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青年期:法国
信じたいもの
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「人工聖人製造計画?」
ゴミ山の中で話すような内容ではないだろうと一旦宿屋に戻ったエルピス達は、改めて先ほどの兵士についての事をハイトに問い直していた。
「そうっす。聖人とはそもそも神の血を引いているとされている者の中から、一定確立で発生する先祖返りの事を指しているっす」
先祖返りを作ろうと躍起になる国は多い。
特に国力に自信のない国は初代王や血統があるとされている強い人物の力が宿った子供を王にしたいと考え、それがこの世界の一夫多妻制度を力強く後押ししたいと考えているのは間違いないだろう。
だが産めば一定確率で生まれるのかと聞かれればそう言ったものではないのだ。
まず先祖返りの元である祖先と親和性の高い魂を持つ子供である事、そしてその強大な力に生まれながら耐えられる子供でなければならない。
先祖返りの力によって己を制御できず母子共に死亡するという話は数十年から数百年に一度発生する事でありそう珍しい話でもない。
そんなのを400人以上も用意するのは到底無理だろう。
「そんな聖人を人工的に作ることが出来るとは到底思えませんが……セラはどう思う?」
「おそらく聖人自体を作ることは不可能ではないと思うけれど、残念ながらその方法まで知らないわ」
「計画自体が始まったのは数百年以上昔だと言われているっすけど、計画は凍結されてよほど法国の歴史について知っている人間でもない限り計画の存在すら知らないはずっす」
ともなれば製造方法は人間の体を用いて通常の手順で生み出す方法ではなく、もっと別の何かがあるはず。
そしてそれこそがハイトの口すら重たくしてしまう人工聖人製造計画なのだろう。
「なるほど……偽の聖人が現れたことも驚きですけど、法皇にも会えないし神にも会えないところを見ると、どうやら本当にまずそうですね」
「エラの意見に俺も賛成だけど、どうにもゲリシンさん敵意がなくてやりにくいんだよなぁ……まぁでも致命的な自体に発展する前に対処する必要はあるだろうけど」
「そうっすね、疑わしきは罰せずが法国の理念っすけど、どうやっても弟が犯人っぽいっすね。全く残念な事っす」
こちらを馬鹿にして嘲ってくるのもよし、やられる前にやるとばかりに攻撃を仕掛けてくるもよし。
目に見える自分に対する害意があればエルピスは自分がどれだけでも非情になれる自信があるし、そうでなければこれまでの旅で生きていくことは出来なかっただろう。
悲しそうな顔をするハイトに何か言葉を投げかけようと頭で考えるが、中途半端な状態の今の自分が口にしても焼け石に水だろうとエルピスは言葉を飲み込む。
「簡単な解決方法は三つ、一つ目はゲリシンを殺す。
二つ目はゲリシンを捕縛し法皇と神を回収する、三つ目は誰かが神の位置を吐くまで法国の上層部の人間を端から尋問する」
「三つめは現実的ではないわね、端から尋問なんてしたらそれこそ指名手配されそうですし」
「現実的なのは二つ目かな、最初のは正直本当に後がなくなった時にでもしないとね」
「自分としてもさすがに弟を殺すことになるのはできれば避けたいところっす」
殺せないで済むのであれば大罪人だろうが法の元に裁いてもらうべきだろう。
いまさら自分が口にできる事ではないと分かっているが、いまの自分ならばゲリシンを完全に無力化することも可能だとエルピスは判断していた。
ならば無理に殺さずともよいだろう。
弟を殺されるのは流石に思うところがあったのか、ハイトもエルピス達の決定に胸を撫で下ろす。
「そうなればとりあえず今後の目標はできればゲリシンの捕縛、それと同時に法皇と神の位置を探って何とか救出したいですね。
聖人の件については法国の極秘情報なので触れていいか困りますし、今のところは放置でよろしいでしょうか」
「人道的には正直何とも言えないっすけど、確かにこの事態が外に漏れると困るのでいったん事態が明確化されるまでは待ってほしいっす」
どのようにして星人が作られたのか判明していない以上は、エルピス達が声高に国際社会にその行いが非道であると触れて回ることは後々デメリットになる可能性もある。
いまのところはいったん何事もなかったと報告しておくのが法国にとってもエルピス達にとっても都合が良さそうである。
「了解しました。とりあえず今日のところは食事にでもいきましょうか。
どこかおすすめのところあります?」
「聖都の中にある店はほとんど全部監視装置がついてるっす、それでもよければお薦めするっすよ」
「背に腹は代えられません。明日法国から出ると向こうは思っているので怪しい動きはしない方がよさそうですしね」
「それなら案内するっす」
おおよその動きは決まったのでこうなれば後は楽なものである。
法国の食事といえば麺類が有名であり、何を食べようかと期待感に胸を膨らませながらエルピス達は街へと繰り出すのだった。
/
場所は変わり地下のとある一室。
湿気によって苔むした部屋の片隅で四肢を鎖に繋がれた神は、そんな鎖のことなど忘れてしまったかのように自由に手足を動かしながらなにやら悩んでいるようだった。
「さてと、どうしたものかの」
壁から鎖まで手足を自由にできるほどの長さの鎖はない。
だが目がおかしくなったのでなければ鎖の長さは足りていないというのに、神の手足は自由であり鎖も手足についたままである。
見る人間がみれば神の力がいままさに行使されている事を理解できるだろう。
エルピスが使うような必殺技としての権能ではなく、もはや生活の一部分まで健康の力を落とし込んだが故の自然すぎる不自然である。
そんな神を目の前にして男が一人、自由に動き回る神に対して捉えようとするでも逃がそうとするでもなく嬉しそうに笑みを浮かべる男の姿があった。
「我が神よ、ご機嫌は如何でしょうか」
「機嫌はそんなに良くはない、こんなところにとらえられもしていればな」
ムムムッと頭を悩ませていた途中に投げかけられた質問だったからか、神は男の問いに対してほんの少しだけ強い言葉で返す。
確かに神がいるような環境であるとはとてもではないが口にできない。
本当ならばもっと素晴らしい場所を用意するべきなのだ、それを分かっていながら何もできない自分に対して男は憤怒すら覚えていた。
自らが仕える存在に不便を強いている、そんな状況が男に恥とはなんであったかを思い出させる。
「申し訳ありません、ですが貴方をここから出すわけにはなりません」
「どうにかならんものかのぅ。別にゲリシンが何をしてもわしは止める気もない、平時であれば封印されることも許容しよう。
じゃがいまはこの場におるわけには行かんのじゃよ」
「何故でございましょうか」
「そちの懐に入っておる手紙の事じゃよ、わしが気になっているのは。ひとまずそれを見せてもろうてもよいかの?」
「我が神のご意志とあれば断るわけにもいきますまい」
「お主の立場も難儀なものよなぁ」
男はゲリシンの忠実な僕であると同時に、法国で上の立場に登れるほどの敬虔な信徒でもある。
そんな男のことを哀れに思いながらも男が胸元から出した手紙を受け取り、上から下までその内容を熟読して声をかける。
「誰からのものじゃ?」
「エルピス氏からでございます」
「そちらではない、そんなもの分かっておる。これをお前に渡したのは誰かということじゃ」
「ミヤモトでございます」
ミヤモト…ミヤモト……。
頭の中でその名前は誰のものだったのかを思い出し、神は手をついて誰のことかを理解する。
確かにアルヘオ家の長男であるエルピスに接触するよう指示を出した筈、それをしっかりとこなしてくれたことを理解して神は少しだけ上機嫌になった。
ニコニコとする神の前で逆にソワソワし始めたのが男であり、チラチラと手紙に視線が写ったので何を気にしているのか神は理解した。
「ふむ、なるほどな。内容としては邪竜の対処についてがほとんどじゃが、邪竜は既に死んでおる。だいぶと前の話であるようじゃな」
「なんと! 邪竜が復活しておったのですか!?」
「なんでこんなところで無様に縛られておるわしより物を知らんのじゃ、お主ボケたか?」
「いやいやまさか、まだそんな歳ではございませんよ。聞けばエルピス氏は既に聖都に入られたとのことですが」
エルピスの現在の場所を知っているのはさすがにそこまで耄碌していない証か。
もしかすればエルピスが邪竜を討伐したという事実を隠している誰かがいるのだろうか、いるとすればそれは確実にゲリシンだろう。
だがゲリシンにそんなことをして何の特があるというのか。
「それもわーっとる。しかもハイトが付いてきておるぞ」
「なんとハイトが。クーデターでも計画しておるのでしょうか」
「それはそれで良いじゃろう。わしはどちらの肩を持つ気もない、お主はお主が助けてやりたいと思う方を助けてやれ」
「神のご意志のままに」
この国が転覆されて一から新たに作り変わるのであれば、もはやそれも良いのではないかと神は考えていた。
長い年月で写り変わらないものなどない。
徐々に形を歪に変えてしまっていた法国は一度この辺りで綺麗さっぱり消えるべきではないのだろうか、そんなことをふと神は考えるのだった。
/
場所が変わって聖都へと続く街道の中、2つの人影がゆらゆらと夜の闇の中を歩いていた。
法国の中とはいえ夜は人ではなく魔物達が住まう時間帯。
呑気に外を歩けるのは命を投げ出す愚か者か、圧倒的な実力を持った人物のどちらかであろう。
そして今回の場合は後者である。
「んーどうしたもんかな」
「どうかしたの?」
「いやさ、なんか最近この辺りもきな臭くなってきたしどうしようかなって思って」
獣人種特有の耳をぴょこぴょことさせ、奇妙空気にいやな気配も感じているのか警戒を怠るそぶりは見られない。
「大丈夫よ。なんてったって私が居るんだから!」
「そうは言うけどこの間だって酷い目に遭ったんだからね? いまごろエルピス達どうしてるのかなぁ」
思い出されるのは途中で別れてしまった相手のこと。
主人と言えばいいのか友と言えばいいのか、しっくり来る言葉としては師匠や先輩だろうか。
彼が通るところには何かしらの問題ごとが起きるのが常であるが、今頃どこかで何か問題ごとに巻き込まれているのだろうか。
「さぁ、お母様の話だとこっちに向かってきているって聞いたけれど」
「ほんとに!? エルピスがこっちに来てるんだったら荒れそうだね」
彼がこちらに来るのであればこの嫌な空気も納得がいく。
予想通りまた何か巻き込まれているのだろうと知って、獣人の少年はにこりと笑みを浮かべる。
「でも嬉しそうだね灰猫」
「久々に会えるからさ、強くなった僕のこと見てもらわないと。それにちょうどエルピスに合わせたい人もいることだしね」
「晴人がここに……」
灰猫とルミナ、そして暗闇の中に紛れ込んだもう一つの人影は聖都へと向けて移動を続ける。
続々と重要人物が集まりつつある中で、物語はまた一歩先へと進んでいくのだった。
ゴミ山の中で話すような内容ではないだろうと一旦宿屋に戻ったエルピス達は、改めて先ほどの兵士についての事をハイトに問い直していた。
「そうっす。聖人とはそもそも神の血を引いているとされている者の中から、一定確立で発生する先祖返りの事を指しているっす」
先祖返りを作ろうと躍起になる国は多い。
特に国力に自信のない国は初代王や血統があるとされている強い人物の力が宿った子供を王にしたいと考え、それがこの世界の一夫多妻制度を力強く後押ししたいと考えているのは間違いないだろう。
だが産めば一定確率で生まれるのかと聞かれればそう言ったものではないのだ。
まず先祖返りの元である祖先と親和性の高い魂を持つ子供である事、そしてその強大な力に生まれながら耐えられる子供でなければならない。
先祖返りの力によって己を制御できず母子共に死亡するという話は数十年から数百年に一度発生する事でありそう珍しい話でもない。
そんなのを400人以上も用意するのは到底無理だろう。
「そんな聖人を人工的に作ることが出来るとは到底思えませんが……セラはどう思う?」
「おそらく聖人自体を作ることは不可能ではないと思うけれど、残念ながらその方法まで知らないわ」
「計画自体が始まったのは数百年以上昔だと言われているっすけど、計画は凍結されてよほど法国の歴史について知っている人間でもない限り計画の存在すら知らないはずっす」
ともなれば製造方法は人間の体を用いて通常の手順で生み出す方法ではなく、もっと別の何かがあるはず。
そしてそれこそがハイトの口すら重たくしてしまう人工聖人製造計画なのだろう。
「なるほど……偽の聖人が現れたことも驚きですけど、法皇にも会えないし神にも会えないところを見ると、どうやら本当にまずそうですね」
「エラの意見に俺も賛成だけど、どうにもゲリシンさん敵意がなくてやりにくいんだよなぁ……まぁでも致命的な自体に発展する前に対処する必要はあるだろうけど」
「そうっすね、疑わしきは罰せずが法国の理念っすけど、どうやっても弟が犯人っぽいっすね。全く残念な事っす」
こちらを馬鹿にして嘲ってくるのもよし、やられる前にやるとばかりに攻撃を仕掛けてくるもよし。
目に見える自分に対する害意があればエルピスは自分がどれだけでも非情になれる自信があるし、そうでなければこれまでの旅で生きていくことは出来なかっただろう。
悲しそうな顔をするハイトに何か言葉を投げかけようと頭で考えるが、中途半端な状態の今の自分が口にしても焼け石に水だろうとエルピスは言葉を飲み込む。
「簡単な解決方法は三つ、一つ目はゲリシンを殺す。
二つ目はゲリシンを捕縛し法皇と神を回収する、三つ目は誰かが神の位置を吐くまで法国の上層部の人間を端から尋問する」
「三つめは現実的ではないわね、端から尋問なんてしたらそれこそ指名手配されそうですし」
「現実的なのは二つ目かな、最初のは正直本当に後がなくなった時にでもしないとね」
「自分としてもさすがに弟を殺すことになるのはできれば避けたいところっす」
殺せないで済むのであれば大罪人だろうが法の元に裁いてもらうべきだろう。
いまさら自分が口にできる事ではないと分かっているが、いまの自分ならばゲリシンを完全に無力化することも可能だとエルピスは判断していた。
ならば無理に殺さずともよいだろう。
弟を殺されるのは流石に思うところがあったのか、ハイトもエルピス達の決定に胸を撫で下ろす。
「そうなればとりあえず今後の目標はできればゲリシンの捕縛、それと同時に法皇と神の位置を探って何とか救出したいですね。
聖人の件については法国の極秘情報なので触れていいか困りますし、今のところは放置でよろしいでしょうか」
「人道的には正直何とも言えないっすけど、確かにこの事態が外に漏れると困るのでいったん事態が明確化されるまでは待ってほしいっす」
どのようにして星人が作られたのか判明していない以上は、エルピス達が声高に国際社会にその行いが非道であると触れて回ることは後々デメリットになる可能性もある。
いまのところはいったん何事もなかったと報告しておくのが法国にとってもエルピス達にとっても都合が良さそうである。
「了解しました。とりあえず今日のところは食事にでもいきましょうか。
どこかおすすめのところあります?」
「聖都の中にある店はほとんど全部監視装置がついてるっす、それでもよければお薦めするっすよ」
「背に腹は代えられません。明日法国から出ると向こうは思っているので怪しい動きはしない方がよさそうですしね」
「それなら案内するっす」
おおよその動きは決まったのでこうなれば後は楽なものである。
法国の食事といえば麺類が有名であり、何を食べようかと期待感に胸を膨らませながらエルピス達は街へと繰り出すのだった。
/
場所は変わり地下のとある一室。
湿気によって苔むした部屋の片隅で四肢を鎖に繋がれた神は、そんな鎖のことなど忘れてしまったかのように自由に手足を動かしながらなにやら悩んでいるようだった。
「さてと、どうしたものかの」
壁から鎖まで手足を自由にできるほどの長さの鎖はない。
だが目がおかしくなったのでなければ鎖の長さは足りていないというのに、神の手足は自由であり鎖も手足についたままである。
見る人間がみれば神の力がいままさに行使されている事を理解できるだろう。
エルピスが使うような必殺技としての権能ではなく、もはや生活の一部分まで健康の力を落とし込んだが故の自然すぎる不自然である。
そんな神を目の前にして男が一人、自由に動き回る神に対して捉えようとするでも逃がそうとするでもなく嬉しそうに笑みを浮かべる男の姿があった。
「我が神よ、ご機嫌は如何でしょうか」
「機嫌はそんなに良くはない、こんなところにとらえられもしていればな」
ムムムッと頭を悩ませていた途中に投げかけられた質問だったからか、神は男の問いに対してほんの少しだけ強い言葉で返す。
確かに神がいるような環境であるとはとてもではないが口にできない。
本当ならばもっと素晴らしい場所を用意するべきなのだ、それを分かっていながら何もできない自分に対して男は憤怒すら覚えていた。
自らが仕える存在に不便を強いている、そんな状況が男に恥とはなんであったかを思い出させる。
「申し訳ありません、ですが貴方をここから出すわけにはなりません」
「どうにかならんものかのぅ。別にゲリシンが何をしてもわしは止める気もない、平時であれば封印されることも許容しよう。
じゃがいまはこの場におるわけには行かんのじゃよ」
「何故でございましょうか」
「そちの懐に入っておる手紙の事じゃよ、わしが気になっているのは。ひとまずそれを見せてもろうてもよいかの?」
「我が神のご意志とあれば断るわけにもいきますまい」
「お主の立場も難儀なものよなぁ」
男はゲリシンの忠実な僕であると同時に、法国で上の立場に登れるほどの敬虔な信徒でもある。
そんな男のことを哀れに思いながらも男が胸元から出した手紙を受け取り、上から下までその内容を熟読して声をかける。
「誰からのものじゃ?」
「エルピス氏からでございます」
「そちらではない、そんなもの分かっておる。これをお前に渡したのは誰かということじゃ」
「ミヤモトでございます」
ミヤモト…ミヤモト……。
頭の中でその名前は誰のものだったのかを思い出し、神は手をついて誰のことかを理解する。
確かにアルヘオ家の長男であるエルピスに接触するよう指示を出した筈、それをしっかりとこなしてくれたことを理解して神は少しだけ上機嫌になった。
ニコニコとする神の前で逆にソワソワし始めたのが男であり、チラチラと手紙に視線が写ったので何を気にしているのか神は理解した。
「ふむ、なるほどな。内容としては邪竜の対処についてがほとんどじゃが、邪竜は既に死んでおる。だいぶと前の話であるようじゃな」
「なんと! 邪竜が復活しておったのですか!?」
「なんでこんなところで無様に縛られておるわしより物を知らんのじゃ、お主ボケたか?」
「いやいやまさか、まだそんな歳ではございませんよ。聞けばエルピス氏は既に聖都に入られたとのことですが」
エルピスの現在の場所を知っているのはさすがにそこまで耄碌していない証か。
もしかすればエルピスが邪竜を討伐したという事実を隠している誰かがいるのだろうか、いるとすればそれは確実にゲリシンだろう。
だがゲリシンにそんなことをして何の特があるというのか。
「それもわーっとる。しかもハイトが付いてきておるぞ」
「なんとハイトが。クーデターでも計画しておるのでしょうか」
「それはそれで良いじゃろう。わしはどちらの肩を持つ気もない、お主はお主が助けてやりたいと思う方を助けてやれ」
「神のご意志のままに」
この国が転覆されて一から新たに作り変わるのであれば、もはやそれも良いのではないかと神は考えていた。
長い年月で写り変わらないものなどない。
徐々に形を歪に変えてしまっていた法国は一度この辺りで綺麗さっぱり消えるべきではないのだろうか、そんなことをふと神は考えるのだった。
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呑気に外を歩けるのは命を投げ出す愚か者か、圧倒的な実力を持った人物のどちらかであろう。
そして今回の場合は後者である。
「んーどうしたもんかな」
「どうかしたの?」
「いやさ、なんか最近この辺りもきな臭くなってきたしどうしようかなって思って」
獣人種特有の耳をぴょこぴょことさせ、奇妙空気にいやな気配も感じているのか警戒を怠るそぶりは見られない。
「大丈夫よ。なんてったって私が居るんだから!」
「そうは言うけどこの間だって酷い目に遭ったんだからね? いまごろエルピス達どうしてるのかなぁ」
思い出されるのは途中で別れてしまった相手のこと。
主人と言えばいいのか友と言えばいいのか、しっくり来る言葉としては師匠や先輩だろうか。
彼が通るところには何かしらの問題ごとが起きるのが常であるが、今頃どこかで何か問題ごとに巻き込まれているのだろうか。
「さぁ、お母様の話だとこっちに向かってきているって聞いたけれど」
「ほんとに!? エルピスがこっちに来てるんだったら荒れそうだね」
彼がこちらに来るのであればこの嫌な空気も納得がいく。
予想通りまた何か巻き込まれているのだろうと知って、獣人の少年はにこりと笑みを浮かべる。
「でも嬉しそうだね灰猫」
「久々に会えるからさ、強くなった僕のこと見てもらわないと。それにちょうどエルピスに合わせたい人もいることだしね」
「晴人がここに……」
灰猫とルミナ、そして暗闇の中に紛れ込んだもう一つの人影は聖都へと向けて移動を続ける。
続々と重要人物が集まりつつある中で、物語はまた一歩先へと進んでいくのだった。
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