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幼少期:冒険者組合編 ※手直し中
灰猫とフェル
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エルピスが告白を終わらせて二時間。
押入れの中で悪夢と戦っていた灰猫は、ようやく目を覚ました。
もう一度悪夢を見せられては敵わないと少しだけ襖を開けながら辺りを見る、どうやら悪魔は何処かに行ったらしい。
部屋からはエルピスやその他の気配がしたので、灰猫は安心して押入れの外へと飛び出す。
「おはよう、よく寝てたな」
そう言ってこちらを見るのはエルピス、なんだかいつもより良い匂いがしている理由はわからないが、凄く気分の良さそうな顔をしている。
ふとエルピスの両隣を見てみれば、なるほど機嫌がいい訳だ、エラとセラが両隣でエルピスの手を握りながら寄り掛かっており、アウローラは膝の上、ニルは後ろからエルピスに体重を預けていた。
「なるほど、フェルが居なくなった理由がいまわかった」
「ん? どうした?」
「どうしたって…まぁようやく番になったようだね。まさか全員一気だとは思ってなかったけど」
こういう状態を灰猫も想像していなかった訳では無い。
というよりむしろいままでこの状況に出会ってこなかった事自体が、灰猫からすれば不思議だったとも言える。
目の前でここまでいちゃこらされるといくら友であるエルピスとはいえ若干思うところがない訳では無いが、強いものが多くの女を侍らせるのは当たり前だ、特に嫌悪感は湧いてこない。
「ごめんね灰猫、気を遣わせちゃって。今日だけだから気にしないで」
「いや別に気にはしてないから良いんだけど、というか今日だけで良いのかい? 別に僕的には気にならないから好きにやってもらっても構わないよ?」
さすがに夜の事まで横でやられるのは嫌だが、いちゃいちゃする程度は別に気にならない。
友達が幸せそうな顔をしているのは嬉しいし、それにこういう事で灰猫自身が嫉妬心を覚えるタイプでもなかった。
猫人族という種族に分類される灰猫からすれば、あの距離感は別に近すぎるというわけでもないというのも理由の一因だ。
「そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど、これやってたらポンコツになる子が若干二名ほど…」
そう言われて見てみればなるほど確かに普段は毅然たる態度を取っているセラもどこか顔が綻んでいるし、その他二名など普段の引き締まった顔はどこに行ったのか今はふやけきっている。
市街地でこれは別に良いが、命のやり取りをするような時にここまで緊張感が無いとなると、さすがに問題が発生するだろう。
「なるほど、それなら今日は存分にいちゃいちゃすると良い」
「話が分かる子で助かるよ。灰猫くん」
「あんたはポンコツになる側なんだから静かにしてなさいよ」
「酷くないかいアウローラ? 僕のどこがポンコツだっていうのさ、青狸程ではないけれど夢も希望も叶えられるよ?」
「鏡見てもおんなじセリフを吐けたら認めてあげる」
アウローラがそう言うのも無理はない。
ニルの顔は崩れているどころか溶けているという表現がただしいくらいだし、エラもそれと同じくらい緩んだ顔をしている。
「そう言えばフェルはどこに行ったの? 悪夢見せられた仕返ししたいんだけど」
「言われてみればいつの間にかどっか行ったな…まぁそんなに遠くには行ってないと思うけど」
「まあ自分たちで言うのもあれだけど、これだけ目のまえでイチャイチャされればどっかに行きたくなる気持ちも分かるわ」
灰猫もそれを聞いてまぁそうだろうなと納得する。
目の前でこれだけいちゃいちゃされたら、さすがに見てるこっちも恥ずかしくなってきて、どこかに行こうと思うのは十分理解できた。
というより自分もできる事ならどこかに行きたい気持ちはある。
前言を撤回しよう、これだけ目の前でいちゃこらされると結構きついのだ。
「えっと…ここから西に少し言った喫茶店で寛いでるみたいだ、いまから行ったらあえると思う」
「おっけー、2、3時間くらいしたら帰ってこれるようにする」
「帰ってきたら明日からの予定説明するからそこら辺よろしく」
「うーい」
/
場所は変わってフェルがいると言われた喫茶店に灰猫が足を運ぶと、確かにテラス席にフェルがいた。
顔が良い人間は店の宣伝になるのでテラス席に座らせようとするというのは聞いていたが、どうやら森霊種の国でもそれは変わらないらしい。
エルピスやセラが居るせいで霞んで見えるが、フェルも完璧なまでの美を持つ悪魔だ。
道行く人達に眺められているのが楽しいのか満足げな顔を浮かべているフェルの隣に、灰猫は黙って座る。
「さっきは良くもやってくれたな悪魔、あんな悪夢見せやがって」
「人の忠告を聞かずに寝るからですよ、それにしても面白い夢でしたね」
「……みたのか」
「見ましたよ……そんなに怒らないでくださいよ、怖いです」
「悪魔が何かを恐れるわけないだろ。恐怖って感情から一番遠いところに住んでるくせに」
「ーーよくご存じで、悪魔は恐怖を抱きません、天使が怒りを持たないのと同じですね、もちろん基本的にというだけで例外は存在しますが」
怒りや恐怖といった感情は、酷く人間的なものだ。
この世界を作った神は全ての生物に人と同じ様な心を与えた、だが天使と悪魔からは一つずつ感情を抜き取った。
それは異分子を作り出す事で他の種族に刺激を与え、新たな感情を生み出す為の装置としてだったのだが、それを知るものはもうこの世にはいない。
逆に悪魔や天使の側もこの世界が生まれて悠久の時を得た事で、怒りや恐怖といった感情を覚えたものもいるのだが。
「ーーにしてもようやく付き合ったみたいだね、あの人達」
先程まで続いていた話を深掘りされても不快になるのは灰猫だけなので、となると当然変更する話題は先程まで一緒にいたエルピス達だ。
当初は出会った時から既に付き合っていたと思っていたエルピスとそのまわりの女性陣、だが後で付き合ってないことも判明し、ここまで来るまでになんとなくその関係性は理解できたし、付き合うまでにもう少しの時間を有するかと思っていた。
だがどうやら人が寝ていた間に随分すんなりと行ったらしく、その事は灰猫も起きて直ぐに分かった。
「主人の幸せは僕の幸せでもありますから、喜ばしいことです」
「ならなんで喫茶店に来たのさ? やっぱいちゃいちゃされ過ぎて見てらんなくなっちゃった?」
「いえーーまぁそれもありますが、要因としては二つですね。一つ目は気を回したから、ああいう時は当事者達だけの方が良いでしょうしね。二つ目はセラさんが付き合えた喜びで無意識でしょうが魔力を漏らして、そのせいであの近辺僕が居ると身体がチリチリするんですよ」
そう言ってフェルは少し嫌そうな顔をした。
灰猫から見ておそらく悪魔として相当上位にいるであろうフェルが流れ出た魔力だけで嫌がるのだ、セラも実は相当な実力者なのだろうと言うことが推し量れる。
思えば彼がわざわざテラス席に座っていたのは、その魔力がいつ切れるのかの確認と中和の為だろう。
彼を見るたびに道行く人間は何かしらの劣情を抱き、それは天使の魔力の神聖さをかき消していく。
「お客様、何かご注文はございませんか?」
「あー、、適当に飲み物と軽食持ってきて」
「了解いたしました!」
何も口にしていない灰猫を見てこちらにやってきた店員に対し、メニューを見ることもなく灰猫は適当に注文する。
灰猫からすれば、正直言ってこの国で食べる事のできる食べ物は全て興味がない。
この国は内陸国なので海に面しておらず、それが原因で魚料理が殆ど発達していないしそもそも存在していない。
そんな場所では何が出てきても同じように感じられるのだ。
「そう言えば喧嘩祭りがそろそろ開催されるらしいですよ」
「喧嘩祭りか……もしかしたらそれかな」
「どうかしました?」
「エルピスが後で帰ってきたときに用事が有るって言ってたんだけど、それが理由かなと思ってさ」
「かもしれませんね。喧嘩祭りはこの国においても盛大に開催されるようですし、話題性もありますから」
森霊種は一見争いを好まない種族のように見えるが、その実中身は獲物を追い詰めその命を経つことを喜びとする狩人ばかりだ。
人間よりも喧嘩祭りに入れる力は強く、その為の専用闘技場すらあるらしい。
この街ではさすがに開催しないらしいが、会場はここから少しした場所にあるとの事だ。
「それじゃあ少し時間潰してそこら辺の話聞きますか」
運ばれてきた料理を食べながら、フェルに対して灰猫はそう言った。
宿屋でいちゃこらしているであろうエルピス達を思い浮かべながら、灰猫は疲れ気味に空を見上げるのだった。
押入れの中で悪夢と戦っていた灰猫は、ようやく目を覚ました。
もう一度悪夢を見せられては敵わないと少しだけ襖を開けながら辺りを見る、どうやら悪魔は何処かに行ったらしい。
部屋からはエルピスやその他の気配がしたので、灰猫は安心して押入れの外へと飛び出す。
「おはよう、よく寝てたな」
そう言ってこちらを見るのはエルピス、なんだかいつもより良い匂いがしている理由はわからないが、凄く気分の良さそうな顔をしている。
ふとエルピスの両隣を見てみれば、なるほど機嫌がいい訳だ、エラとセラが両隣でエルピスの手を握りながら寄り掛かっており、アウローラは膝の上、ニルは後ろからエルピスに体重を預けていた。
「なるほど、フェルが居なくなった理由がいまわかった」
「ん? どうした?」
「どうしたって…まぁようやく番になったようだね。まさか全員一気だとは思ってなかったけど」
こういう状態を灰猫も想像していなかった訳では無い。
というよりむしろいままでこの状況に出会ってこなかった事自体が、灰猫からすれば不思議だったとも言える。
目の前でここまでいちゃこらされるといくら友であるエルピスとはいえ若干思うところがない訳では無いが、強いものが多くの女を侍らせるのは当たり前だ、特に嫌悪感は湧いてこない。
「ごめんね灰猫、気を遣わせちゃって。今日だけだから気にしないで」
「いや別に気にはしてないから良いんだけど、というか今日だけで良いのかい? 別に僕的には気にならないから好きにやってもらっても構わないよ?」
さすがに夜の事まで横でやられるのは嫌だが、いちゃいちゃする程度は別に気にならない。
友達が幸せそうな顔をしているのは嬉しいし、それにこういう事で灰猫自身が嫉妬心を覚えるタイプでもなかった。
猫人族という種族に分類される灰猫からすれば、あの距離感は別に近すぎるというわけでもないというのも理由の一因だ。
「そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど、これやってたらポンコツになる子が若干二名ほど…」
そう言われて見てみればなるほど確かに普段は毅然たる態度を取っているセラもどこか顔が綻んでいるし、その他二名など普段の引き締まった顔はどこに行ったのか今はふやけきっている。
市街地でこれは別に良いが、命のやり取りをするような時にここまで緊張感が無いとなると、さすがに問題が発生するだろう。
「なるほど、それなら今日は存分にいちゃいちゃすると良い」
「話が分かる子で助かるよ。灰猫くん」
「あんたはポンコツになる側なんだから静かにしてなさいよ」
「酷くないかいアウローラ? 僕のどこがポンコツだっていうのさ、青狸程ではないけれど夢も希望も叶えられるよ?」
「鏡見てもおんなじセリフを吐けたら認めてあげる」
アウローラがそう言うのも無理はない。
ニルの顔は崩れているどころか溶けているという表現がただしいくらいだし、エラもそれと同じくらい緩んだ顔をしている。
「そう言えばフェルはどこに行ったの? 悪夢見せられた仕返ししたいんだけど」
「言われてみればいつの間にかどっか行ったな…まぁそんなに遠くには行ってないと思うけど」
「まあ自分たちで言うのもあれだけど、これだけ目のまえでイチャイチャされればどっかに行きたくなる気持ちも分かるわ」
灰猫もそれを聞いてまぁそうだろうなと納得する。
目の前でこれだけいちゃいちゃされたら、さすがに見てるこっちも恥ずかしくなってきて、どこかに行こうと思うのは十分理解できた。
というより自分もできる事ならどこかに行きたい気持ちはある。
前言を撤回しよう、これだけ目の前でいちゃこらされると結構きついのだ。
「えっと…ここから西に少し言った喫茶店で寛いでるみたいだ、いまから行ったらあえると思う」
「おっけー、2、3時間くらいしたら帰ってこれるようにする」
「帰ってきたら明日からの予定説明するからそこら辺よろしく」
「うーい」
/
場所は変わってフェルがいると言われた喫茶店に灰猫が足を運ぶと、確かにテラス席にフェルがいた。
顔が良い人間は店の宣伝になるのでテラス席に座らせようとするというのは聞いていたが、どうやら森霊種の国でもそれは変わらないらしい。
エルピスやセラが居るせいで霞んで見えるが、フェルも完璧なまでの美を持つ悪魔だ。
道行く人達に眺められているのが楽しいのか満足げな顔を浮かべているフェルの隣に、灰猫は黙って座る。
「さっきは良くもやってくれたな悪魔、あんな悪夢見せやがって」
「人の忠告を聞かずに寝るからですよ、それにしても面白い夢でしたね」
「……みたのか」
「見ましたよ……そんなに怒らないでくださいよ、怖いです」
「悪魔が何かを恐れるわけないだろ。恐怖って感情から一番遠いところに住んでるくせに」
「ーーよくご存じで、悪魔は恐怖を抱きません、天使が怒りを持たないのと同じですね、もちろん基本的にというだけで例外は存在しますが」
怒りや恐怖といった感情は、酷く人間的なものだ。
この世界を作った神は全ての生物に人と同じ様な心を与えた、だが天使と悪魔からは一つずつ感情を抜き取った。
それは異分子を作り出す事で他の種族に刺激を与え、新たな感情を生み出す為の装置としてだったのだが、それを知るものはもうこの世にはいない。
逆に悪魔や天使の側もこの世界が生まれて悠久の時を得た事で、怒りや恐怖といった感情を覚えたものもいるのだが。
「ーーにしてもようやく付き合ったみたいだね、あの人達」
先程まで続いていた話を深掘りされても不快になるのは灰猫だけなので、となると当然変更する話題は先程まで一緒にいたエルピス達だ。
当初は出会った時から既に付き合っていたと思っていたエルピスとそのまわりの女性陣、だが後で付き合ってないことも判明し、ここまで来るまでになんとなくその関係性は理解できたし、付き合うまでにもう少しの時間を有するかと思っていた。
だがどうやら人が寝ていた間に随分すんなりと行ったらしく、その事は灰猫も起きて直ぐに分かった。
「主人の幸せは僕の幸せでもありますから、喜ばしいことです」
「ならなんで喫茶店に来たのさ? やっぱいちゃいちゃされ過ぎて見てらんなくなっちゃった?」
「いえーーまぁそれもありますが、要因としては二つですね。一つ目は気を回したから、ああいう時は当事者達だけの方が良いでしょうしね。二つ目はセラさんが付き合えた喜びで無意識でしょうが魔力を漏らして、そのせいであの近辺僕が居ると身体がチリチリするんですよ」
そう言ってフェルは少し嫌そうな顔をした。
灰猫から見ておそらく悪魔として相当上位にいるであろうフェルが流れ出た魔力だけで嫌がるのだ、セラも実は相当な実力者なのだろうと言うことが推し量れる。
思えば彼がわざわざテラス席に座っていたのは、その魔力がいつ切れるのかの確認と中和の為だろう。
彼を見るたびに道行く人間は何かしらの劣情を抱き、それは天使の魔力の神聖さをかき消していく。
「お客様、何かご注文はございませんか?」
「あー、、適当に飲み物と軽食持ってきて」
「了解いたしました!」
何も口にしていない灰猫を見てこちらにやってきた店員に対し、メニューを見ることもなく灰猫は適当に注文する。
灰猫からすれば、正直言ってこの国で食べる事のできる食べ物は全て興味がない。
この国は内陸国なので海に面しておらず、それが原因で魚料理が殆ど発達していないしそもそも存在していない。
そんな場所では何が出てきても同じように感じられるのだ。
「そう言えば喧嘩祭りがそろそろ開催されるらしいですよ」
「喧嘩祭りか……もしかしたらそれかな」
「どうかしました?」
「エルピスが後で帰ってきたときに用事が有るって言ってたんだけど、それが理由かなと思ってさ」
「かもしれませんね。喧嘩祭りはこの国においても盛大に開催されるようですし、話題性もありますから」
森霊種は一見争いを好まない種族のように見えるが、その実中身は獲物を追い詰めその命を経つことを喜びとする狩人ばかりだ。
人間よりも喧嘩祭りに入れる力は強く、その為の専用闘技場すらあるらしい。
この街ではさすがに開催しないらしいが、会場はここから少しした場所にあるとの事だ。
「それじゃあ少し時間潰してそこら辺の話聞きますか」
運ばれてきた料理を食べながら、フェルに対して灰猫はそう言った。
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