠牲者は目視できてませんでしたが特有の酸っぱい臭いがしていたので誰かやられてそうですね」
人卵植とは触手型の寄生生物であり、宿主に寄生すると体内に卵を植え付け孵化させる魔物である。
子が産まれると同時に宿主は死ぬが、それまでは意識があるまま触手に操られて動くことになるので、腕がもげようが足が曲がろうが強制的に動かされる苦痛を考えれば死ぬことの方が宿主になった生物からしてみれば幸福なことだろう。
「よりにもよって性獣が相手か……厄介だな」
ルードスから受けた報告と自分が戦った相手のことを考えれば、おそらく今回攻めてきている亜人種は性獣に分類されるものがほとんどを占めるのだろうと予想ができる。
人間相手にどの様な方法かは別として子を強制的に産ませる彼等は、忌み嫌われる亜人種や魔物の代表格である。
「これ以上被害を増やすわけにも行きませんね。とりあえず各村への警戒が最優先でしょうか」
「俺と近衛二人でここに残って敵の捜索。残りは固まって村人の避難で良いんじゃないか? オペはどう思う?」
「私はそれで構わない。うちの物にもこちらに来るよう連絡を入れておこう」
アルキゴスの言葉に対して同意の意を示したオペラシオンは、何かを宮廷魔術師に告げると問題ないとばかりに頭を縦に振る。
オペラシオンの家系はヴァスィリオ家にも匹敵するほどの武官の家柄であり、その権力は王国内においても中々のものだ。
私兵を有することが許されている数少ない貴族の一つでもあり、今回オペラシオンが借り出すのはその手駒だろう。
ルンタは国境近くではあるものの王都に近いことからほとんど戦闘経験がないものばかりなので、オペラシオンの私兵のようなベテランが加わってくれるのはアルキゴスとしても嬉しい限りである。
「じゃあその通りに。各員行動開始、接敵したら狼煙を上げる」
時間を惜しむようにしてそれだけを口にするとアルキゴスはまた走り出す。
一分一秒でも早く敵を見つけなければ、被害は拡大していく一方だろう。
焦りがアルキゴス達の足を早くし、怒りがその手に力を握らせる。
「使いたくはなかったが使うしかないか」
「それが噂のF式装備ですか? 案外普通の見た目ですね」
「初代王が冒険において使用していた装備だからな。そんな変な見た目の武器や防具はないぞ」
「冒険王の装備ですか、良いですね俺もいつか使ってみたい所です」
「お前ならそのうちいけるさ」
普段のように言葉を交わしながらも走る速度は一向に衰えることがない。
今日歩いた分の距離をとっくの間に追い越して、山の麓あたりまでアルキゴス達がやってくると急にオペラシオンが足を止める。
その瞬間にルードスとアルキゴスが抜刀したのは、オペラシオンが敵を見つけたのだろうという確信があったからだ。
その信頼通りにオペラシオンは敵の姿を確認していたわけだが、どうやら接敵はしなさそうな雰囲気である。
「アル。気配察知に敵影が入った」
「使ってるのかよ。数は?」
「歩兵大隊規模だな。しかもどうやらこちらを無視して早足で街に向かっている」
「多く見積もって1000匹か……。確かあの街の街道沿いは平野だったな。やれるか?」
ルンタの近くにある防衛都市は、山からやってくる亜人種達から王国を守る為にそれなりにベテランの兵士たちで守られてはいる。
だがそれも常識的な範囲の亜人種に対してだけであり、1000にも近い亜人主を相手するとなれば半日も持てばいい方だろう。
アルキゴス達を無視して街に進んでいるということは、性濁豚達に指示を出しているものが作戦の失敗を認識して隠密作戦から破壊行動に作戦を乗り換えたということに他ならない。
おそらくは差し向けられた大隊もその打撃力を図るための一種の実験に過ぎないのだろう、その証拠にアルキゴスの気配察知に入った性濁豚は食料をあまり持っていない。
「俺は行けますよ」
「問題ない」
「よしっ、なら行くか」
城壁に攻撃を仕掛けようとするところの裏を取れれば一番いいのだが、犠牲者を出さない為には1000人を相手にしてたったの三人で立ち塞がることしかできることはない。
3対1000という絶望的な数字に対して臆することなく即座に頭を縦に触れるのは、それだけ彼等が無謀な人間だからなのだろう。
近衛兵というのはそういうものだ、王の守護についているのではなくつけられていると言った方が正しい。
なにせ全員が全員王が手綱を一度離せば死ぬまで戦い続けるようなものばかりなのだから。
「ーー見えた。俺は真ん中からこじ開ける、ルードスは端から撹乱、オペは司令塔を潰してくれ」
「了解」
1000匹もの混合亜人部隊が動く様は圧巻の一言である。
性濁豚に人卵植、粘触種の姿まで見えるではないか。
先程奇襲を仕掛けられたお返しだと言わんばかりに気配を殺しながらゆっくりと近づくと、アルキゴスは空へと向かって大きく飛んだ。
文字通り空を飛ぶほどの跳躍力を見せたアルキゴスは、そのまま大隊の中枢である司令官のいると思われる場所に降り立って音を立てないようにしながら敵を殺していく。
「shauchcu?」
「osiwyhdvfncuーー」
「まずは一人」
切り落とされた性濁豚の上半身が地面につくよりも早く、アルキゴスが刀を振るえば周囲にいた亜人が七匹は大地に伏すことになる。
アルキゴスに対して怒りの感情を孕んだ怒号が四方八方から飛んでくるが、部隊の中に完全に入り込んだアルキゴスは常に足を動かして敵の視界から外れるように動くと、ついでとばかりに隙の見えたものから手にかけていく。
どの種族相手であろうとも密集している歩兵相手にはこの戦法は有効である。
一部の性濁豚は仲間ごとアルキゴスの事を殺そうともしているようだが、戦闘経験の差でそれを事前に読んでいるアルキゴスに当たることはない。
そうして数分も経てば次第に怪しい影が見えただけでも攻撃するようになり、周りで共に敵を探しているはずの味方もいつのまにか敵のように見えてくるのである。
「これで危なそうなのはあらかた終わりーーっしぶといな!」
「mgdgdtm!!」
「ーーハァッ! お邪魔でしたかアルさん!?」
「いや、助かったよ」
斬り伏せたつもりであったのに致命傷を受けながらもなんとかアルキゴスを羽交い締めにした性濁豚だったが、援護にやってきたルードスに切られてようやくその命は絶える。
どうやら無理やり戦闘に参加させられてるわけでもなさそうで、士気の方もこれだけボコボコにされている割にはずっと高い水準を保ったままだ。
一度足を止めてしまえば囲まれるのは時間の問題で、それならば仕方がないかとルードスに背中を任せてアルキゴスはじっくりと前を見つめる。
「倒しても倒してもキリがないですね」
「掴まれるなよ? 引きずられても助けられないからな」
「怖いこと言いますね」
一度足を取られてしまえばその瞬間に死は確定的なものとなるだろう。
実践の中でしか味わえない緊張感に呑み込まれそうになりながらも、アルキゴスはただただ眼前の敵に集中して武器を手に取る。
それからどれだけ敵を切り落とした事だろうか。
足の踏み場もないほどに積み上げられた死体の山を乗り越えて、亜人達は何も恐れるものなどないように一心不乱に突撃してくる。
持久戦になれば不利なのは明らかに三人組であるアルキゴス達だ、早期の解決を目指したいものだがなかなかそう上手くは事を運べない。
「ーーッ! アルさん俺飛ばされます!」
「落ちる場所気をつけろよ!」
「ヴァグァァァァァァ!!」
ハンマーを手にした大柄な性濁豚にルードスがどこかへと吹き飛ばされていき、アルキゴスはついに完全に周囲を取り囲まれることになった。
目の前で吠え立てる性濁豚達はどれだけ切り付けようとも衰える様子は微塵もなく、アルキゴスはついに奥の手を解放する。
「ルードス、俺の周りに来るなよ!」
おそらくはこちらに最短距離で戻ってきているであろうルードスに対して大声で警戒すると、アルキゴスは今日初めてF式装備のあるべき姿を披露する。
赤みを帯びていく刀身に体の周りを浮遊する微小な精霊達、F式装備の剣はとある龍の宝玉を元にして作られており持ち主の魔力に反応してその切れ味を増すという効果がある。
アルキゴスの周りに浮いている小さな球は微小な精霊達であり、刀身に注ぎ込まれた魔力が変換されていく中で龍の魔力として変換されたものが刀に収まり切らず外に溢れ出たことで現れた存在である。
真っ直ぐ剣を上段に構え、一切の隙も見せずに型に入ったアルキゴスを見て先ほどまで斬られることも構わず突撃していた性濁豚たちがこれはダメだと足を止めた。
臆せば死ぬと分かっていても、龍の恐怖に勝てる亜人などこの世にどれだけいることか。
「行くぞ性濁豚。これが〈紅刀〉の威力だ」
上段から振り下ろされたアルキゴスの斬撃は火の刃となって戦場を駆け抜けていき、一振りで百匹近い亜人種を塵に変える。
ついで横凪に一振り、これで二百。
最後に下から袈裟懸けに一振り、これで二百。
合計で五百位上の命を刈り取った紅刃は持ち主の魔力が完全に空になったことでその輝きを無くし、元のくすんだ赤色に戻る。
たった三度で動けなくなってしまうほどの疲労感に襲われるものの、その破壊力は確かにこの戦場の選曲を大きく変えたことだろう。
そんな初代王の力を見て手をバチバチと叩き合わせながら歓喜の声をあげる人物がいた。
「それが初代王の力か、素晴らしいな! 半数以上ロストした、後は雑兵だけだ!」
「ルードス、後は頼んだ。俺は疲れたから離れる」
「了解。良いもん見せてもらいました。ゆっくり休んでください」
興奮冷めやらぬままに亜人を切りつけるオペラシオンは、下手をすればそのまま後を全て殺してしまうのではないかとも思えるほどだった。
戦場から少しだけ離脱したアルキゴスは、もし何かあったら参加できるように腰こそおろさないもののもういいかと武器を鞘にしまい膝に手をつき大きく深呼吸をする。
これから二日くらいはまともに動くことができないだろう、だがそれだけの時間を稼げたのだとすれば十分なことだ。
「さてと、とりあえずは報告書をあげないとな」
頭の中で描くべき事をリストアップしながら、アルキゴスは達の暴れ回る二人の人影を観察する。
この分であればあと30分もあればあらかたの試合は終わるだろう、そう確信できるほどには彼らの戦い方もまた鬼気迫ったものであった。
今日を凌いだところで問題は大隊ではなく敵が二個師団であるという事、改めて事実を確認したアルキゴスは兜の緒を締め直すと来るべき戦争に向けて精神を統一させるのだった。
「捕虜は残したが翻訳者が居るな。性濁豚の言葉は俺には分からん」
「そっちは性濁豚だったんですね。こっちは人卵植が大量に居ました。犠牲者は目視できてませんでしたが特有の酸っぱい臭いがしていたので誰かやられてそうですね」
人卵植とは触手型の寄生生物であり、宿主に寄生すると体内に卵を植え付け孵化させる魔物である。
子が産まれると同時に宿主は死ぬが、それまでは意識があるまま触手に操られて動くことになるので、腕がもげようが足が曲がろうが強制的に動かされる苦痛を考えれば死ぬことの方が宿主になった生物からしてみれば幸福なことだろう。
「よりにもよって性獣が相手か……厄介だな」
ルードスから受けた報告と自分が戦った相手のことを考えれば、おそらく今回攻めてきている亜人種は性獣に分類されるものがほとんどを占めるのだろうと予想ができる。
人間相手にどの様な方法かは別として子を強制的に産ませる彼等は、忌み嫌われる亜人種や魔物の代表格である。
「これ以上被害を増やすわけにも行きませんね。とりあえず各村への警戒が最優先でしょうか」
「俺と近衛二人でここに残って敵の捜索。残りは固まって村人の避難で良いんじゃないか? オペはどう思う?」
「私はそれで構わない。うちの物にもこちらに来るよう連絡を入れておこう」
アルキゴスの言葉に対して同意の意を示したオペラシオンは、何かを宮廷魔術師に告げると問題ないとばかりに頭を縦に振る。
オペラシオンの家系はヴァスィリオ家にも匹敵するほどの武官の家柄であり、その権力は王国内においても中々のものだ。
私兵を有することが許されている数少ない貴族の一つでもあり、今回オペラシオンが借り出すのはその手駒だろう。
ルンタは国境近くではあるものの王都に近いことからほとんど戦闘経験がないものばかりなので、オペラシオンの私兵のようなベテランが加わってくれるのはアルキゴスとしても嬉しい限りである。
「じゃあその通りに。各員行動開始、接敵したら狼煙を上げる」
時間を惜しむようにしてそれだけを口にするとアルキゴスはまた走り出す。
一分一秒でも早く敵を見つけなければ、被害は拡大していく一方だろう。
焦りがアルキゴス達の足を早くし、怒りがその手に力を握らせる。
「使いたくはなかったが使うしかないか」
「それが噂のF式装備ですか? 案外普通の見た目ですね」
「初代王が冒険において使用していた装備だからな。そんな変な見た目の武器や防具はないぞ」
「冒険王の装備ですか、良いですね俺もいつか使ってみたい所です」
「お前ならそのうちいけるさ」
普段のように言葉を交わしながらも走る速度は一向に衰えることがない。
今日歩いた分の距離をとっくの間に追い越して、山の麓あたりまでアルキゴス達がやってくると急にオペラシオンが足を止める。
その瞬間にルードスとアルキゴスが抜刀したのは、オペラシオンが敵を見つけたのだろうという確信があったからだ。
その信頼通りにオペラシオンは敵の姿を確認していたわけだが、どうやら接敵はしなさそうな雰囲気である。
「アル。気配察知に敵影が入った」
「使ってるのかよ。数は?」
「歩兵大隊規模だな。しかもどうやらこちらを無視して早足で街に向かっている」
「多く見積もって1000匹か……。確かあの街の街道沿いは平野だったな。やれるか?」
ルンタの近くにある防衛都市は、山からやってくる亜人種達から王国を守る為にそれなりにベテランの兵士たちで守られてはいる。
だがそれも常識的な範囲の亜人種に対してだけであり、1000にも近い亜人主を相手するとなれば半日も持てばいい方だろう。
アルキゴス達を無視して街に進んでいるということは、性濁豚達に指示を出しているものが作戦の失敗を認識して隠密作戦から破壊行動に作戦を乗り換えたということに他ならない。
おそらくは差し向けられた大隊もその打撃力を図るための一種の実験に過ぎないのだろう、その証拠にアルキゴスの気配察知に入った性濁豚は食料をあまり持っていない。
「俺は行けますよ」
「問題ない」
「よしっ、なら行くか」
城壁に攻撃を仕掛けようとするところの裏を取れれば一番いいのだが、犠牲者を出さない為には1000人を相手にしてたったの三人で立ち塞がることしかできることはない。
3対1000という絶望的な数字に対して臆することなく即座に頭を縦に触れるのは、それだけ彼等が無謀な人間だからなのだろう。
近衛兵というのはそういうものだ、王の守護についているのではなくつけられていると言った方が正しい。
なにせ全員が全員王が手綱を一度離せば死ぬまで戦い続けるようなものばかりなのだから。
「ーー見えた。俺は真ん中からこじ開ける、ルードスは端から撹乱、オペは司令塔を潰してくれ」
「了解」
1000匹もの混合亜人部隊が動く様は圧巻の一言である。
性濁豚に人卵植、粘触種の姿まで見えるではないか。
先程奇襲を仕掛けられたお返しだと言わんばかりに気配を殺しながらゆっくりと近づくと、アルキゴスは空へと向かって大きく飛んだ。
文字通り空を飛ぶほどの跳躍力を見せたアルキゴスは、そのまま大隊の中枢である司令官のいると思われる場所に降り立って音を立てないようにしながら敵を殺していく。
「shauchcu?」
「osiwyhdvfncuーー」
「まずは一人」
切り落とされた性濁豚の上半身が地面につくよりも早く、アルキゴスが刀を振るえば周囲にいた亜人が七匹は大地に伏すことになる。
アルキゴスに対して怒りの感情を孕んだ怒号が四方八方から飛んでくるが、部隊の中に完全に入り込んだアルキゴスは常に足を動かして敵の視界から外れるように動くと、ついでとばかりに隙の見えたものから手にかけていく。
どの種族相手であろうとも密集している歩兵相手にはこの戦法は有効である。
一部の性濁豚は仲間ごとアルキゴスの事を殺そうともしているようだが、戦闘経験の差でそれを事前に読んでいるアルキゴスに当たることはない。
そうして数分も経てば次第に怪しい影が見えただけでも攻撃するようになり、周りで共に敵を探しているはずの味方もいつのまにか敵のように見えてくるのである。
「これで危なそうなのはあらかた終わりーーっしぶといな!」
「mgdgdtm!!」
「ーーハァッ! お邪魔でしたかアルさん!?」
「いや、助かったよ」
斬り伏せたつもりであったのに致命傷を受けながらもなんとかアルキゴスを羽交い締めにした性濁豚だったが、援護にやってきたルードスに切られてようやくその命は絶える。
どうやら無理やり戦闘に参加させられてるわけでもなさそうで、士気の方もこれだけボコボコにされている割にはずっと高い水準を保ったままだ。
一度足を止めてしまえば囲まれるのは時間の問題で、それならば仕方がないかとルードスに背中を任せてアルキゴスはじっくりと前を見つめる。
「倒しても倒してもキリがないですね」
「掴まれるなよ? 引きずられても助けられないからな」
「怖いこと言いますね」
一度足を取られてしまえばその瞬間に死は確定的なものとなるだろう。
実践の中でしか味わえない緊張感に呑み込まれそうになりながらも、アルキゴスはただただ眼前の敵に集中して武器を手に取る。
それからどれだけ敵を切り落とした事だろうか。
足の踏み場もないほどに積み上げられた死体の山を乗り越えて、亜人達は何も恐れるものなどないように一心不乱に突撃してくる。
持久戦になれば不利なのは明らかに三人組であるアルキゴス達だ、早期の解決を目指したいものだがなかなかそう上手くは事を運べない。
「ーーッ! アルさん俺飛ばされます!」
「落ちる場所気をつけろよ!」
「ヴァグァァァァァァ!!」
ハンマーを手にした大柄な性濁豚にルードスがどこかへと吹き飛ばされていき、アルキゴスはついに完全に周囲を取り囲まれることになった。
目の前で吠え立てる性濁豚達はどれだけ切り付けようとも衰える様子は微塵もなく、アルキゴスはついに奥の手を解放する。
「ルードス、俺の周りに来るなよ!」
おそらくはこちらに最短距離で戻ってきているであろうルードスに対して大声で警戒すると、アルキゴスは今日初めてF式装備のあるべき姿を披露する。
赤みを帯びていく刀身に体の周りを浮遊する微小な精霊達、F式装備の剣はとある龍の宝玉を元にして作られており持ち主の魔力に反応してその切れ味を増すという効果がある。
アルキゴスの周りに浮いている小さな球は微小な精霊達であり、刀身に注ぎ込まれた魔力が変換されていく中で龍の魔力として変換されたものが刀に収まり切らず外に溢れ出たことで現れた存在である。
真っ直ぐ剣を上段に構え、一切の隙も見せずに型に入ったアルキゴスを見て先ほどまで斬られることも構わず突撃していた性濁豚たちがこれはダメだと足を止めた。
臆せば死ぬと分かっていても、龍の恐怖に勝てる亜人などこの世にどれだけいることか。
「行くぞ性濁豚。これが〈紅刀〉の威力だ」
上段から振り下ろされたアルキゴスの斬撃は火の刃となって戦場を駆け抜けていき、一振りで百匹近い亜人種を塵に変える。
ついで横凪に一振り、これで二百。
最後に下から袈裟懸けに一振り、これで二百。
合計で五百位上の命を刈り取った紅刃は持ち主の魔力が完全に空になったことでその輝きを無くし、元のくすんだ赤色に戻る。
たった三度で動けなくなってしまうほどの疲労感に襲われるものの、その破壊力は確かにこの戦場の選曲を大きく変えたことだろう。
そんな初代王の力を見て手をバチバチと叩き合わせながら歓喜の声をあげる人物がいた。
「それが初代王の力か、素晴らしいな! 半数以上ロストした、後は雑兵だけだ!」
「ルードス、後は頼んだ。俺は疲れたから離れる」
「了解。良いもん見せてもらいました。ゆっくり休んでください」
興奮冷めやらぬままに亜人を切りつけるオペラシオンは、下手をすればそのまま後を全て殺してしまうのではないかとも思えるほどだった。
戦場から少しだけ離脱したアルキゴスは、もし何かあったら参加できるように腰こそおろさないもののもういいかと武器を鞘にしまい膝に手をつき大きく深呼吸をする。
これから二日くらいはまともに動くことができないだろう、だがそれだけの時間を稼げたのだとすれば十分なことだ。
「さてと、とりあえずは報告書をあげないとな」
頭の中で描くべき事をリストアップしながら、アルキゴスは達の暴れ回る二人の人影を観察する。
この分であればあと30分もあればあらかたの試合は終わるだろう、そう確信できるほどには彼らの戦い方もまた鬼気迫ったものであった。
今日を凌いだところで問題は大隊ではなく敵が二個師団であるという事、改めて事実を確認したアルキゴスは兜の緒を締め直すと来るべき戦争に向けて精神を統一させるのだった。
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